訪問介護を軸とする地域づくりと緊急時の支援継続に向けた協力体制
要約
2020年11月、流山市シルバーサービス事業者連絡会 訪問介護事業部会は、流山市とともに、訪問介護事業所が新型コロナの影響等で休業を迫られた際に、利用者への支援の継続と事業運営の継続を目的とする相互協力システムを立ち上げた。
まず、2020年4月に訪問介護部会でアンケートを行い、利用者・スタッフ等が感染した場合の支援・事業継続意向、感染に対する知識や技術への不安などの実態を明らかにし、市に協力を働きかけた。6月には部会でシステムの立上げを決定してオンライン研修を実施。その後、市役所も参加して医療職による感染対策研修、飛沫可視化に基づく民家での多職種研修、他地域の経験に学ぶ研修を重ねつつ、最初から研修に参加した8事業所を中心にシステム構築の検討を進めた。現在では20事業所がシステムに参加している。
今後は、部会に所属していない事業所に対して、部会およびシステムへの参加を促していくとともに、自宅療養する陽性者を支援できる仕組みづくりにも取り組んでいきたい。
- 千葉県流山市
- 訪問介護
- 社会福祉協議会
- 感染対策研修
- 相互応援
- 支援継続
- トリアージ表
- 手作りエプロン
- 飛沫可視化
- COVID-19在宅医療・介護現場支援プロジェクト
- 事業所アンケート
詳細
インタビュー実施日:2020年12月25日
目次
- 訪問介護事業所ハートケア流山の開所と訪問介護事業部会への参加
- 訪問介護を軸に広がるハートケア流山スタッフの活動
- 2020年3月末COVID-19在宅医療・介護現場支援プロジェクトへの参加
- 2020年4月ディフェンスライン流山の立上げ
- 2020年4月市役所への防護用ガウン備蓄を要望
- 2020年4月下旬~住民ボランティアによる使い捨てエプロン作製
- 2020年4月訪問介護・訪問看護の部会で会員アンケートを実施
- 2020年5月アンケートをもとに支援継続に向けて市役所に働きかけ
- 2020年6月訪問介護事業部会初のオンライン研修
- 2020年7月市役所も参加した感染予防対策研修会
- 研修企画・準備も市役所と一緒に
- 11月には緊急時の支援継続システム始動を念頭に協議
- 2020年9月ふれあいの家を活用した多職種による研修と意見交換
- 2020年10月大阪市生野区の訪問看護協力システム等から学ぶ研修
- 2020年11月1日訪問介護事業所の緊急時における支援継続システム始動
- システム参加事業所の拡大を目指して
- 在宅療養する陽性者の支援継続に向けて
- 介護事業所管理者,
- 介護職員,
- 介護団体関係者,
- 自治体担当者,
電話 04-7178-2200
流山市シルバーサービス事業者連絡会 訪問介護事業部会長雨澤 慎悟 さん
訪問介護事業所ハートケア流山の開所と訪問介護事業部会への参加
雨澤さんは、老健等での勤務を経て、2015年に身体介護に特化した訪問介護事業所ハートケア流山(以下、ハートケア流山)を開所。地元で身体介護の勉強会を開いたり、他の訪問介護・訪問看護事業所と日々学びあうなかで、特に重度の方への介護技術を学ぶ機会がないという声を聞いていた。そこで、地域全体の介護レベルの底上げをはかり、地域をよくしようという思いもって2017年に訪問介護事業部会に参加した。
2018年に部会長となり、1年目は従来のやり方を踏襲したが、その後、事業類型別の部会の合同研修のような形で研修を統合。中重度の方にもしっかり身体介護ができる知識・技術を身に着けようと企画を重ねていた。新型コロナ対応も一緒に考えてきた訪問看護の天野さんが、日頃のケアのつながりから初めての外部講師として勉強会に来てくれた。
流山市 訪問介護事業部会とは
