松戸陽だまり館(特別養護老人ホーム等)

要約

特養職員の発症から職員3人・入居者2人の陽性者が出て、約1ヶ月にわたり併設の通所及び配食サービスを休止したものの、陽性者以外の職員の業務離脱はなく、入居者へのケア内容の大きな変更は不要だった。

2020年春に別拠点の職員が濃厚接触者となった経験から、法人として行動指針や陽性者発生時の対応リスト、情報共有のガイドラインを定めるなど十分な感染対策・有事の備えがなされており、保健所が濃厚接触者の職員も勤務継続してよいとみなした。

陽性となった職員が担当していた2ユニットをレッドゾーンとして感染拡大防止に努め、行政に働きかけて職員・入居者全員のPCR検査を公費で実施できたことも安心に寄与した。

感染対応の経験を経て、職員/入居者等の体調不良の情報を早くつかむ工夫、嘱託医との陽性者発生時の対応に関する確認の徹底等がはかられている。

医師からみたポイント

よかった点
  • 新型コロナ関連の情報にアンテナを高く張り、事前にシミュレーションし、対策を考えていた
    法人内で濃厚接触者となった経験に基づく対策が発熱者への非常に迅速な対応につながり、濃厚接触者を最小限に抑えることができました。
  • 勤務体制をユニットごとに分けていた
    ユニットケアを行っている施設では、ユニットごとの勤務シフトを組むことで、濃厚接触者と認定される人の拡大を防ぐことができます。
  • 市役所への働きかけにより「安全」と「安心」を両立する検査体制ができた
    濃厚接触者と認定されなくても感染の不安を持ちながら仕事を続ける職員が多いなか、自治体の費用負担により全職員・入居者のPCR検査ができるようになりました。
反省点
  • クラスター発生に備え、嘱託医等と事前に相談をしておく
    陽性者発生時の対応について嘱託医等と話し合っておくとともに、念のため近隣で検査等に迅速に対応してくれる医療機関を事前に確認し、必要な際にはどのような手順で検査をしてもらうかを決めておくと良いでしょう。
  • 保健所や県の感染対策チームの初動は期待するよりも遅いことが多い
    クラスター発生当初10日ほどは専門家からの感染対策指導が得られないことも多いです。感染防護具の着脱やゾーニングのイメージもシミュレーションしておくと良いでしょう。
  • お看取りのガイドラインに目を通しておく
    新型コロナ陽性でのお看取りの際も、直接会ってお別れできないわけではありません。事前に、下記のガイドラインに目を通しておきましょう。
    「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン」(厚生労働省・経済産業省)の第1版
    https://www.mhlw.go.jp/content/000653447.pdf
インタビュー実施日:2021年1月18日 インタビューご回答者:社会福祉法人 愛の会
法人本部長 兼 統括施設長 木村哲之さん

法人概要

法人の経営主体 社会福祉法人愛の会
法人全体の事業所数 34
実施事業 軽費老人ホーム・特別養護老人ホーム・老人デイサービス・認知症対応型共同生活介護・老人介護支援センター・保育所・老人短期入所・介護老人保健施設・一時預かり・居宅介護支援・移送サービス・訪問看護・訪問介護・訪問リハビリテーション等
ウェブサイト http://www.heart-pia.com/m/meguminokai/index.html

拠点概要

所在地 千葉県松戸市
開設年 2012年
ウェブサイト http://www.heart-pia.com/meguminokai/facility/hidamari_matsudo.html
フロア 利用者数(定員) 職員数
特別養護老人ホーム 1、2、3階 70人(10人×7ユニット) 81人
短期入所生活介護 1階 9人(10人×1ユニット) 7人
通所介護 1階 27人(30人/日) 14人
居宅介護支援 1階 67人 2人

新型コロナ陽性者等発生と対応の概要

陽性者数(うち死亡者数) 5人(職員3人、入居者2人)(死亡者数:入居者1人)
濃厚接触者数 36人(職員16人、入居者20人)
検査実施 特養と短期入所の全入居者、全職員にPCR検査を公費で実施
感染源・感染経路 不明
事業所が発生・収束とみなす日 6月25日〜7月22日
発生から収束までの休業や利用制限 短期入所は新規受入れを7月21日まで休止、通所は6月30日~7月26日まで休止、配食は6月29日~7月21日まで休止、居宅介護支援は訪問は中止し電話とメールで事業を継続
事業所外からの応援(法人内外) 法人本部からの後方支援
(出所)木村さんご提供資料

