拠点E(特定施設入居者生活介護 有料老人ホーム)

要約

入居者と職員合わせて陽性者68人のクラスターとなった有料老人ホームの事例。職員1人の陽性が判明し法人本部へ報告された時点で施設内に体調不良者が複数いる状況で、直ちに危機対策本部を立て翌日から現地入りした。埼玉県コロナ対策チームCOVMATも施設内に入り陽性となった入居者50人の入院調整を実施、50人すべてが早急に入院となった。4日目に、入居者と職員全員を濃厚接触者としたことから、施設の全職員が自宅待機となり、法人内他施設からの応援職員で入院対応と施設内の入居者対応を実施した。職員の復帰に向けて、経緯と対応を共有するオリエンテーションを実施、ほとんどの職員が復帰する日に合わせ再出発式を行った。個別にホーム長・副ホーム長との面談も並行して実施し、産業医による面談と専門家のメンタルサポートも実施している。

医師からみたポイント

良かったこと
  • 事前にBCPが作られており、実際の陽性者対応でもスムーズに実践されている様子がうかがえました。具体的には
    ー1人目の陽性判明日当日に対策本部を立ち上げられています。
    ー2日目には応援要員、保健所が入り、職員への情報共有、入居者ご家族への連絡も行われています。
    ー4日目の時点で、県の対策チームが入り、陽性発覚していた50人全員の入院調整がかかるという非常に迅速な対応が行われています。
    ー1人目の発生から15日目までで新規陽性者の発生を抑えられており、初期から適切な隔離、濃厚接触者対応がなされていたことがうかがえます。
  • 介護記録システムを用いて一人一人の行動履歴、接触歴が確認できるよう登録が行われており、状況の把握がしやすい状況が作られていました。
  • 状況の可視化がなされ、随時アップデートできる状況をDMATの助言のもと作れていたことが、一時的な応援要員も即戦力として動いていたたけることにつながりました。
その他アドバイス
  • 素晴らしい対応だったと思います。このような対応が功を奏したということを広く発信していっていただきたいです。
  • 陽性者はいつでもどこにでも発生しえます。誰のせいでもありません。管理者や職員の方々が過剰に責任感を感じなくてもよい空気感を作っていけるとよりよさそうです。
インタビュー実施日:2021年1月26日 インタビューご回答者:SOMPOケア株式会社 経営企画部 豊田 洋さん 地域包括ケア推進部企画グループ 特命部長 倉吉輝さん 地域包括ケア推進部企画グループ シニアリーダー 佐久間美穂さん

法人概要

法人の経営主体SOMPOケア株式会社
法人全体の職員数連結23,611人(パート社員含む)
法人全体の事業所数770施設
実施事業訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、通所介護、特定施設入居者生活介護、福祉用具貸与、特定福祉用具販売、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、地域密着型通所介護、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護、居宅介護支援、介護予防訪問入浴介護、介護予防訪問看護、介護予防特定施設入居者生活介護、介護予防福祉用具貸与、特定介護予防福祉用具販売、介護予防小規模多機能型居宅介護、介護予防認知症対応型共同生活介護
ウェブサイトhttps://www.sompocare.com/

拠点概要

所在地埼玉県
フロア 利用者数(定員) 職員数
有料老人ホーム(一般型特定施設入居者生活介護) 1、2、3、4階 80人(84人) 58人

新型コロナ陽性者等発生と対応の概要

陽性者数(うち死亡者数) 68人<入居者50人・職員18人>(死亡者数は非公開)
濃厚接触者数不明
感染源・感染経路不明
事業所が発生・収束とみなす日発生日10/27 、収束日11/20
発生から収束までの休業や利用制限なし
事業所外からの応援(法人内外)サービス提供継続のため、法人本社部門等から応援要員が派遣、介護職員8人、看護師4人。

