コロナ禍を支える医療・介護・自治体関係者にエールを送るプロジェクト
要約
一般社団法人 やまなし 空と風では、神奈川県川崎市でコロナ禍の地域を支える医療・介護従事者、自治体関係者などに向けて、ホームページを通じて◎感謝の気持ちを伝える、◎仕事に対するモチベーションアップに繋げてもらう、◎心身のリフレッシュのきっかけを提供する「Kawasaki Thanks Bridge Project」に取り組んでいる。
このプロジェクトでは、自身も不安や苦労、ストレスを抱えながら地域に寄り添い続けてくれている医療・介護従事者がいることを広く市民に知ってもらうことも大きな目的としている。地域の方々に、医療・介護従事者の役割を伝えた上で、自分たちにもできることがないか考えてもらう。その一つがエールを送ることへの協力かしもれないし、こんなこと、あんなことができるという声を集めて、いろいろな形で医療・介護従事者のサポートにつなげられたらと意欲を示す。
- 神奈川県川崎市
- Kawasaki Thanks Bridge Project
- やまなし空と風
- 現場を知る
- 感謝を伝える
- リフレッシュ
- ♯広がれありがとうの輪
- かわさきスポーツパートナー
- 地元企業と協力
詳細
2021年1月6日
目次
- 介護従事者,
- 医療従事者,
- 自治体関係者,
- 学校関係者,
- 教育関係者,
- 地域住民
橋本 竹史さん takeshi@dol.jp.net
やまなし空と風-Discovery Of Life-の概要
Kawasaki Thanks Bridge Projectの企画運営を行う一般社団法人やまなし空と風-Discovery Of Life-の理事長・橋本さんは、長年、大手PR会社で製薬会社や学会を主なクライアントとして、顧客が抱える課題を広報やコミュニケーションで解決する仕事をしてきた。そのなかで、大橋博樹先生をはじめ多くの素敵な医師や患者さんとの出会いがあったことから、もっと医師や患者、当事者に近づいた仕事をしたいという思いが年々強くなっていった。
周囲が背中を押してくれたこともあり、会社を早期退職して、2017年、母親の出身地である山梨県北杜市にある古民家「CASA小野」をベースに、やまなし空と風の活動を開始した。法人理事は、PR会社時代からの付き合いがある様々なバックグラウンドをもつ顔ぶれで、平均年齢は約70歳(60~88歳)。活動の柱はCASA小野と登戸(川崎市多摩区)の2ヵ所で行っている「健康よろずカフェ」とCASA小野での「発達障害サポート」だ(現在コロナで休止中)。
健康よろずカフェ(2017年5月~ )
健康よろずカフェは、死生観を考えるきっかけにしたいと、一般の方を対象に毎月1回開催している。参加者の平均年齢は70歳くらいで、午前中は医師からの講義で、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)や看取りの話、ホスピスの患者さんの話など取り上げてきた。みんなでランチを囲み、午後は参加者が一緒に楽しむ時間で、大学生ボランティアが落語やジャグリングを披露したり、昔懐かしい歌をセッションをしたりなどしている。
健康よろずカフェを通じて、医療や市民の垣根を越えた関係や、世代や背景を超えたいい関係ができており、2018年の夏からは、同様のカフェを川崎でも毎月開催していた。
発達障害サポート(ソーシャルスキルトレーニング)
玉川大学の発達障害やダウン症など障害児教育のノウハウと、医療者の経験や知見を融合させると素敵な変化が起きるのではないか、そして自然の中で自由に過ごしながらソーシャルスキルの向上も期待できるのではと考え、発達障害やダウン症のお子さんたちに、2か月に1回、古民家に2泊3日の宿泊体験に来てもらっている。
宿泊に来る子どもたちの何人かは健康よろずカフェの手伝いにも来てくれており、いつも助けを受けることの多い子どもたちが何かしてあげる立場になって、できることがどんどん増えてきた。
Kawasaki Thanks Bridge Projectの概要
プロジェクト発足の経緯
あるとき大橋先生からコロナ禍で医師だけでなく広く医療・介護従事者の皆さんの心が折れそうになっているという話を聴いた橋本さんが、何かできることはないかという思いから、やまなし空と風のメンバーで立ち上げたのがKawasaki Thanks Bridge Projectだ。
プロジェクトに川崎市を選んだ理由は、大橋先生とのつながりもあるが、ファミリー層も多いが高齢者も多く、多様性のあるまちづくりを進めているからこその悩み・不安や課題があると考えたからだという。
