拠点A(サービス付き高齢者向け住宅等)

要約

サ高住入居者の発熱に始まり、入居者・併設の通所利用者・職員14人が陽性となった。出勤可能な職員が大幅に減り、管理者もホテル療養となるなか、陽性者の施設内療養を迫られた。

当初勤務継続できた職員が4人となり、医師の指示を実行できる看護師も足りず、法人内の別事業所から順次応援職員が来て、陽性者への対応と非感染者へのケアが徐々に行えるようになる。拠点が離れていて通常は顔を合わせることがないメンバーで、声を掛け合って状況を立て直した。

通所再開前の職員ミーティングが拠点Aの職員の職場復帰の後押しとなり、応援に入った職員は、法人内の各拠点で経験からの学びの実践・共有に努めている。

医師からみたポイント

良かったこと
  • ガムテープとカーテンで仕切ってゾーニングした
    「ゾーニング」は感染拡大防止に極めて重要な方法です。身の回りのものを使って自分たちにとって分かりやすい区別をすることが大切です。
  • 法人の役員や他事業所施設長などリーダークラスの人が支援に入った
    「現場の指揮系統」は最重要課題の一つです。今回のように現場リーダーが不在となりうることを想定して、有事の体制、ICTの活用など、自組織に合わせたプラン案を検討しておきましょう。
  • 正しい感染方法を再確認し、後続のメンバーとの共通理解事項にした
    どんな状況でも、基本的な感染予防手技が大切です。またそれを仲間と共有しておくこと、確認しあうことで安心感が生まれます。今回のように普段一緒に働いていないメンバーとも共通基盤としておくことは、チームとしてケアを継続するうえで有効な方法と言えます。
その他アドバイス
  • 感染制御のためには速やかな初期対応、少し広めの対応を心がける
    最初の症状が出た日(発症日)から診断、ゾーニングなどの有効な対応の実行までをいかに短くするかがポイントです。症状だけでは判定できない時もあるため、「もしも」を考えて、少しオーバー目な初期対応を心がけると良いでしょう。慣れないケアの現場での感染対策ですが、本ケースのように一度経験したメンバーが次の対応に活かすべく各事業所で繰り返し確認するのは非常に良い方法だと言えます。
インタビュー実施日:2021年1月12日・2月3日 インタビューご回答者:本社役員・法人内別事業所から応援に入った職員(看護師)

法人概要

法人全体の事業所数 26
実施事業 高齢者・障害者福祉・保育事業

拠点概要

フロア 利用者数(定員) 職員数
サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住) 1、2階 19(20) 19人
認知症対応型通所介護(以下、通所) 1階 16(12)
訪問介護 1階 15
※陽性者発生時点ではサ高住入居者のみ

新型コロナ陽性者等発生と対応の概要

陽性者数(うち死亡者数) 14人(入居者8人、通所利用者2人、職員4人)(うち死亡者数0)
濃厚接触者数 51人(入居者17人、通所利用者16人、職員18人)
検査実施 1人目の発症から4日目に濃厚接触者と確定した全利用者・職員にPCR検査を実施
感染源・感染経路 不明
事業所が発生・収束とみなす日 11/18発生・12/11収束
発生から収束までの休業や利用制限 11/19から12/19通所休業、訪問介護は11/19から休止、徐々に再開した
事業所外からの応援(法人内外) 法人内別事業所からあり

