ツクイ・サンフォレスト松山(通所介護、サ高住、居宅介護支援、訪問介護)
要約
クラスターが発生した他事業者のショートステイを利用したデイ利用者が当該事業所の運営するデイサービスを利用して感染が拡大した。当該利用者がデイサービスを利用した翌日から事業所判断で入居者全員のケアを居室対応とし、更にその翌日からデイサービスを休業する措置をとった。保健所との情報共有したうえで、指示によって、職員のPPE着用、他サービスとの往来制限を行った。 濃厚接触者、同一建屋の他事業の利用者と職員に対するPCR検査の実施等、必要な措置は迅速に行ったが、感染は12人に拡がった。途中、病床数が逼迫し、施設内での療養が必要となり休業中のデイスペースを隔離病棟として対応した。 感染可能性の連絡を受けた初日から迅速に対応することの必要性、近隣の介護事業者と日頃から情報共有をし、感染拡大を最小限に抑える必要性を学びとしている。
医師からみたポイント
よかった点- 利用者が濃厚接触者であると連絡を受けた直後(翌日)から事業所独自の判断で入居者の個室対応やデイサービス休業という対応を行ったことが、感染拡大を最小限にすることにつながりました。
- 地域の医療体制逼迫のために入院困難な陽性者を、休止したデイサービスのスペースをレッドゾーンとして利用するという対応を行うことで入居者のADL、QOLの低下を防ぎました。
- 感染経路が地域内の他事業所からであるため、事業所間の情報共有、連携を日頃から行っておくこと、有事の初期対応・ゾーニング・PPE着用などの訓練を職員内で行い予防策を徹底することの必要性を示しています。
- 事例発生後13日目、17日目の陽性判明者が早期のPCR検査陰性であったことはPCR検査の結果を過信せずに一人一人が感染拡大予防策を実施することの重要性を示しています。
法人概要
法人の経営主体 | ツクイホールディングス |
法人全体の職員数 | 22,000人 |
法人全体の事業所数 | 700 |
実施事業 | 訪問介護、訪問入浴サービス、訪問看護、居宅介護支援、短期入所、小規模多機能型居宅介護看護、小規模多機能型居宅介護、介護予防・日常生活支援総合事業、障がい者総合支援サービス、保険外自費サービス、介護付有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅 等 |
ウェブサイト | https://www.tsukui.net/ |
拠点概要
所在地 | 愛媛県松山市 |
開設年 | 2015年3月 |
ウェブサイト | https://www.tsukui.net/service/matsuyama/ |
フロア | 利用者数(定員) | 職員数 | |
サービス付き高齢者向け住宅 | 2〜7階 | 75室(75室) | 31人 |
通所介護 | 1階 | 50〜60人(30人) | 11人 |
居宅介護支援 | 1階 | 70人 | 2人 |
訪問介護 | 1階 | 33人 | 19人 |
新型コロナ陽性者等発生と対応の概要
陽性者数(うち死亡者数) | 18人(入居者/利用者13人、職員5人)(死亡者数:5人) |
濃厚接触者数 | 16人 |
感染源・感染経路 | 利用者Aは、他事業者のショートステイを利用しており、そこの陽性者の濃厚接触者だった。 |
事業所が発生・収束とみなす日 | 11月20日~12月7日 |
発生から収束までの休業や利用制限 | デイサービスの休業(11月23日~12月6日) |
事業所外からの応援(法人内外) | 兵庫県と山口県から各1人、同市内から1人の合計3人の応援あり |
陽性者発生以前の状況・感染対策等
- 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
- マスクの着用、手指消毒、施設内清掃の通常の予防策は実施していた。
- 感染対策の特徴:
- コロナウイルスに関する勉強会は、施設内で行っていたが、医師などの専門職講師を外部から呼んでの勉強会はやっていなかった。
- BCP策定状況:
- 本社が作成したBCPがあったが、陽性確認後を想定した訓練はしていなかった。
新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯
病日 | 日程 | 項目 | 備考 |
1(第1病日) | 2020年 11月20日 |
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2 | 11月21日 |
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3 | 11月22日 |
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4 | 11月23日 |