プロジェクトの目的
プロジェクトの目的は、コロナ禍において川崎市で地域を支える医療従事者、介護従事者、自治体関係者などの人々にホームページを通じて◎感謝の気持ちを伝えること、◎仕事に対するモチベーションアップに繋げること、◎心身のリフレッシュのきっかけを提供することであり、さらに、このプロジェクトをきっかけに、コロナ禍で自身も不安や苦労、ストレスを抱えながら地域に寄り添い続けてくれている人たち(医療・介護関係従事者)がいることを広く市民に知ってもらうことも意図した。
地域の方々に、医療・介護従事者のことを知ってもらった上で、自分たちにもできることがないか、考えてもらう。その一つがエールを送ることへの協力かしもれないし、こんなこと、あんなことができるという声を集めて、いろいろな形で医療・介護従事者をサポートできたらと意欲を示す。
公益社団法人川崎市医師会、公益社団法人川崎市病院協会、公益社団法人川崎市看護協会、公益社団法人川崎市歯科医師会、一般社団法人川崎市薬剤師会、社会福祉法人川崎市社会福祉協議会、一般社団法人川崎市鍼灸マッサージ師会、川崎市介護支援専門員連絡会、川崎商工会議所
プロジェクトの検討開始(2020年9~10月頃)
まず、理事と相談しながらプロジェクトの検討を開始した。法人理事の山崎曉さんは、市民が単に地域医療を担う方々に感謝を伝えるのでなく、それぞれの医療・介護従事者の役割や、どんな課題や不安をもっているかをちゃんと知ってもらったうえで感謝を伝えるほうがいいとアドバイスしてくれた。また、大橋先生からは「今の医療・介護従事者は、リモートであっても決められた時間にイベントを見に行って楽しむ余裕はない」と聞き、それならば気が向いたときに見てもらうようなコンテンツにしようということになった。
プロジェクトの3本柱
こうして、プロジェクトは「知る・共感する」「感謝を伝える」「リフレッシュしていただく」を3本柱としてホームページで展開していくことに決まった。
現場を知ろう(知る・共感する)
医療・介護従事者や自治体関係者が、このコロナ禍で、どんな仕事をして、どんな苦労や不安、思いでいるのか、市民の人たちに知って欲しいメッセージを動画、漫画で紹介して市民との接点、共感を得ることが目的で、動画はYouTubeにも掲載して拡散。
さらに、今、日本の伝統文化である紙芝居によって、川崎の地域医療がこのコロナ禍で何が起きているかを、伝え広げていきたいと考え、社会福祉協議会、紙芝居劇団、地元中学校、大学漫画研究会とのコラボを計画し、企画中。
ありがとうを届けよう(感謝を伝える)
ホームページを見てくれた方々に、医療・介護従事者、自治体関係者に感謝の気持ちを伝えるThank you Letterや絵、動画の投稿を呼び掛ける。投稿されたものは、ホームページ上で公開するだけでなく、手紙や絵は実物を見てもらいたいので、紙ベースでも職能団体や個人宛に郵送していく予定。
ホッと一息(リフレッシュしていただく)
気が向いたときに見てもらい、医療・介護従事者や自治体関係者が心身ともにリフレッシュしたり、モチベーションアップにつながったりするようなコンテンツ(落語、ヒーリング動画、マインドフルネス、歌、など)を掲載。
アンバサダーの活用
気象予報士の木原実さんとフリーアナウンサーの町亞聖さんの2人が、アンバサダーとしてプロジェクトに参加している。アンバサダーには、ホームページの動画コンテンツに登場してもらったり、各自のSNSを使ってプロジェクトの紹介やThank You Letterの投稿を呼び掛けてもらう予定だ。
「♯広がれありがとうの輪」プロジェクト(厚生労働省)の賛同プロジェクトになる
「#広がれありがとうの輪」プロジェクトとは、2020年12月に厚生労働省が立ち上げた、新型コロナウイルス感染拡大及び偏見・差別防止を図るための、官民が一丸となった対話型情報発信プロジェクトだ。この情報をネットで見つけてすぐに厚労省に連絡をとったところ、一緒にやっていきませんかと声をかけてもらいKawasaki Thanks Bridge Projectは「♯広がれありがとうの輪」プロジェクトの賛同プロジェクトに入ることになった。
プロジェクトホームページの公開(2021年1月末~)
プロジェクトの準備を進め、1月末にはホームページの公開を予定している。最初は限られた数のコンテンツかもしれないが、徐々に増やしていく。
(⇒2021年2月15日に公開された。https://kawasaki-thanks.jp/)
プロジェクト実施にあたっての具体的な活動内容
実施体制