陽性者発生以前の状況・感染対策等

  • BCP策定中だった

新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯

病日 日程 項目 備考
1 2020年
11月
18日
  • 入居者Aが発熱、受診しそのまま入院
2 11月
19日
  • 入居者Aの陽性が判明し本人の部屋を閉め切る
  • 入居者Bが発熱、受診、PCR検査を受ける
  • 保健所へ連絡
  • 職員へ伝達し出勤可能か確認
  • 通所・訪問介護を休止
3 11月
20日
  • 入居者Bの陽性が判明
  • 個室隔離を開始
  • 個室の前をガムテープとカーテンで仕切ってゾーニング開始
  • 以降、数日出勤可能な4人の職員で対応
陽性者の入院調整不調が続く
4 11月
21日
  • 保健所介入
  • 入居者A、Bを除くサ高住の全入居者、通所の全利用者、厨房の夜勤担当者以外の職員18人が濃厚接触者と確定・PCR検査実施
5 11月
22日
  • 入居者6人、通所利用者2人、職員3人の陽性が判明(クラスターと認定
  • 保健所指示により対策本部と称して保健所担当者・施設長他3人で話し合いが持たれるが感染対応に関する具体的な指示は得られなかった
管理者を含む正職員が陽性で出勤できなくなり現場の指示を出せる人は不在となる
6 11月
23日
  • 法人内の別事業所から施設長、管理者、職員の3人が応援に入る
7 11月
24日
  • PCR検査で職員1人の陽性が判明
  • このまま陽性者が出なければ12/4にレッドゾーン解除と保健所から指導
8 11月
25日
  • 保健所紹介で外部の専門家が来て感染対応についての講義、ゾーニングの見直しを行う(個室ごとにレッドゾーン扱い→フロア全体をレッドゾーンに変更)
10 11月
27日
  • 入院の目処が立たず、保健所の助言でそれぞれの入居者の主治医に往診を依頼、それから何度か往診を受ける
11 11月
28日
  • 法人内の別事業所から看護師2人、介護職員1人が応援に入る
点滴とポータブル酸素が使えるようになる
13 11月
30日
  • 入居者の入院は不可と確定と保健所から連絡、状態が悪化しても最後まで施設内で看ることになる
15 12月
2日
  • 看護師3人、介護職員5人が応援に入る
17 12月
4日
  • レッドゾーン解除
  • 重症だった2人の入居者について(コロナ陽性者ではなく)肺炎症状ありの患者として一般病棟への入院を交渉・入院
他の陽性者は軽快
24 12月
11日
  • 保健所により収束とされた
  • 以降、施設内の環境を整え、滞っていた通常業務を進め12月
    中の営業再開を目指す
33 12月
20日
  • 通所・営業再開

対応の体制

  • PCR検査結果が陰性だった施設長が期間を通じてグリーンゾーンにとどまり、昼夜を問わずほぼ休みなしで入居者家族、ケアマネ、保健所、行政への連絡を担当した。管理者、リーダーは陽性となりホテルで療養に専念した。
  • 管理者を含む正社員が出勤できない状況で、施設長が外部対応を担ったため、レッドゾーンの入居者対応をリードできる人がおらず、応援に入った別事業所施設長が現地入り後、その役割を担った。
  • 陽性となった職員はすべて自宅かホテル療養、陰性であっても家族の健康不安などで勤務自粛を希望する者もあり、勤務継続可能だったのは施設内職員では4人のみ。
  • 法人の役員、別事業所の施設長、管理者、看護師、介護職の応援によって体制を強化した。
  • 応援体制については以下の通り:
    • 都道府県の応援派遣事業の利用を検討したが、マッチングが難しい、申請書類が多い、1人1日4,5万円の費用負担が大きい、陽性者の直接介護はできない、という理由から利用せず。
    • (入居者Aの発症から、以下同じ)6日目に、法人内の別事業所から施設長、管理者、職員の3人が応援に入る。
    • 11日目に、法人内の別事業所から看護師2人、介護職員1人が応援に入る。
    • 15日目に看護師3人、介護職員5人が応援に入る。拠点が離れているため4時間かけて移動、「自分たちにはやるべきこと、ミッションがあるから無事に到着して、感染せずにやり遂げられる」とみんなで言いきかせながら応援に入った。フルPPEでガウンテクニックなどを何度も確認していたが、自らの拠点に復帰するにあたり、心配なら経費でPCR検査をしてよいことにした。

情報の収集・把握・共有

  • 陽性(疑い)者対応・感染拡大防止に関する情報:
    • 8日目に保健所の紹介で外部専門家が来て、ガウンテクニックなど感染対応方法を講義、録画して後続の応援メンバーにも共有し、正しい知識を共通理解として持つことができた。
    • 外部専門家から「入居者を守るためにも職員の負担を軽くすることが一番大切」と指導があった。

