ゆうあいの里(小規模多機能型居宅介護)

要約

北海道十勝地方の人口約7,000人の本別町で、小規模多機能の利用者が第1号感染者となった。通いの利用中に発症、即座に検査・陽性判明して職員・管理者会議を行い、保健所の指導に先だってゾーニングやPPE使用見直し等を開始、同日中に出勤中の職員の陰性確認を完了した。

速やかな対応により、発症4日目にはすべての職員と利用者の陰性確認が行われ、泊まりの利用者及び濃厚接触となった利用者への訪問の支援を継続、通いの休止も5日間に留めることができた。

職員・管理者間の連絡・情報共有や意思決定に加え、利用者支援においてもオンラインが効果的に活用されたことも特徴である。

医師からみたポイント

よかった点
  • 初期対応が速やかだった
    地元医療機関の協力で、職員のゾーニングやPPE着脱訓練が事前に行われており、発症→診断→対応が速やかでした。
  • 全職員のPCR陰性確認が安心感と行動につながった
  • 濃厚接触判定のスタッフが自宅からオンラインで個室隔離の利用者のケアに関与した
その他アドバイス
  • 情報公開のあり方を事前に検討しておく
    利用者家族への伝達が遅れた(2日目)ことにより、事前に別ルートで発生情報を得ていた家族の不満が高まった可能性があり、情報公開のあり方を事前に検討しておけるとよいです。
インタビュー実施日:2021年1月29日・2月16日・2月23日 インタビューご回答者:社会福祉法人 本別町社会福祉協議会 勇足小規模多機能型居宅介護事業所
ゆうあいの里管理者 佐藤貴浩さん

社会福祉法人 本別町社会福祉協議会
事務局長 木南孝幸さん

法人概要

法人の経営主体 社会福祉法人 本別町社会福祉協議会
法人全体の職員数100人
法人全体の事業所数5
実施事業 あんしんサポートセンター、地域福祉事業、ボランティアセンター、高齢者向け賃貸住宅、介護等サービス(訪問介護、通所介護、小規模多機能型居宅介護)
ウェブサイトhttps://www.shakyo.or.jp/hp/166/

拠点概要

所在地 北海道中川郡本別町 
実施事業小規模多機能型居宅介護
併設高齢者向け賃貸住宅「ふれあいのいえ」(入居者7人)
職員数17人
利用者数(定員)26人(29人)
開設年2007年
ウェブサイトhttps://www.town.honbetsu.hokkaido.jp/web/welfare/details/post_36.html

新型コロナ陽性者等発生と対応の概要

陽性者数(うち死亡者数) 1人(利用者)(死亡者数:0)
濃厚接触者数 8人(利用者3人・職員5人)
検査実施1人目は地元医療機関(以下、国保病院)が発生直前に導入した遺伝子検査、のち第1病日~第3病日にかけて全利用者・職員にPCR検査実施
感染源・感染経路 不明
事業所が発生・収束とみなす日1/20(発症日)~2/3(保健所による健康観察期間終了)
発生から収束までの休業や利用制限通いは1/21~1/25まで休止、泊まり3人と訪問のうち濃厚接触者となった利用者1人は支援継続、これ以外は家族対応に。2/4より全サービス再開。
事業所外からの応援(法人内外)法人内他事業所から介護職1人

陽性者発生以前の状況・感染対策等

  • 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
    • 新型コロナは町内未経験、近隣市町村では発生あり
    • 当該事業所は前年度0−157、前々年度ノロウイルス集団発生を通じて、保健所との電話や必要資料のやりとりの経験はあった
  • 感染対策の特徴:
    • 社協主催・国保病院指導のPPE着脱、ゾーニングを含めた感染対策研修をほぼ全員受講
    • 病院医師による現場視察と相談会の実施
    • 自施設スタッフでゾーニングを事前にシミュレーションしていた
    • オンライン会議システムを直前に導入
    • コロナ発生時PPEパッケージ(感染緊急対策パッケージ)を各事業所に用意
  • BCP策定状況:
    • コロナ関連フローチャートを作成していた。
    • 今回の発生を受けて今後、BCPを策定予定

