希望の杜(介護老人保健施設)
要約
入所者1人、職員1人の陽性者発生に対応した介護老人保健施設の事例。他法人での陽性対応の応援を派遣した経験から、陽性者の人数が少ない場合でも対応中は通常の1.5倍の人員が必要という経験値があり、応援体制の構築、発生時のシミュレーション(入所者と職員の行動歴確認、ゾーニングなど)、PPEを着用した訓練が行われており、実際の対応に活かされた。認知症の方が陽性者となった場合の療養のあり方を外部の有識者とともに検討し施設内療養を実施した。併設の通所サービスは休業、休業期間中に必要な代替サービスを全利用者に確認し、通所職員により訪問入浴と訪問リハを提供した。
医師からみたポイント
良かったこと- 事前準備の入念さ
BCPの策定やシュミレーション、そして以前の経験などを生かした対策がよく検討されています。
職員の十分なトレーニングにより、安全とともに安心感を確保しています。 - 初期対応の速やかさ
陽性確認前から陽性判明時に備えた行動準備がなされており非常に早い対応(隔離、検査、応援養成など)がなされたことは、感染拡大を防ぐことに繋がったと思われます。 - 臨時体制の構築と指揮系統の安定
マネジャーの現地入りや法人本部のバックアップは、統制のとれた対応のために有効でした。
事前トレーニングを前提とした法人間の人員サポートは、一時的に増大する現場タスクニーズに応えるために有効でした。 - 速やかかつ細やかな外部への情報公開・伝達
ホームページ等を用いた対一般向けの情報公開のみならずゴミ・リネン業者等に対しても細やかな情報伝達の配慮がなされていることは風評被害を予防したかもしれません。
- すでに高いレベルの準備がなされていて素晴らしい。ワクチン接種完了や変異ウイルス出現の中でどのように感染対策と質の高いケアのバランスを取るかなどの取組みをまた共有してください。
法人概要
法人の経営主体 | 清山会医療福祉グループ |
法人全体の職員数 | 911人 |
法人全体の事業所数 | 61 |
実施事業 | 診療所・特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・短期入所生活介護・短期入所療養介護・軽費老人ホーム・特定施設入所者生活介護・認知症対応型共同生活介護・小規模多機能型居宅介護・通所介護・通所リハビリテーション・居宅介護支援・地域包括支援センター・地域活動支援センター等 |
ウェブサイト | https://www.izuminomori.jp/ |
拠点概要
所在地 | 宮城県黒川郡 |
開設年 | 1996年 |
ウェブサイト | https://www.izuminomori.jp/facility/facility-list/facility-details/?id=55 |
フロア | 利用者数(定員) | 職員数 | |
介護老人保健施設 | 2階、3階 | 76人(80人) | 53人 |
短期入所療養介護 | 2階、3階 | 24人(空床利用) | 53人(上記職員が兼務) |
通所リハビリテーション | 1階 | 91人(45人) | 20人 |
居宅介護支援 | 1階 | 75人 | 2人 |
新型コロナ陽性者等発生と対応の概要
陽性者数(うち死亡者数) | 2人(職員1人、入所者1人)(死亡者数:0) |
濃厚接触者数 | 入所者37人、職員1人(保健所から濃厚接触とは認められなかったが法人として濃厚接触扱いとした職員が他に3人) |
検査実施 | 利用者のべ48人、職員25人 |
感染源・感染経路 | 職員家族 |
事業所が発生・収束とみなす日 | 発生→1/7、収束→1/31 |
発生から収束までの休業や利用制限 | 通所リハビリ、短期入所サービスの中止(1/11-1/17) |
事業所外からの応援(法人内外) | 法人内から16人の応援 |
陽性者発生以前の状況・感染対策等
- 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
- 感染対策室をグループ全体で設け、担当者がグループ代表と連携し、感染対策を計画、現場での実践とフィードバックをリードした。
- 職員の交流制限で接触を最小化する。
- 職員同士のコミュニケーションは必ずマスク着用
- 更衣室や休憩室は換気を徹底し、休憩は時間差で会話を避けるなど
- 流行期はユニット間と事業所間の往来は管理職と医療職のみ
- 事務職はテレワーク
- 会議と研修はオンライン
- コホーティングのシミュレーションがされている。
- 発生時に十分な介護が行えない可能性など、介護環境の変化について入所者と家族に文書で説明、同意書をもらって合意した。
- 濃厚接触についての法人の考えとして、「入所者は常時マスクをすることが難しいので接触があればすべて濃厚接触、職員は双方がマスクがない状態での接触またはマスクありで換気の悪い場所での接触が濃厚接触」としていた。
- 感染症対策顧問として外部の有識者に感染対策の指導を受けていた。
- 感染対策の特徴:
- BCP策定状況:
- BCPが策定されて、コホーティングのシミュレーションがされていた。
新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯
病日 | 日程 | 項目 | 備考 |
0 | 2021年 1月 7日 |
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1 | 1月 8日 |
