拠点C(訪問介護)
要約
訪問介護事業所で職員、利用者、利用者家族のうち11人が陽性となった事例。利用者の陽性判明から始まり、職員1人の陽性が判明後、すぐにPCR検査で残りの職員全員の陰性を確認し、訪問を継続できる体制を作った。陽性となった職員が訪問した利用者とその家族にも早急にPCR検査を実施、陽性となった利用者宅へは、訪問する職員を固定しフルPPE着用、介護内容を必要最低限に調整の上で訪問を継続した。平時から職員への理念浸透に力を入れており、今回の対応においても、利用者のそれぞれの状態と暮らしに合わせ、陽性となった利用者にも、その他の利用者にもサービス提供を継続することができた。
医師からみたポイント
よかったこと- 陽性判明後も訪問介護を継続できた
陽性判明後にサービス実施を停止する訪問事業所が多い中、高い理念に基づく責任感を持って陽性者対応を行いました。 - 物品の備蓄を事前に行なっている
もしもの準備を平素から心がけている組織であることがあらわれています。
- 換気等のマイクロ飛沫感染対策
冬場の寒冷期にはどうしても締め切ることが多くなってしまうため、感染伝播予防のための自宅での換気の工夫などを検討進められるとよいでしょう。 - 基本動作の徹底
もし自分が感染していても他の人にはうつさないようなスタッフの平素の行動を確認していかれるとよいでしょう。
法人概要
実施事業 | 訪問介護、居宅介護支援等 |
拠点概要
所在地 | 東京都 |
フロア | 利用者数 | 職員数 | |
訪問介護 居宅介護支援 |
- | 約100人 約150人 |
約20人(半分が非常勤) |
新型コロナ陽性者等発生と対応の概要
陽性者数(うち死亡者数) | 11人(職員1人、利用者7人、利用者の家族3人)(死亡者:利用者3人) |
濃厚接触者数 | 職員1人、利用者3人 |
検査実施 | 保健所が濃厚接触者の判断をする前段階で事業所が自主的に検査をしたのが利用者13人とその同居家族、職員全員 |
感染源・感染経路 | 不明 |
事業所が発生・収束とみなす日 | 12/28~1/18(収束日は通常営業に戻った日を置く) |
発生から収束までの休業や利用制限 | なし(陽性となった利用者も含め訪問サービスを継続した) |
事業所外からの応援(法人内外) | 一部、もともとその方のサービスに入っていた他事業所に訪問を代行してもらった。 |
陽性者発生以前の状況・感染対策等
- 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
- 2020年春時点では、コロナ禍での訪問介護のあり方に迷いがあったが、段々とコロナがどんなものかも分かってきて、不必要に不安にならずに訪問を継続する覚悟が決まった。
- 政府の給付金が出る前に会社の持ち出しで職員に慰労金を配布し、コロナ禍での職員の働きに感謝し労うメッセージを送っていた。
- コロナ流行前からN95やガウンの備蓄も行っていた。コロナ流行となってからは職員はガウンの着方を自主的に練習していた。
- 感染対策の特徴:
- 以下の標準予防策を実施
- サージカルマスクの着用
- 消毒スプレーを常備して、玄関前、入室後、退室時の手指消毒、自転車のハンドル消毒
- 1ケア1手洗い
- 荷物は玄関、上着は自転車に置く
- 手拭きタオルは利用者ごと分け、靴下も1軒ずつ履き替え
- 髪、鼻など触らないとか、対面での対話を避けるなど接触を避ける介助
- ドアノブの接触はひじで行う
- 訪問時に利用者の体温を確認
- 通院介助のときには、ゴーグル、またはフェイスシールドを着用
- 通常のケアではゴーグル、フェイスシールドはなし、接近する場合や咳がある場合は眼球保護のためにどちらか着用
- BCP策定状況:策定済
- ヘルパーは専門性が高く社会的意義のある尊い仕事であるという理念が会社全体に浸透しており、陽性者が発生した際にも訪問を継続することは自然で、休業という選択肢はなかった。
新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯
病日 | 日程 | 項目 | 備考 |
1(第1病日) | 2020年 12月 28日 |
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4 | 12月 31日 |
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8 | 1月 4日 |
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9 | 1月 5日 |
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10 | 1月 6日 |
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12 | 1月 8日 |
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13 | 1月 9日 |
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16 | 1月 12日 |
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17 | 1月 13日 |
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22 | 1月 18日 |
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1月 ○日 |
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対応の体制
- 通常運営時と同様に、代表、管理者、サービス提供責任者で意思決定した。
情報の収集・把握・共有