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5 | 11月24日 |
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6 | 11月25日 |
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7 | 11月26日 |
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8 | 11月27日 |
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9 | 11月28日 |
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11 | 11月30日 |
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12 | 12月 1日 |
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13 | 12月 2日 |
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16 | 12月 5日 |
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17 | 12月 6日 |
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18 | 12月 7日 |
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対応の体制
- 本社、ブロック、エリア、介護支援専門員、現場責任者を含めた情報共有/指示系統ができていた(11/22の朝食から個室対応にしたのは、ホーム長の現場判断)。
- 現場の管理職が主に家族や入居者/利用者の対応を行い、本部長、エリア長が保健所や行政との連絡を担った。
情報の周知・発信
- 外部への情報発信:
- 保健所に対して、11/22に陽性確認された利用者Aが11/21にデイサービスを利用していたことを伝え、同日に利用していた利用者、職員のPCR検査を依頼した。
- 行政に対しては、ツクイから発生したクラスターではなく、他者のショートステイで感染した利用者Aからのクラスターであると報告し、その旨を記者発表するように要望した。
- 近隣の介護事業者に対して、デイサービスを一時休業すること、ツクイでクラスターが発生したことを公表した。
利用者・入居者への支援と対応
- 利用者、職員、関係機関等への報告・周知 :
- 11/23にサ高住入居者から順に伝達を行った。コロナという文言は使わず、感染症が発生したので、出来るだけ、自室で生活すること、常時マスクを着用すること等の日常生活上の留意点を伝達した。施設長、介護支援専門員から家族に対しても説明を行った。
職員の状況とフォロー
- デイサービスを休業し、そのスペースをレッドゾーンとして隔離病棟に準ずる扱いにした際、夜勤ができ、学習を積み重ねてPPEの扱い等に信頼のおける職員を優先して従事した。しかし、21日に出勤していた職員は自宅待機としたために、実際には人手が不足して県外から2人、同市内から1人の応援を受けた。可能な限り近隣にある同社の拠点から要員をお願いしたが、山口県からも応援が来た。
- 職員の陽性者は無症状、軽症状だったので、特段のフォローは要しなかった。しかし、情報不足による不安(再罹患等)は一定程度あった。
- デイサービス休業中は、有給休暇処理または、給与の60%を支給した。
- ホーム長と管理者は、06時~01時という勤務の日もあり、深夜でも対応できる体制をとっていたので、疲労はあったが、乗り切るためにはやむを得ないと捉えていた。
医療機関、保健所・行政との連携・調整
- 医療機関:
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地域の病床が逼迫した状態であったため、当施設利用者以外の隔離を受け付け、看護師等とのチームケアを実施し、地域ケア体制の強化に貢献することができた。
- 訪問看護ステーションさくら:看護師による医療的ケアに係る支援
- 医療法人 ゆうの森 たんぽぽクリニック:受診
- 医療法人 岩崎内科:受診
- 医療法人 北上放射線科・呼吸器内科クリニック:受診
- 報告、連絡、相談を行い、レッドゾーンの確認等について意見を聞いた。
