でぃぐにてぃ新宿(訪問介護)
要約
東京都新宿区の訪問介護事業所(職員数16人)で、利用者でもある代表が感染し、出勤があった14人の職員のPCR検査陰性を確認したものの、8人が濃厚接触者に該当したことから、2週間は原則休業となった(代行訪問や家族対応が難しかった一部は代表と接触していないヘルパー1人が訪問を継続)。
陽性者(代表)への訪問は発症以降停止し、入院まで家族対応となったが、退院日の夜から再開。この経験を経て、発症~PCR検査結果待ちの間、また濃厚接触/陽性(独居の場合)となった場合にも、必要に応じてPPE着用で訪問を継続するよう方針を切り替えた。実務的にも精神的にも要となる存在であった代表の感染は、管理者を含む職員にとって困難な経験だったが、コアメンバーの緊密な連携と振り返り、オンラインでの職員会議やアンケート、これに基づく社内SNSでの情報共有・発信、職員による再開準備グループの組成等を通じてのりきり、結果的に組織の成長につなげることができた。
医師からみたポイント
良かったこと- 絶対的リーダーが不在となる中、指揮系統を組み直した
- 職員の状況や気持ちを語り合える機会を作った
複数回にわたり職員全員でのオンライン会議やアンケートを実施することで、職員や家族の状況 - 気持ちを語り合える場を作りました。
- 感染対応をきっかけとしてチームとして成長することができた
- 濃厚接触者を多数出さない日常の関わり方を検討する
どれだけ気をつけても一人目の感染者は発生します。その時に多数の濃厚接触者や感染者を出さないよう、普段のスタッフ間、利用者との関わり方を検討しておくとよいです。
法人概要
法人の経営主体 | 株式会社でぃぐにてぃ |
法人全体の職員数 | 16人 |
法人全体の事業所数 | 1 |
実施事業 | 訪問介護 |
ウェブサイト | http://digunity.co.jp/ |
拠点概要
所在地 | 東京都新宿区 |
実施事業 | 訪問介護 |
併設サービス | 無 |
開設年 | 2015年 |
職員数 | 16人(正社員13人、非常勤3人、代表は含まず) |
利用者数(定員) | 56人(障害福祉サービス利用者>介護保険サービス利用者) |
ウェブサイト | http://digunity.co.jp/ |
新型コロナ陽性者等発生と対応の概要
陽性者数(うち死亡者数) | 1人(代表かつ利用者)(死亡者数: 0人) |
濃厚接触者数 | 8人(職員) |
検査実施 | 濃厚接触者8人に加え、保健所と協議のうえ、出勤があった6人の職員を「接触者」として職員合計14人にPCR検査を実施 |
感染源・感染経路 | 不明 |
事業所が発生・収束とみなす日 | 9月1日(発症)~9月16日(サービス再開) |
発生から収束までの休業や利用制限 | 9月4日~9月15日まで休業 |
事業所外からの応援(法人内外) | 他事業所への代行訪問依頼 |
陽性者発生以前の状況・感染対策等
- 本事例以前の新型コロナにかかわる状況:
- 利用者に発熱の症状がありPCR検査を受け、結果陰性、ということは何度かあった。
- 感染対策の特徴:
- スタンダードプリコーションを職員で共有し実施。
- 37度5分以上の発熱のある利用者への訪問はしないことを基本ルールにしていた。
- 利用者がPCR検査を受けることになったら、同居家族がいれば家族対応にしようと代表と管理者等で話していた。
- BCP策定状況:
- なし
新型コロナ陽性者発生状況と対応の経緯
病日 | 日程 | 項目 |
1 | 2020年 9月 1日 |
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2 | 9月 2日 |
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4 | 9月 4日 |
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5 | 9月 5日 |
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6 | 9月 6日 |
