ツクイ札幌山鼻(サ高住、グループホーム、通所介護、居宅介護支援、訪問介護)
要約
グループホームの入居者が発熱に端を発して、15人の陽性が確認されたグループホームの事例。発熱確認の翌日、陽性が確認され、併設のデイサービスの閉鎖、職員の部署間の移動の禁止等の措置をとったが、同日に実施した入居者、利用者全員のPCR検査によって入居者6人、職員3人の陽性が新たに確認され、最終的には15人の陽性が確認された。同法人では以前からPPEの準備、事前の学習会等の準備を行っていたが、感染はシミュレーションをはるかに上回った。しかし日頃から応援職員をリスト化しており今回もグループ内から派遣され、手薄となった事態に対処できた。最初の陽性者の発熱を確認した時点で導線管理などを徹底できれば感染を抑制できたのではという反省があるものの、入居者と職員全員を対象としたPCR検査を早期に実施できたことで人員配置などを迅速に決定でき、認知症入居者の逆搬送などにも対応できた。
医師からみたポイント
よかった点- 事前準備と応援体制
組織的な人員支援体制の準備や事前研修などにより人員確保に繋がりました。 - 速やかなPCR検査
発生時に速やかにPCR検査によるスクリーニングを実施したことで拡大を防ぐことができました。 - 職員の意識付け
今回の経験を各職員の行動や組織運営においての教訓にしようとしています。
- 平時の個人・組織の予防対策(手指衛生・体調チェック・休憩時の工夫など)をより高めることで初期発生時の人数を少なくできる可能性があります。
法人概要
法人の経営主体 | ツクイホールディングス |
法人全体の職員数 | 21,600人 |
法人全体の事業所数 | 700 |
実施事業 | 訪問介護、訪問入浴サービス、訪問看護、居宅介護支援、短期入所、小規模多機能型居宅介護看護、小規模多機能型居宅介護、介護予防・日常生活支援総合事業、障がい者総合支援サービス、保険外自費サービス、介護付有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅 等 |
ウェブサイト | https://www.tsukui.net/">https://www.tsukui.net/">https://www.tsukui.net/ |
拠点概要
所在地 | 北海道札幌市 |
開設年 | 2018年12月 |
ウェブサイト | https://www.tsukui.net/service/sapporoyamahana/ |
フロア | 利用者数(定員) | 職員数 | |
サービス付き高齢者向け住宅 | 3、4、5階 | 34室(34室) | 19人 |
グループホーム | 2階 | 18人(18人) | 19人 |
認知症対応型通所介護 | 1階 | 95人(60人) | 27人 |
居宅介護支援 | 1階 | 67人 | 16人 |
訪問介護 | 1階 | 86人 |
新型コロナ陽性者等発生と対応の概要
陽性者数(うち死亡者数) | 15人(入居者9人、職員6人)(死亡者数:0) |
濃厚接触者数 | 入居者および職員全員(北日本ブロックと本社との間で協議を行い、本社が決定) |
感染源・感染経路 | 不明 |
事業所が発生・収束とみなす日 | 9月23日~10月20日 |
発生から収束までの休業や利用制限 | 通所介護のサービス中止(9月24日~10月11日) |
事業所外からの応援(法人内外) | 法人グループ内から17人派遣される。(有事の応援要員を募り名簿化していた。) |
陽性者発生以前の状況・感染対策等
- 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
- グループ本社のリーダーシップの下、学習会、情報共有、PPE配布等、きめ細かく発生に備えた準備がされていた。
- 感染対策の特徴:
- 職員に対する教育、PPEの用意(3日分想定)、ゾーニングの考え方、保健所・行政への連絡と連携、組織力を活かした対策の在り方等の事前準備がされていた。
- BCP策定状況:
- 日常業務における感染予防、仕様及びマスクの正確な着脱、手指消毒、施設外の職員の行動等について、本社から一貫した指示があり、それに基づいて策定されていた。
- その他:
- 対応マニュアルの整備と更新及び周知
- 応援職員の事前登録
- PPE(個人防護具)の着脱に関して定期レクチャー
- 自費PCR検査機関の確保
- 応援要員、職員の自宅内感染予防のための宿泊先の確保(東横インと契約)
- 保健所の公表基準の確認
- 利用者の日々の健康状態確認と記録の徹底
- 複合施設の場合、サービス間・ユニット間の往来は最小限に留める
