四丁目の家(グループホーム)

要約

入居者2人、職員2人が陽性となったグループホームの事例。検査結果や体温だけで判断せずに、全身の様子から発症の兆候を見つけたらすぐに隔離する対応が取られ、施設内の感染拡大を防いだ。かかりつけ医とバイタルなど入居者の情報を共有しオンライン診療を受けられる環境を作ったことが早い対応を可能にし、職員の安心感を得られた。陽性になった職員以外にも体調不良を訴える職員がいて、人手が足りず、法人内他事業所から応援に来てもらった。保健所の協力で、施設内で職員と利用者全員のPCR検査を実施できたことも大きい。保健所、行政、入居者家族など外部との連携を宮川施設長が一手に担ったことで一貫して対応できた。

医師からみたポイント

よかった点
  • 行動制限が難しい認知症のある入居者の対応において、入念な準備(職員の知識面、行動面、BCP)と、有症状時の慎重な経過観察により感染拡大を最小化することにつなげました。
  • 振り返りにおける学びの抽出が具体的であり、職員内の長期的な葛藤解決の努力もなされている。事業所としてのレジリエンスの高さが示されています。
その他アドバイス
  • 新型コロナウイルスの潜伏期間(2〜14日、平均5日)から考えると特に職員Bの感染(36日目)は事態発生後、対応中での感染の可能性が高く、繰り返し基本的感染対策手技の確認を行うことが望ましいでしょう。
  • 個人防護具の取り扱いなど地域の医療介護連携の中で技術を確認しあったり指導を受けられる連携があるとよいでしょう。
インタビュー実施日:2021/1/13 インタビューご回答者:社会福祉法人泉湧く家 宮長定男理事長、宮川さやか施設長

法人概要

法人の経営主体社会福祉法人 泉湧く家
法人全体の職員数95人
法人全体の事業所数8
実施事業認知症対応型共同生活介護、小規模多機能型居宅介護、居宅介護支援、認可保育園
ウェブサイトhttp://www.izumiwaku-ie.jp/

拠点概要

所在地東京都豊島区
実施事業認知症対応型共同生活介護
開設年2014年
ウェブサイトhttp://www.izumiwaku-ie.jp/yonnvhoume
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フロア 利用者数 職員数
認知症対応型共同生活介護 2階、3階 16人(定員18人) 14人

新型コロナ陽性者等発生と対応の概要

陽性者数(うち死亡者数) 4人(入居者2人、職員2人)(死亡者数:入居者1人)
濃厚接触者数入居者、職員全員のPCR検査を実施しているが、感染対応が通常時からなされていたため陰性の職員は勤務を継続した。
感染源・感染経路 不明
事業所が発生・収束とみなす日6月10日〜7月25日
発生から収束までの休業や利用制限面会中止
事業所外からの応援(法人内外)法人内から3人(他施設から2人、本部から1人)

陽性者発生以前の状況・感染対策等

  • 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
    • まだ身近に感染者がいなかった2020年春頃から、職員の危機意識が強くあり、通勤方法を電車から自転車に変更したり、手に入りにくかったマスクをみんなで共有したりしていた。
  • 感染対策の特徴:
    • 2020年3月27日に以下の感染対策の施策を出した。
      • 職員は、発熱時の出勤停止、仕事着と私服着を変え私生活での外部の人との不用意な接触禁止、本部会議以外の会議を禁止、などのルールを策定した。
      • 事業所入り口に手指消毒剤とうがい薬を用意、消毒剤と衛生用品(グローブとマスク)の在庫把握と入手経路の確認がされた。
      • 入居者に関し発熱時は隔離対応とし、通所利用者は37度以上の熱でお休み、家族の体調不良も報告してもらうこととした。
      • 看取り等の特別な場合を除いて面会禁止。
      • 外部業者は事業所内には立ち入らず入り口で物品の受け渡しをすることとした。
  • BCP策定状況:策定済
    • 策定済で非常時のケア内容、人員の補充についても含まれていた。