新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯

病日 日程 項目 備考
1 2021年
1月
20日
  • 利用者Aが通いの利用中(朝発熱なし)、15:30から体調不良及び発熱あり
  • 国保病院の地域連携室に連絡して利用者Aが家族と受診、遺伝子検査実施(※)。のち自宅に帰宅。
  • 病院から管理者に利用者A陽性の電話連絡。
  • 管理者がスタッフミーティング開催。消毒・ゾーニング(小規模と併設住宅の切り離し含む)・PPE着脱の確認を実施。
  • その後管理者が本部(社協次長・局長)に報告し、本部が行政・振興局・保健所へ連絡。
  • 保健所から電話があり、管理者が現場状況を報告。
  • 当日出勤の職員8人が国保病院でPCR実施、陰性確認。
  • 職員会議を行い、以降の方針を決定し他事業所職員へも通達。
※遺伝子検査は従来救急受診と入院前検査用としていたが、院長判断で外部者に実施。今後同様ケースが生じた場合に対応するかどうかは未定。
2 1月
21日
  • 利用者Aは自宅から病院に入院。
  • 朝、他の利用者家族へ連絡(陽性者発生を知っていた家族から苦情あり)。
  • HPにて情報公開、マスメディアでも取り上げられる。
  • 泊まり3人支援継続・通いの休止・訪問は濃厚接触者1人にのみ継続し、その他は家族に依頼。
  • 保健所が現場入りし、濃厚接触者である利用者3人と残りの職員全員のPCR検査を実施。
3 1月
22日
  • 行政が情報公開
  • 残りの利用者の検査実施
  • 全職員の陰性判明
4 1月
23日
  • 利用者Aを除くすべての利用者の陰性判明
  • 他事業所から応援介護職員1人参加
6 1月
25日
  • フルPPEで入浴再開
7 1月
26日
  • 入浴だけから通い再開(泊まり利用者とは非接触になるようにした)
10 1月
29日
  • 法人内他事業所の管理者による現場視察
装備はマスクのみ。内部視察も実施
11 1月
31日
  • 退院後の利用者A受入開始
13 2月
1日
  • 濃厚接触者も食事以外は隔離解除
15 2月
3日
  • 保健所による健康観察期間終了
16 2月
4日
  • 休止していたサービスの再開

対応の体制

  • リーダー:全体→社協局長、社協会長(元副町長)、現場→事業所管理者

情報の収集・把握・共有

  • 陽性(疑い)者対応・感染拡大防止に関する情報:
    • 通いの利用中に午後から体調不良及び発熱あり、国保病院受診で遺伝子検査陽性反応あり。利用者家族等に電話で情報収集。
  • 意思決定・共有・指示のための情報:
    • 陽性判明直後に現場では職員会議開催。社協局長・次長により行政・保健所等の関係各所連絡、オンライン会議システムで管理者会議開催。
    • 社協本部とはオンライン会議(ZOOM)、事業所職員内はラインワークスを利用。
    • 社協本部とはZOOMを常時接続チャンネルとし、作業中の会話も可能であった。

情報の周知・発信

  • 利用者、職員、関係機関等への報告・周知:
    1. 管理者が職員、家族へ連絡
      • 1日目17時頃(発生判明直後)、本部に報告するより前にまず管理者が出勤職員を集めて状況説明。
      • 本部(社協)次長に報告、現場職員会議を開催し、守秘義務(家族にも言わない)の説明、消毒・ゾーニングについて話し合った。
      • 終了後に本部(社協)とその後の対応を協議し、 ①全館(事業所、併設のコミュニティスペース、併設の賃貸住宅)の換気、消毒、②ゾーニング、PPE着用、③物資の確認と設置を行った。
      • 2日目朝、利用者家族に電話で発生報告と通い中止を報告した。既に発生情報を得ていた家族(これに関して社協は問題視している)から苦言を呈されることもあった。
    2. 社協局長がその他の関係機関へ連絡
      • 社協局長が行政、地方振興局、保健所に連絡
      • 1日目20時に本部主催で管理者会議。現場管理者が非番職員に連絡、自宅待機及びPCR陰性確認後出勤の方針、守秘義務について説明。
  • 外部への情報発信:
    • 2日目ホームページで情報公開、マスコミ報道あり。3日目行政から公表。

