茨戸アカシアハイツ(介護老人保健施設)

要約

札幌市の介護老人保健施設で入所者71人・職員21人が陽性となり、17人の入所者が亡くなったクラスター(2020年4月)。隣接するデイケアの利用者1人に陽性者が発生、入所者が器具等を共用、職員の往来もあったアカシアハイツに感染が潜行したとみられ、入所者1人の陽性が判明した時には施設に広く感染拡大していた。市内の病床逼迫により入院調整が困難で入院先決定まで施設内療養を継続する方針となり、入所者の発症12日目に法人が危機管理対策本部を設置、29日目に行政が現地対策本部を設置した。感染や離職等により、4月下旬に介護職員が半減、5月に入ると看護師が全員勤務できなくなり、医師派遣に加え、法人・札幌市・関係団体がそれぞれ介護職員・看護師の人員確保に奔走した。40日目に入院して陰性が確認された入所者を一時的に受け入れられる場を設け、60日目にすべての健康観察期間を終了した。2020年10月には札幌市が経過や対応の整理・検証の報告書をとりまとめている。

インタビュー実施日:ー(公開資料より作成)

法人概要

法人の経営主体社会福祉法人 札幌恵友会
法人全体の事業所数22
実施事業特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、軽費老人ホーム、ケアハウス、生活支援ハウス、グループホーム、障がい者支援施設、デイサービス・デイケア、訪問介護、居宅介護支援、高齢者相談・介護予防
ウェブサイトhttp://www.keiyu-kai.org/

拠点概要

所在地北海道札幌市
開設年1989年
ウェブサイト介護老人保健施設 茨戸アカシアハイツ | 札幌恵友会 (keiyu-kai.org)
フロア 入居者数(定員) 職員数
介護老人保健施設 1・2階(2人部屋8室・4人部屋21室) 98人(100人うち短期入所7人) 64人

新型コロナ陽性者等発生と対応の概要

陽性者数(うち死亡者数)92人(入所者:71人 、職員:21人)、死亡者数:17人(入所者17人うち12人が施設内で逝去)
濃厚接触者数
感染源・感染経路隣接するデイケアセンター利用者が4月9日に発症、機能訓練室を共用・職員の往来もある茨戸アカシアハイツ内で感染が潜行・拡大したとみられる。
事業所が発生・収束とみなす日4月12日-7月3日
発生から収束までの休業や利用制限デイケア、ショートステイを一時休止
事業所外からの応援(法人内外)
  • 札幌市からの要請で、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部クラスター対策班及び同・医療体制地方支援チームから専門家の支援
  • 札幌市医師会経由札幌市在宅医療協議会医師、熊本県からのボランティア医師、市内医療機関から医師派遣
  • 法人内外から看護師
  • 法人内及び全国老人保健施設協会・北海道老人保健施設協議会への応援依頼に基づく介護職派遣

陽性者発生以前の状況・感染対策等

  • 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
    • 日ごろより全職員がマスク着用の上業務に当たり、手洗い、うがい、アルコール消毒も適宜実施していた。

