イマジン(介護老人保健施設)
要約
東京都八王子市にある職員数約90人の介護老人保健施設で、11月に職員1人の陽性を確認した。同日中に感染症委員会を発足、陽性となった職員の担当していたフロアを閉鎖とし人の行き来を絶った。感染症対策をリードしていた副施設長の働きかけて平時から感染予防が徹底されていたこともあり、陽性者は1人に抑えることができた。最初の職員の陽性確認から2日後、検査を受けた全員の陰性が判明し、濃厚接触者については14日間の業務停止を執行した。該当職員の業務停止期間を経て濃厚接触者および陽性者の業務復帰により収束した。
医師からみたポイント
よかったこと- 周到な準備がなされている
以前の感染症対応の経験や学習会なども含めリーダー及びスタッフが繰り返し対策を検討しており、疑似事例に対して対応する事で訓練を重ねています。 - BCPに関わる業務リストを作成している
有事発生時の多角的な問題や関係者に対してのアプローチが検討されています。
- BCPの再点検
非常に高いレベルの対策をされており、今回の経験も一つの機会としてさらに次のリスク(スタッフ減少時など)や大きな単位(法人全体、地域の他施設など)での危機対応につながるとなお良いでしょう。
法人概要
法人の経営主体 | 医療法人社団永生会 |
法人全体の職員数 | 1755人 |
法人全体の事業所数 | 18 |
実施事業 | 病院、診療所、介護老人保健施設、認知症グループホーム、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所 |
ウェブサイト | https://www.eisei.or.jp/ |
拠点概要
所在地 | 東京都八王子市 |
開設年 | 1997年1月 |
ウェブサイト | https://www.izuminomori.jp/facility/facility-list/facility-details/?id=55 |
フロア | 利用者数(定員) | 職員数 | |
介護老人保健施設 短期入所 通所リハビリ |
○階 | 130人(うち認知症専門棟36人)(定員130人)、通所50人(定員50人) | 92人 |
新型コロナ陽性者等発生と対応の概要
陽性者数(うち死亡者数) | 職員1人(0) |
濃厚接触者数 | 職員1人 |
感染源・感染経路 | 職員家族 |
事業所が発生・収束とみなす日 | 11月23日(発生)~12月7日(収束) |
発生から収束までの休業や利用制限 | 陽性の範囲が分かるまでの11月27日~29日のみ入退所中止となる |
事業所外からの応援(法人内外) | なし |
陽性者発生以前の状況・感染対策等
- 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
- 新型コロナウイルス感染症に関わる研修会への参加やメールなどで送られてくる情報より適宜情報収集を行っていた。
- 市内のCOVID-19勉強会
- 医師会におけるCOVID-19の研修会
- クラスター発生施設の経験から学ぶ研修会
- 陽性者発生時に必要と思われることを想定しながら対応していた。
- 数年前にノロウイルスでアウトブレイクを経験しており、当時のスタッフが主要メンバーとして残っていた。
- 感染症予防対策の重要性を身に染みて理解しており、その職員が感染症対策に関しての指導も行っていた。
- 陽性者が出る前も、「発熱者に対応するもPCR検査の結果が陰性」という事態は何度もあり、疑いが発生する度に対応を見直していた。その中で得た経験や気づきを事務長代理が集約していた。
- 特別に他の施設とは異なる対策をしているということはないが、感染症に対して熱意を持ってリードする副施設長がいて、職員の感染症への意識の高さが保たれていた。
- 新型コロナウイルス感染症に関わる研修会への参加やメールなどで送られてくる情報より適宜情報収集を行っていた。
- 感染対策の特徴:
- 情報:勉強会などによる新型コロナウイルス感染症に関わる情報収集。
- ひと:感染症に対し熱意を持ってリードする幹部、過去の感染症によるアウトブレイクを経験した職員が主要メンバーとして存在し、感染症対策の指導を組織内で実施していた。
- BCP策定状況:
- 利用者や利用者家族に発熱があった場合など、いくつかのケースについてフローチャートを作成していた。
- 陽性者発生時に対応が必要な業務について、以下のリストを作成していた。
フロア | 検温を通常以上の頻度で実施し、有症状時早急に対応できるようにする |
パントリー | 栄養科へ連絡しディスポ対応、トレーはフロアで拭き上げ後おろす |
歯科 | 状況報告を行う |
管理課 | ゴミ回収及び清掃に関して確認 |
リネン | 業者へ連絡⇒対象フロアのシーツは水溶性の袋に入れて汚染リネン保管場所へ出すで良いのかを確認もしくはベランダ保管 |
入浴 | 該当フロアの扱いを確認する |
更衣室 | 該当フロアで完結する形を取る(他フロア職員との接触を避ける) |
理美容 | 状況報告⇒原則休みとする |
薬局 | 状況報告⇒事務所渡しで対応 |
おむつ | 状況報告⇒エレベーター前かエレベーターホール |
入退所 | 保健所と相談する必要ある |
新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯
病日(数字記載) | 日程 | 項目 | 備考 |
2020年 11月 23日 |
|||
1(第1病日) | 11月 24日 |
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2 | 11月 25日 |
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3 | 11月 26日 |
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4 | 11月 27日 |
