拠点F(通所介護)
要約
利用者、職員合わせて19人が陽性となったデイサービスでのクラスター事例。1人目の陽性判明後すぐに全職員の自費PCR検査手配を開始、利用者は営業休止後に保健所指示により登録者全員検査となり、順次陽性判明・濃厚接触者特定と関係者への連絡を実施した。行政の現場確認を受け、デイサービス再開にあたっては、入浴と体操の人数制限やカラオケなどいくつかのレクの中止が必要となり、オペレーションも大きく変更した。また、利用者及び家族の体調を誰に確認するかのリスト化、職員の出勤時の手洗い等のチェック・体調確認の体制づくり、職員の勉強会と利用者対応のシミュレーションを繰り返し行うなど感染対策を強化している。厳しい制限下での運営ではあるが、職員の工夫で入浴可能な人数は戻りつつあり、利用者と職員の対話の時間が増えた。
医師からみたポイント
よかったこと- 関係者の速やかな検査実施決断
時には保健所の決定を待たずに、必要な対策を実施する決断は早期対応につながりました。 - デイサービス利用者及び家族の体調チェックの為の確認先リスト作成
状況把握が非常に難しい対象に対して現実的・具体的な対応策がとられています。
- 利用者Aなどの軽い症状があった際、万が一のことをふまえた予防措置(サービス自体は継続だが周囲と時間・動線・対応者を分離するなど)をすることで二次感染リスクを少しでも下げることができるかもしれません。
法人概要
実施事業 | 通所介護、特定施設入居者生活介護、訪問看護、訪問介護、居宅介護支援、認知症対応型共同生活介護、短期入所生活介護 |
拠点概要
所在地 | 福岡県福岡市 |
フロア | 利用者数(定員) | 職員数 | |
通所介護 | 1階 | 登録99人(55人) | 24人 |
居宅介護支援 | 1階 | 128人 | 4人 |
新型コロナ陽性者等発生と対応の概要
陽性者数(うち死亡者数) | 19人(利用者16人、職員3人)(死亡者数:1人) |
濃厚接触者数 | すべては追っていない |
検査実施 | 全利用者99人、全職員24人 |
感染源・感染経路 | 不明 |
事業所が発生・収束とみなす日 | 8月1日〜8月22日 |
発生から収束までの休業や利用制限 | 8月9日から9月4日までデイサービス休業 |
事業所外からの応援(法人内外) | 同法人の他エリアのマネジャー7人が応援 |
陽性者発生以前の状況・感染対策等
- 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
- 利用者の発熱、PCR検査を実施したことはあったが、いずれも陰性だった。
- 感染対策の特徴:
- 法人本部に、看護師などで構成された感染症対策委員会があり、感染症対策のマニュアルを作成するなど対策を行っていた。
- 施設関係者に陽性者が出た場合の感染症対策委員会への報告先を周知し、陽性者発生時の初動で行う内容を決めていた。
- デイサービスでは、玄関前で手指消毒、手洗い、検温を実施、利用者に37度以上の熱がある場合は帰宅してもらい受診を促し、施設内に持ち込まないよう努めていた。
新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯
病日 | 日程 | 項目 | 備考 |
2020年 7月30日 |
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1(第1病日) | 8月1日 |
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6 | 8月6日 |
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7 | 8月7日 |
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8 | 8月8日 |
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9 | 8月9日 |
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10 | 8月10日 |
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11 | 8月11日 |
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12 | 8月12日 |
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13 | 8月13日 |
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14 | 8月14日 |
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15 | 8月15日 |
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16 | 8月16日 |
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17 | 8月17日 |
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18 | 8月18日 |