- 事業所から発生したクラスターではなく、他者のショートステイで感染した利用者Aからのクラスターであると報告し、その旨を記者発表するように要望した。
関係事業所・委託先等との連携・調整
- 近隣の介護関係事業所には、ツクイで陽性者確認、その後クラスター発生した旨を伝えて、相互利用による拡大の防止に努めた。
- ゴミ、リネン等については、業者の知識不足、理解不足もあり、当初は撤退していたが、保健所からの説明を受けたことで通常の業者による引き受けが再開した。
感染防御資材等の調達
- マスク、ガウン、フェイスシールド、グローブ、アルコール等については、本社から支給された。
事業支出・収入等への影響
- 支出:
- ツクイ本社の会計に吸収されたので、事業所単独で収支の増減、資金繰り等の計算はしていない。
- 収入:
- -
- 資金繰り:
- -
風評被害と対応
- 被害の有無や状況:知事の定例会見で、「ツクイはよそのクラスターからの利用者によって感染したものであって、よくやっている。ツクイは何も悪いところはなく、公表もしている。」と具体的に話され、応援する声が寄せられたほどだった。しかし、一部には、遠方からの誹謗中傷、サ高住入所者からの陽性者と職員に対する「ばい菌扱い」にも似た中傷があって職員は心を痛めていた。
- 行政、医療機関との連携により、カウンセリングを受けることができて、PTSDのケアを行っている。
対応の振り返り
- 11月21日にデイサービス利用者Aの参加があったため、利用者AのPCR検査陽性確認より早期に、22日の朝食から個室対応を開始し、23日にはデイサービスの休業を決定した。速やかな対応であったとは思うが、もっと日常的に予防を意識して訓練していれば、職員の感染は防げたと反省している。
- 死亡者のご遺族と話した際、「経緯をはっきりと教えてほしい」「ツクイがなにか悪いことをしたんじゃないか」と、言われたことはつらかった。
- 陽性者の入院後の状況をフォローするために通常であれば病院の地域連携室に詳細を聞くことができるが、病院側もひっ迫しており入院者の詳細を把握するのが難しかった。また、退院時も入居者ではない利用者の帰宅先(独居の場合など)を探してほしいと病院から依頼があり、受け入れ先を見つけるのに苦労した。
- 地域からの「コロナ陽性確認、クラスターの発生」等に関する質問があったが、それよりも先に情報共有しておくべきだったと考えている。
- ニュースで愛媛は陽性者が少ないと、気が緩んでいたのではないか、コロナを身近に感じていなかったのではないかと、反省している。
- デイサービスを休業して、そのスペースをレッドゾーンとして陽性者の隔離を行った。利用者は入院ではADLとQOLが低下してしまうので、当施設で対応できたことはよかったと思う。
- 陽性者、濃厚接触者は、利用者だけではなく、職員にもあるので、応援体制を準備しておくとスムーズにシフトが組めたと思う。
陽性者対応の経験からの学び・教訓
- 早期の予防的措置としての個室隔離と個室対応は大変だったがやってよかった。保健所との情報共有によって、保健所からの適切な支援が得られた。行政との話し合いによって、知事の応援を得られて、風評被害を一定程度抑えることができた、入院適応にならなかった利用者を施設で介護したことによって、ADL、QOLともに低下させずに済んだ。
- コロナウイルスに関する学習、PPEの訓練、ゾーニング、隔離等、職員の日頃の勉強会をもっと、実際に即してやっておくべきだった。そうすれば、慌てることなく、恐れ過ぎることがなく、対応ができたのではないかと考えている。
- 濃厚接触者に対し、着実に動線を分ける、ゾーンを分ける、職員の交流を減らすなどの措置をとる必要がある。
- 近隣の介護事業者と情報共有をして、往来・交流を中断することの重要性を学んだ。
- 最初に利用者の感染可能性について連絡を受けた時点で、同日の昼食を全員でとるのではなく、その時点で個室対応にしておけばもっと拡大は防げた。
感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと
- 食事の個室対応は手がかかって大変だが、収束するまでは個室対応する。
- 情報が瞬時に共有できるように社内SNS(LINEグループ)を作成した。緊急事態の連絡網を策しなおした。
- コロナウイルスの基本的な知識、日常生活上の点検事項、ゾーニングの見直し、レッドゾーンとの往来の際のPPEの取り扱い、新たに勉強会を開催している。
インタビュー担当:鷹野和美・鎮目彩子・堀田聰子
記事担当:鷹野和美・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久
記事担当:鷹野和美・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久