情報の周知・発信

  • 利用者、職員、関係機関等への報告・周知:応援メンバーでLINEグループを作り、状況を共有。
  • 外部への情報発信:行わなかった

利用者・入居者への支援と対応

  • 陽性者への対応
    • 最初の数日で7人の陽性者の重症化が進み、ぐったりして動けない、食べられない、脱水の症状があった。しかし応援が入る前は准看護師1人を中心に対応しており、10日目から各入居者の主治医が往診に来て指示が出るが、看護師が足りず指示通りに点滴ができなかった。陽性者の状態の記録も十分に残せる状況ではなかった。
    • 8日目に、外部専門家の指導により、個室ごとではなく全体をレッドゾーンへと変更した(フロア・リビングのすべてをレッド、事務所・通所をグリーン、間の脱衣所をイエロー)。これによりガウンを入居者ごとに変える必要がなくなり、職員の負担が軽減した。
    • 施設長以外はすべてレッドゾーンに入っており、そのなかで陽性者に対応する職員、非感染者に対応する職員を日ごとになるべく分けて、職員が使用するデスク、文房具なども分けていた。
    • 11日目から、応援の看護師2人が加わり、点滴とポータブル酸素が使えるようになった。
    • 13日目、保健所からの連絡で、陽性者の状態が悪化しても入院はできない、どのような状態でも施設内で看続けるということが確定し、往診に来ていた医師と共に、点滴と酸素をやれる範囲でやるという方針にシフトした。
    • 陽性者は味覚障害も出て食事が食べられず、往診の主治医から「この250mlを3パック摂れていたら大丈夫」と飲料での補給について指示と説明があった。これにより職員は、「食べられないときは飲めばよい、飲めれば点滴を止められる」という目標を持って取り組めた。
    • 17日目にレッドゾーンが解除されたあと、コロナ陽性者ではなく、肺炎症状ありの患者として一般病棟への入院を交渉し、重症だった2人の入居者が入院し、他の陽性者は軽快していった。
  • 非感染者を含む入居者全体への対応
    • 日勤の職員が1人か2人という状況で、水分補給と食事を優先し、次に排泄、清潔保持に努めた。食事を用意し1人ずつ盛り付けて部屋に運ぶことで精一杯だった。
    • 応援メンバーが入ったあと、清拭や陰部洗浄ができるようになった。その間、役割分担や指揮命令ができておらず、その場で声を掛け合ってできることをやるという状況で、戦場のようだった。普段行っているケアはできていなかったので、入居者の中には見当識の低下など、認知症に伴う症状の進行がみられる方がいた。
    • 陰性だった入居者も含めて、全員が個室から出られず入浴もできない状況だったが、数人を除いて大変協力的で、「大変だね、しょうがないよね」という声かけがあり職員が救われた。

職員の状況とフォロー

  • 職員への周知と反応
    • 2日目に、陽性者が出たことを職員に周知、4日目に全19人の職員のうち、厨房の夜勤担当者1人を除く18人が濃厚接触者と認定された。
    • 陰性だった職員が出勤するかどうかは、職員自身が決定することとした。自分自身の健康を守る、自分の家族を守るために休みを選択することも尊重する方針で、高齢、子供が小さい、健康不安などで出勤を自粛した職員がいた。その結果、出勤可能な職員は4人だった。
  • 期間中の入居者対応にあたる職員の様子
    • 最初の数日は人手が足りずケアが滞り、点滴と酸素の投与が十分にできず、状態が悪くなる入居者がいて、職員は精神的に追い詰められる状態だった。その間、応援が来てくれるまで頑張ったら助けが来るということ、主治医も来てくれるということで、孤立無援ではないからなんとか自分たちが熱を出さずに頑張ろうという気持ちで乗り切った。応援が来て状況が落ち着く12日目頃まで1日も休めていない職員が2人いた。応援が来たことで最初から対応している人たちが休みを取れた。
    • 現地の管理者、正職員が陽性だったことで、応援メンバーが入居者のことや備品の場所、記録のルールが分からず困った。1人目の発症から陽性者の状態の記録がほとんど残されていなかったこともあり、いろいろと難しかったが、できることからやっていった。
  • 再開に向けた職員のフォロー
    • レッドゾーンが解除されたあと、18日目と21日目に職員ミーティングを行い、休んでいた職員はどちらかに参加、施設に入って入居者と会うことができた。
      職員の中には、陽性者に対応する中で自身も陽性になり、復帰が難しいと思われた人もいたが、入居者の「待ってた」の言葉をきっかけに復帰することができた。

医療機関、保健所・行政との連携・調整

  • 4日目に保健所が介入、濃厚接触者の認定を行った。
  • 5日目に保健所の指示により感染症対策本部を設置して保健所担当者・施設長ら3人で話し合いを行ったが、施設内の感染対応に関する指導はなかった。
  • 1人目の陽性者となった入居者Aはもともと入院の予定で、入院後に陽性が判明したためにそのまま入院できた。
  • 2人目以降は、保健所から「入院は調整中」という回答が続き、13日目に「全員入院は不可」との保健所判断があり、施設内にとどまることが決まった。特に陽性者に認知症があると、感染対応できる病棟で認知症のケアをすることが難しいので病院の調整がつきにくいようだった。
  • 入院できるか分からない状態が続く中で、保健所が陽性者それぞれの主治医の診察を受けるよう助言、10日目に往診を開始、主治医の一人が施設内の陽性者全員を診て収束まで伴走した。
  • 保健所は最初の2、3日は来なかったが、4日目以降は毎日のように来て、陽性者7人の健康管理をやってくれた。

