ユピテル三田(グループホーム等)

要約

グループホーム、認知症デイ(共用型)、定期巡回型訪問サービスを運営する拠点で、入居者・デイ利用者・職員含め計43人の陽性者が発生した。認知症のある入居者は入院調整が難しく、陽性判明から入院に時間がかかり、その間、グループホーム内及び在宅でも対応を続けた。認知症により個室隔離が難しく、感染対策の専門家の指導のもと、共用部(廊下・トイレ・洗濯室)もレッドゾーンとするなどゾーニングを工夫し、換気扇の位置を考慮してレッドゾーンに空気が流れるよう換気窓を設定した。グループホーム内の共用デイでも感染が広がり、共用デイ利用者で陽性となった15人のうち8人は定期巡回の利用者で、フルPPEで訪問を継続した。
従来、休暇取得や研究参加ができるよう、限られた業務や時間のみの職員も積極的に採用しており、人手には余裕がある状態であった。陽性となった職員が現場を離脱・順次復帰するなか、常にシフトを組み直して体制を維持することは困難であったが、スタッフ数が十分だったこと、兵庫県協力スキームにより介護職2人の派遣も受け、事業を継続することができた。

医師からみたポイント

良かったこと
  • 利用者に合わせた適切な感染管理ができた
    利用者全員が濃厚接触者、職員全員が「濃厚接触者の接触者」となり、最終的に43人の陽性者が出た非常にタフな事例であったが、1ヶ月ほどで感染が収束しており、平時から、質の高い職員同士の連携や行政との協働が取れていると推察されます。アウトブレイク中も、サービス維持に努めた点も評価に値します。
  • 最初の陽性例では、症状発現から診断されるまでの期間も短く、診断後の対応(行政を含めた関係各所への連絡)も迅速に取れていました。1週間後には専門家の介入も得ることができ、換気扇の位置、空気の通り道まで考え、さらに利用者のADLまで加味した感染対策を講じました。収束後も継続的に支援を受けられる環境を整えており、大変素晴らしいです。
その他アドバイス
  • 認知症のある陽性者の入院調整がつかず、最大15日間も粘り強く対応しなければなりませんでした。入院までの期間、直接的な診察まではいかなくても、医師からなんらかの形で助言が得られる体制が作れると、なおよいでしょう。
インタビュー実施日:2021年2月7日 インタビューご回答者:施設長田辺智子さん

法人概要

法人の経営主体有限会社タナベメディカルサービス
法人全体の職員数50人(正社員11人、常勤パート7人、その他非常勤職員)
法人全体の事業所数1
実施事業グループホーム、認知症対応型デイサービス、短期入所、定期巡回・随時対応型訪問介護看護

拠点概要

所在地兵庫県三田市
開設年2003年
ウェブサイト公式HPなし
フロア 利用者数(定員) 職員数
グループホーム 1,2,3階 27人(9人×3ユニット27人) 41人
認知症対応型通所介護(以下デイサービス) 1,2,3階 登録21人(9人)
定期巡回・随時対応型訪問介護看護(以下定期巡回) 1階 29人 専任は8人

※GHの3つのユニットは1階、2階、3階で分かれている
※GH入居者の平均要介護度は3.5、認知症自立度はⅢa,b

新型コロナ陽性者等発生と対応の概要

陽性者数(うち死亡者数)
  • グループホーム:職員12人、入居者14人(死亡者数:0)
  • 共用デイ:職員2人、利用者15人(死亡者数:0)
  • 定期巡回:職員0人、利用者8人(全員デイサービスの利用者で上記15人と重複)(死亡者数:0)
濃厚接触者数利用者は全員が濃厚接触者、職員は全員が「濃厚接触者の接触者」という認定となった。
感染源・感染経路不明
事業所が発生・収束とみなす日11月21日(最初の陽性確定日※発症日不明)~12月21日(収束)
発生から収束までの休業や利用制限11月22日~12月21日(共用デイ休業※定期巡回は継続)
事業所外からの応援(法人内外)兵庫県協力スキームにより法人外から介護職2人(12月2日〜12月9日)