新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯

病日 日程 項目 備考
2020年
6月
7日
  • 職員の1人が副業で勤務していた近隣の飲食店でコロナ発生と近隣住民よりFAXあり
  • 同飲食店の客に陽性者が出たことで、該当職員に保健所へ連絡するよう指示。結果、保健所は接点なしなので特段指示はない、という判断であったが、施設長は独自に一時自宅待機を指示する
1(第1病日) 6月
10日
  • 入居者Aに38度台の発熱など症状あり、主治医によるオンライン診療を行い日々のバイタルを共有することで経過観察開始
  • 入居者Aについては、部屋の出入りの際の消毒を徹底し、トイレなどの消毒も実施していた
  • 他の入居者に関しても症状や変化がある場合には隔離対応することを確認
2 6月
11日
  • 自宅待機となっていた職員が利用した飲食店主人が陽性となり無症状で入院したことが判明
  • 職員は濃厚接触者に当たらずとの保健所の判断であったが、施設長により自宅待機と健康観察を指示する
5 6月
14日
  • 入居者Aの容態が悪化し、緊急搬送、病院にてPCR検査実施
  • 保健所へ連絡
8 6月
17日
  • 自宅待機となっていた職員の検査結果が陰性と判明
  • 入居者BのSPO2値低下で緊急搬送、抗原検査で陰性、帰設して隔離対応継続
  • 入居者の1人が発熱(後に陰性判明)、職員を限定し、防護服着用での隔離対応を開始
  • 保健所が初来所
  • 入居者Aの検査結果が陽性と報告あり、10日発熱のため8日からの接触状況(食事の席、職員の勤務表、同ユニットの入居者のバイタル記録、面会者の記録)を確認、保健所提出、その結果、3階の入居者全員と職員全員が濃厚接触の疑いとなる
  • 外部の業者(クリニック、訪看、マッサージ、歯科、薬局)へ連絡
  • 入居者家族へ連絡
  • 区の介護保険課に状況報告
  • 外部からの出入り、面会を中止
9 6月
18日
  • 3階フロアの入居者全員と、職員全員にPCR検査実施
  • 陽性者が出ていたのは3階フロアで、2階フロアの入居者は濃厚接触に該当しなかった
  • 職員はこの期間、3階と2階の担当を分けていたが、3階に更衣室があり、ヘルプに入ることもあったので職員全員を検査対象とした
11 6月
20日
  • 18日に行った検査の結果、全員の陰性が判明し、関係各所へ連絡
  • 陰性の職員は勤務を継続
17 6月
26日
  • 検査結果から陰性と判明していた入居者Bの熱が下がらず救急搬送
20 6月
29日
  • 入居者Bが入院先で陽性と判明(7月11日病院で逝去)
  • すでに陰性と判明していた入居者1人の発熱が続いているため保健所に報告
  • 3階担当職員の1人が発熱しPCR検査は陰性、10日間の自宅待機となる
  • 発熱が続く入居者については隔離対応していることからPCR検査も入院もしないと保健所と決めた
21 6月
30日
  • 職員Aが発熱しPCR検査実施
22 7月
1日
  • 職員Aの検査結果が陽性と判明
  • 職員の1人に頭痛あり、出勤停止となる(のちに陰性と判明)
23 7月
2日
  • 職員Aが入院
  • 法人での緊急対策会議を開催
  • 法人本部より介護福祉士1人が応援に入る(〜8/18)
  • 対策会議の結果、症状のある入居者の個室隔離対応など感染対応の徹底、陰性の検査結果が出ていても症状を見逃さないよう注意すること、法人内別事業所から2人応援が来ることが共有された
24 7月
3日
  • 陽性者発生ユニットである3階入居者に2回目のPCR検査を施設内で実施
25 7月
4日
  • 職員の1人に発熱等の症状あり(のちに陰性と判明)
  • 他施設から介護職1人が応援に入る(〜7/31)
26 7月
5日
  • 7月3日のPCR検査の結果、全員陰性と判明
27 7月
6日
  • 他施設から介護職1人が応援に入る(〜7/19)
36 7月
15日
  • 職員Bに発熱
38 7月
17日
  • 職員Bの陽性判明、その後入院。
46 7月
25日
  • 最後の陽性者である職員Bの発症から10日が経過し、協力医と保健所と相談の上、収束とみなす
56 8月
4日
  • 人数と場所の制限付きで面会を再開