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2 | 1月 9日 |
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3 | 1月 10日 |
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4 | 1月 11日 |
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5 | 1月 12日 |
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6 | 1月 13日 |
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7 | 1月 14日 |
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8 | 1月 15日 |
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9 | 1月 16日 |
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11 | 1月 18日 |
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12 | 1月 19日 |
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13 | 1月 20日 |
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14 | 1月 21日 |
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15 | 1月 22日 |
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19 | 1月 26日 |
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24 | 1月 31日 |
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25 | 2月 1日 |
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対応の体制
- 当該施設:施設長がリード、エリア担当のゼネラルマネージャが現地入りしてマネジメントと現場業務をサポートした。
- 法人本部:感染対策室のメンバーはリモートで対応にあたり、PCR検査のタイミングなどグループ代表が現地にも入りながら後方支援にあたった。
情報の収集・把握・共有
- 当該施設と感染対策室で行う対策会議は毎日10時、17時に実施し情報共有した。
- 陽性者、有症状者のバイタルを1日4、5回メールで共有した。
- 感染対応に関する情報は感染対策顧問の確認、指導を受けた。
- 4日目に感染対策顧問が現地入り対策を指導。内容は以下の通り。
- 陽性となった職員が勤務していたフロア(2階)以外はグリーンゾーンとしてよい。
- 発生フロアの職員のグリーンゾーンへの補充はPCR陰性であれば可能。
- ターミナルの患者の家族面会は健康かつ若い人で強い希望があればPPE装着の上、短時間での実施は可能。
- その他、有症状者への対応や、ゾーニング解除の見通し、営業再開時期などについても指導をしてもらった。
情報の周知・発信
- 発生から収束までの間、約10回にわたりHPにて情報公開。
利用者・入居者への支援と対応
- 陽性者発生後は、以下の書類を作成して健康観察を行った。
- 利用者健康観察票
- 利用者情報共有シート
- エアロゾルが発生する口腔ケアを制限。
- 交差感染リスクから血圧測定や入浴は原則中止。
- 食事は2回食とし、清掃、環境消毒、記録などは最低限にする。
- 感染者を分離しても発生ユニットには濃厚接触者が残るため、最も警戒すべきエリアとなる。
- その間、自身の感染予防と、交差感染の予防を意識する。
- 個室での個別対応が原則。複数の利用者を担当する場合は、利用者ごとに不織布ガウンの上に袖付きビニールエプロンとアウター手袋を交換し、都度手袋のアルコール消毒を行う。
- 可能な限り職員を固定し、休憩室や更衣室でのコミュニケーションはマスク着用、情報交換は避ける。
- 個室に留まることのできない利用者はマンツーマン対応。利用者が手で触れて歩いた共用部分の消毒を徹底する。頻回の換気に努める(やむを得ない場合には、本人、家族の同意のもと、一時的隔離、身体拘束を検討する)。
職員の状況とフォロー
- 職場内行動歴の確認(模擬訓練)を行っており、実際もこれと同様に対応がなされた。訓練の詳細は以下の通り。
- 職員を任意に選定、その職員がPCR陽性になったと仮定して選定した職員の名簿を当日メールで送信する。
- 職員の感染可能期間における職場内行動歴を洗い出し、エリア担当のゼネラルマネージャ(GM)が何時間で報告を受けたかチェックする。
- 洗い出した濃厚接触者に、陽性者発覚以前から作成していたマニュアルやアクションリストに沿って対応し、GMに報告する。
- 必要な事業所はゾーニングを開始。