関係事業所・委託先等との連携・調整

  • 厨房、清掃などは委託せず自社で行っている。
  • 陽性者発生を敬遠され、3週間にわたりゴミ回収が休止となり、ゴミ置場の無償レンタルを受けた。締め切って72時間経過したら感染力がなくなるので搬出可能ということだったが、ゴミを回収する余裕もなく、どこのゴミを何日に入れて、何日経過したかという管理が当初はできず、2週目の頃に一番大きなゴミ置場を締め切って持って行ってもらった。
  • ガウン、使い捨て食器、オムツ(人手不足で排泄介助が十分できずこの時だけオムツ対応となった入居者もいた)、(点滴の量が多かったので)医療廃棄ゴミなど、いつもは出ないゴミが大量に出た。

感染防御資材等の調達

  • ガウン、キャップ、フェイスシールド、マスクなどの備品は保健所から届けられていて不足に困ることはなかった。 事業支出・収入等への影響

事業支出・収入等への影響

  • 支出
    • 遠方からの交通費・宿泊費など法人内の応援派遣にかかわる経費がかさんだが、かかり増し経費の補助対象外であった。
  • 収入
    • 通所、訪問ともに休業分の収入減となった。しかし、いずれも収束後すぐに利用が戻り、利用者減はない。

風評被害と対応

  • 被害の有無や状況
    • 地域でいくつか陽性者が出たところがすでにあったので、特になにかをいわれるということはなかった。

対応の振り返り

  • サ高住は看護師の常駐は求められておらず、併設の通所の准看護師が1人いたが、医師との連携を含めて施設内で陽性者をみるのは難しい。
  • 期間中はゴミの回収や掃除がまったくできなかったので、状況が落ち着くにつれ、介護職でない事務員などが手伝いに出勤し、片付けに当たった。看護職、介護職でなくてもやれる業務がたくさんあるので来てもらえるのはありがたい。
  • 応援メンバーは、困難を共に乗り切った仲間として結束が高まった。
  • 応援メンバーの1人は、当初の予定を2日延長してレッドゾーン解除まで応援を続けた。「これから仕事を続けていく上で、自信と支えになるできごとだった、自分の職場に戻ってからも自分の毎朝の検温は欠かさなくなって、変わった自分に驚いている。変化した今の自分を大事にしながら、若い人に少しでも伝達していけたらと思う。クラスター対応の経験は自分にとって宝物だ。」と振り返る。

陽性者対応の経験からの学び・教訓

  • 発生当初は人手がなくケアの記録を残すことができず、発生から数日間の入居者に関する情報が全く無い状態で、応援メンバーが困った。人手不足と混乱した状況下でも、可能な限り、入居者の状態と行ったケアを記録することが大切。
  • ガウンテクニックを完璧に実践すれば感染しないことが知られていない。ガウンを正しく使用していれば感染の可能性はない、衣類の洗濯は普通の洗剤で他の洗濯物と一緒に洗ってもいいなど、正しい知識を得ることが大切。
  • 陽性者が発生した場合の対応を講じることは重要だが、陽性者を出さないことが一番いい。出さないために、標準予防策が大切だと思うだけではなく実践することが重要。
  • 陽性者を出した事業所を責めない、どこで起こってもおかしくないと認識してできる限り精一杯対応することが大切。
  • 細かい批判や不満に目を向けず、やれていることに注目してストレスを回避しながら対応に当たることが大切。それぞれが得意なところをやってみんなでやりきったという感覚でチームワークが発揮しやすくなる。
  • 今回の出来事を一緒に経験した職員は、陽性疑い、陽性者が発生したときに必要な対応が分かり、発覚から最初の3時間でここまでやるなど、具体的に示せるようになったこと、自分たちは対応できるという自信を得たこと、知識と自信を得た職員が法人内にいてそれぞれの拠点で業務に当たっていることが心強い。

感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと

  • 食堂では窓際にテーブルを置いて向かい合わないように食べるようにし、共有スペースにアクリル板を設置した。
  • 月に1回の管理者会議・施設長会議で感染対策の新しい情報を共有。
  • 応援メンバー14人がそれぞれの拠点で伝達講習を行うなど、法人全体での情報共有と、法人外の人に経験を伝えることをやっていきたい。
インタビュー担当:鎮目彩子
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久

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