みんコロラボ 〜みんな、新型コロナ対策どうしてる?〜

訪問看護の支援・事業継続を目指す生野区ナース会の協力システム

要約

生野区ナース会では、新型コロナが広がる中、訪問看護ステーションが活動休止になった場合でも、地域のステーション同士が連携して、ケアを必要とする人の訪問看護を途絶えさせず、休止後の再建を助け合うための協力システムを立ち上げた。

立上げの中心を担った平山さんは2020年にステーションを開設したばかりだったが、ナース会でアンケートを実施して、同じ危機感をもつステーションが多く存在することを明らかにしながら、仲間を巻き込みシステム構築を進めていった。

災害対策を想定した地域の区分けを活用して、各ステーションの強みを生かした役割分担がなされ、在宅医療介護連携コーディネーターを通じて医師会の協力も得られ、スピーディにシステムづくりが実現した。

協力システムの運用を通じて、ナース会のメンバーから、本当に役立つシステムだと実感してもらうことができ「システムがあって何かあったときに助けてもらえるから安心して訪問ができるようになった」といううれしい声をもらっている。

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詳細

インタビュー実施日:2021年1月7日


この記事を読んでもらいたい方

  • 訪問看護ステーション管理者,
  • 訪問看護師,
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お問合せ先の担当者、連絡先医療法人葛西医院 訪問看護ステーションかっさい
TEL:06-7161-5793
FAX:06-4980-7088
Mail:kango@kassai-st.com
お話を聞かせていただいた方医療法人葛西医院訪問看護ステーションかっさい 管理者
在宅看護専門看護師
平山 司樹 さん

大阪市生野区の訪問看護ステーション連絡協議会(以下、生野区ナース会)では、新型コロナが広がる中、訪問看護ステーションが活動休止になった場合でも、地域のステーション同士が連携して、ケアを必要とする人の訪問看護を継続するとともに、休止後の再建を助け合うことを目的とする生野区ナース会新型コロナウイルス対策協力システム(以下、協力システム)を立ち上げている。そこで、立上げに中心的な役割を果たした平山司樹さんから話を聞いた。

生野区ナース会と平山さん

生野区ナース会は、区内にある約40の訪問看護ステーションのうち、地域向けに活動している19のステーションが加入している。その7割以上は小規模ステーション(常勤換算5.0以下)だ。

平山さんが管理者を務める訪問看護ステーションかっさいは、コロナ禍の2020年3月に開設したばかりの新しいステーションで、開設と同時にナース会にも加入したが、ナース会においては新参者という。

協力システム構築のきっかけは利用者さんの声

新型コロナが広がる中、平山さんは、がん末期で独居の利用者さんから「かっさいさんに来てもらえなければ、家で暮らすことが難しくなる、家で最期まで暮らしたい」という言葉を聞いて、初めて具体的な危機感を感じた。

そして、同じように危機感を持っているステーションが他にもあるのではと仮説を立て、2020年4月にナース会メンバーを対象にコロナ対策緊急アンケートを行うことにした。

共通の危機感を明らかにした「コロナ対策緊急アンケート調査」

平山さんは生野区ナース会に加入したばかりであることから、人望も発信力もあるナース会のメンバーに協力を仰ぎ、相談しながら進めた。

アンケートをFax送信した17ステーションのうち12ステーションから返信があり、その回答から、多くのステーションで感染防護具が不足しており、小規模のステーションでより深刻であること、ステーション閉鎖への危機感を強く持っていることがわかった。そして、半数以上のステーションが不安や緊張感を持ちながら訪問を続けており、スタッフのメンタルヘルスにも懸念をもっていた。また、アンケートでは、生野区内のステーション同士で助け合うシステムをつくることの是非についても尋ねており、多くのステーションから希望するとの回答を得たという。

アンケート結果から、ナース会には自分と同じ考えを持っている人がたくさんいると確信した平山さんは、さっそく協力システムの立ち上げに向けて動き始めた。

目的を2つに絞って協力システムの素案をつくる

平山さんは、協力システムの目的を、新型コロナによりステーションが休止となった場合に、①地域の連携するステーションが利用者・家族の支援を引き継ぐことで、在宅療養の継続を叶えること、②休止による被害を1つのステーションが担うのではなく、生野区ナース会として担い、守り、ともに再建していくことの2つに絞り、協力システムの素案をまとめていった。