陽性者発生以前の状況・感染対策等

  • 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
    • 施設内で利用者の感染疑いはあり、近隣での陽性者発生はなし。
  • 感染対策の特徴:
    • コロナ対策の行動規範の指針を出す(行政や日本認知症グループホーム協会の情報を参考に、換気や消毒の実行確認を1日5回、本人と職員に症状ありの場合は出勤しない、出勤時に第三者による検温と体調確認の実施など)。
    • 共用デイについて、送迎車に乗る前に検温、到着時の手洗い、手指消毒、うがい、換気、終了時に利用者が触れた場所を消毒していた。
    • 従来は、1階から3階の各フロアの共有部で、共用デイの利用者が3人ずつ分かれて過ごしていたが、市に相談のうえ、外部からウィルスが持ち込まれた場合の感染リスクを最小化するために、1階共用部に集まって過ごすように変更していた。
    • 物資が足りない時期だったため、スタッフ自身でフェイスシールドを作成し感染防止への意識を高めた。
    • 業務以外の時間も、人との接触を避け距離を意識することを指示していた。
  • BCP策定状況:
    • 一般的な感染症対応を含むBCPは策定済。

新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯

病日(数字記載) 日程 項目 備考
1(第1病日) 2020年
11月
21日
  • 入居者A、Bが午前中のレク後に体調悪化、連休前だったことから往診の医師による手配で当日に検査、陽性と判明(発症日は不明)、個室対応開始
  • 保健所、行政へ連絡
  • 職員へ通知
  • 共用デイの休業を決定
  • 夕方以降、入居者家族、共用デイの利用者と家族、ケアマネ、定期巡回の利用者、併用サービスの事業所に陽性者発生と共用デイの休業を連絡
2 11月
22日
  • 保健所が来設、11月16日以降の業務分担表、出勤状況、スタッフの移動、休憩方法、入浴方法、共用デイ利用者を確認
  • 夕方に対応方法の指導に再び来設し、職員は全員接触者とする
  • 最初に陽性者である入居者A,Bの居住スペースであるグループホームの1階の入居者は全員濃厚接触者として順次PCR検査(以降、施設での保健所によるPCR検査と、共用デイの利用者が個別に医療機関で受けたPCR検査が混在、順次陽性者が発覚する)
  • 以降、12月11日頃まで、保健所の指導に従いPCR検査を実施
  • 検査結果から次の検査対象者が出されて検査が続き、陽性になった入居者は、保健所の入院調整がつき次第入院となる(入院調整に時間がかかり、数日は施設内にとどまることとなった、利用者・入居者への支援と対応参照)
  • ゾーニングの開始、入居者は個室内で過ごし、個室内をレッドゾーンとして、職員が室内に入る場合は雨ガッパをガウンにしてケアにあたった
4 11月
24日
  • 行政経由で施設名つきで情報公開、新聞掲載
  • 職員のPCR検査実施
  • 11/22、24の検査により1階の職員10人が陽性と判明
7 11月
27日
  • 入居者A、Bが入院
  • 3階の入居者の中にも陽性者が出る
9 11月
29日
  • 神戸大学医学部付属病院感染制御部特命特命教授、三田市民病院感染管理認定看護師が来設、ゾーニングの見直しや感染防止対策等を指導、3階の陽性者を1階に移動、各フロアで個室と共有部(廊下とトイレ)をレッドゾーンとした
  • 各階を対応する職員は固定し、1階スタッフで陽性だった者は泊まり込み、陰性だった者は通いで対応、1階と、2・3階の職員の接触がないように玄関を分けて別の階段を利用、エレベーターは物資の移動だけに使用した
  • 考えてたよりも多くの使い捨て防護服が必要だと分かり、ゾーニングや換気窓の設定と合わせて感染対応を強化した。
12 12月
2日
  • 兵庫県応援スキームにより介護職2人が応援に入る
  • 入居者2人(最後の陽性者)の陽性が判明
19 12月
9日
  • 兵庫県応援スキームによる介護職2人の応援が終了
31 12月
21日
  • ゾーニング解除
  • 収束
32 12月
22日
  • 独居の方を対象に限定的に共用デイを再開
52 1月
11日
  • 共用デイを完全再開

対応の体制

  • 方針決定及び指示出しは、施設長、管理者(3事業の管理者を兼務)、看護師の3人で対応。
  • 管理者が陽性でホテル療養となったため、電話、LINE(社内SNS)でやり取りしていた。
  • 兵庫県協力スキームにより介護職2人、12日目から19日目まで応援に入る。