新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯
病日 | 日程 | 項目 | 備考 |
1(第1病日) | 2020年 9月 23日 |
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2 | 9月 24日 |
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3 | 9月 25日 |
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4 | 9月 26日 |
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6 | 9月 28日 |
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9 | 10月 1日 |
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11 | 10月 3日 |
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13 | 10月 5日 |
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18 | 10月 10日 |
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20 | 10月 12日 |
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28 | 10月 20日 |
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対応の体制
- 法人内の対策本部の設置:
- 対策本部は、執行役員、北海道全体を管轄するマネージャー、エリアを管轄するマネージャーにより編成され、初めて陽性者が判明した9/24に設置、10/10に解散した。
- 本社を絡めた意思決定・指示だしを迅速にできるようにした。
- 札幌市保健所現地対策本部の設置:
- 構成:担当部長・医師・疫学調査係、市介護保険担当が常駐。
- 感染状況の全体像把握:
- 利用者Aの陽性確認から、体温が37.0度を上回った利用者の数を積み上げて人数を把握、グラフを作成してピークの波形を毎朝/夕に確認。
- 情報の一元化:
- 感染者、検査の進捗、入退院情報、隔離期間の健康状態等の情報を集約し随時更新することで、介護現場・現地対策本部・法人本部間での共有を図る。
情報の収集・把握・共有
- 陽性(疑い)者対応・感染拡大防止に関する情報:
- 現場で情報をまとめて、エリア長、ブロック長、本社との情報共有及び本社からの意思決定に従う。
- 意思決定・共有・指示のための情報:
- 全国に事業所を有するツクイでは、本社、ブロック、エリア、事業所の情報共有がシステムかされている。意思決定と指示は、本社経由。
- 保健所によるレッドゾーン立ち入りに関する事前レクチャー
情報の周知・発信
- 利用者、職員、関係機関等への報告・周知:
- GH入居者家族、サ高住入居者、通所および訪問介護の翌日の利用予定者には9/24に通知した。その他、GH入居者、サ高住入居者家族、通所・訪問・居宅の利用者家族、委託業者には9/25に連絡した。
- 外部への情報発信:
- 9月25日職員Aの陽性確認当日、市長の定例会見で公表。ニュース等で「クラスターの発生したツクイ札幌山鼻で…」と繰り返し報道されたので、特に家族へのケアを行った。
利用者・入居者への支援と対応
- 最初の1人の陽性確認から、GH入居者に対して、情報提供を実施し、部屋からの外出を控える、マスクを常時着用する等の協力依頼をしたが、認知症の人が対象なので、理解することが困難であった。
- グループホーム入居者を対象としてPCR検査を実施し、家族にその経緯と結果を伝えた。
職員の状況とフォロー
- 発生直後、グループホーム施設職員のみでシフト調整し、濃厚接触者となった職員の他サービスとの往来を回避した。
- 事前に登録してある応援者リストの中で、まずは札幌市内、道内事業所への応援要請をし、それでも集まらなかった時にはその後全国の事業所への応援要請を行った。結果17人の応援職員が現地に派遣された。応援者・帰宅困難者のための宿泊施設を確保した。
- 応援職員は、現地で対応し始める前に、感染対策に関する2、3時間のレクチャーを受け、PPE着用の場所やルールなどを学んでから現場に入った。