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7 | 9月 7日 |
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8 | 9月 8日 |
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9 | 9月 9日 |
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10 | 9月 10日 |
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15 | 9月 15日 |
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16 | 9月 16日 |
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対応の体制
- 方針の決定や主な対応は、管理者、サービス提供責任者2人、経営企画1人、ヘルパー1人の5人で担った。適宜代表に電話やオンラインで相談・確認した。
- 1日目にもともと上記メンバーによるコロナ対策ミーティング(2回目)が予定されており、陽性者発生時の対応について、連絡先一覧の整理、訪問継続可否のルールが必要と確認した。ただし、A(代表かつ利用者)がほぼ尿路感染だろうと言っていたため、この時点では代表の陽性を疑っておらず、熱が下がったら代表と再度協議の場を持つことを決めて終わった。
- 代表の陽性判明後、調整を待って入院と決まり、代表のwifi環境確保に加え、入院期間が長くなった場合、またもし今後代表復帰が難しいとなった場合に、どの段階で誰に相談すべきか、次の代表を誰にして、どのような手続きが発生するかといった相談を入院前に行った。
- サービス再開日が確定してから、再開に当たって必要な対応等については、「再開準備グループ」を設けて職員に考えてもらった。
情報の収集・把握・共有
- 陽性(疑い)者対応・感染拡大防止に関する情報:
- 感染対策及び会社としての対応について不安が大きく、外部の専門家を人づてに探してレクチャーを受ける(オンライン1回、テキストベース数回)。
- 意思決定・共有・指示のための情報:
- 保健所の指示が的確で早かったのでわかりやすく、夜遅くまで連絡をとりあってくれ、これに基づいて動くことができた。
- 社内の情報共有は従来活用していたTalknote(社内SNS)上でのやりとりが中心になった。
情報の周知・発信
- 利用者、職員、関係機関等への報告・周知:
A(代表であり利用者)の発熱以降、PCR検査予定、陽性判明等ほぼリアルタイムで周知- 外部への情報発信:4日目、7日目、9日目、15日目に状況報告のプレスリリース、SNSに投稿(関係先に送っているFAXと同じもの)
- 外部への情報発信:
4日目、7日目、9日目、15日目に状況報告のプレスリリース、SNSに投稿(関係先に送っているFAXと同じもの)- ホームページが固定でニュースを出すところがなく、SNSの法人アカウントはフォロワーが少なかったので情報発信の場に困り、代表のSNSを主に使った。
- Aが代表であり利用者でもあるため、個人情報をどこまで出すのか、代表としての情報発信をするのか迷った。福祉に携わる者として感染の経験を公にしたいという思いと、家族が地域で暮らしていくことを考えて躊躇する思いなど、折り合いがつかないところがあった。
利用者・入居者への支援と対応
- A(代表であり利用者)の発症前の最終訪問は発症日の午前中。発症後PCR検査を受けることになったら同居家族がいる場合は家族対応に切り替えることにしていたため、発症日午後以降の訪問は休止して、6日目の入院まで家族に対応を依頼した。Aは15日目に退院となり、入院先の医師より「退院後に感染の可能性はない」という言葉を受け、退院日の夜から訪問を再開した。