陽性者発生以前の状況・感染対策等

  • 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
    • BCP策定済、4月にコロナ対策について陽性者発生時の対応フローと役割分担を作成、共有した。
    • 社内のフローで、利用者または職員が検査を受けることになったら、社内のイントラでメッセージを立ち上げ、事業所から法人本部へ共有、危機対策本部を立ち上げる、という流れになっている。
    • 法人内で応援が必要な場合に備え、各部署から応援派遣可能な社員をリストアップしていた。
    • 感染対策は以下を実施
      • 職員の出退勤時の検温および標準感染予防策の徹底。
      • 3密を回避しながらレクリエーションなどを行う。
      • 面会は基本オンラインのみとする。
      • 3密を避けて利用者の外出可。
      • 食堂を原則二部制にすることで、集合を回避。
      • 感染対策に関する企業内研修の実施。
  • 感染対策の特徴:
    • 利用者の健康状態、ケアの内容、職員との接触歴が日常的にシステムに記録されている。
    • 同法人の施設利用者に陽性者が出たことがあり、その際に過去2週間に行動歴を確認するのに時間がかかった、という反省がある。対応の要になるスタッフが情報確認のために拘束されることになるので、保健所へ必要な情報を書面でまとめて渡せるようにしていた。

新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯

病日 日程 項目 備考
1(第1病日) 2020年
10月27日
  • 体調不良でクリニックを受診した職員AがPCR検査を受け、陽性と判明
  • ホーム長が、濃厚接触者の洗い出し、濃厚接触者が14日間の出勤停止と想定した場合の必要職員数を算出、隔離対応で必要な備品在庫の確認を行う
  • 法人本部で危機対策本部を設置し、事業所とオンライン会議を実施
  • 危機管理対策本部はシステムから施設内の利用者状況を確認し、早急に現場支援が必要と判断
  • 発生前、入居者に体調不良者が多く、往診の医師の診察を受けていたが、医師はコロナではないと判断しPCR検査は実施していなかった
2  10月28日
  • 法人の危機対策本部から、外部対応や運営を支援する管理職2人と、感染対応と入居者対応を支援する看護師1人の計3人が現地支援に入る
  • 職員へ情報共有、入居者家族へ連絡
  • 保健所の最初の来所
  • 全入居者・全職員のPCR検査実施を決定し、有症状者から優先して開始、10月30日までに実施完了
  • 入居者7人、職員2人の陽性が判明
3 10月29日
  • ゾーニング開始、PPE着用開始(マスク、医療用ガウン、ビニールエプロン、フェイスシールド、手袋)
  • 入居者9人の陽性が判明(入院調整と搬送を深夜まで行う)
  • 上記に伴い、職員も全員が濃厚接触者として自宅待機になった
  • これまでは陽性者の濃厚接触者を追って対応していたが、陽性者の数が増えて入居者の大半が濃厚接触者であろうことから、保健所指示により、すべての入居者を濃厚接触者として扱うことにした
4  10月30日
  • 埼玉DMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)として医師が介入、「入居者と職員全員のPCR検査を実施、陽性者は症状の程度に関わらず全員入院」と方針を立て、保健所が対応開始 
  • 埼玉県コロナ対策チームとして県庁感染対策班、埼玉医科大学の感染症専門医、感染管理認定看護師が介入、現地に留まって入院調整など陽性者対応を担った
  • 入居者28人、職員11人の陽性が判明
  • 近隣施設から応援職員派遣
  • 朝から深夜まで搬送対応が続く
5 10月31日
  • 入居者1人、職員1人の陽性が判明
  • 同日までに陽性が発覚した入居者全員の搬送が完了
6 11月1日
  • 職員1人の陽性が判明
7 11月2日
  • 入居者2人の陽性が判明
10 11月5日
  • 入居者2人の陽性が判明
13 11月8日
  • 入居者1人の陽性が判明
15 11月10日
  • 職員2人の陽性が判明
22 11月17日
  • 11/17、11/18の2日間で4回、職員の復帰に向けてオリエンテーションを開催し、経緯と対応を説明
  • ホーム長、副ホーム長と個別に面談も実施
25 11月20日
  • 最終の陽性者判明から2週間が経ち収束
  • 職員と再出発式を開催

