四葉(特定施設入居者生活介護 有料老人ホーム)
要約
医療機関を退院し入所した入居者が陽性であることが判明し、後に他1人の入居者が陽性となった。他介護施設でのクラスター発生の事例からの学びを生かし、保健所の介入が始まる前から感染対応を徹底し、感染拡大を防止した。職員に陽性者は出なかったものの、全職員27人中20人が自宅待機となり、法人内の別事業所から8人の応援を得た。50人の入居者のうち、陰性ではあるが健康観察が必要な入居者20人に感染対応しながら対応した。
運営管理部部長のリーダーシップで全体の指揮が取られ、管理者が現場の声を聞きながら職員と一緒に入居者をケアし、法人代表が職員家族への電話フォローや近隣住民のフォロー、県との連携に当たり、法人内の他事業所の管理者も協力し、法人が一体となって対応した。
医師からみたポイント
良かったこと- 近隣施設でのクラスター発生からの教訓が事前準備に活かされており、陽性者が多くならなかった一つの要因と思われます
- 事前に家族である職員が同時に勤務停止にならないよう居住空間を分けていた
- 感染防護具を事前に備蓄していた - まだ第1波がようやく終息するぐらいのクラスター発生にも関わらず、非常に迅速な対応が行われています。
- 発症翌日には検査が施行されている
- 事前にBCPはなかったが、陽性判明日に意思決定プロセス、情報伝達プロセスが決定され、迅速な情報提供の方法が確立されている
- 応援要員への配慮、職員の休業補償や危険手当についてもルール決めが迅速に行われている
- 医療者や保健所からの具体的なアドバイスがないにも関わらず、自分たちで考えて適切なゾーニングがなされている - 誹謗中傷のリスクがありながらも、1人目の陽性判明から4日目という異例の速さでウェブサイト上での報告がなされており、続報も継続され、他の施設や社会への貢献度が非常に高かったと思われます
- PPEの備蓄状況と必要な感染防護のバランスを取ったPPE利用ルールが作成されています
- 元々呼吸器疾患があるなど、重症化リスクの高い職員を一時的に他施設へ異動させるなどの配慮もされている。
- 普段の施設内外(ご近所含む)との関係づくりがあったことが、結果的に誹謗中傷のリスクを下げたように思われる。
- かかりつけ医がオンライン、オフラインでトリアージや医療機関との繋ぎを続けている。
- クラスターが起きた介護施設でも混乱をきたさずに対応ができるようにするために、保健所と行政がうまく連携、情報共有していただくことが大切そうです。
- 介護施設等でのクラスターでは、検査対象者、濃厚接触者認定は幅広めに行うことが大切そうです。
法人概要
法人の経営主体 | 株式会社 四ッ葉 |
法人全体の職員数 | 64人 |
法人全体の事業所数 | 4 |
実施事業 | グループホーム、介護付有料老人ホーム等 |
ウェブサイト | https://www.yotsuba4165.com/index.html |
拠点概要
所在地 | 愛媛県松山市 |
開設年 | 2011年3月 |
ウェブサイト | https://www.yotsuba4165.com/home_yotsuba.html |
フロア | 利用者数(定員) | 職員数 | |
特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム) | 1、2、3階 | 50人(定員50人) | 27人 |
新型コロナ陽性者等発生と対応の概要
陽性者数(うち死亡者数) | 入居者2人(死亡者数:入居者1人) |
濃厚接触者数 | 41人 |
感染源・感染経路 | 入居者1人→市内の医療機関、入居者1人→不明 |
事業所が発生・収束とみなす日 | 5月12日~6月5日 |
発生から収束までの休業や利用制限 | 面会制限 |
事業所外からの応援(法人内外) | 法人の他事業所から8人 |
陽性者発生以前の状況・感染対策等
- 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
- ー
- 感染対策の特徴:
- 4月に松山市内の有料老人ホームで陽性者発生の事例があったため、それを参考に、保健所の介入がある前に感染対応を始めなくてはならないと思っていた。
- 管理者2人が同居家族のため、緊急事態宣言下は2人が同時に業務から離脱することを防ぐため期間限定でマンションを借りていた。
- 2月から感染防御資材は備蓄していた(当時手に入りづらく、ガウンの代わりに雨ガッパなどを使用していた)。
- BCP策定状況:
- 無
新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯
病日 | 日程 | 項目 | 備考 |
1(第1病日) | 2020年 5月12日 |
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2 | 5月13日 |
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3 | 5月14日 |
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7 | 5月18日 |
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9 | 5月20日 |
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11 | 5月22日 |
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12 | 5月23日 |
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15 | 5月26日 |
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16 | 5月27日 |
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25 | 6月5日 |
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26 | 6月6日 |
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28 | 6月8日 |
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対応の体制
- 入居者Aの陽性が発覚した日に、法人代表、運営管理部部長、各事業所の管理者で最初のミーティングを実施した。
- 運営管理部部長を中心に意思決定し、現場の指示は事業所の管理者が行った。
- 2日目から25日目までの期間に、法人内他事業所からの応援8人が入り、それぞれの応援期間は3日から13日であった。
- 各事業所の人材採用が終わったタイミングであり、法人内のどの施設も人員が揃っていたので、法人内の他施設から応援もお願いしやすかった。
- 緊急ミーティングで応援職員の休業補償や危険手当などについて決定した。
情報の収集・把握・共有
- 陽性(疑い)者対応・感染拡大防止に関する情報:
- 市内で発生したクラスター事例から学んだ。
- 意思決定・共有・指示のための情報:
- 運営管理部部長が意思決定を行う。
- ホワイトボードの両面を使って伝達した。
- 表面にはPCR検査陰性の場合、裏面にはPCR検査陽性の場合の指示を記載し、情報を施設内で共有
- 備品の在庫も表記
- 指示命令系統を視覚的に一つの平面に納めることで混乱を避ける
- 注意事項は紙に書き、目立つ壁や窓に貼り、共有する。
情報の周知・発信
- 利用者、職員、関係機関等への情報の周知:
- 入居者AがPCR検査を受けることになった時点で職員ミーティングを実施、管理職へ状況を説明、全職員へ入居者Aの新型コロナウイルス感染について説明した。
- 当時は濃厚接触者の定義が明確ではなかったので、1日目、2日目に出勤していた2階と3階のフロア従事の職員を濃厚接触者と仮定し、職員の10人+3人を自宅待機者とする旨を伝えた
- 全国の事例より、誹謗中傷などの心配もあったが、関係者の不安解消のためには「早い方が良い」という判断で、4日目にHPへ掲載を決定した。
- HPへの掲載前に、入居者の家族に報告していたため、掲載後に電話などでの問い合わせ対応に時間を割くことはなかった。
- 入居者家族に知らせることを第一優先とし、報道で初めて知るということがないように注意した。その際、入居者家族に何を伝えるかを書き出して、同じように伝わるようにした。
- 入居者家族には、入居者Aの陽性発覚、濃厚接触者のPCR検査結果、入居者Bの陽性発覚、濃厚接触者のPCR検査結果、と最低4回は連絡し、個別の問い合わせも受けた。
- 職員の家族にも電話で連絡を行い状況を説明した。
- 外部への情報発信:
- 近隣10軒ほどに電話と直接訪問(玄関先で距離を持った状態で)で状況を伝えた。