- 4日目に、状況と少なくとも12日目までサービス停止する旨を電話連絡。数人の利用者については代行訪問してくれる事業所が見つからず、サービスがないと困るということになり、利用者と担当の相談支援専門員等に状況を説明したうえで、代表との接触がないヘルパー1人が訪問を継続した。その際も、利用者との接触を避けるため、ヘルパーが買い物したものを玄関外に置いて利用者に家の中に入れてもらうなどの工夫をした。
- 利用者数名から、「自分が感染しているか心配なのでPCR検査をやってほしい」「自分の検査結果が分からないと他社のヘルパーにお願いできない」との声があったが、PCR検査の対象ではなかったため、保健所の指示内容と状況を丁寧に伝えることで対応した。
- 8日目に、全員のPCR検査結果が陰性だったこと、16日目からサービス再開の予定と決まったことを電話連絡。事務所に出勤していた2人で電話連絡をしたため1日で終わらず、連絡が翌日になる利用者もいた。
- サービス再開時に、サービス停止で迷惑をかけたことのお詫びとご協力のお礼の代表からの手紙とギフトを届けた。利用者や家族は、再開時もあたたかく訪問を受け入れてくれた。
職員の状況とフォロー
- 代表かつ利用者Aの陽性判明後、当日の出勤者は訪問中止で全員事務所へ、休みの職員はそのまま2週間の自宅待機となった。5日目以降休業期間中は、事務所に出勤する職員を管理者とサ責の2人に限定して対応した。
- 発症日までAが事務所に出社していたこと、事務所では職員がAのケアにあたり、近くで食事することもあり、職員の感染が利用者の感染リスクに直結するため、保健所に職員全員のPCR検査を希望した。Aのケア時の接触状況を加味して濃厚接触者は広く8人認定され、残りの職員は接触者との扱いで、保健所により出勤があった全員のPCR検査が了承された。
- 7日目に職員14人がPCR検査を受け、8日目に全員の陰性が判明(管理者はPCR検査を受けたか確認の目的もあり、7日目に職員全員と入れ替わりで顔をあわせた)。
- 6日目、9日目、15日目に全員のオンライン会議を開催し、対応状況や各利用者の状況と職員それぞれの思いを共有した。9日目は職員全員の陰性確認を経て再開日が確定したタイミングで、少し落ち着いて話せるようになった。再開前日にあたる15日目には、サービス停止期間中どう過ごしていたかといった近況報告をしつつ、明日からまたがんばろうと話し合った。
- 会議では主に会社からの情報発信が中心で、一人ひとりの声を聴く時間が十分とれなかったため、7日目、10日目、15日目に職員アンケートを実施して、職員や家族の体調や状況、不安、再開後の心配、不満、疑問などを尋ねた。休業期間の給与についてなど、全員に伝えた方がよさそうなことは、アンケート結果に基づいて判断して適宜全社に発信した。
- サービス再開日が確定したのち、再開後の感染対策や再発防止策、利用者や家族に初めて訪問する際にどのように説明・謝罪するか、などを含めて要点をまとめる作業を職員に依頼した(再開準備グループ)。
- 職員の家族も出勤できなかったり、不安な思いで過ごしたりしていたので、職員本人と家族向けにお茶とお菓子のセットを送る。
- 主に対応に当たっていた管理者、サービス提供責任者2人、経営企画1人、ヘルパー1人の5人はオンラインで何度か打ち合わせしており、サービス再開前日(15日目)には振り返りの場を設けた。でぃぐにてぃの社員でありケア職である自分にとってこのことがどんな体験だったのか、お互いに感じたポテンシャル、それを経てこれからどのように組織に貢献していくかを一緒に考えた。
- サービス再開、また代表の退院・事務所復帰もスムーズに迎えることができた。
医療機関、保健所・行政との連携・調整
- 保健所及び行政(障害福祉課・介護福祉課)とのやりとりは管理者を中心に行った。
関係事業所・委託先等との連携・調整
- 利用者の支援に関わる関係先には、利用者と同じタイミング(「利用者・入居者への支援と対応」を参照)で状況の報告、サービス停止と再開見通し等の電話連絡を行った。
- 関係先へは、7日目、9日目、16日目に状況報告のFAXを送信した。
- 他事業所にサービス停止期間中の訪問を担当してもらったり、「どこにでもありうること」と慰めてもらったり、たくさんのやり取りを通して信頼関係が増したところもあった。困ったときはお互いさまという助け合いの関係に繋がった。