利用者・入居者への支援と対応

  • 検査は家族もしくは職員が個別に車で病院まで送迎(PPE着用、都度車内消毒)してドライブスルーで実施。
  • 感染拡大防止の観点から、陽性判明直後に、管理者の指示で小規模多機能と併設の賃貸住宅の動線を遮断した。2日目からはスタッフは小規模多機能と併設住宅で行き来があった。
  • 毎日泊まりの利用者3人(濃厚接触認定なし)と併設賃貸住宅の入居者7人(うち1人は濃厚接触認定)については、濃厚接触者認定の有無にかかわらず、全員個室対応として、各個室前にテーブル・ゴミ箱を配置して、全ての個室内をレッドゾーンとした。職員はケア実施毎のPPE使用や手指消毒を徹底し、とくに食事・口腔ケア、トイレはフルPPEで対応した。
  • 泊まり利用者には体動を感知する新型のベッドセンサー(眠りスキャン)を利用し、ベッド外かベッド上か(動いているか、休んでいるか)を確認しながらケアを実施した。
  • 利用者とのかかわりを最低限にせざるを得なくなり、水分摂取量が一日400~600ml減少。血圧の変動、排せつトラブルなどがみられた。
  • 健康観察期間中は通院ができなかったため、これまで通院して行っていた膀胱洗浄を事業所看護師が担った。
  • 食事は2日目から配食弁当に切り替え。入浴介助はいったん停止して6日目に再開(フルPPE)。リネンは各利用者専用として交換をいったん停止したのち、入浴介助の再開にあわせて再開。
  • 濃厚接触者で自宅待機となった若手職員2人がZOOM(iPadを利用)で利用者の話し相手になった。利用者の笑顔にもつながり、自宅待機中の職員としても支援に参加できてよかった。
  • 通いは2日目(1/21)から6日目(1/25)まで休止。訪問も人手不足のため濃厚接触者の1人のみ連日実施としてその他は家族に対応を依頼。家族負担が増えたこともあり家族からの再開要請も徐々に強くなっていた。
  • 利用者Aは発症日に陽性確認して翌日入院、2回陰性確認後退院して11日目からサービス提供再開。

職員の状況とフォロー

  • LINEワークス、ZOOMを使った連絡体制を整備できていたことがよかった。
  • 17人中5人が濃厚接触者認定となり2週間自宅待機。職員間はLINEグループで連絡、利用者の話し相手にもZOOMを活用するなどオンラインで職員相互及び利用者のサポートに努めた。
  • 管理者の補佐であり現場リーダーであるサブリーダーが2人とも濃厚接触判定となり、現場から離脱せざるを得なかった。他方、従来は感染予防の目標共有などが浸透しなかったが、今回は「陽性者を1人で終わらせる」という目標が一致し、トップダウンで事を進めつつも各職員が自律的に必要なタスクを見出して実行することができた。
  • 職員はPCR陰性が確認(初日8人、3日目9人)されてから、濃厚接触判定がなかった者は順次業務参加。
  • 社協内の別事業所から介護職1人(4日目〜15日目)が応援参加。応援職員は以前ゆうあいの里で勤務経験があり、2日目から応援に入ると言ってくれたが、濃厚接触者の認定と利用者・職員の陰性確認が完了してからということで4日目からとなった。応援職員には濃厚接触者がいない泊まりの利用者の支援に入ってもらった。
  • 今後に活かすという観点から法人内他事業所の管理者が現場視察(10日目)。1ヶ月後に全社協事業所対象の振り返り研修を、国保病院職員を含めて実施。
  • 最初に職員を集めて報告した際には「なんでまた」「私たち検査受ける?」などの反応があった。重症化の心配というよりはうつしている心配が強く、即日病院でのPCR検査は安心につながった。

医療機関、保健所・行政との連携・調整

  • 利用者Aの発熱を受けて国保病院地域連携室連絡→病院受診で遺伝子検査(※)→陽性結果を病院から管理者に電話通達→本部(社協次長・局長)→行政、振興局、保健所に連絡(1日目) ※社協局長から町長・副町長→帯広の保健所長→病院という経路で院長に相談して院長判断により従来は救急受診と入院前検査用としていた遺伝子検査を実施
  • 保健所から事業所に電話があり、現場の状況について管理者が報告(1日目)、2日目に保健所が現場に入り聴き取り。
  • 国保病院とは地域連携室のMSWを通じて電話でこまめに連携、検査対応の迅速さなどにほんとうに助けられた。
  • 行政とは本部が連携をはかった。