- 消防訓練などで近所に声をかけていたので普段から接点があった。
- 5/13の段階でHPに掲載するのを決定し、5/15にHPに初報を掲載(以後、6/8の終息宣言まで続く)、5/23 16時に市長が記者会見にて感染を発表。
利用者・入居者への支援と対応
- 感染対応について
- 入居者Aが陽性判定を受けた状態で戻られた場合に備え、広い1階のホールスペースでの受け入れを想定し、職員の一時的な宿泊場所としてホールを活用することも視野に入れていた。
- 感染フロアである2階は、グリーンゾーンとイエローゾーン(濃厚接触者の居室)に分け、居室以外はグリーンゾーン(清潔な場所)であるように徹底した。
- 認知症の入居者が部屋から出られたら、その場所もイエローゾーンとし、部屋に戻られたあと消毒することでグリーンゾーンに戻す作業を行った、そのためすぐに手に取れる場所に除菌のセットを設置した。
- イエローゾーンでの感染対策は以下のように実施した
- 居室に立ち入るだけで入居者や居室内の物に触れない場合・・・サージカルマスクの着用
- 居室に立ち入るだけで入居者に触れない場合・・・サージカルマスクと手袋を着用
- 居室に立ち入り、入居者に直接接触する場合・・・サージカルマスク、長袖ガウン、手袋、+ 飛沫を浴びる可能性(陰洗、口腔ケア)の際はフェイスシールドも着用
- 入居者対応について
- 2階のフロア職員は全員、濃厚接触者として自宅待機となったため、2階入居者への細やかなケアなどの引き継ぎができない状況であった。その後、以前、2階を担当していた人が応援スタッフとして合流、ケアの詳細を覚えていたため、他の職員へ知識や経験の共有ができた。
- 市と相談し、週2回の入浴を必須とせず清拭で対応し、清潔が維持できるようにした、レクリエーションとリハビリは中止した。
- 食器は使い捨てのお弁当箱に変更、食形態の変更はなかった。
- 消毒液などの衛生管理品や、リネン・オムツなど、日常的に使用する製品は、感染フロアとクリーンフロアの導線の交錯を避けるため、置き場を決め、事務員が物の移動を行うこととした。
- 入居者の中には、ガウンなど防護着で対応されることに対して直接的に不満をぶつける人がいた。
- 陽性から陰性へ転じた入居者Bは、退院後に施設へ戻った際、他の入居者と距離ができてしまう。
- 入居者B自身も気にしており、新型コロナの終息後も入居者の心のケアが大切だと感じた。
- 「一人一人と深く関わり、きめ細やかな応対をすること」を、入居者さんと職員は理想としているのに、実際は居室へ入居者さんを押し込んでいるような状態であった。
職員の状況とフォロー
- 職員の状況
- 市内での前例があったので、対応が早く、1人目の陽性が発覚した同日中に翌日からの業務について説明するミーティングを実施し、さらに実際の対応が始まった翌日から出勤の職員に対し、朝のミーティングで情報共有した。
- 第一報を聞いて職員に不安はあったが、どうにか乗り切りましょうという雰囲気だった。
- 二度の感染者の発生で、22人の職員のうち、最大20人が自宅待機となり、応援7人を加えた9人で、対応することとなった。
- 中には家族を実家に預けて働く職員もいた。
- 全体的に全事業所で人が充足しているタイミングだったので応援を出しやすく、休みもある程度は確保できた。
- 職員の同線
- 安全な出退勤の経路の確保のため、感染者が出た2階フロアを感染フロア、3階フロアをクリーンフロアとし、職員の動線が重ならないよう、区別する。
- 出入りの際は、建物の両サイドにある非常用出口を出退勤出入口として活用し、安全な出退勤の経路を確保する。
- 出入り口には体温計、除菌スプレーを完備し、衛生を徹底し、非常用出入口を物品の受け渡し口として決める。
- 職員のフォロー
- 日頃から管理者同士の結束が固く、困ったときはお互い様という精神で連携されていた。
- 管理者も代表も話しかけやすく、和気藹々とした雰囲気がある。
- 感染対応で業務が増えて、入居者へのケアと並行することは難しく、職員がやりきれなく思うことがあったので、管理者を中心に愚痴を言い合う時間を持ってから、今後の対策と具体的なアイデアを出し合っていった。
- 1人目の陽性発覚から約3日後より、職員の家族の不安を解消するために代表が家族へ電話で状況を説明した。
- 2階の濃厚接触者の居る感染フロアへのサポートが手厚くなり、人員を割かれている3階のクリーンフロア職員の負担や心労が増えてしまう点も、今後の課題の一つである。
- 喘息持ちのため、陽性者が出た施設への復帰に不安があった職員が、別事業所で一定期間勤務したあと、所属施設に復帰した。