① 休業中も利用者・家族に必要なケアを途絶えさせない

ステーションの職員や家族が新型コロナに感染した場合に、ステーションの休止期間は検査結果が出た日から2週間を想定し、休止期間は連携する別のステーションが訪問看護に入って療養を支えていく(訪問看護指示書やケアプランは新たに発行する)。

協力システムに参加するステーションでは、事前にケアの必要度の高い利用者・家族の3段階トリアージ(1.絶対に訪問が必要な利用者、2.訪問回数を減らすことのできる利用者、3.休止期間は訪問を先延ばしできる利用者)を行い、リスト化して必要な処置の手順書を作成、それを地域毎に設けたキーステーションにとりまとめて、いつでも情報共有ができるようにしている。平山さんは、トリアージは時間的に制限のある中で、できる限りシンプルなものを採用したと話す。

② 休止後のステーション再建を助け合う

新型コロナで休止となったステーションは、休止期間中だけでなく再開後も風評被害の可能性があることから、経営難となりうることが容易に想像できる。

そのため、保健所から再開の許可を確認したら、そのステーションの安全性を「生野区ナース会」として保証していくこととした。また、休止中に引き継いだ利用者は、ステーション再開後に速やかにもとのステーションに返していくことで、経営の再建につなげるという。

生野区ナース会メンバーに協力システムの素案を説明・提案

まず、アンケートに協力してくれたステーションに、生野区ナース会のメンバーに共通する課題がたくさんあったという文章を添えて、調査結果を返していった。メンバーが同じ危機感をもっているという共通認識を醸成するにあたって調査結果の数字はインパクトがあり、お互いに助け合うシステムをつくろうと話をもっていく中で大きな説得材料となった。

また、ナース会メンバーに協力システム立ち上げを働きかけた4月は、ちょうど区内の2カ所の病院で大きなクラスターが発生した時期だったこともあり、「いつ、どこで、誰が感染するかわからない。大きな病院でも感染者が発生すると風評被害が起こっているなか、小規模なステーションには深刻な影響が起こるかもしれない」と話し、2つ目の目的である助け合いによって事業継続をはかることを強調して説明した。

いくつかのステーションでは、最初「いいシステムだけど、何かあっても、うちはマンパワー不足で他のステーションまで助けることはできないから参加が難しい」という返事だったが、②の目的をしっかり説明すると、やっぱり危機管理は大事だねとなって、最終的には全てのステーションがシステム立上げに賛同してくれた、と平山さんは振り返る。

既存の仕組みや役割も活用

また、平山さんは生野区ナース会にもともとあった連絡網や、災害対策を想定した地域の区分け(生野地区、鶴橋地区、東生野地区、巽地区の4地区に分ける)はそのまま採用し、ナース会メンバーから意見があれば、できる限り受け入れて柔軟に変更していった。

各地域でステーションの取りまとめを担うキーステーションを決めるにあたっても、いつもナース会でまとめ役をしていてパワーもやる気もある人たちに「ぜひリーダーになってもらいたい」とお願いすると快く引き受けてくれたと言う。

そして、平山さんは各ステーションにシステム立ち上げを働きかけるにあたって、ナース会では新参者であったこと、在宅看護専門看護師の有資格者であり医療法人立のステーションの所属であることなどから、相手からみて脅威ととらえられないように細心の注意を払っていったと話す。

在宅医療介護連携コーディネーター経由で医師会に協力依頼

訪問看護ステーションが利用者を訪問するには医師からの訪問看護指示書が必要であり、休止したステーションから利用者を引き継ぐ過程で、主治医に新たな訪問看護指示書を書いてもらう必要がでてくるため、協力システムへの医師の理解は必須条件となる。

そこで、平山さんは訪問看護師と医師の双方にとって負担なく円滑に訪問看護指示書のやり取りができるよう、生野区ナース会として医師会に協力を求めることにした。医師会の在宅医療介護連携コーディネーターに説明して、目的の1つ目の「利用者とその家族にとっての在宅療養継続を支えるシステム」であることを強調して伝えてもらったところ、医師会の協力快諾が得られ、医師会から会員医師に協力要請をFAXで呼び掛けてもらうことができた。

2020年8~9月 初めてのシステム運用

実際に8月から9月にかけてシステムを運用することになり、当該地区で関係したステーションの方たちからは「思った以上にスムーズだった」と、かなりいいフィードバックがあった。キーステーションの調整作業も、それほど負荷にはならなかったという。

生野区ナース会のメンバーには、運用上の大きなトラブルはなく、本当に役立つシステムだと実感してもらうことができ、そして「システムがあって何かあったときに助けてもらえるから安心して訪問ができるようになった」といううれしい声をもらっていると話す。

