藤和の苑(住宅型有料老人ホーム)

要約

群馬県伊勢崎市にある定員50人の住宅型有料老人ホームで入居者43人・職員19人が陽性となり、16人が亡くなったクラスター(2020年4月)。入居者2人の陽性が判明してから1週間で入居者全員が入院となった。施設内の消毒・クリーニングを実施し、保健所による感染予防対策に関する指導を経て退院者の迎え入れを開始した。2020年7月に群馬県が検証報告書をとりまとめている。

インタビュー実施日:-(公開記事より作成)

法人概要

法人の経営主体ケアサプライシステムズ 株式会社
法人全体の職員数865人
法人全体の事業所数60
実施事業訪問介護、認知症グループホーム、デイサービス、居宅介護支援、優良老人ホーム、訪問看護、福祉用具レンタル・販売
ウェブサイトhttps://caresup.co.jp/

拠点概要

所在地群馬県伊勢崎市
開設年2015年3月
ウェブサイトhttps://caresup.co.jp/service_home/towa_no_sono
フロア 利用者数(定員) 職員数
住宅型有料老人ホーム 1階、2階 48人(50人) 42人
通所介護 ー(40人)

新型コロナ陽性者等発生と対応の概要

陽性者数(うち死亡者数)62人(入所者:43人 、職員:19人)、死亡者数:16人
濃厚接触者数ー(厚生労働省クラスター対策班からの助言により、4月2日以降の施設訪問者を濃厚接触者とした)
検査実施方法4月10日に県立病院医師・看護師等により施設に残る入居者全員と職員、関係者に対するPCR検査用検体採取
感染源・感染経路不明
事業所が発生・収束とみなす日4月6日に保健所に報告、7月3日に入院していた利用者の陰性確認
発生から収束までの休業や利用制限
  • 4月16日に全入居者が入院、5月2日に運営再開(退院者の受入開始)
  • 併設デイサービスも一時閉鎖。
事業所外からの応援(法人内外)
  • 県が保健所による積極的疫学調査の支援のため保健師・臨床検査技師等を派遣。
  • 県が施設内状況確認・患者の搬送等のためDMAT派遣を要請。
  • 県が厚生労働省クラスター対策班へ支援要請。

陽性者発生以前の状況・感染対策等

  • 本事例以前の新型コロナ感染対策(2020年2月25日以降の対応)
    • 職員
      • 出勤前に各自で検温を行い、発熱などが認められる場合には出勤しない。
      • 施設内では手洗い・うがい・消毒を行い、常時マスクを着用。
      • 社内会議・研修等は中止、不要不急の外出を行わないよう指示(2020年3月1日以降県境をまたぐ行き来があった職員はPCR検査の結果陰性)。
      • 新型コロナウイルスに関する情報の周知。
    • レクリエーション
      • 全事業所にて、外出や外部ボランティアを招いてのレクリエーションを中止。
    • デイサービス
      • 利用者には、送迎車のご利用前に体温を計測し、発熱などの症状がみられる場合には、利用を断る可能性あり。
    • 訪問介護
      • 利用者には、利用前に体温を計測し発熱などの症状がみられる場合には、ケアマネジャー、主治医等の関係機関と相談し対応する。
    • 面会
      • 感染防止を徹底するため、不要不急の面会は控えてもらう。
      • 発熱・咳・嘔吐・下痢等の症状がある場合には、玄関先での対応含め、来所は控えてもらう。
      • 緊急時等で来所希望の際には、事前に施設に連絡してもらう。
    • 来所者
      • 来所前には検温を行い、発熱がない事を確認してもらう。
      • 手洗い・うがい・消毒・マスクの着用をお願いする。

