平成デイサービスセンター羽ノ浦(通所介護)
要約
特養・ショートに併設するデイサービスでのクラスター発生事例で、利用者9人、職員2人が陽性となった。 近隣市のグループ病院敷地内の軽費老人ホーム入居者でデイ利用者が発熱、「発症者が出たら速やかに看護師が急行して抗原検査をする」というグループのルールに従い検査を実施、陽性者を早期発見できた。 病院副院長が指揮を取り、明確な指揮命令系統の中、軽費老人ホーム、特養、デイサービスが連携して迅速に対応し、感染拡大を防止した。日頃からのグループ内の協力と信頼関係が基盤となりチームワークが発揮され、収束後はグループ全体で感染ラウンドを実施し、頭で理解した感染対応が現場で実践されているかを常に確認しながら運営している。
医師からみたポイント
よかった点- 感染者を早期発見し、感染拡大を阻止することができました。事例以前より手指消毒をはじめとした感染予防、職員・利用者の検温に努め、最初の陽性者発生後も明確な指示系統のもと、迅速な抗原検査や大規模なPCR検査の実施を行い、3週間ほどで感染が収束しています。収束後も感染ラウンドの実施をしており、大変素晴らしいです。
- 最初の陽性例確定2時間後には関係者間での会議が持たれ、(行政を含めた関係各所への連絡)も迅速に取れていました。職員間での心身の体調管理も良く取れています。業務休止中も施設内職員がデイサービス利用者宅に訪問し、サービス継続をはかった点も素晴らしいです。
法人概要
法人の経営主体 | 社会福祉法人平成記念会 |
法人全体の職員数 | ー |
法人全体の事業所数 | 19 |
実施事業 | グループホーム、軽費老人ホーム、特別養護老人ホーム、短期入所、通所介護 |
ホームページ | https://hmw.gr.jp/ |
拠点概要
所在地 | 徳島県阿南市 |
開設年 | 1996年3月 |
ウェブサイト | https://hanoura.tokuyou.jp/ |
フロア | 利用者数(定員) | 職員数 | |
特別養護老人ホーム | 1、2階 | 50人(50人) | 52人 |
短期入所生活介護 | 1階 | 10人(10人) | |
通所介護 | 1階 | 発生当日の利用者は18人(20人) | 11人 |
新型コロナ陽性者等発生と対応の概要
陽性者数(うち死亡者数) | 11人(利用者9人、職員2人)(死亡者:利用者3人) |
濃厚接触者数 | 不明 |
感染源・感染経路 | 不明 |
事業所が発生・収束とみなす日 | 8月4日~8月23日 |
発生から収束までの休業や利用制限 | デイサービスの休業(8月5日~8月23日) |
事業所外からの応援(法人内外) | 近隣市のグループ病院から、医師・看護師・リハスタッフ・事務スタッフが20人弱、5日目から収束まで交代で入った。 |
陽性者発生以前の状況・感染対策等
- 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
- 事業所の対応:2月より厚労省のガイドラインに則って感染対策にのぞむ。
- 職員は1日に2回の検温、利用者は1日に4回の検温を実施
- 換気を徹底
- 利用者はマスク着用をお願いする(ただし、一部利用者はマスクを外してしまうことも多々あった)
- 施設は利用後に拭き取りの消毒を実施
- 近隣市のグループ病院では、(軽費老人ホームを含む)敷地内で37.5℃以上の発熱、呼吸器症状、消化器症状含めた体調不良者が出たら、外来受診の前に看護師が向かって抗原検査をするルールを定めていた。
- 事業所の対応:2月より厚労省のガイドラインに則って感染対策にのぞむ。
- 感染対策の特徴:
- グループの方針に基づき医療と連携した対策が取られていた。
- BCP策定状況:
- 感染症に関するBCPを策定中だった。
新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯
病日 | 日程 | 項目 | 備考 |
1(第1病日) | 2020年 8月1日 |
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3 | 8月3日 |
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4 | 8月4日 |
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5 | 8月5日 |
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6 | 8月6日 |
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7 | 8月7日 |
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13 | 8月13日 |
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19 | 8月19日 |
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20 | 8月20日 |
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22 | 8月22日 |
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24 | 8月24日 |
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対応の体制
- 近隣市のグループ病院の副院長が保健所、行政との連絡窓口となり、デイ及び特養(入所・ショート)、軽費老人ホームへの指示を出し、介護福祉事業部職員が現場に入ってフォローをした。デイの現場では管理者が指示を出した。
- 8/5以降、デイ職員は自宅待機、主任は8/5は出勤、以降は自宅で業務に当たった。
情報の収集・把握・共有
- 陽性(疑い)者対応・感染拡大防止に関する情報:
- グループ全体のマニュアルに従い、発症者が出た時点から病院の看護師が対応、病院からの情報・指示に従った。
