拠点D(通所介護等)

要約

通所介護・訪問介護・居宅介護支援の3事業の拠点で、複数の職員の発熱、常勤職員の陽性判明を皮切りに職員13人・職員家族16人の集団感染となった(利用者への感染なし)。通所介護は休止、訪問介護は非常勤ヘルパーを中心に、一部の利用者へのサービス提供を継続した。
平時から法人本部と拠点、各事業所の管理者と職員、職員間の関係が良好で、法人本部のエリアマネジャーと事業所管理者が毎日電話で職員や家族をフォローし、職員と共に事業再開計画を協議、再開前には非常勤ヘルパー全員を集めて経過報告会を実施した。利用者や地域との信頼関係も厚く、収束後は利用者全員が戻ってきている。
経験を活かし、早期発見に向けた休日も含めた職員の健康観察、感染予防を目的とする事業所環境改善など、さまざまな工夫がなされている。

医師からみたポイント

良かったこと
  • 組織として互いをサポートする体制が取れている
    利用者に陽性者は出ませんでしたが、施設長を含む職員・職員家族の集団感染でした。明確な指示系統のもと、法人本部を含め、各職員が互いを支え合い、心身の体調管理や、事業運営を行えたことが大変素晴らしいです。迅速な外部への情報発信も行えています。
その他のアドバイス
  • 専門家でも難しいことですが、感染者を早期発見するためには、「コロナを疑う」ことから始めなければなりません。厚労省からは「37.5℃以上の発熱が3日以上続いたら」というマニュアルが出されていましたが、これは目安であり、「いつもと何かが違う」「発熱はないが咽頭痛や咳嗽を認める」といった症状が出た時点で、仮に検査が一度陰性であったとしても、原因がはっきりしない場合は、疑わなければいけません。
インタビュー実施日:2021年1月20日 インタビューご回答者:法人役員、部次長、拠点Dの施設長

法人概要

法人全体の事業所数380(うち介護福祉事業:35)
実施事業 介護福祉(高齢者・障害者)、宅配、小売店舗、保険共済事業等

拠点概要

フロア 利用者数(定員) 職員数
地域密着型通所介護 1階 60(18) 13
訪問介護 2階 177 36(うち非常勤ヘルパー28)
居宅介護支援 2階 145 6
事務 2階 - 3

※2階は訪問介護・居宅介護支援事業所と事務が一部屋にまとまっている。1階の通所介護とは出入口別。

新型コロナ陽性者等発生と対応の概要

陽性者数(うち死亡者数) 職員13人・職員家族16人(うち死亡者0人)
濃厚接触者数
検査実施1人目の職員(訪問)の陽性者発生日に当該職場(訪問・居宅)全職員PCR自主受検を決定、翌日通所介護職員の陽性判明により通所介護も全職員受検、その後利用者17人と職員家族も保健所指示を受け受検
感染源・感染経路不明
事業所が発生・収束とみなす日発生日 10/31 , 収束日 11/23
発生から収束までの休業や利用制限地域密着型通所介護:11/11-11/24まで休止
訪問介護:11/10-11/23まで縮小
居宅介護支援:11/10-11/23まで訪問なしの電話対応
事業所外からの応援(法人内外)

陽性者発生以前の状況・感染対策等

  • 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
    • 厚労省から示されている手順を参考に、発熱者が出た時等の対応の流れと書式は作っていたが、実際に陽性者が出たら具体的に何をすればよいのかはわかっていなかった。
  • 感染対策の特徴:
    • 職員は37度5分以上の発熱時は出勤せず受診することとし、標準予防策を実施していた。
  • BCP策定状況:
    • 自然災害等を想定したBCPは策定していたが、感染症には対応していなかった。