新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯

病日 日程 項目 備考
2020年4月2日
  • 入居者2人の発熱確認、1人は風邪の診断で翌日解熱、1人は1時間後再検温で解熱、医療機関に連絡して様子観察
(厚生労働省クラスター対策班の調査報告では、4月2日頃に施設内に感染者が存在していた可能性があるとされている)
1 4月5日
  • 入居者5人の発熱を確認し、個室隔離開始。
  • 以降発熱者発生が続く。
2 4月6日
  • 保健所、群馬県介護高齢課へ入居者5人の発熱を報告。
  • 家族、関係する介護事業所、ケアマネジャーに連絡。
  • 主治医に連絡・受診
  • 保健所から健康確認・発熱者等への対応(有症者は往診医の診察を受け連絡、症状のある職員は出勤しない等)、外部との接触(入居者の外部デイサービスの利用自粛・有症者の利用停止等)、清掃・環境消毒等について指導
3 4月7日
  • 保健所に現状報告
4 4月8日
  • 全入居者個室対応。·主治医が入居者1人を新型コロナ感染疑いとして搬送。
  • 入居者2人にPCR検査を実施。
  • 藤和の苑及び主治医から保健所に連絡、積極的疫学調査を開始。
5 4月9日
  • 入居者2人の陽性確認。
  • 保健所が入居者及び職員の有症者の調査。
  • 入居者のうち症状が重い人から順に入院場所を決定・搬送。
  • 厚労省クラスター対策班派遣要請。·県が感染を公表。
  • 群馬県病院間調整センターによる入院調整開始。以降順次入居者を搬送。
  • 保健所から感染症状不明のため一時的に職員全員施設に留まるよう指示→職員13人で対応。
6 4月10日
  • 県派遣の医師・看護師等により入居者、職員等77人のPCR検査実施。·群馬大学病院医師・感染症管理認定看護師による現地確認・スクリーニング。
  • 法人役員2人が群馬県介護高齢課を訪問・現状報告。
7 4月11日
  • すでに陽性判定をうけていた入院先決定まで職員は自宅待機。
  • 就業中に陽性の連絡を受けた職員は併設のデイサービス施設隔離。陰性の職員はガウンを着て現場対応。
10 4月14日
  • 法人HPで感染について報告。
  • 以降5月1日、5月13日、5月15日、5月19日にも報告を掲載。
11 4月15日
  • 県派遣の医師・看護師等により10日に陰性だった入居者・職員のPCR検査実施。
12 4月16日
  • 全入居者の入院が完了。·群馬県感染症対策連絡協議会、厚生労働省クラスター対策班による施設内環境調査。
15 4月19日
  • 4/19、20と業者による施設内消毒作業。
23 4月27日
  • 4/27~29と業者による施設内クリーニング。
27 5月1日
  • 保健所による感染症発生防止についての指導。
28 5月2日
  • 退院者の受け入れ開始(運営再開)。
35 5月9日
  • すべての濃厚接触者の健康観察終了。
56 5月30日
  • 法人HPに感染確認から現状までの経緯報告。
90 7月3日
  • 法人HPに代表取締役名によるお詫びを掲載。
  • 入院していた利用者の陰性を確認。

情報の周知・発信

  • 外部への情報発信:
    • 5日目に県が公表、以降テレビ局などが報道。
    • 10日目以降、複数回にわたり法人HPに感染にかかわる状況報告やお詫びを掲載。5月末に感染確認から現状までの経緯報告、入院していた利用者の陰性を確認して7月初旬(90日目)に代表取締役名でお詫びを掲載。
    • 13日目に近隣住民にお詫びと施設消毒に関するお手紙配布。以降退院する入居者の受入・感染防止策等について数回お手紙配布。

利用者・入居者への支援と対応

  • 4月2日に入居者2人の発熱を確認、1人は医療機関を受診して風邪と診断・解熱。1人は1時間後の再検温で解熱、医療機関に連絡して様子観察となる。
  • 4月4日に入居者1人体調不良で救急搬送、1人発熱確認。
  • 4月5日に入居者発熱中の入居者が5人となり個室隔離。
  • 4月8日に主治医が入居者1人を新型コロナ疑いで搬送、9日に入居者2人の陽性が判明して10日に県派遣の医療者により入居者・職員のPCR検査。
  • 4月16日(12日目)に入居者全員が入院、業者による施設内消毒・クリーニングを経て5月2日(28日目)より退院する入居者の迎え入れ。