- 感染対応は病院の医師、看護師の指導があった。
- 意思決定・共有・指示のための情報:
- 病院、軽費老人ホーム、特養、デイで情報共有、軽費老人ホームに居住・デイを利用する者(利用者C)の抗原検査陽性が判明した2時間後には集まって会議が行われ、対応方法と分担を整理した。
情報の周知・発信
- 利用者、職員、関係機関等への情報の周知:
- デイ利用者に陽性が判明した日にデイ職員、デイ利用者と家族、特養入所者の家族、ショート利用者と家族、関係するケアマネ、利用者の併用サービスに状況を連絡。
- 外部への情報発信:
- 継続的(8/5、8/6、8/13、8/24)にHPで文書を公開、陽性者発生の状況と対応、サービス再開について発信した。
- 県の記者会見(8/5)後に報道陣がデイの取材に来た。
利用者・入居者への支援と対応
- デイ利用者へは休業中に体調確認で毎日連絡し、体調不良があればすぐにグループ病院で対応してもらえたので安心感があった。
- デイ休止中にグループ内の看護師がフルPPEで訪問しケアにあたることがあった。
- 自宅待機中の利用者の体調不良時は、感染対応しながらの救急搬送が大変だった(自宅に看護師が入って抗原検査で陰性を確認しないと救急車に乗せられない、病院で感染対応ができずたらい回しにあう、など)。
- デイ再開後、サービス休止中にADLが落ちて、施設に入所した人が2人いた。
職員の状況とフォロー
- 第一報を受け、職員に驚きはあったが大きな動揺はなかった。
- 主任が毎日職員に電話をして、健康観察と精神面のサポートを行った。
- 出勤停止になってから日が経つにつれて、仕事に行かず車がずっと置いてあるので近所の目が気になるという声があった。
- 陽性になった職員2人はすぐ入院、電話は可能だったので他の職員と同様に主任が毎日電話で状態を確認した。職員2人は退院して4週間の自宅待機を経て復帰したが、一人は復帰後の業務が前と同じように行えるか不安があり、有給休暇を使いながら業務量を増やしていった。
- 主任を除き、デイサービスの職員は再開2日前まで全員出勤停止、管理者と主任の2人で業務にあたった。
医療機関、保健所・行政との連携・調整
- 保健所と連携し、陽性者の速やかな新型コロナ対応病院への入院措置を実施した。
- 8/4の最初の保健所担当者の来所の際に感染症専門の徳島大学教授が一緒に来所し、職員、入所者、利用者全員の検査実施を薦め、一斉検査に繋がった。
- 近隣の連携診療所から、その病院に受診歴のある入所の入居者・デイ利用者の検査結果や、陽性となった利用者の併用サービスについて問い合わせがあり、副院長が対応した。
関係事業所・委託先等との連携・調整
- ケアマネ、利用者の併用サービス事業所へ連絡した際は、大きな動揺はなく、「これからどうするのか」という心配の声があった。
- 施設のリネン洗濯は業者に委託しており、陽性者に使用したものは弁済を求められた。
感染防御資材等の調達
- マスク、ガウンなどは行政からの支援を受けた。
事業支出・収入等への影響
- 支出:
- パーテーションの設置費用
- ゴーグル、フェイスシールドの購入
- 休業補償の費用
- 収入:
- 再開後、来所を躊躇される方がいて稼働率50%程度からスタート、それ以降60%に止まり、12月から新規の問い合わせも入るようになった。
風評被害と対応
- 被害の有無や状況
- 無言電話があった。
- デイの車を見た人が感染を心配して電話をしてきた。
- 県からの公表のあと、職員が車で後をつけられることがあった。
- 病院の敷地内の軽費老人ホーム入居者が陽性になったため、病院が契約していたタクシー会社が来てくれなくなり、契約先を変更した。
- 職員とその家族が病院受診や保育園登園を控えるように言われることがあった。
対応の振り返り
- グループ内介護施設で発熱者が出たらすぐ抗原検査ができる準備があったことがよかった。当時、保健所はPCR検査を受けるには、保健所へ状況説明、本人の既往歴を説明し、申請書類を用意し、1時間くらいかかる状況だったので、1人目の陽性者を早く発見するのに抗原検査が役立った。
- 発熱者全員を検査すること、感染拡大リスクを減らすため移動せずにその場で検査することが決まり、マニュアルが作成された後の陽性者発生であったため、感染拡大を抑えられた。
- 同じ経営母体に病院があり、リスクを共有できるのがよかった、グループ内のPPEを集めたり、フルPPEでの対応が完璧にできる看護師を選んで対応してもらったり、母体が同じでなければできない。
- グループ内の職員同士はもともと知っていて、みんなが助け合う協力体制があったことが早い意思決定と行動に繋がった。
陽性者対応の経験からの学び・教訓
- 外部は様々な反応や声があるのは仕方ないので、信じられる仲間同士で愚痴を言い、気持ちを共有しながらやらなければいけない仕事も一緒にやれる、内部の結束が大切。
- 発生初日、デイでPCR検査を待っている間、職員が対応で手一杯になっていた中で、利用者との接触可能性があり、接触の制限を実行できていたら後の感染者を出さずに済んだのかもしれない。
感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと
- 食事をする場所にアクリルパネルを設置した。
- 勤務中は全員ゴーグルを着用する。
- 勤務外の時間を含め不織布マスクを使い布マスク禁止。
- 入浴の際に脱衣所と浴室に入る人数を制限し、換気を徹底する。
- 施設内に扇風機を設置して常に換気を行う。
- グループ全体で感染ラウンドを行い、具体的な指導をしている。学んで頭で理解した感染対応が実践されているかを確認している。感染ラウンドはリハ職員で相談を受けやすい男性職員が担当している。感染予防の知識をゼロから学び、的確に指導できるようになったので、職種限らず誰でもできると考えられる。
インタビュー担当:鎮目彩子・堀田聰子
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:鎌田一宏
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:鎌田一宏