- 入居者の集約(レッドゾーン)と、対応するための夜勤者2人体制の確保を行った。
- 濃厚接触者以外の当該施設勤務者全員にPCR検査を実施した。
- 併設サービスの職員向けに新型コロナウイルス感染症に関する研修 発生経過および労災・休業補償を適用した。
- 感染隔離期間解除後の職員確保については、クラスターを機会に退職する職員がいなかったので、無理なくサービス提供ができた。
医療機関、保健所・行政との連携・調整
- 隣接する提携医療機関への相談、及びPCR検査を依頼した。
- 陽性が確認されてすぐに保健所へ報告し、種々の指示と協力によって、初動を行った。
- 札幌市は以前に大規模クラスターを経験したので、保健所には知見が集積されていて、動きが非常に迅速だった。ゾーニング指導を含めて、保健所の果たした役割が非常に重要であった。保健所、行政、施設がクラスターの発表を同時に行うことで誹謗中傷を避けることができた。
関係事業所・委託先等との連携・調整
- 保健所に感染者の汚染物を回収するとして届け出している廃棄物回収業者であっても、実際には処理の仕方が分からず引き取りを拒否されたが、保健所から業者にレクチャーがあって、解決した。リネンも同様であった。
感染防御資材等の調達
- 当該事例の発生前から、本社の指示及び支援にて、有事の際に即座に対応できるよう、PPEセット×3日分の準備していたが、実際には、レッドゾーンの出入りのたびにガウンテクニックするという想定ではなかったので、すぐに不足が判明した。N95は入手困難であり、当初は保健所から給付された。最終的には本社からすべて支給された。
事業支出・収入等への影響
- 支出
- 職員の応援にかかる費用、PPEにかかる費用等が発生したが、事業所単位の支出ではなく、本社の支出として吸収された。
- 収入
- デイサービスを閉鎖したので、その収入減はあった。
- 資金繰り
- トータルの資金繰りは、本社の収支で吸収された。
風評被害と対応
- 特になく、知事と市長の同事業所への評価から、好意的な反応が多かった。
対応の振り返り
- 第2波が収まった時期だったので、職員に気のゆるみがあったかもしれない。職員の毎日の健康観察をしておけばよかった。
- 最初の発熱者があった際に、もっと迅速に動線管理をしていれば、拡がらずに済んだと反省している。
- 最初の陽性者確認後、保健所の指示もあり、個室で隔離対応したが、認知症の方々の移動制限、感染防止策の徹底は困難であった。ゾーニングの際にバリケードのような境を設けたことが結果として良かったが、介護現場としては反省もある。
- 社内、保健所、行政と情報を共有して、対応を協議した上で公表したことで、憶測や誹謗中傷を予防することができた。
- 認知症の人々などは、医療機関の受け入れができず逆送された例もあったが、介護施設ならではの日常生活支援ができたことが、かえって良かった。
- 入居者と職員全員を対象としたPCR検査を早期に実施できたことで、シフトを作成するうえでも勤務の上でも安心感を得ることができた。
陽性者対応の経験からの学び・教訓
- 利用者と職員の健康観察を毎日実施しておくことが重要。
- コロナウイルスに関する知識をもっと理解しておけば、無用な心配をしなくて済んだのではないかと思う。
- 事前に用意はしていたもののPPEの着脱も、汚染物の処理も困難であった。もっと、頻度をあげて、正確な知識と技術をマスターしておくとよかった。
- 入院よりも、(可能であれば)施設内で、隔離して、日常生活支援を行うことで、利用者のQOLを保つことができると、職員は感じている。
感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと
- イエローゾーンで勤務している際、レッドゾーンから利用者が出てきた場合、これまでのように無防備に近寄ることがなくなった。
- 基本的な感染予防を丁寧に行えばいいということがあらためてわかったので、PPEの着脱、手指消毒等を徹底して行っている。
- レッドゾーンからはメモ1枚であっても持ち出さない。そのことは、具体的に紙の問題ではなく、ゾーンをまたぐ移動の心構えとして、職員が共有している。紙一枚の移動であっても、そこから対策はなし崩しになってしまう。
インタビュー担当:鷹野和美・鎮目彩子・堀田聰子
記事担当:鷹野和美・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久
記事担当:鷹野和美・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久