流山市シルバーサービス事業者連絡会は、市内の介護サービス事業者間の連携を図ることなどを目的に設立されたものであり、流山市社会福祉協議会が事務局を担う。訪問介護事業部会は事業類型別の部会のひとつで、市内40の訪問介護事業所のうち約半数が参加、雨澤さんが2018年から部会長を務める。2019年度までは、介護の質を向上させる目的で、年間4~5回研修を開催していた。年間の活動費は、法人単位で1,000円/年の会費と市から研修の講師招聘料として7万円/年。
訪問介護を軸に広がるハートケア流山スタッフの活動
ハートケア流山のスタッフ4人の活動は、日々の訪問介護の提供や介護技術の向上に向けた取組み、その研究発表に留まらず、安心して暮らせる地域づくりへとさまざまな展開を見せていた。
2018年には介護の仕事が好きな仲間たちが時に辞めざるを得ない現状に対して何かできないかという思いにスタッフ同士が共鳴、法人・職種を超えて職場で抱える悩みを打ち明け、成長しあう学び舎をめざして県内の仲間たちと「介護の未来を創る会」と称する勉強会を始動。
地域の高齢者や認知症に対する理解を高めることを目的とする活動としては、事業所の隣にある千葉県立流山北高校の「地域連携アクティブスクール」の取組みに協力して年間を通したカリキュラムを組み、2年目からは地元の専門学校とも連携して毎週介護にかかわる授業を実施。さらに、認知症の人や家族、医療福祉関係者等が一緒にタスキをつなぎ、全国を縦断するイベントである「RUN伴2019ながれやま」ではスタッフの1人が実行委員長を務めた。
コロナ禍における使い捨てエプロンづくりで活躍する坂梨さんとの出会いは、千葉県の医工連携の仕組み。モノづくり企業が介護や医療の現場に役立つ製品を開発できるよう知恵を出し合った。坂梨さんが流山市東(あずま)自治会の防火防犯部長を務めていたことから、地域防災に関する問題意識も一致、自治会で有事に車いすが必要な人の避難訓練を実施していた。
2020年3月末COVID-19在宅医療・介護現場支援プロジェクトへの参加
そんな雨澤さんたちも、新型コロナウイルスの影響が徐々に広がるなか、これは何かまずい、何かしないと、と思っても、最初はどこから手をつけたらいいのかわからなかったという。
転機になったのは天野さんに誘われて参加した在宅医療・介護の現場等で働く専門職有志によるCOVID-19在宅医療・介護現場支援プロジェクト(以下、有志の会)。特に都内の訪問看護師が「陽性者が出たら訪問介護はサービスに入らないのではないか」話すのを聞いて、何かやらなきゃいけないという思いが強まった。
もともとハートケア流山の裏側は川で、2階まで水没する恐れがあることから、自分の事業所が機能停止になったら利用者はどうなる?という思いから、訪問介護事業部会の人たちにも災害時の相互応援の必要性を話していたこともあり、在宅ケアがコロナ禍でも継続できる仕組みが急務と考えた。
2020年4月ディフェンスライン流山の立上げ
雨澤さんと天野さんは、有志の会を契機にコロナ禍での取組みについて個別に連絡をとりあうようになり、ディフェンスライン流山というChatwork(クラウド型ビジネスチャットツール)を使ったグループを立ち上げた。メンバーには訪問看護の天野さんの他、地域包括センター長、地域住民として坂梨さんや漫画家さんも入っている。
2020年4月市役所への防護用ガウン備蓄を要望
訪問介護事業所では、もともとガウンを備蓄しておらず、必要になって購入しようとしても手に入らず、価格も高騰していた時期。雨澤さんは天野さんと一緒に、市役所がガウンを備蓄して、何かあったらそこからすぐに手に入るような仕組みが必要だという要望書をもって介護支援課を訪ねた。市はガウン1,000着を購入・備蓄して必要時に支給できるようにしてくれた。
2020年4月下旬~住民ボランティアによる使い捨てエプロン作製
雨澤さんは、ディフェンスライン流山に参加していた坂梨さんにも訪問系事業所でのエプロン不足を相談する。
坂梨さんは、訪問介護や看護事業所のスタッフとサービスを利用する市民を守ることを目的として、市販の45リットルごみ袋から使い捨てエプロンを作ることを思い立つ。地区の自治会や民生委員の方々等に声をかけたところ快諾を得て、住民ボランティアによる「ディスポ型エプロン応援団」が始動した。