- 2階の職員は通常時17人で、以下の基準によりレッドゾーンに入れたのが5人、1人は陽性者、残り11人は一旦自宅待機となった。11人のうち1人は保健所判断の濃厚接触者、3人は法人判断の濃厚接触者で14日間は自宅待機、7人は陰性が確認できた時点から別フロアと他事業所で勤務した。
- レッドゾーンに入ることへの恐怖心や不安は事前の訓練によりかなり払拭されていて、PPEを着たまま8時間勤務する訓練で実際に体験していたことが大きかった。
- 別法人の応援に入った経験から、陽性者が発生した場合には通常の1.5倍の人員が必要になるということが分かっており、応援体制を準備した。
- 通所リハビリは休業したが職員は勤務を継続し、ご利用者宅への訪問入浴かリハビリ、応援を出していたフロアと事業所への補欠要員として勤務した。
- コロナに関する相談窓口が社内に二つあり、感染対策室内でコロナに関わる困りごと、人事内でコロナでのメンタルヘルスに関わることを受けつけた。
- 応援職員のリスト化をする際のレッドゾーン除外配慮基準は以下の通り。
- 妊婦および基礎疾患のある人
- 妊婦および透析を受けている人、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている人と同居している人
- 75歳以上の高齢者と同居している人
- 未就学児童を養育している人
- 一人親として18歳以下の子供を養育している人
- 55歳以上の人
- 介護/看護/リハビリ業務の経験が1年未満の人
- 応援職員は、介護職、看護師、作業療法士の計16人。
- 陽性者が発生した事業所に合わせて応援職員はあらかじめリストアップされており、2日目には法人本部とゼネラルマネージャーで実際に誰が応援に入るかを調整した。
- 迅速に十分な人数の応援職員を出すため基準を「65歳以下の健康な人で家族の理解が得られた方(レッドゾーン担当中は宿泊ホテルを準備)」に今回の陽性対応が終了後に変更した。
- 15日目から職員15人が5日間の特別休暇に入り、補充職員5人/日が派遣された
医療機関、保健所・行政との連携・調整
- 保健所へは毎朝のバイタル確認の結果を報告、感染対策顧問とともに保健所に行ってゾーニングの変更やその後の対応について協議した。
- 町役場に陽性者の情報を報告、県庁への物資での応援要請を行った。
関係事業所・委託先等との連携・調整
- 厨房業者:通常通り配食された。
- リネン業者:フロアで選択後、半透明の袋に入れて「コロナ消毒済み」と記載。
- 洗濯業者:水溶性ランドリーバッグに入れ、口を三回以上紐で巻き、半透明の袋に入れて口を縛り、マイペットで拭く。袋に日付と「希望の杜コロナ未消毒」と記入し、48時間後に回収する。
感染防御資材等の調達
- 6日目に県から補充あり(N95マスク、ガウン、キャップ、ニトリルグローブ、300ずつ)。
事業支出・収入等への影響
- 支出:資材の備蓄消費分、応援職員の宿泊代、職員の危険手当があった。
- 収入:入所は変化なし、通所は休業での収入減、再開後は利用が戻っている。
風評被害と対応
-
特にない。
対応の振り返り
- 備えを手広く行っていて、PPEなど訓練を行っていたことで職員も事前に体験しておけたのはよかった。
- 数年かけてRBA(Rights-Based Approach)を重視して作ってきた法人の理念と職員の使命感で乗り切れたように感じる。
陽性者対応の経験からの学び・教訓
- 職員の迅速で誠実な報告が最も重要な水際対策である。
- 体温・勤務時手洗い・接触歴チェック表(リンク先参照)が効果的であった。
- 抗原検査やPCR検査を医療機関と連携しながら自施設で行えるようにしておく必要がある。
- 陽性が判明した場合、いかに短時間で職場内行動歴=濃厚接触者を把握できるかがクラスター拡大を防止するポイントとなる(概ね2時間以内であれば良い)。
- 感染対応にあたる介護職に伴走する医療の仕組みが必要
- 感染症や感染疫学の専門家による支援が必要
- 有症状者の情報を医療者にスムーズに共有する仕組みが必要
- 行政検査は時間がかかることがあるため、介護施設でも使える迅速PCR検査機器を導入すれば初動対応が早くなる。
- 施設内で感染者が発生した場合に、感染拡大防止のため通常の介護が行えない可能性について、あらかじめ入所者と家族に説明し、同意を得ることが重要
- 陽性者発生ユニットでは、医療ニーズが高くなるため、以下に留意する。
- 医師ホットラインを準備しておく
- 有症状時の対応と報告基準について決めておく
- 救急搬送時に備えどの程度の治療を求めるのか有症状者の報告時に保健所と相談しておく
感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと
- PCR検査のための検体採取に時間がかかり、以下のルールを追加。
- 検体採取の際は対象者全員の名簿を作成し、採取した人/された人を記録。
- 自己採取が可能な人には自身で行ってもらう。
- 検体採取はエアロゾル発生手技であるから換気に留意し、対面を避けて採取する。検査対象者の距離は2m以上確保する。陰圧装置、空気清浄機設置を検討する。
- 検体採取は医師か看護師が行い、検体採取の補助係、名簿チェック係、利用者を案内する係を決めて採取を開始する。など
- 感染対応が必要な場合の身体拘束に関してルールを再検討、マニュアルに追加。
- 入所者も含めたコホーティングの訓練を行い、より実践的に備える。
インタビュー担当:鎮目彩子・堀田聰子
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久