陽性者発生以前の状況・感染対策等

  • 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
    • 2020年3月に、茨城県内の老健で陽性者が出た際、同居家族が当該老健に勤めている職員がいて濃厚接触者になった。「もし職員が陽性だったら」とひやっとして不安を感じていた。
  • 感染対策の特徴:
    • 2020年春頃はマスクが購入できなかったり、緊急事態宣言で特に子供がいる職員は休校で働けなかったり、コロナという得体の知れないものに対する不安が大きかった。そこで子連れ出勤できるようにしたり、マスクを法人で確保して職員に配ったり、下記の行動指針を出すことによって、法人に対する信頼と安心が生まれた。
    • 2020年4月1日付で、コロナ禍における職員の行動指針を出し、感染対策の重要性と具体的方法を周知、コロナに関連する状況が変化するたびに更新した。茨城県の指針である「コロナNext(https://www.pref.ibaraki.jp/1saigai/2019-ncov/handanshihyo.html)」に合わせて、施設職員として、勤務中、通勤中、勤務時間外の過ごし方や同居家族の健康観察など細かく記載した。行動指針の中には、職員が感染した場合に勤務先の法人施設名を明かし、情報を隠さず公表するように書かれている。
    • 感染症リスクに対応したBCPは策定済であり、3月に職員が濃厚接触者となったときに、関係事業所、行政などの必要な連絡、職員や利用者が自宅待機になった場合の対処を検討した経験から、陽性者が出た場合の対応はリスト化されていた。

新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯

病日 日程 項目 備考
1 6月
25日
  • 特養Aユニットに勤務する職員Aが37°C台の微熱を確認し、早退。病院受診
  • 風邪薬を処方され、数日様子をみるように指示を受ける
4 6月
28日
  • 職員A、症状が軽減しなかったので再受診、翌日PCR検査となる
  • 職員Aから施設長へ報告
  • 日曜だったため、施設長は明朝本部へ報告することにした
5 6月
29日
  • 特養Aユニットに勤務する職員AがPCR検査を受けたと施設長から法人本部に連絡、その20分後に陽性確認
  • 職員Aの直近の勤務状況を確認し、接触した職員と入居者を洗い出す
  • 職員Aが勤務していたユニット及び協力ユニットの入居者及び職員等の健康観察を開始
  • 館内の全職員に周知
  • 保健所に連絡し、保健所の指導により短期入所、通所と配食サービスの休止を決める
  • ゾーニングの実施
  • 当該ユニットの入居者へ直接伝え、家族、通所の利用者と家族へは電話連絡
  • 行政、(ケアマネ、利用者の併用サービスの他事業所、業界団体などへ電話、メール、FAXで連絡
  • 1例目の職員Aと6/23に入浴介助を行っていた隣のBユニットの職員Bが微熱、早退
6 6月
30日
  • 職員BのPCR検査実施
  • 職員Aが入院。職員Aの濃厚接触者となった入居者12人と職員4人について昼前にPCR検査を実施。
  • 夕方16人全員が「陰性」との結果が出る
  • ホームページで情報公開開始
7 7月
1日
  • 職員Bの陽性判明
  • 職員A・職員Bの濃厚接触者として入居者8人、職員12人のPCR検査を昼前に実施。
  • 夕方、入居者Aの「陽性」を確認
  • 入居者Aの陽性が確認された後、深夜まで入院を求めるも、受入れが叶わず、その晩は居室にて療養。自立歩行ができ、認知症状もあるため、夜勤職員を1人増員して対応する。
8 7月
2日
  • 入居者Aが入院
12 7月
6日
  • 入居者Bが体調不良、PCR検査、陽性、そのまま入院
15 7月
9日
  • Bユニットに応援に入った職員Cが体調不良で欠勤
16 7月
10日
  • 職員CのPCR検査実施、陽性確認
17 7月
11日
  • 職員Cが入院
  • 特養・短期入所・通所の全職員のPCR検査を実施
18 7月
12日
  • 前日の職員のPCR検査結果が全員陰性と確認
  • 千葉県感染対策班の現地指導
28 7月
22日
  • 濃厚接触者の健康観察期間が終了収束
  • ゾーニング解除
  • 配食サービス再開
33 7月
27日
  • 通所再開、収束後の最初の月
    曜を再開の日とした
42 8月
5日
  • 入院先で入居者Aが逝去