関係事業所・委託先等との連携・調整

  • 保健所からゴミは1週間出さないで欲しいと言われ、1/20から車庫に貯めた。
  • リネンは個人用にして入浴が再開したときに通常に戻した。
  • 泊まりの利用者の食事は弁当配食に切り替えた。町内の飲食店で調理して配達(寿司屋)。恵方巻きや寿司などもあり、利用者の喜びにつながった

感染防御資材等の調達

  • 事前に5万円分の感染緊急対策パッケージ(PPE30枚等)を各事業所に配備
  • 短期的なPPE、手袋、消毒剤は法人内備蓄分を事業所に提供
  • 数日~1週間で全体の枯渇傾向が顕著になり、一部で消費抑制の工夫を検討した:非濃厚接触者のケアの際にはPPEを複数回利用する、物を運ぶだけならPPE不使用などにより1日約70枚~100枚→20~30枚
  • 十勝振興局社会福祉課から消毒財とプラスチック手袋の支給があり、PPEについては、社協として一括購入した

事業支出・収入等への影響

  • 支出:
    • 弁当、ガウン1,600枚/フェイスマスク5,000枚/サージカルマスク2,000枚/N95マスク5セット、消毒液やゴミ袋等購入にかかった費用が50-60万円。うち約9割をかかり増し経費で請求できた。
  • 収入:
    • 1月21日から2月3日ぶんの利用にかかる料金を日割りで返金(マイナス約80万円)
  • 長期的な収入:
    • 1人のみ利用控えがあるがその他は変わりなし

風評被害と対応

  • 自治会住民から苦情(感染、連絡遅いなど)があり、局長から自治会長や運営推進会議のステークホルダーにアプローチをした。

対応の振り返り

  • 保健所の指示を待たずにゾーニングを行い、個室管理としたことはよかった。PPE着脱やゾーニングに関する研修受講後、事業所内でも復習の研修をして、知識と技術が身につけられていたことが効果的だった。
  • オンラインで随時職員間や本部等との情報共有や会議を行えたこと、iPadを用いた利用者支援等は他の事業所等にとっても参考になるのではないか。
  • 利用者や家族への新型コロナ陽性者発生についての電話連絡が翌日になったことにより、独自ルートで発症日に情報を知り得た家族の不満が高まった。保健所が各関係者機関との調整役を担っており、また家族に対しての情報の伝え方・受け取り方にばらつきがあり、各関係機関や家族に対して、それぞれの場面で配慮が必要だった。
  • 発症日にすぐに小規模多機能と住宅の動線を遮断して、消毒等の様子が見えないようにしたが、食事時間の遅れ等でなんらか気づいていたかもしれない利用者の不安に、もう少し寄り添えればよかった。
  • 発症日に出勤していた職員には、結局保健所の回答待ちもあって翌日以降の見通しがわからないまま、夜遅くまで消毒等をお願いすることになった。子どもの学校等の不安もあったなか、職員家族にも十分な情報を伝えることができず、関係機関等とのやりとりの状況も含めてきちんと話せる時間がとれればよかった。

陽性者対応の経験からの学び・教訓

  • 日頃の準備が大切
    1. 利用者の家族構成や連絡先等を書類としてまとめておく
    2. PPEや人などのリソースの確保、事前準備
    3. 新型コロナウイルスに関する知識やPPE装着の訓練
      ⇒国保病院指導のPPE着脱研修会、再度、事業所で振り返り研修会を実施
    4. ICTの活用(正確で効率的な情報共有と発信)
  • 利用者・職員の安全確保と健康状態の把握
    1. 安心して働けるよう環境を整え、長時間労働にできる限り配慮するとともに、メンタル面を含めた健康状態の把握と対応が必要
    2. 利用者との関わりが必要最低限に。利用者の状態も変化することに配慮

感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと

  • 感染症発生時に直ちに情報公開することに関する同意書を導入
  • 簡易検査キットを20個購入
  • 社協全体としてBCP策定研修及び計画立案を開始する予定
インタビュー担当:奥知久
記事担当:奥知久・鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久

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