新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯

病日 日程 項目 備考
2020年
4月
15日
  • 同敷地内にあるデイケア(茨戸DS)利用者の1人が陽性と判明、疫学調査を実施
  • アカシアハイツの近隣にある茨戸ライラックハイツの入所者が4/12に発熱のため、保健所に相談(同利用者はアカシアハイツに隣接するデイケアを利用していた)。
4月16日
  • 茨戸DSを消毒のうえ一時休止とする
  • 職員・利用者全員に連絡をとり体調不良者がいないことを確認
4月17日
  • DS職員2人発症(味覚嗅覚障害・体調不良)
  • 保健所に検査を依頼するが、当時の基準では行政検査の対象にならず
1 4月18日
  • 茨戸アカシアハイツ入所者A発熱・抗生剤投与開始
  • 検査の結果、尿路感染症と診断
6 4月23日
  • DSで陽性となった利用者を介護していたDS職員の陽性判明
7 4月24日
  • 入所者A発熱持続・酸素飽和度低下(80%台)で入院
  • 発熱なし・味覚障害のみのDS職員もPCR検査実施に
  • 保健所が入所者AのPCR検査が必要と判断
  • アカシアハイツ内のロッカーや茨戸DS内の休憩室を茨戸DSとアカシアハイツ職員が共用、アカシアハイツの厨房からDS職員が食事を運ぶ等の往来もあることが判明
8 4月25日
  • 入所者AがPCR検査受検・陽性と判明。
  • 入所者Bが発熱・受診、肺炎あり入院
  • 施設内での感染拡大が示唆される
9 4月26日
  • 入所者に10名程度の熱発者があり保健所に相談
  • 施設内の広い範囲で感染拡大が起きていると判断、有症者及びその同室者のPCR検査実施を決定
  • 保健所から「もうアカシアには救急車を呼んでも来ない。入院はできない」と電話連絡あり
  • 茨戸DSの機能訓練室をアカシアハイツ入所者も利用していたほか、茨戸DS、アカシアハイツは器具を共用。
10 4月27日
  • 入所者・職員のPCR検査を順次実施
  • 施設全体で感染拡大が起きていることを確認
  • 発熱者は茨戸DSフロア、発熱がなく医療行為を行っていない陽性者を2階、陰性者は1階に配置しゾーニングを開始
  • 以後、追加の検査実施により徐々に陽性が判明。
11 4月28日
  • 札幌市がクラスターを発表
  • 保健所から酸素ボンベ大量購入の指示
12 4月29日
  • 法人が危機管理対策本部を設置。
  • 介護職の確保のため関係機関へ支援を要請
  • 職員の網羅的PCR検査開始
  • 入所者18人、職員5人の陽性が判明
  • 14 5月1日
  • 感染症専門医・感染管理看護師・保健所医師等施設訪問・感染管理対策の方針決定
  • 17 5月4日
    • クラスター対策班派遣される
    28 5月15日
    • 北海道老人福祉施設協議会へ介護職員の応援を依頼
    29 5月16日
  • 行政が茨戸アカシアハイツ現地対策本部を設置(ゾーニング見直し)
  • 全国・北海道老人保健施設協議会へ介護職員の応援を依頼
  • 行政が施設職員の健康管理を開始
  • 31 5月18日
    • 施設内で従事する職員向けに感染管理研修を開始
    • 関係団体に看護師の紹介、介護職員の応援を依頼
    35 5月22日
    • 委託による清掃業務再開
    40 5月27日
    • 法人が所有していた休館中の近隣関連施設内に、病院から退院した陰性者の一時受け入れのため「すずらん」を開設
    • すずらん利用者は一定期間後、アカシアハイツへ。
    57 6月13日
    • 職員の健康管理の実施主体を法人(施設)に移行
    60 6月16日
  • 行政が法人職員を対象とした新型コロナウイルス感染症研修会を実施。
  • すべての濃厚接触者も健康観察期間終了
  • 66 6月22日
    • 行政の茨戸アカシアハイツ現地対策本部が解散
    77 7月3日
    • 法人がクラスター終息宣言を発表

    対応の体制

    • 12日目に法人が危機管理対策本部設置。
    • 14日目に札幌市・保健所幹部が法人本部に来訪。
    • 29日目に行政が茨戸アカシアハイツ現地対策本部を設置。

    情報の周知・発信

    • 利用者、職員、関係機関等への報告・周知:
    • 外部への情報発信:
      • ホームページにて情報公開
      • 11日目に札幌市がクラスターを公表

    利用者・入居者への支援と対応

    • 10日目に1階と2階を分けてのゾーニング開始。同日に、市保健所指示により、陽性者のうち、症状の重い人は病院へ搬送し、施設内療養が可能な人に関してはすべて施設内に留置する判断をする。
    • 14日目に感染症専門医・感染管理看護師・保健所医師等が施設を訪問して課題を共有のうえ感染管理対策の方針を決定、在宅医の派遣、職員へのPPE着脱等の講義。
    • 38日目に入所者の入浴再開。
    • 40日目に、近隣の未利用施設内に、陰性確認して退院可能となった者を一時的に受け入れる「すずらん」を開設。
    • 6月に入り、法人が集団感染の終息に向けた中長期的な計画を策定、これに基づいた施設のクリーニングを実施