- 他事業所への連絡の際に、訪問予定日が迫った利用者順にケアマネ等に連絡していくと、複数の利用者を担当しているケアマネは何度も連絡を受けたり、同じ事業所で連絡が時間差になってしまい混乱を招いたり、ということがあり、指摘を受けた。
感染防御資材等の調達
- なし
事業支出・収入等への影響
- 支出:
- なし
- 収入:
- サービス停止による減収
- 資金繰り:
- サービス停止の財務インパクトが予想できず資金繰りを心配していた。
- キャッシュカードが感染した代表宅にあるために現金が引き出せないという問題がおこり、ヘルパーが取りに行った。
- 最初は感染拡大状況が分からなかったので、どの段階までいったら銀行や税理士に相談するかを相談した。
風評被害と対応
- 周囲からの厳しい声はほとんどなかった。
- サービス再開後も来ないでほしいという声はなく、大変だったね、というねぎらいの言葉をかけてもらうことが多かった。
対応の振り返り
- 利用者及び職員に濃厚接触者や陽性者が出た場合の意思決定基準と対応フローができていない状態で代表であり利用者でもあるAの陽性判明を迎え、発生時、目の前のことに都度対応するしかない状態だった。まず当日と翌日の訪問中止を決め、全員が訪問にいけるようになるまで休業すると決めたときは日付が分からず12日目までとし、その後、保健所の指導を受けて15日目まで休業と決めた。その度に利用者と関係者に連絡することとなり手間が倍増した。
- 管理者として大きな責任を伴う出来事で、陽性判明直後から職員全員の陰性確認、サービス再開日確定までが一つの大きな山、ここでいったん休みを入れられたが、そのあと対応を続けることがまたたいへんでサービス再開前は疲れ切っていた。後輩職員たちがとても好きな気持ちと、そばで支えてくれている4人がいたからのりきれた。今までの人生で最もストレスがかかったが、結果的に心身ともに確実に強くなった。
- 従来現場については管理者、バックオフィスは経営企画が中心に代表と最終的に確認しながら意思決定していたが、いつも何かあったら代表がいると思っていた代表の感染・入院を通じて管理者のリーダーシップが発揮され、チームの協力体制も強まり、組織のあり方が変化した。
- 職員全員のオンライン会議、職員アンケートの実施、対応メンバーの振り返りと、職員とのコミュニケーションを密に取れたことはよかった。不安の強い状況でお互いの声を聞き、全体の様子を共有することで一緒に乗り越えることができた。
陽性者対応の経験からの学び・教訓
- 対応に当たっている職員と、自宅待機の職員では情報の差が大きくなるので、全体で共有する場を作ることが有効。
- 誰の意思決定で決めるのかを明確にする必要がある。
- 訪問介護利用者にとって発熱時、陽性時にケアに来てもらえないということがどれだけ困ることかを体験から深く理解し、以降、発熱時にもケアを実施している。
- この出来事をどのように捉え、自分ごととするかの振り返りが重要。
感染対応の経験を経て変更したこと・始めたこと
- 発熱時、PCR検査結果待ち、陽性判明後は訪問しないというルールを変更し、感染防御策を講じた上で、訪問を継続することとした。濃厚接触者にはフルPPEで訪問継続、陽性者は独居の場合はフルPPEで訪問継続、その際のケア内容は生活維持に必要最低限のケアに縮小、訪問人数も最低限に絞って実施する予定。
- 陽性者となった利用者への訪問可否について職員アンケートを実施、1人が「不安がある」と回答、それ以外の職員は訪問可と回答した。A(代表であり利用者)の陽性以降、利用者・利用者家族に陽性者等が出たことはないが、陽性判明時に、利用者の身体状況、生活状況、担当職員の状況などを鑑み、個別に支援内容を決定する予定。
- 感染対策に関する定期的な情報共有を行い、PPE着脱の訓練を実施している。
- 各利用者が利用している他サービスを全部リストにした。
インタビュー担当:鎮目彩子・奥知久・長嶺由衣子・堀田聰子
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久
記事担当:鎮目彩子・大村綾香・堀田聰子
医師からみたポイント:奥知久