対応の体制

  • 法人の理事長、施設長を中心に対応。
  • 施設長が保健所、各事業所、家族、すべてに対応したため、一貫した対応が取れた。
  • 理事長補佐が現場に入って施設長をサポート、理事長も毎日顔を出して相談できる状態だったこと、かかりつけ医とのオンラインの情報共有ができていたことが施設長の支えとなった。

情報の収集・把握・共有

  • 利用者、職員、関係機関等への報告・周知:
    • 入居者の家族の動揺が大きく、陽性になったのは誰なのか、感染源はどこか、面会を禁止にしていたのになぜか、といった声があった。
    • 入居者家族へはすべて施設長から電話をした。

情報の周知・発信

  • ホームページの掲載など情報発信は行わなかった。

利用者・入居者への支援と対応

  • 感染対策について
    • 陽性の利用者に対応する職員を5人に限定して24時間対応、ガウン着用などの感染対応を徹底した。
    • ガウンテクニックは施設の職員に知識がなく動画を見て学んだ。
    • 部屋の配置と備品の在庫数の都合で、毎回のケアごとに廃棄することができず、感染または疑いのある利用者の各部屋専用のガウン・ゴーグル等を用意し、脱ぎ方、保管の仕方を決めて使い回しながら対応した。不安はあったが数が足りなくなると対応できなくなるので、そのときの最適な方法を考えて実行した。
    • 職員がタブレットを使用する際には都度消毒する、施設内で食事以外ではマスクを外さないようにしていた。
    • 認知症の入居者はお願いしていても部屋から出てきたり歩き回ってしまうので、入居者が触れたところはすべて職員が消毒していた。
    • 感染者に対応する職員、感染していない入居者に対応する職員を分けたので、職員同士は食事、更衣室など部屋に2人同時に入らないようにするなど接触を避けるようにした。
    • 陽性者対応期間は使い捨ての食器を使用した。
    • 災害時の事業継続計画に基づき、入浴を一時的に中止した。
  • 入居者は発生前と変わらない様子で、職員にとって救いだった。
  • 収束後、それまでできていたことができなくなっているなど、ADL低下が見られたが、生活が戻るにつれて少しずつ回復した。
  • 当法人では全事業所に複数のパルスオキシメーターを従前から配置し、日常の利用者の健康管理に使用しており、感染対応においても肺炎傾向を把握するために大いに役立った。

職員の状況とフォロー

  • 期間中の対応
    • 陽性となった職員以外は勤務を継続したが、この環境下のストレスで微熱が出る職員もいて、同時に4人が休みになったタイミングがあった。
    • この期間はみんなが大変な状態だったので「本当に疲れたね、みんな疲れたね」と気持ちを共有した。
    • 自分が休んだらやる人がいないという緊張感がいつもより大きかった。
    • 利用者にきちんとしたケアができないと落ち込む職員がいたが、今は最低限のことをやっていこうと割り切って、状況や思いを共有するようにした。
  • 陽性となった職員のフォロー
    • 陽性になった職員2人に、他の社員から励ましの寄せ書きを送った。
    • 陽性になって入院した職員は入院中、ほとんど人と話すことがなく精神的に不安のある状態だった。
    • 退院後に理事長や施設長とゆっくり話す時間を取り、精神的にサポートした。
  • 日常を取り戻すためのフォロー
    • この期間に休んでいた職員が復帰したあと、休んでいた職員と対応に当たった職員で認識のずれが生じ、関係性が難しくなるケースがあった。
    • 2ヶ月後に職員同士で考えや思いをぶつけ合う場を持ち、陽性者発生から6ヶ月後には職員の状況は落ち着いた。
    • 各職員に対して面談をして当時のことを話したり、疑問の解消を行ったりした。
    • 職員はチームとして少し強くなって、よりいろんなことが話せるようになった。

医療機関、保健所・行政との連携・調整

  • 医療機関
    • かかりつけ医と入居者の日々のバイタル、体調の変化をオンラインで情報共有して、オンライン診療を受けられた。
    • 電話連絡では伝えきれない情報をデータで共有できたことが安心に繋がった。
  • 保健所
    • 高齢者施設ということで、発生翌日には全員検査をすると決めて連絡をくれた、職員を含めた全員検査を1回、利用者は2回目の全員検査も実施、保健所が出張で施設まで来て検査してくれたことも助かった。
    • 正しい知識を持って感染対策に当たれるよう、自治体が、感染防護の専門的指導者をGH等に訪問させ、実践的な指導を援助してほしい。