    職員の状況とフォロー

    • 陽性判定が出た職員は隔離、それ以外は通常の業務を行う。その後、職員の入院や離職により、人員不足に陥る。
    • 1階と2階に分けるゾーニングを実施したが、感染にさらされる恐怖から施設を辞める職員が続出。人手不足から残った職員が1、2階の両方を担当せざるを得なくなった。食事やトイレなど日常生活に介助が必要な人もおり、職員を介して感染が広がったと見られるほか、基礎疾患を持つ入所者が多かったことも重症化や死亡者の増大につながった。認知症の入所者が両階をひとり歩きするケースもあり、隔離が破綻することもあった。
    • 常勤医師1人体制だったため、札幌市が応援を打診して5月2日から札幌市在宅医療協議会医師、5月下旬に熊本県からボランティア医師、6月以降市内民間医療機関・大学病院から医師派遣が行われた。
    • 看護師は5月3日に全員勤務できなくなり急遽法人内から応援看護師を派遣、5月6日以降派遣医師の協力を得て確保した看護師が派遣される。
    • 介護職員は4月末には半減、本来就業制限の対象である濃厚接触者となった職員も、無症状の場合は感染防止措置を講じた上で稼働を続けざるを得ない状況となった。
    • 札幌市は関係団体への応援の相談や市内の老人保健施設・特別養護老人ホームへの個別の応援依頼、法人への人材派遣会社紹介などを行ったが、アカシアハイツでの勤務に関し職員及びその家族の理解を得ることが難しいなど、新規人員確保に向けた調整は、スムーズに進まなかった。
    • その後、5月中旬に、北海道老人福祉施設協議会、札幌市老人福祉施設協議会、全国老人保健施設協会、ならびに北海道老人保健施設協議会への応援依頼が功を奏し、5月末から派遣が開始し、人員確保が行われる。
    • 7月の終息宣言以降に、再度新型コロナウイルスが発生した時の対応として、即応チームを作成。そのために職員の意思確認と環境調査を施設ごとに実施。速やかに対応可能、宿泊場所があるなら対応可能、別の施設でなら勤務可能などを把握する。
    • 札幌市は6月1日に保健所内に人材調整班を新たに設置、派遣可能な医師・看護師の登録を開始。介護職員については、北海道・関係団体と協力して応援派遣体制構築に向けた取組みを開始。

    医療機関、保健所・行政との連携・調整

    • 行政も現地対策本部を設置、保健所や医療機関と連携して継続支援。
    • 今後の発生予防、早期検知・早期終息、施設入所者や職員を守ることを目的として、札幌市保健福祉局によって経過や対応の整理・検証の報告書がまとめられた(2020年10月)。

    関係事業所・委託先等との連携・調整

    • 施設に出入していた訪問歯科等の外部事業者については、疫学調査で濃厚接触者特定やPCR検査、健康観察等を適切な時期に行うことができ、外部への感染拡大は防ぐことができた。
    • 集団感染の発生後、清掃とリネン交換を委託している業者が撤退し、施設内で洗濯を担当していた職員も出勤できなくなり、清掃やリネンなどの業務も施設職員がしなければならなくなった。
    • その後 5月下旬、清掃については、集団感染が発生した病院の清掃実績を持つ事業者により再開された。また、リネンについては、、契約内容を一般リネンではなく、医療リネンとして契約し業務が再開された。