システム運用を経た修正点

システムの運用を経て修正した点は報告の手順のところ。当初はA訪問看護ステーションに感染者が発生した場合に、キーステーションに全ての情報を集約して、キーステーションから情報発信する手順になっていた。しかし、発信する情報には感染者の個人情報なども含まれており、どこまで情報を開示すべきかキーステーションが困ってしまった。そこで、キーステーションに報告はするが、被害状況や利用者さんの状況は、感染者が発生したAステーションから、新型コロナ扱いのメディカルケアステーション(MCS)で発信する形にした。

もう一つ、利用者さんのケアの手順書や注意点を事前にまとめておらず、協力するステーションが困ったことがあったので、できる限り事前に作ろうと改めて話し合い、手順書も作れないような状況であれば、困った時にすぐ電話ができる体制を作っておこうということになった。

図. (稼働後修正版)生野区ナース会新型コロナウイルス対策協力システム

出所:いくのナース会

在宅療養する陽性者への対応

陽性者に訪問できる訪問看護ステーションは増えておらず、ご自身の事業所でも他の利用者さんもいるので積極的には訪問しない方針に変わりはないと話す平山さん。それでも、訪問している利用者さんが陽性と判明して、入院できるまでの間はサービスを継続するという。まだ経験はないが、最初は訪問したうえ、電話やLINE電話などにできるところは切り替えつつ入院まで遠隔で体調管理や見守りをしていくことになるのではないかと想定している。

協力システムに関するFAQ

訪問看護ステーション等からのお問合せや取材も多いとのことで、他の地域の参考になればと、システムに関するFAQを紹介してもらった。

連携体制

地域内の全てのステーションが入って一緒にシステムを運用しなければという意識の強いところが多いようだが、まずは、日頃から仲のいいステーション同士で助け合うシステムから始めてもいいし、地域区分等はステーションの数に合わせて柔軟に増減すればよいと考えている。

報酬の取り扱い

報酬についてはシンプルに、緊急や特別管理加算等の加算関係は休止となる元の事業所が算定し、協力する事業所は訪問による報酬のみ算定するものとした。新たに契約を結ぶことは利用者にとって負担かもしれないが、少し複雑なことがあっても訪問を希望されるのは、それだけ訪問看護が必要ということなので、そこがもう一つのトリアージになる。

個人情報の取り扱い

新型コロナの感染によって事業所を休止する場合、訪問看護が必要な利用者については、休止期間中も他の訪問看護ステーションからの訪問が利用できる旨を本人と家族に説明し、口頭で同意を得たうえでキーステーションへ報告する。協力する事業所は、訪問開始にあたって、新規利用者と同様の手順でその方と契約書、重要事項説明書と個人情報の取り扱いについての同意書を交わすため、個人情報に関するハードルは高くない。

協力システムの成果

平山さんは、今回の協力システムの立ち上げにより、行政や他の地域のステーション、近隣の訪問看護ステーション連絡協議会などから多くの問い合わせがあり、生野区ナース会の評価が上がっていると感じる。また、生野区ナース会の協力システムは、シンプルで抽象度が高い分、何らかアレンジしたらどこでも使えると考えており、実際にこのシステムを参考にしているという地域の話も聞いているので、生野区内での訪問看護サービスの継続、事業継続を通じた貢献に加え、他の地域にも貢献できているとすれば、それも大きな成果だと語る。

今後のチャレンジ

新型コロナを機に始まった協力システムだが、災害時等を含めた対応の基盤づくりにもなっていることから、各訪問看護ステーションのBCPから訪問看護ステーション間の連携型BCP、さらに地域全体へと発展させていきたいという平山さん。既にBCPについては全国の仲間たちと学びあいながら策定に取り組みつつあるという。

さらに、自身のステーションとしては、地域の不動産屋さんを巻き込んで、訪問看護の見守りを活用して孤独死を防ぐ取組みができないか話を進めている。訪問看護を手がかりとして地域の暮らしを守るチャレンジは続いている。

■参考文献 平山司樹(2020)「訪問看護の継続を目指した、法人を超えた連携:生野区ナース会新型コロナウイルス対策協力システム」『訪問看護と介護』25(8)642‐647,医学書院.

■参考資料 いくのナース会「新型コロナウイルス対策協力システム(令和2年10月9日修正版)」

インタビュー担当:堀田聰子
記事担当:菅原かほる

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