対応の体制

  • 当該施設の施設長、管理者が現地での指揮を取り、法人本部では法人本部長を中心に後方支援に当たった。

情報の収集・把握・共有

  • 毎朝、施設長、副施設長、各ユニットリーダーが集まってミーティングを行って、前日の状況を報告、当日にやることを確認した。法人本部にいた本部長もオンラインでできる限り参加していた。
  • 外部向けに発信していたホームページでの報告書が、職員の事実確認にも役立った。
  • 感染対応に関する情報は、保健所と、千葉県感染対策班の介入により、ガウンテクニックなどを含め、現場で具体的な指示を受けた。

情報の周知・発信

  • 初動の段階で、法人内外の誰にどの情報をどのように伝えるかが重要で、情報共有ガイドラインを作り、迅速・正確な連絡に努めた。
  • 感染が確認された翌日6月30日から報告書をホームページで公開した。
  • ホームページですぐに情報公開することは発生前から決めていた。

利用者・入居者への支援と対応

  • 発生時の連絡と反応
    • 特養入居者のうち、比較的認知機能が維持されている方には個別に丁寧に説明をした。感染が疑われるユニット内では入居者にマスクを着用してもらい、個室から出ないなどの行動制限をした。認知症のある方など、過度に不安を煽ってはいけない入居者には、配慮しながら可能な範囲で状況を伝えた。
    • 1人目の陽性が判明した日から、管理者を中心に、特養入居者の家族、通所の利用者と家族へ電話連絡。
    • 通所利用者は、休業に伴い、ケアマネと連携により他事業所のサービスを利用したり自宅で過ごしたりしたのち、サービス再開後は利用が戻っている。
    • 利用者の多くは状況を温かく見守り、心配してくれ、「早く収束できるといいですね」という声をもらった。
  • 期間中の特養の様子
    • 保健所が感染対策の状況を鑑みた結果、陽性者以外の職員は濃厚接触者になった者も含め現場を離脱しなかったので、該当のユニットで必要に応じて入浴の回数が少なくなるなどの調整はあったが、ケアの内容に大きく変更はなかった。
    • 該当のユニット以外は、概ね普段通りに過ごしていた。
  • 逝去された入居者について
    • 3例目の入居者が42日目に逝去したが、面会制限の期間も含めると2ヶ月間、家族は本人と会えないままの葬儀となり、病院から火葬場へは、テープで目張りされた棺に入った状態で運ばれ、顔を見ることも叶わず火葬となった。
    • 陽性者の葬儀については「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン」(厚生労働省・経済産業省)の第1 版が、令和2年7月29日に発出されていたことをあとから知った。特別な防護対策は不要、病室でひと時のお別れの時間を設けることも考えられる、お顔の部分が透明な非透過性納体袋の使用を推奨、24時間以内に火葬できるが必須ではない、という内容であり、ガイドラインを先に知っていればご家族にお別れの時間を作れたと、申し訳ない思いが職員に残った。

職員の状況とフォロー

  • 発生時に反応
    • 施設内に陽性者が出たという知らせを聞いて、職員は冷静に受け止めていた。
    • 個室ユニット型の特養のため、ユニットをまたいだ勤務はなく、該当ユニットの担当以外の職員にはあまり動揺は見られなかった。
  • 期間中の特養の状況
    • 発生前の接触状況を鑑み、「濃厚接触者に該当して陰性だった職員は勤務を継続してよい」と保健所から指導があり、陽性となった職員以外は勤務を継続することができた。
    • 17日目に、特養、短期入所、通所の全職員のPCR検査を実施し陰性と判明したことで不安を軽減することができた。
    • 職員へは施設長や管理者からまめに声がけしながら業務にあたった。
  • 収束後の対応
    • 調理員やクリーニングのスタッフも含めて松戸陽だまり館の全職員に一律20万円の慰労金を配布できたことは心理的にプラスに働いた。
    • 一人目の発症者となった職員Aは退職に至った。