エプロンは1枚10円で各事業所が買い上げる仕組み。ボランティアの輪は近隣市にも広がり、5月には2,000枚、8月には6,000枚を超えるエプロンを作製。エプロンの代金は貯めておいて、防災グッズを買うなど地域のために使うことになっている。
出所:雨澤さん提供資料(「流山市統合モデルの構築を目指して」ディフェンスライン流山)
2020年4月訪問介護・訪問看護の部会で会員アンケートを実施
ディフェンスライン流山の話し合いの中で、まず地域の現状を知るためにも訪問介護事業部会は雨澤さん、訪問看護については天野さんがとりまとめを担ってアンケートをしようということになった。
訪問介護事業部会が会員アンケートを実施するのは初めてだったが、感染防御資材のこと、利用者や家族が発熱・感染、スタッフが感染した時のサービス継続等に焦点を絞った内容にしようと、雨澤さんが自ら原案を作り、メンバーに回覧して2日後にはFax送信した。
マスクに加えてガウンの不足感が高いこと、事業所の感染対策の不安や医療職による研修の必要性、そしてコロナ禍でサービス継続が危ぶまれることなど、予想通りの結果が得られた。
2020年5月アンケートをもとに支援継続に向けて市役所に働きかけ
雨澤さんは、事業所間の相互応援によりコロナ禍でも支援継続ができる仕組みが必要と思ったときから、早い段階で市役所を巻き込む必要があると直感していた。付帯業務が多いので効率的な方法がないと運営は難しいこと、他の事業所に声をかけたり説得したりするには市役所の後ろ盾があるとやりやすいこと、そしてガウンの備蓄と同様、事業所単位ではなく地域で解決すべき問題だと考えていたからである。
訪問介護事業部会としてのアンケート実施も、その突破口ととらえてのことであり、部会の総意として市に働きかけを試みた。流山市との連携を強固にするために、流山市社会福祉協議会から流山市長に依頼文を書いてもらい、また、健康福祉部長との合意形成に取り組んだ。会長・副会長揃って部長と面会したところ、部長はその場で協力を約束してくれた。
2020年6月訪問介護事業部会初のオンライン研修
訪問介護事業部会の会員で新型コロナ対応について話し合おうと、Zoom研修を呼びかけた。当日は会員全体の半分に満たない8事業所しか集まらなかったが、それは雨澤さんの想定内で、研修を重ねて相互協力のシステムを作るには、まずこの人数でいこうと考えた。
「この8事業所で地域を作っていくと思ってください、皆さんがコアメンバーなのでこれから秋までの継続研修は全部参加してください」と、システム構築までの学びの機会を月ごとに設け、この時の参加メンバーの共通体験とすることを重要課題とした。
2020年7月市役所も参加した感染予防対策研修会
公益財団法人風に立つライオン基金による「ふんわりチャンポン大作戦」と称する医師・看護師等による感染対策の相談会の存在を知り、流山市への派遣を依頼。訪問介護事業部会を中心にほかの部会との合同研修として感染予防対策研修会を企画した。
当日は、会場参加は訪問介護事業部会の会員を中心に人数を絞り、オンラインで地域の介護関係者の他、エプロン応援団の住民ボランティアをつないだ。会場には、市役所から健康福祉部長と介護支援課の担当者らも参加した。
研修企画・準備も市役所と一緒に
研修直後の振り返りであげられたのが、実際の住まいに近い環境での学びの必要性だった。流山市には空き家となった民家を活用して高齢者等の交流拠点とする「高齢者ふれあいの家」があり、次はそこで研修しようという話がすぐに決まった。
これ以降、訪問介護事業部会の研修企画や準備も市役所と一緒に進めるようになり、部会メンバーとはグループラインで相談、市役所には適宜メールで連絡をとり、これは市が、部長がやってくださいなど、お願いして、Zoomも市がホストを担当するようになっていった。
11月には緊急時の支援継続システム始動を念頭に協議