    感染防御資材等の調達

    • PPE提供は自治体から優先的に行われていたが、法人から自治体への依頼の段階でタイムラグなどが生じ、必要量を提供できない時期があった。

    対応の振り返り

    • 平時:
      • 職員への感染対策に関する教育体制が不十分・施設によって差があったため、法人として施設ごとに存在していた感染対策マニュアルを統一、現場での落とし込みを行うこととした。
      • 感染対策が施設任せになっておりチェック体制が不十分であったことから、危機管理・災害感染対策室を新設し、組織として機能するようなシステムを構築する。
      • 2020年2月に新型コロナウイルス感染症対策本部を設立したが十分機能していなかったため、感染者が出た際、施設と本部の役割を明確化、支援体制を早期に構築することとした。あわせてケア記録システム、健康管理、オンライン会議等のICT化の環境整備、情報のデータベース化・業務の見える化を進める。
      • 医療物資の管理が不十分であったため、PPE着脱研修を実施し、利用者及び職員の体調管理を一元化した。さらに、最低3日分の医療物資を保管するようにした。
    • 初動対応:
      • 利用者/入所者の発熱に際し、新型コロナウイルスの感染を疑う体制が構築できていなかったため、健康管理を徹底し、症状があれば感染を疑い対応する体制を構築することとした。
      • 隣接のデイケア利用者が陽性になった時点でアカシアハイツとの往来を中止できなかったことが感染拡大の一因となったことから、新型コロナウイルス感染症が疑われる場合、施設職員の動線を制限し消毒を行うようにする。
      • 施設と法人間で情報共有の体制が不十分でクラスター発生までの状況が把握できなかったため、平時と有事の情報共有の分担、報告基準や責任を明確化する。
    • 感染拡大:
      • 感染拡大の速さに追いつくことができず、職員の大多数が出勤できなくなったことから、陽性者が出た場合には入所者だけではなく、職員全員早期に検査を行い感染者を把握する。行政検査以外の方法も検討する。
      • 法⼈内で応援職員を迅速に募ることができなかったことから、陽性者が出た場合の勤務可能ゾーン、宿泊の希望など、職員の意向を事前に把握し応援体制を整備している。
      • 集団感染の発生後、清掃とリネン交換を委託している業者が撤退、施設内で洗濯を担当していた職員も出勤できなくなり、職員の負担が一層増した。委託業者との契約を見直し、非常時の衛生管理、環境を整える。

    陽性者対応の経験からの学び・教訓

    • 複数の施設の入所者等が共同で利用するサービスを提供する事業所、事業所間の往来が想定される場合、入所者や職員の行動歴について、より慎重な聴き取り調査が必要。
    • 感染の広がりとともに看護師、介護職員が不足し、家族の反対で出勤できない職員も出た。食事の回数が減ったり、入所者の入浴を断念せざるを得ない状況もあった。今後も日々の感染対策を徹底するしかなく、感染が起きたときに出勤できる介護・看護職員の把握、入所者と職員の体調管理の一元化などを進めている。
    • 職員確保を迅速に進めるには、施設の状況・感染管理対策のほか、現在の職員数・不足人数・業務内容・期間・報酬・派遣先法人との雇用契約の要否などを法人と整理して共有したうえで応援依頼を行う必要がある。
    • 高齢者施設では、様々な感染症や脱水等で入所者の発熱が見られることがあり、施設内での感染拡大の察知が遅れることがある。入所者全員に加え、入所者と接する施設職員の日々の発熱や健康観察の結果を、わかりやすい様式でまとめて共有しておくことができれば、変化があった際に気づきやすい。
    記事担当:鎮目彩子・大村綾香

    ■参考資料
    『介護老人保健施設「茨戸アカシアハイツ」における新型コロナウイルス感染症集団発生に係る検証報告書』札幌市保健福祉局 2020年10月
    https://www.city.sapporo.jp/gikai/html/documents/05_021007_kennsyou.pdf

    「茨戸アカシアハイツにおける新型コロナウイルス感染症発生に伴う施設の現状と今後の復興の取り組みについて」社会福祉法人札幌恵友会 令和2年6月20日
    http://www.keiyu-kai.org/htdocs/wordpress/wp-content/uploads/2020/06/アカシア.pdf

    「『茨戸アカシアハイツ』における新型コロナウイルス感染拡大の検証報告書【概要版】」社会福祉法人札幌恵友会 令和3年1月22日
    http://www.keiyu-kai.org/htdocs/wordpress/wp-content/uploads/2021/01/%E6%81%B5%E5%8F%8B%E4%BC%9A%E4%BF%AE%E6%AD%A3.pdf

    「介護崩壊~救えなかったクラスター~」HTB制作テレメンタリー 2020年11月8日
    https://www.htb.co.jp/telemen/kaigo/

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