新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯

病日 日付 項目 備考
1 10月31日
  • 訪問介護の常勤職員A(サ責)に喉の痛みあり、10月31日・11月1日休暇に
5 11月4日
  • 職員Aは前夜発熱により休暇をとり病院受診、コロナではないとの診断
6 11月5日
  • 職員Aは36℃解熱により午前出勤、午後発熱
熱がないので大丈夫かなと甘く考えてしまった
7 11月6日
  • 職員Aが再受診、嗅覚・味覚に障害がありPCR検査→施設長に報告
10 11月9日
  • 9時30分、職員Aが陽性と連絡あり、訪問介護の管理者→施設長→保健所・行政に報告(業務継続可の指示)
  • 職員に陽性者発生を周知、訪問介護の常勤職員は自宅待機・訪問に入る職員は防護服対応に/居宅は訪問せず電話での対応に/通所はそのまま業務継続
  • 10時30分、緊急対策協議を行い、事業所内クラスターを想定して当該職場全職員PCR検査自主受検を決定、医療機関と連絡調整開始
  • 夕方、事務員3人が発熱
  • 夜、通所介護職員Bが、咳が出て病院でPCR検査受検していたことが判明
  • 夜、訪問・居宅の営業縮小を決定
11月1日以降、複数の職員から発熱の報告があり施設長から全員検査を依頼
11 11月10日
  • 保健所へ状況報告、訪問・居宅の営業縮小を報告、通所は非常勤もしくは陰性が確認できた職員が防護服着用でサービス提供可との指示を受ける
  • 午前~午後、訪問介護・居宅介護支援の職員21人分のPCR検体搬送、訪問・居宅の営業縮小に伴うサービス調整・連絡、HP第1報(陽性者発生)公表
  • 夕方、通所介護職員Bが陽性と判明。通所介護全職員PCR受検へ
  • 夜、PCR検体を提出していた訪問介護・居宅介護支援の職員のうち施設長を含む11人の陽性が判明。
  • 保健所から営業休止要請、HP第2報公表
12 11月11日
  • 訪問・居宅の利用者へ連絡・調整(他事業所に代行依頼、一部、非常勤職員による訪問継続もあり)
  • 通所介護の利用者、担当ケアマネジャーへ営業休止の連絡・調整
  • 保健所が事業所訪問、共有のPCや携帯などの消毒の徹底、更衣室等の使用人数制限等の指導
  • 通所介護全職員のPCR検査を実施
  • 行政が陽性者発生を公表
13 11月12日
  • HP第3報(職員13人陽性者発生)公表
  • 保健所から指示のあった利用者、職員家族のPCR検体を取り提出
  • 通所介護職員10人が陰性と判明
  • 全事業所に朝礼実施、情報共有とQ&Aを配布、不用意なSNS投稿や発言をしないよう注意喚起
  • 事業所内を高濃度アルコールで再度消毒
  • 陽性となった職員・家族は順次入院・ホテルへ(継続的に双方向で連絡をとりあう)
14 11月13日
  • 保健所へ利用者17人、職員家族の検体を届け、順次PCR検査対応
15 11月14日
  • 保健所より利用者すべて陰性と連絡
  • HP第4報(事業再開予定お知らせ)公表
18 11月17日
  • 保健所に、再開に向けた感染予防対策の修正点等の取組みを報告
  • 陽性だった職員が復帰に向け順次PCR再検
  • 法人本部・訪問介護・通所介護の管理者で事業再開に向けた協議
  • 通所介護利用者の担当ケアマネジャーへ1週間後に事業再開する旨を一斉連絡
19 11月18日
  • 事業再開に向け3事業の利用者へお手紙発送(報告と事業再開に向けた案内)
  • 事業所の特別消毒
21 11月20日
  • 事業回復に向け、非常勤職員への経過報告会を3回に分けて実施(1回目・2回目)
22 11月21日
  • 同上(3回目)
24 11月23日
  • HP第5報(翌日から事業再開)公表
25 11月24日
  • 訪問介護、居宅介護支援の再開
26 11月25日
  • 通所介護の再開

対応の体制

  • 法人本部にコロナ対策本部が設置されており、陽性者が発生すると法人全体ですぐに対策会議(法務担当及び役員を含む)を立ち上げることになっている。
  • 拠点Bについても職員の陽性者判明後1時間で緊急対策協議を行い、以降法人本部・福祉事業部が司令塔となり、本部と拠点Bの事業所で役割分担・連携して対応した。
  • 法人本部の会議は対面、通常は施設長(兼居宅管理者)が3事業をつうじたマネジメントラインとなるが、施設長が陽性・ホテル療養(ほぼ無症状)、他の2事業の管理者は陰性で同じ場所にいなかったため、それぞれ電話でやりとりを行った。エリアマネジャーが本部と事業所のパイプ役として現地に入った。
  • 法人本部の役割
    • 全体情報の収集と、方針意思決定
    • 保健所・行政とのやりとり
    • 情報発信管理・文書類の作成
    • 利用者・職員の状況把握と対応
    • 人事部との調整
  • 事業所の役割
    • 利用者、利用者家族、職員、職員家族と、事業所に関わる情報はすべて事業所内で管理
    • そのうえで、本部方針に伴い、適宜、報告・相談・連絡