プロジェクトメンバーは、橋本さんと全体のプロデュースをする山崎さん、ホームページ、動画、チラシやポスターの制作を担当する人など8人ほどで、これまでのネットワークから集まったその道のプロ達が、実費以外、手弁当で参加している。
情報共有・連絡ツール
プロジェクトメンバーとの情報共有はメールと電話が中心で、リモートはあまり使わず、会って話をすることを大事にしている。また、対外的にもチーム内でもタイムリーに動けるように、クイックレスポンスを合言葉にしている。
資金集め
プロジェクトの資金は企業からの協賛金(1口10万円、目標額600万円)が頼りだが、資金集めには一番苦労している。集めた資金の利用先で大きなところは、HPの制作とメンテナンス、動画や漫画によるコンテンツづくり、投稿してもらった手紙や絵を紙ベースで医療・介護従事者に届けるために実物を送ってもらう送料(実費)だという。
資金集めのために、川崎をベースにしている140社くらいの企業リストを作って、片っ端から営業に回っているが、企業を回る人手も足りておらず、まだ目標の1/10程度の集まりである。理由の一つとして、企業からは「いいプロジェクトだと思うが会社の業績が悪く協力できない」という声が多く聞かれるという。協賛金の他に、助成金の獲得やクラウドファンディングなども狙って、何とかプロジェクトを実現させたい。不安はあるが、何とかなると楽観的に思っていると話す。
クラウドファンディングで500万円の資金を獲得した。また川崎商工会議所の後援を得られたことから、会員企業を中心に、今後、協賛集めを行う予定。
協力者の輪を広げる
・学校や幼稚園へ
家庭医の先生方は園医や校医をしていることが多いことから、先生方からの紹介、また自分の所属する教会から付属幼稚園のある教会の牧師さんを紹介してもらっている。幼稚園や保育園では、園単位で園児に絵をかいてもらおうという話を進めている。
・大学生へ
青山学院大学の落語研究会は、健康よろずカフェのつながりがあり、今回も落語のコンテンツを提供してくれている。その他、川崎市にある大学(専修大学、明治大学、洗足学園音楽大学)には飛び込みで協力依頼を行っている。
・プロスポーツチームへ
川崎市は同市をホームタウンとする6つのトップチーム(サッカー、バスケットボール、バレーボール、アメリカンフットボール、野球)を「かわさきスポーツパートナー」に認定している。橋本さんはそこに目をつけて各チームにプロジェクトへの参加を依頼したところ、ほとんどのチームから快諾を得られたので、選手からの応援メッセージ動画を作って、「ありがとうを届けよう」のページに順次アップしている。
・地元企業の社長から社員まで
健康経営を謳う地元企業の富士通ゼネラルから、在宅勤務する社員向けに作成した自宅でできるリフレッシュストレッチやヒーリングミュージックの動画をプロジェクトのコンテンツとして提供してもらえることになった。また、社長自ら社員に向けて、プロジェクトへの協力を呼び掛けるメッセージを送ってくれている。
今後の展開
橋本さんは、山梨に恩返しをしたいという思いがあり、川崎と同様のプロジェクトを健康よろずカフェで実績のある山梨でも展開していきたいと考えている。今回、川崎でのプロジェクトを立ち上げる際に、並行して山梨県や甲府市にも相談したが、素晴らしいプロジェクトだが、まず川崎で実績を作って欲しいとのことだったので、今回の実績を示して話を進めていきたいと話す。
この活動の先へ
また、今回のプロジェクトの経験は違うテーマでも生きるはずだと考えており、コロナの収束後は次のテーマを考えていきたいという。特に、前々から地域コミュニティの中でのスポーツのもつ力に注目しているので、医療とスポーツ、そして発達障害のコミュニケーションスキルを組み合わせて、何か地域で面白いことをしたいと思いを語った。
■参考 Kawasaki Thanks Bridge Projectホームページhttps://kawasaki-thanks.jp/
一般社団法人 やまなし 空と風ホームページhttp://www.sorakaze.or.jp/about.htm
広報誌「厚生労働」2021年1月号
新型コロナウイルス最前線 第3回 「#広がれありがとうの輪」を通じて、感染症に強い社会の実現をめざす
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202101_00004.html
ホームタウンスポーツの推進(川崎市)https://www.city.kawasaki.jp/kurashi/category/32-4-5-0-0-0-0-0-0-0.html
インタビュー担当:長嶺由衣子
記事担当:菅原かほる