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20 | 8月20日 |
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22 | 8月22日 |
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24 | 8月24日 |
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25 | 8月25日 |
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27 | 8月27日 |
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32 | 9月1日 |
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33 | 9月2日 |
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36 | 9月5日 |
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対応の体制
- エリアマネジャー(通常から事業所のマネジメント・業務に関わっているが、複数事業所を担当しており常時同じ拠点にはいない)が現場に入り統括した。
- 管理者、濃厚接触者にならなかった正社員5人が出勤を継続し、対応に当たった。
- 法人本部の感染症対策委員会が、感染対策の方法を決めて手配するなど後方支援にあたった。
- アクリルパネルの設置を支援するなど法人本部からもサポートすることで、いつでも手伝いに行けるという姿勢を示し、事業所だけが負担を感じないように配慮した。
情報の収集・把握・共有
- 現場に入っているエリア担当から本部の感染症対策委員会に毎日電話報告。
- 意思決定は感染症対策委員会で行った。
情報の周知・発信
- 8/10法人ホームページで「新型コロナウィルス感染者発生について」を掲載。
利用者・入居者への支援と対応
- 発生当初の利用者への連絡
- 利用者への連絡は、陽性者判明翌日に来所予定があった人から順番に行った。
- 陽性者が出て濃厚接触者を洗い出し、陽性者が出て、の繰り返しだったので、各時点での濃厚接触者に連絡を繰り返し行った。
- 利用者へは直接電話で連絡した。何度も問い合わせの電話がかかってきたり、1回の電話が長く、時間がかかった。
- 利用者への説明の仕方はスクリプトを作って共有、勤務を継続した正社員から電話し、イレギュラーな場合は管理者が対応した。
- 利用者の反応と期間中の対応
- 混乱や怒りの言葉や、同居の家族が仕事に行けなくて困るという声があった。
- 後半は、陰性の利用者は早く再開してほしいという希望が増えてきて、電話での問い合わせも再開に関することが多くなった。
- サービス停止中、他社のサービスを利用していた人もいた。
- 陽性となった利用者へは毎日健康観察の電話をした。
- 当デイサービスでのクラスター発生後に、同法人内の別事業所で陽性者が発生し休業した際は、期間中、職員が自宅に訪問し体操や脳トレを行ってもらいADL低下予防に努めた。
職員の状況とフォロー
- 発生当初の職員の状況と対応
- 職員に最初に状況を説明したときには、ショックを受けた様子はあったが、大きな混乱や質問はなかった。
- 職員、利用者とも全員のPCR検査をなるべく早く実施いたいと考え医療機関をあたった。
- 勤務を継続した職員の状況
- 濃厚接触者にあたる職員は自宅待機、事業所にはエリア担当、管理者、正社員5人が出勤していた。
- 電話が鳴り止まない状況で、エリア担当と管理者の2人は3週間休みなく出社していた。
- 利用者を分かっている職員が電話しようとすると負荷が集中し、法人本部からサポートが難しかった。
- 利用者から怒りの声が聞かれた場合など特に個別の対応が必要な利用者は主に管理者が対応し、常に負荷が高かった。
- 管理者は「責任を取らなきゃ」という気持ちになっていたので、法人本部から「誰のせいでもない」という話をした。
- 自宅待機中の職員の状況
- 8月12日、職員に陽性者が出たことで、他の職員も自分の感染を心配する声が出た。
- 自分が陽性で家庭に持ち込むのではないかと心配していた人がいた。
- 自宅待機だった職員へ、管理者とエリア担当から毎日電話で体調確認をしていた。
- 陽性となった職員のフォロー
- 陽性になった職員は家族も陽性になったことも含め、メンタルのフォローを行った。
- 陽性になった職員家族がホテル療養を拒否され、同居の家族が学校に行きづらい、という状況があり、看護師がメンタルのフォローにあたった。
- 営業再開後、陽性になった職員の勤務の継続については問題なかった。
- 再開に向けての取り組み
- 9/1に職員向けに勉強会を実施、利用者の体調確認、送迎時の注意、急変時の対応などを再確認し、シミュレーションを繰り返し行った。
医療機関、保健所・行政との連携・調整
- 保健所との連携
- 8/8に最初の連絡をし、常に状況を報告し指示を受けたが、事業所として保健所とのやり取りが初めてだったので、指示を待つことが多かった。