情報の収集・把握・共有

  • 陽性(疑い)者対応・感染拡大防止に関する情報
    • 9日目、神戸大学付属病院感染制御部特命教授、三田市民病院感染管理認定看護師が指導に、同看護師はその後も来設、継続的に支援、収束後も感染症対策の観点でアドバイスをもらっている。指導内容は以下の通り。
      • ゾーニングのやり方と、ゾーンをまたぐ際の動作と物品のやり取りの方法
      • 換気扇の場所を考慮し、レッドゾーンに空気が流れるような換気窓の設定
      • ガウン、手袋、マスクの着脱手順
      • 衛生資材の在庫管理をして不足する時期を予測して確保する
      • 電話機、鍵の束なども消毒する
      • フロアの暖簾を取り払うなど、複数の職員が接触するものを設置しない

情報の周知・発信

  • 利用者、職員、関係機関等への報告・周知:
    • 1日目に入居者A、Bの陽性が判明した時点から夜にかけて、入居者家族、デイサービスの利用者と家族、ケアマネ、定期巡回の利用者、併用サービスの事業所へ連絡した。
  • 外部への情報発信:
    • 行政経由で施設名を公表し、神戸新聞に掲載。

利用者・入居者への支援と対応

  • 陽性になった入居者は順次、保健所による入院調整が行われたが、入院までには最短2日、最長15日、平均3〜5日かかった。この期間の医師による往診はなかった。
  • 最初は1階で陽性者発生、3階で陽性者が出てからは、陽性者は1階に集めて対応していた。職員は担当フロアを決めて行き来がないようにした。
  • グループホームでは、陽性者確認以降レクリエーションと入浴のケアは実施しなかった。清潔保持は清拭に切り替えた。
  • 通常は、入居者と一緒に買い物に行き調理して食事しているが、期間中は調理済のものを購入して出していた。
  • 入居者は個室で過ごしたので刺激が減り、表情が乏しく、食事量も減っていた、入院先で口から食事することなく退院した人もいたが、ゾーニング解除後、少人数でリビングにて食事するようになり食事量が戻った。
  • デイの利用者は、16日まで遡って利用者を洗い出し、グループホームの看護師が自宅まで検査容器を持って行きPCR検査を受けてもらった。
  • 定期巡回は陽性となった利用者8人を含め、訪問を継続した。フルPPEで、看護師3人、介護職3人で担当し、その日ごとに陽性者のみ訪問する職員、陽性者以外を訪問する職員を分けた。
  • 陽性となった定期巡回の利用者で、保健所の判断では入院対象にはならなかったが自宅での療養が困難(家族も陽性である、認知症で近隣を出歩いてしまう)なため緊急ショートステイを使って施設でケアしたケースもあった。

職員の状況とフォロー

  • 常勤、非常勤含め50人のうち、35人がこの期間に勤務を継続した。
  • 普段から休みたいときに休み、研修に行きたいときに行けるように、人が十分にいる状態にしていて、そのために時間数が少ない人、料理だけできる人など、稼働が限定的な人も雇用していた。
  • 今回の陽性者対応時も人手に余裕があったことが対応を可能にし、通常の運営に戻ったあとも職員が「また頑張ろう」という気持ちになりやすかった。
  • 非常勤職員の中でもともと稼働時間の少ない職員は、この期間は休みを希望する人が多かった。
  • 陽性が判明した職員は症状や生活環境により、入院、ホテル療養、自宅療養に分かれた。
  • 陽性で症状はないものの、家族がいて自宅待機も難しかった職員が本人の希望によりグループホームに寝泊まりし、保健所と相談の上、陽性フロアの担当として勤務を継続した。
  • 12月に入ってから、順次、入居者の退院と職員の復帰が続き、都度、入居者のフロアを決め、担当する職員の配置を組み直すのが困難だった。
  • 休んでいた職員には電話で戻ってこられるように働きかけた。
  • 陽性となった職員は本人の状態をみながら、勤務量を調整して徐々に復帰した。
  • 県、市から職員への危険手当が支給された。この期間に出勤していた職員、出勤していなかった職員の間で気持ちの差、感染対応への意識の差が生じた。
  • 今回離職したのは非常勤の職員2人。

医療機関、保健所・行政との連携・調整

  • 保健所
    • 保健所と連携して収束まで一緒に取り組んだ。
    • 認知症のある入居者・利用者は、病院の受入れ検討に時間がかかった。病院でのひとり歩きの可能性、食事介助・排泄介助がどれくらい必要かを聞かれることが多かった。
    • 症状が重く、優先度を上げて入院調整してほしいと依頼しなければすぐの入院は困難だった。
  • 病院
    • 入院中の入居者について医師、看護師から問い合わせを受けた。申し送りの内容についての質問や、認知症ケアに関する質問が主だった。
  • 行政
    • 1日目に連絡したが週末と祝日で繋がらず、週明けに連絡がついた。