対応の体制

  • エリア担当部長、施設管理者が意思決定や指示だしをリードし、危機対策本部からの応援がサポートを行った。管理者は濃厚接触者となり8日目以降は自宅で業務に当たった。
  • 当該施設の全職員が濃厚接触者となり自宅待機、期間中はすべて応援職員で運営した。
  • 本部からの応援は以下の通り。
    • 本部から危機対策本部からマネジメントの後方支援を行う2人、看護師1人が現地に入る。
    • 危機対策本部は、発生当初、記録システムの情報から体調不良者が複数出ていること、数日前から往診医の診察を受けているが回復していないこと、PCR検査を受けていないことを確認し、医療連携と現場対応の強化が必要だと判断したため早急に現場に入った。
    • 危機対策本部の看護師が感染対応について指示、対応した。
    • 介護職員の応援は、本社および近隣施設から9人、看護師の応援は近隣施設から4人入った。

情報の収集・把握・共有

  • 陽性(疑い)者対応・感染拡大防止に関する情報:
    • 危機対策本部のメンバーは、当該施設でのクラスター発生前に法人内の複数事業所で感染対応にあたっており、知識と経験があった。
    • 専門家の早期の介入で的確な判断と対応ができた。(医療機関、保健所・行政との連携・調整参照)
  • 意思決定・共有・指示のための情報:
    • 埼玉DMATから、情報整理、情報可視化について指導を受けて実行した。
      • 壁にシートを貼って以下の内容を共有
      • 全体の検査と陽性判明の状況
      • 陽性者の病院搬送の状況
      • 衛生備品の在庫状況
      • 職員の復帰基準と復帰人数
      • 入居者の退院予定と受け入れ準備の状況
      • 入居者のバイタルや体調変化に関する情報
      • 生活に関する情報(毎日届く新聞が届くことなど)

情報の周知・発信

  • 利用者、職員、関係機関等への情報の周知:
    • 入居者家族へ、管理者や危機管理本部からの応援者など5人くらいで手分けして電話連絡した、最初の連絡からPCR検査の結果が出たら連絡、を繰り返していた。
    • 保険者がホームが所在する自治体以外の入居者もいたので、各保険者へも連絡した。
    • 10/29以降は、検査結果が出るなど状況が変化する度に電話連絡をしていた。
  • 外部への情報発信:
    • 法人本部広報部が対応し、ホームページに経過と対応を掲載。

利用者・入居者への支援と対応

  • 発生時の対応
    • 平時から利用している介護記録システムで、職員の誰がどの入居者の援助に入ったのか、援助の内容、時間が記録されていて、陽性者との接触履歴を早く確認することができた。
    • 陽性者への対応
    • 風邪症状、呼吸器症状がある入居者は居室に隔離、ガウン対応を徹底した。
    • 危機対策本部から応援にきた看護師がガウンテクニックを指導した。
    • 埼玉県コロナ対策チームCOVMATが入院調整を行い、陽性者は可能な限り迅速に病院へ搬送された。入院調整には最長2日を要した。
    • 陽性者の状態に合わせ、車椅子、ストレッチャーなど移動方法を決め、本人に関する情報をまとめ、搬送先が決まった人から順に搬送、特に10/29から10/31の3日間は集中し44人の搬送に追われた。
    • 施設に残った非感染者の入居者への対応
    • 陽性者が増えるにつれて、4日目から濃厚接触者を追わずに全員を濃厚接触者として対応することにした。 
    • BCPで定めた災害時の介助の優先順位に従い、食事、排泄、医療行為を優先し、清潔保持など介助の回数を減らしたものもあった。
    • ずっと自室で過ごすことへの不満の声はほぼなかった。
    • 厨房職員が自宅待機で入居者の食事はお弁当を購入しており、「いつものおいしいご飯が食べたい」と食事に関する要望が多かった。