職員の状況とフォロー

  • 保健所から、2日目に症状のある職員は出勤しないよう、5日目に一時的に職員全員施設に留まるよう指導・指示。
  • 7日目に保健所から以下の指示:
  • 入院調整中のため入院先決定まで職員は自宅待機。
  • 就業中にPCR検査で陽性となった職員はデイサービス隔離。
  • 陰性で症状がない職員はガウン等を着て現場対応。

医療機関、保健所・行政との連携・調整

  • 2日目:
    • 発熱者が5人となり保健所・県介護高齢課へ現状報告→保健所から指導あり。
  • 3日目:
    • 保健所へ現状報告、PCR検査実施依頼→接触者外来に連絡するように指示あり→接触者外来より保健所の指示に従うように指示あり→PCR検査不可(法人の経過報告)
    • 保健所の記録では前日報告の発熱者の熱が37度台に下がったとの報告。
  • 4日目:
    • 藤和の苑から保健所に現状報告、主治医に経過報告して診察・指示を仰ぐようにと伝えられる。
    • 主治医から保健所に担当患者の発熱・新型コロナ疑いの連絡。保健所が藤和の苑と主治医に事情聴取のうえ積極的疫学調査を開始。
  • 5日目:
    • 群馬県病院間調整センターによる入院調整開始。

感染防御資材等の調達

  • 7日目に県で備蓄していたガウンとゴーグル75セット等を受領。
  • 9日目にマスク2,000枚を県から受領。
  • 11日目には防護着100セットを県から受領。

対応の振り返り

  • 初動対応:
    • 4月6日・7日に保健所に160件の相談が寄せられているなかで、藤和の苑の案件について重点的かつ速やかな対応の必要性が高い事案としての情報共有ができなかった。
    • 入居者の主治医は、基本的に担当患者の情報しか把握できず、施設内の感染症発生状況を把握することが困難。担当外の有症入居者・職員の情報が伝わらないまま往診を行うと二次感染の恐れがある。
    • 当時のPCR検査は相談の目安や行政検査の対象が幅広く設定されておらず、検査に結びつきにくい状況にあった。
  • 搬送:
    • 群馬県病院間調整センターの初日の稼働が夕方であり、入院先選定・搬送調整に時間を要した。→県がDMATを現場に派遣し、現場の指揮・患者の状態確認とトリアージ、搬送手段調整を行うことで円滑な搬送調整を行う体制を確保。
  • その他:
    • 保健所における感染対策の助言・指導について、重要事項は認識を共有できるようメモを送付するなどより緊密なコミュニケーションを図る必要があった。
    • 一部職員がダブルワークをしており、他の施設への感染拡大の一因になった可能性がある。

感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと

  • 営業再開後の感染対策は以下のとおり:
    • 職員の検温:出勤前・出勤時・午後の1日3回検温。
    • 職員の体調管理:体調に変化を生じた場合は速やかに勤務変更できるよう体制整備。
    • 入居者の検温:1日5回検温及び不安時は直ちに検温。
    • 入居者の発熱時:発熱及び体調に変化がある場合、速やかに個室隔離で体調観察。
    • 施設内の換気:日中は常時換気。
    • 食事:各自居室。
    • 施設内清掃:1日3回の次亜塩素酸ナトリウム水溶液による拭き掃除。
    • 感染予防策:感染マニュアルにそって、さらに1行動1手洗いを実施。
記事担当:鎮目彩子・大村綾香

■参考資料
「住宅型有料老人ホーム「藤和の苑」における新型コロナウイルス感染症集団発生の検証について」群馬県 2020年7月9日
https://www.pref.gunma.jp/02/d23g_00298.html

「藤和の苑における新型コロナウイルス感染についてのご報告」ケアサプライシステムズ株式会社 2020年5月30日
https://caresup.co.jp/news/news/1173

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