- 管理者、サービス提供責任者が陽性者対応に当たったので、事業所で2人を隔離し、出勤を継続、事業所で情報共有がされた。
情報の周知・発信
- 外部への情報発信は行わなかった。
利用者・入居者への支援と対応
- 陽性者発生後の対応
- 陽性者となった職員Aと接触があり感染の可能性が少しでもあった13人の利用者は、第一報を受け、驚く人の方が少なく、淡々と受け止めていた。
- のちに保健所によって職員Aの濃厚接触者と判断された利用者は3人だったが、職員Aが訪問した利用者13人の不安を考え、保健所の判断を待たずにPCR検査を会社負担で受けてもらった。
- 自力でクリニックに検査を受けに行けない利用者は車、タクシーで職員が送迎した。
- 職員Aと接触がない利用者への対応
- 混乱をうまないために、職員Aからの感染の可能性がない利用者には陽性者発生について伝えなかった。
- PCR結果が陰性と確認できた職員が継続して訪問した。
- 陽性となった利用者への対応
- 陽性者対応は職員2人に限定し、家族への感染を心配しなくて済むように12日目(最初の陽性判明から3日目)から1週間ホテル宿泊とした。対応期間中は、事務所の中でもビニールシートで隔てて隔離した。
- ケアの提供を継続できるようにケアマネと相談し、排泄介助を1日おきにし、可能な限り家族対応をお願いするなど、ケアの量と内容を絞った。
- 陽性となった場合のケアは、なるべくリスクを下げて訪問するという方針はあったが、個別性が高くそれぞれの状況に合わせて一つ一つ決めるしかなかった。
- 陽性者宅への訪問の際は、陽性者対応の際のPPEは、N95マスク+サージカルマスク、ゴーグル、手袋、キャップ、ガウン、靴下を着用、ケアが終わったらすぐにシャワーを徹底した。
- ガウンの着脱は家の外で行ったが、風評被害を防ぐために、目隠しになるようなところでなるべく人の目に触れないように手早く行った。
- 陽性者の健康管理、安否確認は家族にやってもらい、ケアマネ・保健所との役割分担をあらかじめ相談し、どうやって誰が健康観察を行うのか決めた。
職員の状況とフォロー
- 発生直後の状況
- 訪問を継続することを前提に考え、職員A、利用者Aの陽性が判明した直後、全職員がPCR検査を受けた。
- 非常勤ヘルパーには以前から事業所に極力立ち寄らないように指示を出しており、職員の陽性発覚後も訪問を継続できた。また、年末年始という時期もあり、出勤している職員数も少なく、職員同士の接触も他の時期と比べ少なかったことも訪問を継続できた理由といえる。
- 職員は専門職としての意識を持っていて、今回の陽性者対応についても一人も逃げ出さず、利用者を一番に考えていた。
- 陽性者対応中期間の状況
- 陽性になった職員2人が常勤スタッフなので、なくなった2人分の稼働をみんなで分担した。
- もともと結核の対応をやっていたので感染症対策のための備品準備やスキルがあり、それらが活きた。
- 利用者が亡くなったことは担当ヘルパーにとって受け入れることが難しい様子だった、自身で受け止めて成長していけるように、共感し話を聞いて、継続的にフォローした。
医療機関、保健所・行政との連携・調整
- 保健所は9日目に最初の介入、陽性者、濃厚接触者の健康管理を協力して行った。
- 最初の発症者である利用者Aが検査を受けた同日に自費でPCR検査ができる医療機関を探し、問い合わせたクリニックがすぐに土日でも対応してくれたことで早期対応できた。
関係事業所・委託先等との連携・調整
- 最初の陽性者が発覚した日にケアマネに連絡、陽性者発覚を知らずに利用者が他サービスを利用して感染拡大するリスクを考え、職員Aが訪問した利用者のケアマネから順に連絡した。
- 他事業所の中で1社だけ、利用者の陽性が分かったあともガウン着用でケアに入ってくれるところがあった。
- ケアマネの中には「もっと早く知らせてほしい」「陽性者が出たというのは困る」という動揺した反応もあった。
感染防御資材等の調達
- エプロン、マスク、ヘアキャップ、靴カバー、手袋、マスク、N95を備蓄していて、陽性者発生時も備蓄で対応した。
- フェイスシールド、ゴーグルはコロナ禍となってから購入した。
事業支出・収入等への影響
- 2021年1月、2月は月50万円程度の減収となった。3月からは回復している。 サービス継続支援のためのヘルパー宿泊費用やゾーニング費用などが発生。また、危険手当を支給した。
風評被害と対応
- 利用者が知人に話すなどしたのか、全く知らない近所の方から「拠点Cで出たらしい」という情報を聞いた。
- 同業他社からの風評被害があった。
対応の振り返り
- 陽性者に対応することは感染の怖さもあるが、感染対策で自分自身を守り、会社と仲間に守ってもらいながら、なんとか乗りきった。
- 日頃の理念経営によって、職員全員が使命感を持って仕事をしていて、誰も逃げ出さずに対応することができ、訪問を継続できた。
陽性者対応の経験からの学び・教訓
- 在宅だと陽性者に対応する環境が整っていないので、窓を開けて換気すればいいというだけではなくて、感染対応としてやるべきことをみんなが理解できるような形で周知することが重要。
- 耳の遠い方、認知症の方などそれぞれに合わせた対応ができるように対応の工夫が必要で、ケアマネとヘルパーが都度相談できる関係が重要。
- 訪問看護にもう少し相談をしてもよかったのかもしれないと後になって考えた。
感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと
- 社内でBCPの必要性を感じ、BCPを策定した。
- 社員採用時には、人的接触をさけられない職種でありリスクがある旨を説明。ご家族にも再度同意を頂いたうえで入社するかどうかを判断いただくようにしている。
インタビュー担当:堀田 聰子、山岸 暁美、金山 峰之、雨澤 慎悟、鎮目 彩子
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久