関係事業所・委託先等との連携・調整

  • 最初の陽性判明は土曜日の夕方で、月曜祝日の連休だったために連絡がつきづらく、ケアマネに連絡がつかない場合は利用者の併用サービス事業所に直接連絡することもあった。
  • 清掃など業務の外部委託はかねてからなし。

感染防御資材等の調達

  • グループホーム協会兵庫県支部から食品が届く。
  • 兵庫県、三田市より防護具など、必要な量の支援あり。
  • アルコールとマスクは手に入りづらい時期だったが法人で確保できた。

事業支出・収入等への影響

  • 支出:
    • アルコールとマスク以外は法人で発注しても届かない時期で、資材は県と市からの支給で十分に賄われた。
    • この期間に働いた職員に危険手当、該当者には休業補償を出した。
    • 県、市から危険手当が出ることが分かっていたが、直近の生活に困らないよう個別にサポートした。
  • 収入:
    • 認知症デイは休業のため100%減、入居者入院のためグループホームは38%減。
    • 全事業、新規の方もいて入居者・利用者の数は戻ってきている。

風評被害と対応

  • 被害の有無や状況:
    • 職員の家族が中傷を受けることがあった。
    • 施設の窓が開いている、普段は使わない出入り口から人が出入りしていることへの指摘が近隣からあった。
    • 「定期巡回の車が止まっている利用者宅は陽性者がいるのか」と問い合わせを受けることがあった。
    • 励ましの手紙が届くなどもあり、事業所が誹謗中傷を受けて孤立していると感じるようなことはなかった。
  • 対応:
      市長名で誹謗中傷しないよう、防災メールにメールを流してくれた。対応に当たっている人たちの頑張りを尊重する内容のメールで、施設の職員は励まされ、周辺事業所のケアマネからも励ましの連絡をもらった。

対応の振り返り

  • 各フロアのリーダーが育っていて、現場で責任を持って対応を継続したことが助けになった。
  • スタッフの数が十分だったことで、現場に出られない職員が一時的に増えても運営できたことがよかった。
  • 感染対応について専門家の指導を早く受けてやってみて、有事に備えておけばよかった。

陽性者対応の経験からの学び・教訓

  • 感染症専門の医師・看護師の指導を受け、具体的にどこまでやらなければいけないかが分かった。陽性者発生以前から専門家から学ぶ機会を作る、紙面上の学びではなくゾーニングや作業を実践してみるなど、より具体的に準備することが重要だと感じた。
  • 陽性者対応終了後、感染予防と認知症ケアのバランスが難しく、質の高いグループホームケアを継続することに支障が出ている。
  • 入院調整期間と退院時は医療依存度が高いが、医療を専門としないグループホーム職員には対応が難しい、今回は正職員である2人の看護師がグループホーム内で訪問診療医と連携した。
  • 看護師が在籍していることは入退院をスムーズにするのかもしれないが、コロナでなくても認知症の入院調整は難しい。認知症対応型のコロナ病棟でないと難しいのかと感じる。
  • 兵庫県の補助金事業のひょうご地域共生型モデルという取り組みに参加している。近隣住民が有償ボランティアとして料理や清掃を行い、間接業務の一部を担ってもらうことでつながりを作り、地域づくりをするというもの。職員がこういった取組みに関わることで責任感が育っていき、今回にもそれが活きたのではないかと思う。

感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと

  • 集団で歌を歌うレクリエーションはしない(自発的にマスクができない、あるいは外す入居者が多いため)。
  • 集団でのレクリエーションを行わず3人程度で行う。
  • 食事は全員が集まるのではなく、自室で食べる人もいてリビングスペースは余裕を持てている。
  • 1日複数回の消毒し、清掃に業務時間を割いている。
  • グループホームの入居者の入浴と、デイの利用者の入浴は完全に分ける。
  • デイサービスの手帳に、家族の体調を聞き取る欄を設けて身近に発熱者がいないことを確認する。
  • 職員の出勤時も同居家族の健康状態を確認する。
  • マスクを外す職員の休憩は重ならないようにする。
インタビュー担当:鎮目彩子・堀田聰子
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:鎌田一宏

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