情報の収集・把握・共有

  • 陽性(疑い)者対応・感染拡大防止に関する情報:
    • 法人本部が保健所・行政対応、事業所からの報告・連絡・相談をほぼ毎日複数回実施
    • 保健所の現地訪問による実態把握・指導あり
  • 意思決定・共有・指示のための情報:
    • 最初の2日は対応に追われ作業が多く、訪問、居宅、通所それぞれで何が完了しているのか分からなくなり、3日目からホワイトボードで連絡先など掲示し、状況進捗、残っている課題などを書き出すことで情報整理を行った。
    • 事業所側が利用者、利用者家族、職員、職員家族と事業所に関わる情報を全て管理し、本部の意思決定の材料を提示
    • 法人としての情報一元化・意思決定・広報関係・問い合わせ対応窓口の設定(危機管理体制構築)

情報の周知・発信

  • 利用者、職員、関係機関等への情報の周知:
    • 短時間で情報を整理し、調整を行ううえで役立ったものは以下の通り
      • 利用者最新リスト・緊急連絡先・関係機関の連絡先
      • 職員最新リスト・自宅の電話・携帯電話等のメール・SNSなどの連 絡先
      • 職員との連絡手段:携帯電話やタブレット等
      • 外部への情報発信:
        • ホームページでの情報公開は1人目の陽性者判明の翌日(11日目)以降、5回実施。
        • 正確な情報発信に努め以下に配慮した。
          • 法人内における意思統一:広報部・法務部等との開示内容の検討
          • 職員と共有している情報と関係自治体・保健所と共有する内容に齟齬がないよう十分に確認
          • 外部情報の集約
            • 外部からの問い合わせ・苦情対応の一元化
            • SNS等の反応、書き込みのチェック
              • メディア・利用者・その他外部全般における問い合わせ時のQ&Aの作成

    利用者・入居者への支援と対応

    • 訪問介護と居宅介護支援は10日目から、デイサービスは11日目から休止の旨、利用者に連絡。
    • 訪問介護は、要支援の中で身体介助が必要ない利用者へのサービス提供は休止、別事業所での対応が可能な方は別事業所に依頼、その他の利用者は非常勤の職員(26人)と陰性が確認できた常勤の職員がフルPPEの装備で訪問を継続した。
    • 休止中に他事業所に移った利用者も収束後戻ってきて、3事業とも利用者は一人も欠けなかった。

    職員の状況とフォロー

    • 1人目の陽性者が発症から休んでいたことから、施設内に感染が広がっていないのではという思いもあり、第一報を聞いた職員に大きな動揺は見られなかった。
    • 当初、デイサービスはサービス継続と保健所から指示があったため、10日日まではデイサービスも継続しており、さらなる陽性判明により保健所から業務停止命令が出たときには管理者も職員も大きなショックを受けた。
    • 陽性になった職員は軽症で済んだが、職員の家族に感染が広がり、中等症で仕事に戻れないなどあり辛かった。
    • 家族の様子も継続的に電話で連絡をとり、自宅や病院で療養中の人に欲しいものを聞き、エリアマネージャーが届けた。中には、中学生の子供以外、家族全員が感染した家庭があり、エリアマネージャーが勉強道具を届けるなどのサポートをした。
    • 非常勤の一人ひとりまで、最後まで毎日電話をして、再開前には説明会を実施し情報をすべて開示した。
    • この集団感染を契機に退職した職員はいなかった。
    • 人事部と調整し、休業補償と労災保険対応とすることを決めた。
    • 再開に向け、サービス提供を継続した非常勤ヘルパー全員を集めて20日目、21日目に経過報告会を本部が主導で実施、エリアマネジャーから職員に以下の事柄を共有・伝達した。。
      • 発生からの時系列対応 発生概要等
      • 情報発信内容
      • ホームページ上の報告内容
      • 利用者・関係機関へのお手紙
      • 日常の感染予防対策
      • 健康管理チェックシート
      • 利用者・ご家族からの問いに対する回答集(Q&A集)
    • 陰性で体調がよい職員で事業再開計画を協議、現場の意見を最大限重視して再開に備えた。

    医療機関、保健所・行政との連携・調整

    • 発生後、保健所と行政への報告・連絡・相談をほぼ毎日複数回実施する。

    関係事業所・委託先等との連携・調整

    • 1人目の陽性判明直後は無我夢中で漏れもあり、ケアマネジャーからは、もっと早く連絡が欲しかったという声もあった。
    • その後、拠点Dのケアマネジャーやサービス提供責任者が利用者にかかわる他法人のケアマネジャーやサービス事業所に連絡を取り続け、近隣事業者は我が事のように応援や業務支援をしてくれた。

    感染防御資材等の調達

    • 継続的な消毒・衛生備品を着用してのケア提供を踏まえ、備品を確保していた。
    • 75%以上のアルコールを確保する必要があった。

    事業支出・収入等への影響

    • 支出:
      • 空気清浄機、サーキュレーターの購入費、拠点内の消毒費等、かかり増し経費の補助で賄えた。
    • 収入:
      • 11月の収入が訪問は7割、通所は半分になった。再開後は利用者の減少はなく、元の水準に戻った。