職員の状況とフォロー

  • 期間中の様子と対応
    • 陽性者が出たことを聞いた職員には「まさか自分の施設で出るとは」とう動揺があり、情報が不確定で現場は混乱していた。
    • 検査結果により次々と陽性者が確認されていく中で、ショックを受けている職員も多く、特に管理者が陽性になった職員には「守れなくて申し訳なかった」と涙を流す場面があった。
    • 4日目から入居者全員、職員全員を濃厚接触者として扱うこととし、職員はすべて自宅待機となる。
    • 当該施設の職員から応援メンバーへ引き継ぎなど、業務上、出勤が必要だった管理者と看護師のみ7日目まで出勤、自宅待機しながら電話やメールでの対応は継続した。
  • 復帰に向けた対応
    • 職員の復帰に向けてオリエンテーション、再出発式を行い、個別にホーム長・副ホーム長との面談を行った。再出発式では各職員が振り返りを書くなどして、復帰に向けた体制作りを行った。
    • 休んでいた職員からは「自分がいなくなって申し訳なかった」という声があり、応援部隊やホーム長から「戻ってこられてよかった」と声がけをした。
    • また同じことを繰り返すのではないかという不安の声があり、具体的な対応を説明し徐々に不安を解消していった。
    • 法人内のメンタルヘルスケアの企業のサポートを受け、産業医を中心に職員との面談などメンタルサポートを継続している。

医療機関、保健所・行政との連携・調整

  • 保健所の調整によりPCR検査を早く受けられ、結果も早く出たので、感染状況を早急に把握でき、現場のオペレーションを何度も変更する必要がなかった。
  • 埼玉DMATが4日目に介入し、現場を見て「陽性者は軽症であっても直ちに全員入院」と方針を立てた。
  • 埼玉県コロナ対策チームCOVMATが施設内に3日とどまり入院調整と搬入準備を担った。

関係事業所・委託先等との連携・調整

  • 訪問マッサージに来ていた業者が、ここに入っていたからという理由で他の施設から断られるということがあった。

感染防御資材等の調達

  • 感染疑いがあった時点で、ホーム長が追加で必要な人員を算出。必要なマスクやガウンなど資材の在庫と補填必要数を確認する。
  • 法人本部が不足物品の調達、送り込み、不足はなかった。
  • 埼玉県等自治体からの支援物資もすぐに届き十分だった。

事業支出・収入等への影響

  • 支出:
    • 応援部隊の宿泊場所のためマンスリーマンションを契約、1部屋ごと月20万円超、15部屋で300万円程度。
    • 休んでいた職員への特別有給休暇などの手当て。
  • 収入:
    • 入居者の入院、逝去による空室で介護保険報酬減、空室は未だ残る状況。

風評被害と対応

  • 被害の有無や状況:
    • 特になく、近隣事業支所から応援メッセージが届くなど応援してくれる仲間が地域にいた。

対応の振り返り

  • 入居者と職員の接触状況が記録システムでデータ化されていたので、陽性者との接触履歴を出すのに役立った。
  • 早い段階で埼玉DMATが入り、入院トリアージしてもらったのがよかった。陽性者の入居者が部屋から出てきてしまう様子を見て、「隔離が難しい、感染拡大が止まらない恐れがあるので陽性者は全員入院」と決めて、保健所もそれに向けてすぐに動いてもらえた。
  • もともと決めていた感染対応のルールを徹底して守っている施設は感染が拡大しにくく、陽性者が出て入居者と職員のPCR検査をやっても陽性が出ないことから、ルールを守れば感染は防げるということが分かる。

陽性者対応の経験からの学び・教訓

  • DMATの医師から指導を受け、入居者の情報を壁に貼ったシートに書いて見える化したことがよかった。聞かなくても見れば分かって職員がいつでも状況を把握できることが重要。
  • 法人内の他の施設と、物の収納と管理、帳票などの情報管理の方法を同じにして、応援に入った職員がすぐに動けるようにすることが大切。
  • 危機対策本部に情報が上がってから遡って確認すると、入居者の発熱が続いていたり、施設の看護師が往診医との連携に不安を感じていたり、という事態があったことが分かった、発熱や体調の小さな変化を見過ごさずに対応するよう、行動を振り返り、対応と報告のルールを確認することを繰り返すことが大切。

感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと

  • 標準予防策の徹底のために、指示を出して終わらずに現場を見に行って確認する。
  • 最初に感染対策の正しい知識を伝え、原理を説明して、理由とやるべきことを明確に伝える。
  • 感染対策としてやることを説明するときに、実行して効果が出ている事例を紹介する。
インタビュー担当:堀田 聰子、磯野真穂、鎮目彩子
記事担当:鎮目彩子・大村綾香
医師からみたポイント:長嶺由衣子

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