医療機関、保健所・行政との連携・調整
- 保健所
- 当時は濃厚接触者の判断基準、PCR検査をうけられる基準が曖昧だと感じることがあった。
- 濃厚接触者にあたらなかった職員の不安解消のため、「濃厚接触者と想定したメンバー以外の全員のPCR検査を一刻も早く行いたい」と保健所に申し出るも、「すぐにはウイルス反応が出ないため、2週間ほど検査まで時間を空けてください」と、断られて検査ができなかった。
- 検査は保健所にて実施、入居者は職員が連れて検査に行った。
- 行政
- 保健所と行政は連携しておらず、それぞれ対応を迫られることがあった。
- 情報公開のタイミングを合わせる必要があり調整を要した。
- 医療機関
- 入居者のかかりつけ医が電話やskypeを使った遠隔診療を使い、急変など必要に応じて来設した。
関係事業所・委託先等との連携・調整
- 支出:
- 資材関係は2月から調達していて、かかりまし経費で1,000万弱を申請予定である。(インタビュー当時)
- 休業補償は100%補償、残業代と危険手当を出した。
- 収入:
- コロナと関係のない看取りがあり、収入減となったが通常に戻った。
- 資金繰り:
- 無
感染防御資材等の調達
- 各居室分と予備のごみ箱を購入した。
- 使い捨て弁当箱を購入した。
- 宿泊場所に換気できるエアコンを設置した。
- 非常口の合鍵を新たに作成した。
- 防護用ガウンなど物資は松山市、保健所、NPOから届けられた。
事業支出・収入等への影響
- 支出:
- 資材関係は2月から調達していて、かかりまし経費で1,000万弱を申請予定である。(インタビュー当時)
- 休業補償は100%補償、残業代と危険手当を出した。
- 収入:
- コロナと関係のない看取りがあり、収入減となったが通常に戻った。
- 資金繰り:
- 無
風評被害と対応
- 特になし
対応の振り返り
- 検査結果が出る前に病院から陽性の可能性が高いと連絡があったことにより、陽性が確定するまでの6時間を有効に使い対策を立てられた。
- 保健所の指導が入るまでの1、2日、感染防止の備品は十分に確保してあったのであるだけ使って、最大限の感染対応を行う方針、保健所の指導で過剰なところを削るようにした。
- 県内外で、医療機関や介護施設での感染がテレビなどで報道されており、以前より、「いつ、自社の施設で感染者が発生してもおかしくない」という危機感を常に持っていた、常に先々を想定しながら、後手に回らないように、早め早めの行動を心掛けた。
- 「今後、この物資が足りないのでは?」と感じたら法人代表に相談し、発注していたおかげで「この激動の24日間で、アレが足りない!」と困ることがなく、心のゆとりに繋がったと感じる。普段から職員との関わりを大切にしていると、職員が困りそうなこと、不明に思う可能性のある内容が分かるので現場が想像できる状態で対応を決められたことがよかった。
- ホームページへの掲載はどのような反応がくるか不安だったが、ねぎらいや応援の言葉が多く、結果的に早く公表しておいてよかった。
陽性者対応の経験からの学び・教訓
- 「もし、自分の施設に感染者が出たらどうする?」という危機感を持って、常に最善の方法を模索すること。
- もしものときの為に、平時から関係機関の連絡先リストを作っておくこと。
- 早め早めの情報共有・情報発信を心掛けること。
- 発生時の対応も重要だが、管理者と職員の関係や、会社が職員を大切に思って関わっているかといった、日々の関わりを通した信頼関係があることが重要で、それがないとうまく対応しようとしてもできない。
- 緊張感を保って感染防止に取り組み続けることは簡単ではなく、もしまた同じように陽性者対応を迫られた場合に前と同じように緊張感をもって対応できるかは心配である。コロナの捉え方が変わっていく中で、都度対応していくことになる。
感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと
- 今後の事業所による対策として9月に独自警戒指標(https://www.yotsuba4165.com/img/info_20201114.pdf)の作成。
- 委託先のリストの作成。
インタビュー担当:鎮目彩子
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:長嶺由衣子
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:長嶺由衣子