医療機関、保健所・行政との連携・調整

  • 保健所:保健所指導のもと、1例目の陽性判明後、PCR検査を実施したが、゙「行政検査」は、濃厚接触者及び接触者の範囲にとどまり、施設職員全員への検査を要望するも断られた。県(保健所)は、「(検査範囲は)安心で線を引いているのではなく、安全で線を引いている」「これまで経験から、その判断の正確さには自負がある」とのことだった。
  • 結果として保健所が指定した検査範囲からしか陽性者はでなかった。しかし、現場では、「検査の対象とならない=感染していない」という認識にはならず、常に不安を抱え、強いストレスに苛まれた。常に最大限の感染防御策を講じることとなり、資材の消費も激しかった。
  • 職員の家族の中には、「同居家族に疑いがある」ことで勤務できなくなった方が出る、 家族への感染を心配し、車中泊や、民間宿泊施設等を利用するなど、自宅に帰れない職員も出るなど問題が生じた。
  • 市役所:松戸市が、それまでの規定を改正し、福祉施設で1人でも感染が出た場合には松戸市の負担で全職員、全利用者がPCR検査を受けられるようにしてくれ、17日目に実施。
  • 嘱託医:近隣クリニックの嘱託医に健康観察・指導してもらっていたが、嘱託医の勤務先から嘱託医自身が自宅待機を命じられ、往診に来てもらえなくなった。
  • 鼻腔からのPCR検査は、医師しかできないことから、嘱託医が行うようにとの保健所の指導があり、検査を行う医師を、都度施設で近隣のクリニックに当たって探し手配することとなった。

関係事業所・委託先等との連携・調整

  • ケアマネ、利用者の併用サービスの事業所は協力的に対応してくれた

感染防御資材等の調達

  • 施設で備蓄していた衛生用品に加え、7日目に法人内の在庫を茨城から松戸に輸送、その後は、県内・市内の業界団体等や行政からの支援によって、ガウンやフェイスシールドなど防護服関係を含めた衛生用品については、枯渇しなかった。

事業支出・収入等への影響

  • 支出:
    • 感染防御資材は備蓄と業界団体・行政からの支援で賄われ、支出はそれほどなかった。
    • 通所の飛沫飛散防止パネルなど購入したが、かかり増し経費の助成によって現場の負担はなかった。
    • 民間の宿泊施設の利用もかかり増し経費で請求できた。
  • 収入:
    • 通所と配食サービスの休業による収入減はあるが、再開後、利用者は減ることなく収入は戻っている。

風評被害と対応

  • 特になし

対応の振り返り

  • 1ユニット10人定員で、関わる入居者・職員も限定され、その範囲の中で接触が完結することが、感染が大きく広がらなかった理由の1つではないか。
  • 感染防御資材の充実が、現場で対応する職員の精神的・肉体的な負担を著しく軽減させ、安心感を持って勤務を継続できた。

陽性者対応の経験からの学び・教訓

  • 職員・利用者/入居者等の体調不良の情報を早く掴み、他の職員や入居者等と接触しないようにすることが大切である。無症状は察知しようがないが、せめて症状が出ている場合には早急にPCR検査をして特定するのがよい。
  • 全職員、全利用者の検査は入居者・職員の安心には有効だが、今回は保健所が指定した範囲からしか陽性者は出なかった。全て検査しないと危険だとやみくもに捉えるのではなく、安全のための検査範囲として線引きをもつことも重要で、安心と安全の両方を考える必要がある。
  • 入居者、職員、外部へ早く正しい情報開示を行うことで、不安や混乱を収め、適切な対応を早く進めることができる。
    • 誰に、どの段階で、どの情報をどうやって伝えるかが重要で、事前に指針を決めるのがよい(上述の情報共有ガイドライン参照)。
    • 感染者の情報を扱うときは個人情報の保護は最も優先されるべき、結果として感染者が誹謗・中傷、風評やあらぬ差別を受けないように配慮する。
  • コロナ対策の状況は変化が大きく、それに合わせて意識と対応を変えていく必要がある。
    • 軽症者を介護施設でみる、退院基準を満たした方を介護施設でみる、ということはすでに始まっており、「前は入院させてもらえたのに」とは言っていられない、気持ちを追いつかせていく。
    • トップダウンで通達するだけでなく、職員に丁寧に説明し、現場の声を聞き、時間をかけて理解を促すことが重要。
  • コロナ対策は、医療と介護の連携の重要なターニングポイントになる。コロナ禍を手探りで乗り越えた先には地域共生社会がうまれ、ケア領域にとどまらず、まちづくり、他産業も含めた連携も出てくる。施設が地域を支えるリーダーになっていくべきだと思う。

感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと

  • 施設長・事務長でLINEグループが作られ、日々体調不良、感染疑い、検査実施、検査結果の情報を共有している
  • 嘱託医と、陽性者発生時の対応について事前に確認。(医師の配置の無いケアハウス・グループホーム等は、検査や健康観察は誰が行うのか、事前に保健所等に確認しておく必要がある)
インタビュー担当:鎮目彩子
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:長嶺由衣子

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