関係事業所・委託先等との連携・調整

  • 食事以外は外部業者への委託なし、食事は施設外から運ばれてくるのでこの期間中も変わらず利用できた。
  • 関係事業所からは「大変ですね」「必要なものがあればいってください」という労いの言葉があった。

感染防御資材等の調達

  • マスクが一番手に入らなくて困った。職員が自宅付近で探すなどした。
  • 施設で使う分を確保するため、親族にお願いして送ってもらった職員もいた。
  • ガウンも足りず、関わりのある業者に依頼し調達した。

事業支出・収入等への影響

  • 支出:
    • マスク、グローブなど価格も高騰していて支出は大きかったが、緊急包括支援交付金で充当した。
  • 収入:
    • 入居予定の人が3ヶ月入れなかったこと、入居者の入院とご逝去によって空室ありの状態が続き収入源となった。
  • 資金繰り:
    • 緊急に融資を受けた。

風評被害と対応

  • 被害の有無や状況:
    • 問い合わせや中傷など受けることがあり、コロナウィルスに関する知識が一般にはまだ浸透しておらず、偏見が横行していると感じる。
    • 併設の保育園で保護者から不安の声が出たが、誠実に説明し出入りするときに接触がないようにして不安を解消した。
    • 入居者の関係者の中で、誰が感染したのかを詮索する動きがあったが、「入居者、職員にもプライバシーがあり明かさない」ということを説明し、大ごとにはならなかった。

対応の振り返り

  • 兆候があった時点で隔離できたことが感染をフロア全体に広げなかった要因の一つだと思う。
  • 施設内で陽性者が発生した場合に取るべきエビデンスに基づいた対応を学んだ。(発症日、濃厚接触者の考え方、感染力のある期間を知って復職のタイミングを決めるなど)
  • パルスオキシメーターを日頃から使用していたことから、介護職員でも異常をすぐに発見することができ、医療者との連携及び発症時の対応を的確に進めることができた。

陽性者対応の経験からの学び・教訓

  • 検査結果に一喜一憂せず、感染の危険がある限り警戒を緩めない。
  • 発熱だけに矮小化せず総合的に体調不良を捉える。
  • 感染者(疑い者)の介護は早急に個室隔離、完全防護で介護にあたる。
  • 共有部の消毒強化、ユニットを跨いでの職員の行き来を極力避ける。
  • 法人内応援体制と、対応する職員に処遇の不安を与えない。
  • 陽性になった職員と、陰性だった職員はそれぞれ別のサポートが必要。
  • 緊急事態の中で、介護側から医療者に正しく情報を伝えて相談することは難しいので、バイタルなど入居者の情報をオンラインで共有し、即座に確認してもらえる状態を作ることは対応を早め安心感も得られる。
  • 入居者は長く個室生活を強いられたことでADL低下が見られたが、収束後、できなくなったことを一つずつ思い出したり、またできるようになったりするプロセスを経て、毎日介護職が一緒に行っていることが効果的で意味があることなのだと実感でき、毎日小さく積み重ねていくことの大切さを理解した。
  • コロナウィルスに関する相当量の知識を習得し、収束後の現場の運営や危機管理に活かすことができた。
  • 対応の経験を経て変更したこと・始めたこと

感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと

  • 基本的な感染対応のやり方は以前と変わらず、より徹底して行っている。
    例:消毒の場所、手順をあらかじめ決めてチェック表を作る。
  • BCPを改定し、防護セットを各事業所で保管することとした。
  • 面会を完全に禁止にするのではなく、安心してあってもらうために、ご家族の体調管理、換気、他の利用者との接触禁止などを徹底し、会える機会を作るようにした。
  • 「これを守れば大丈夫」という感染予防の基準を法人で作り、現場はそれを守れば安心してケアできる状態にした。
インタビュー担当:鎮目 彩子
記事担当:鎮目 彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久

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