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5 | 11月 28日 |
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14 | 12月 7日 |
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15 | 12月 8日 |
対応の体制
- 初の陽性者が確認された日の朝、施設長、副施設長、看護師役職者2人、リハ役職者2人、相談員1人、介護役職者2人が招集され、臨時の感染対策委員会を作り、会議の内容をそのまま各フロアに伝えられるようにした。
- 感染症対策に高い意識を持ってリードしていた副施設長の功績が大きい。
情報の収集・把握・共有
- 陽性(疑い)者対応・感染拡大防止に関する情報:-
- 意思決定・共有・指示のための情報:
- 臨時の感染対策委員会の開催により、該当フロアの課題(職員不足の状況や物品不足による不安点など)の把握、事業所全体で現在しなければならない対応を明確にすることができた。
情報の周知・発信
- 利用者、職員、関係機関等への報告・周知:
- 把握した情報を朝礼にて各フロアで共有。
- 不在のスタッフへは各チームのLINEで共有。
- 外部への情報発信:
- 11/27にホームページで公開文書を掲載。今回、公表前に陽性者発生の事実を伝えていたのは陽性者が担当していたフロアの家族のみであったため、情報公開後の問い合わせがあった場合、公開文書に即して説明するように指示を出していた。
利用者・入居者への支援と対応
- 該当フロアの利用者とご家族には直接電話で報告、他のフロアとデイケアの利用者には直接説明せず、ホームページで公表文書を公開した。
- 利用者に直接伝えることで、必要以上に利用を控えることに繋がった話を聞いていたので、伝えることは重要だが同時に伝え方も重要だと考え、ホームページへの公表文書掲載という形を取った。
- 利用者のマスクの着用に関して検討するも、利用者自身によるマスク管理は困難であり、また職員による利用者個々のマスク管理も困難であった。
職員の状況とフォロー
- 陽性者が出た、という知らせを受けたときも職員は冷静に対応していた。
- 第一報と同時に、陽性となった職員が担当していたフロアは出入りがないように閉鎖扱いとすることを指示、以降の対応は感染対策委員会の決定、保健所の指導を待って指示がある旨、伝えた。
- これらの通知は、朝礼での直接の伝達と、フロア間の伝達ツールであるLINEを用い状況報告を行った。
- 今回の陽性者発生への対応を終えたあと、陽性者が出た別の施設を利用していた方のショートステイ利用について、その方が濃厚接触者ではないにも関わらず、PCR検査を受けてからでなければ受け入れたくないという職員の反応があった。
医療機関、保健所・行政との連携・調整
- 保健所
- 11月26日に保健所へ報告、濃厚接触者の特定と、PCR検査の範囲確定を協力して迅速に行った。
関係事業所・委託先等との連携・調整
- 今回の陽性者発生以前から陽性者の疑いが出た際に何度かやり取りをしており、発生時の対応については事前に確認できていた。各所への連絡先、連絡状況を把握する人を事務方に1人立てていた。
- ゴミ:保健所が来る11/26までゴミ回収実施
- 清掃:中止
- リネン:対応なし
感染防御資材等の調達
- マスク、体温計を買い足す
事業支出・収入等への影響
- 3日間の入退所制限のみで、その後、利用者が減ったということはなく、稼働には影響しなかった。
- ショートステイは減ったが他施設での発症が理由であった。
風評被害と対応
- 被害の有無や状況:同法人の病院で陽性が出たことによりイマジンも危ないと思われるということはあった
対応の振り返り
- 感染症への対策を施設としてしっかり行っていたことが今回感染者が1人に抑えることができた理由の1つと考えている。冬場のインフルエンザ対策やノロウイルスに対する環境整備、マスクの着用を徹底するなどの意識の高さがあった。これらの意識を下支えする食中毒や感染対策、事故対策に関する研修を毎年実施していたことも大きい。また、冬場になると事業所職員の体調確認結果を法人に提出し管理するというオペレーションがなされていた。
陽性者対応の経験からの学び・教訓
- 保健所からの指導もあり、感染症予防対策を強化することができた。
- 入口やエレベーター前などに消毒液の設置
- 休憩室にテーブル拭き上げ用アルコールを常備
- フェイスシールドもしくはゴーグルを職員個別に提供
- 職員が不安なく仕事ができるということがとても重要である。
- 「これを使ったら大丈夫」という消毒薬や備品を用意するなど、感染の不安を環境によって軽減することが大切。
- 感染症対策は高い意識をキープすることが難しいので、繰り返し啓発や研修をやり、意識を戻すことが大切。
- 副施設長や一緒に働く人が「もし自分が陽性になって勤務できなくなっても、チームとしては、施設としては大丈夫だから」という安心を作っていることが大きい。
- 普段からの関係性が重要で困ったときに声をかけられて、接点を持って困りごとを解決することが有事のときの力になる。
- 今やっていることをちゃんとやることが大事、その上でやってみて、変更を加えて、それを繰り返していくことが重要。
- 利用者が家族と顔を合わせられないことがもどかしい、なるべく顔を見て会えるようにしたい。
- 平時の情報を集約したものをみんなで共有していきたい。
感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと
- 変更点:感染症予防の意識を高く持てるようになった、感染させないという意識がより高まった。
- 始めたこと:エレベーター前に消毒できるスペースを作るなど、より感染対策の仕組みができた。
インタビュー担当:鎮目彩子・堀田聰子
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久