- 8/12に、利用者は全員PCR検査すると保健所から指示があったが、指定する病院に利用者をデイサービス職員が連れてきてほしいと言われ、日時の指定もあった。陽性か陰性か分からない状態の利用者を病院に送迎するため、職員に不安もあり、車にもビニールを張るなど感染対応の負担が大きかった。指定の場所、日時でないと検査できないというのではなく、もっと柔軟に検査を受けられるようにしてほしかった。
- 行政との連携
- 介護保険課が再開前に現場確認に来て、再開にあたっての改善点を示されたが、運営上、厳しい内容だった。
- 椅子と椅子の間は1メートル以上あけること。 利用人数を制限することが望ましいが、難しければ椅子と椅子の間にもパーテーションを設置すること
- 食事中は横の方との間にもパーテーションを設置すること
- 入浴時、脱衣室を利用するのは1人ずつ。浴室はシャワーが3台あるが真ん中は使用せずに両端のみを使用し、隣との間隔を2メートル以上あけること
- カラオケルームとシアタールームは当面使用禁止
- 新聞、雑誌などの提供は当面禁止
- 囲碁、将棋、麻雀などは実施前に必ず手指消毒、使用者が代わる度に毎回器具の消毒を行うこと
- 平行棒での体操は隣の方と2メートル以上間隔をあけること
- マスクは認知症の方など、なかなか着用してもらえない方に対して根気強く声掛けし着用を促すこと
- 従来は、1日に入浴できる利用者35人(浴室に3人入り、脱衣所に3人入る)、一度に体操できる利用者15人で運営していたが上記の指導に従うと従来通りのサービス提供ができない状態だった。
- 行政の指導を守ったオペレーションを再開後は継続しているが、職員が慣れてきて、入浴できる人数が増えてきている。
- 介護保険課が再開前に現場確認に来て、再開にあたっての改善点を示されたが、運営上、厳しい内容だった。
関係事業所・委託先等との連携・調整
- 利用者からケアマネに相談・問い合わせが行ったときに混乱しないように、ケアマネへの連絡を優先して行った。
- 利用者の併用サービスが分からないこともあり、連絡が滞る原因の1つとなった。
- ケアマネさんのリストを正社員5人ほどで手分けして電話連絡した。
- 利用者への連絡が優先で併用事業所への連絡が後になってしまうので、連絡が遅いと指摘を受けることがあった。
- 検査結果が陰性だった利用者については、その後の健康観察の結果を担当のケアマネに報告しておらず苦情をもらった。
感染防御資材等の調達
- 再開前に新たにアクリルパネルを設置。
事業支出・収入等への影響
- 99人の利用者が再開当初70人くらいまで減り、収束から4ヶ月で80人くらいまで戻った。
- 行政の指導の通りのオペレーションだと入浴や体操できる人数が限られ、利用者が減った。
- 支出は、アクリルパネルを購入、マスク、消毒用のアルコールは必要在庫が増えた。
風評被害と対応
- 近隣の3つのデイサービスは影響を受け、利用を控える利用者がいたり、そこは大丈夫かと問い合わせがあったりした。
対応の振り返り
- 管理者が前向きな明るいキャラクターで、厳しいときに落ち込まずに取り組んでいたことがよかった。
- 法人内他部署から栄養ドリンクの差し入れがあって、自主的に他部署から持っていってくれていたのが対応していた職員の力になった。
陽性者対応の経験からの学び・教訓
- 感染症の勉強会は、数回やっただけでは意識は変わらないので、繰り返ししっかり話してやっていく必要がある。
- 外部への連絡は手を抜かずにやる必要があり、連絡が大変だったとしても怠らない。(舞松原以降に陽性者が出た事業所では14日間毎日、陽性陰性にかかわらず利用者の健康観察の結果をケアマネへの報告した。)
- 陽性者発生時に通所事業所にとって必要な支援として、保健所が利用者のところに行って検査できる体制があるとよい。
- 一つの事業所で対処するのではなく地域でフォローできる体制がよい、地域のサービス事業所間の連携の仕組みを行政が作ってくれて、顔が見える横の繋がりができるとよい。
感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと
- サービス内容について
- 行政指導に従い以下を変更
- 入浴時、脱衣室の使用は1人ずつ、浴室の使用は2人ずつで対応すること
- カラオケ・シアター室は原則使用禁止とした
- 新聞・雑誌の提供を中止
- 囲碁・将棋・麻雀等は実施前に必ず手指消毒を行い、相手が代わる度に器具を消毒すること
- 平行棒での体操は、隣との距離を2m以上あけること
- レクリエーションでできることは減ったが、その分、職員が一対一で利用者と向き合い話す時間が作れるようになった。
- 行政指導に従い以下を変更
- 利用者の健康観察について
- 家族の健康状態を利用者が全部を把握してデイサービスに伝えてもらうというのは難しい。未然に防ぐために、お迎えの時間を電話連絡する際に、家族の体調を誰に聞けばよいか事前にリスト化し確認した。
- 職員がやること
- 出勤時は手洗いうがい、マスクを新しいものに交換、その様子を確認する職員を1人置き、手順に漏れがないか見て、体調に異常がないか問診する。
- 職員は同居の家族の体調に異常がないか常に注意する。
- トレーは都度消毒しているか、湯のみの口が当たるところは触っていないか、など、法人本部と事業所の職員と一緒に実践で練習した。
- フェイスシールドを着用する場面を徹底。
- バイタル測定
- 近距離での会話
- 昼食の配膳
- 入浴介助
- 食事介助
インタビュー担当:堀田 聰子、奥知久、鎮目彩子
記事担当:鎮目彩子
医師からみたポイント:奥知久
記事担当:鎮目彩子
医師からみたポイント:奥知久