    風評被害と対応

    • 近隣のケアマネが風評被害を耳にしたときに、「そういうことは他言してはいけない、個人情報は明かしてはいけない」と伝えてくれたり、SNSなどに掲載された際に「あの事業所の人に助けてもらった」「どこで感染するか分からない状況だから中傷しない方がいい」など好意的なコメントが数件入るなど、周囲に助けられた。

    対応の振り返り

    • 「37.5℃以上の熱が3日以上続いたら」というマニュアルもあり、喉の痛みからはじまった1人目(訪問介護の常勤職員)の早期発見が難しく、またコロナを甘くみていたところがあった。1人目のPCR検査受検の段階で、利用者の関わるケアマネジャーや併用サービス事業所に連絡を入れておけばよかった。
    • 各事業所の管理者や指示出しできる職員が業務を継続できたため、本部メンバーと連携して現場の司令塔となり、利用者やヘルパー調整に動けたことは幸いだった。キーマンとなる訪問・通所の管理者が陰性、居宅管理者はホテル療養となったが、ほぼ無症状のため、それぞれの事業者への調整・体調確認などで対応してもらえたことが非常に助かった。
    • 日常のマネジメント、利用者との関係、地域との関係がよかったことが有事の対応の助けになったと思う、日常からのよい協力関係がなければ有事にどう対応しても機能しない。
    • 日頃から職員が一生懸命で、安心と信頼のある組織で、非常勤の職員とも一体となり運営できており、今回の対応の中でも「私たちが頑張るから」といって訪問を継続してくれた。
    • 連日のように保健所や介護保険課とのやりとりはあったものの、ご利用者の中に「障がい者」の方がいたにも関わらず、障がい支援課への報告が漏れており、注意を受けることがあった。

    陽性者対応の経験からの学び・教訓

    • 1人のPCR陽性者が出た段階で、事業所内クラスターを疑い、早々に事業所内全職員のPCR受検を決定し受検準備するのがよい、目的は感染拡大防止とともに、(利用者や家族はもちろん)職員・職員家族に安心してもらうこと。 迅速に対応することで、理解や協力を得られる。
    • 喉の痛み・微熱が出た職員は、一瞬「コロナかな?」と思っても症状がすぐに消失しまう傾向にあり、また医療機関を受診しても新型コロナウイルス感染症を否定されるケースもある、その場合にも感染を疑って報告する。
    • 発症日の確定・濃厚接触者の特定は保健所の指導に従う。濃厚接触者の特定は労力がかかると共に、時期を逸すると、行動履歴を確認するのにも記憶が曖昧となり困難になる、発症日の認識を誤ると初動の遅れに繋がる。
    • 職員との細やかなコミュニケーションで精神面をフォローする必要がある、感染が発生すると、自分が感染源だと考えたり、人にうつした可能性を考えて不安になり、休職や離職に繋がる危険がある。正しい情報を伝え、できる限り個別対応で話を聞くことが重要。
    • 利用者の感染がなかったことから、ケアの場面では、すべて の職員が細心の注意を払い、マスク着用・手洗い・消毒を徹底したと言える、一方、職員がマスクを外し、食事等、「ほっとするひと時」に感染リスクが高まることを痛感。保健所からは、休憩室やデスクでの飲食に関する指導を受ける。
    • 「完璧」より「スピードとチーム」が重要、情報収集と共有(報告・連絡・相談)、協議、意思決定、対応、 すべてにおいて、スピードが極めて重要だった。誤ったり、足りなかったりしたら、またそこで考え、行動すればいい。 とにかく完璧を目指さなくていいという姿勢が大切。

    感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと

    • 職員の健康管理を徹底するために、それまでは出勤日の情報だけ管理していたが、休みの日の分もすべて記入してもらうようにした。
    • 3密回避・換気ができる事業所環境整備を行った。
      • 休憩室は1回4人までとする
      • 一斉休憩から4回に分けて休憩を取るために業務を見直し
      • 更衣室はマスク着用のまま5分以内に退室すること
      • 事業所レイアウトの変更
        • 窓の位置を踏まえ、風の通りを遮断しないようキャビネットを移動。
        • 距離を保てるよう、デスクの位置をずらす。
        • 人が多く集まり座れる場所を撤去・少人数用デスクに見直し。
    インタビュー担当:鎮目彩子・奥知久・堀田聰子
    記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
    医師からみたポイント:鎌田一宏

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