そして、緊急時の事業所間の相互応援による支援継続システムについても、訪問介護事業部会と市が合意して、具体的な仕組みづくりが始まった。
雨澤さんは、感染拡大が懸念される冬を迎える前に、11月からシステム運用を開始することを決め、逆算して9月までを感染対策の研修フェーズ、10月末には仕組みを固めようと考えていた。訪問介護事業部会と市役所・介護支援課が、新型コロナに限らず有事に迅速に協議・対応する形をつくりたかったので、「何もないと始まらない、多少課題があっても、やりながらよくしていけばいいので8事業所で11月から始めるという期日を優先した」という。
雨澤さんは、契約行為や訪問介護計画書などの事務負担が煩雑になるとシステムが機能しなくなることを懸念していたが、事務負担をカットする仕組みを早川部長が見つけてくれた。
2020年9月ふれあいの家を活用した多職種による研修と意見交換
訪問介護事業部会と市役所で準備を進めてきた研修は2部構成となっていた。
- ふれあいの家で行う感染疑いの利用者への訪問のシミュレーション
- 公民館で行う各事業所における感染対策の共有と支援継続に向けたディスカッション
参加者は、訪問介護、天野さんたち訪問看護、ケアマネジャー、薬剤師、福祉用具など多職種の20人で、2グループに分かれて入れ替えで行い、ふれあいの家では雨澤さんが、公民館では早川部長がファシリテーターを務めた。
ふれあいの家では、まず坂梨さんが要介護5でコロナ感染疑いの利用者(基本的にベッド上で生活)を演じ、雨澤さんも参画して有志の会で作成した介助場面での飛沫を可視化した動画を見て、飛沫をできるだけ避けられる身体介護の工夫を検討した。続いて家のなかを移動しながらゾーニングを検討、「アコーディオンカーテンで仕切れば、キッチンのリスクは低いのでは」「買い物や調理は動線を工夫すればできるのでは」等、具体的なディスカッションになった。
公民館での意見交換では、「これまで熱発したら撤退しかないと考えていたが、現場をイメージして体験すると、できることがあるかもしれないと思った」「ケアマネジャーとして利用者や家族にマスクをつけてもらうよう伝えることの重要性に改めて気づいた」という声があった。
雨澤さんは、「在宅ケアにかかわる多職種みんなに感染リスクがあり、みんなに不安がある。リアルな住まいの環境で本音を語りながら一緒に考えてみることで、できることを見つけていけるのではないかと思った」という。
2020年10月大阪市生野区の訪問看護協力システム等から学ぶ研修
システム始動を目指した一連の学習の仕上げとして、大阪市生野区で訪問看護ステーション同士の緊急の協力システムを構築した「いくのナース会」の皆さんを招いた研修を訪問介護事業部会の会員向けに実施、あわせて都内の訪問介護事業所で陽性者が発生した時の経験も共有した。ここで、健康福祉部の早川部長とともに流山市版の支援継続システムについて説明。当日初めてシステムについて聞いた参加者もいたが、特段の反対はなかった。
2020年11月1日訪問介護事業所の緊急時における支援継続システム始動
6月の研修から参加した8事業所のうち事業を停止した1事業所を除く7事業所の他、数事業所が参加して、「訪問介護事業所の緊急時における支援継続システム」の運用が開始された。
(参考)訪問介護事業所の緊急時における支援継続システムでの使用書類出所:流山市(早川部長)1.流山市内の訪問介護事業所の緊急時における支援継続システム協定.docx2.緊急時における支援継続システム協定 参加事業所一覧.docx3.緊急時における支援継続システム協定 トリアージ表.docx4.緊急時における支援継続システム協定 同意書.docx
システム参加事業所の拡大を目指して
雨澤さんは、システムを立ち上げ、次は訪問介護部会に参加していない事業所を個別訪問しながら、感染予防対策と緊急時の支援継続システムについて伝え歩き、支援継続システムと部会への参画を促そうとイメージしていた。「そのためにも60点でもいいから、こういうシステムが立ち上がりましたと協力の声かけができるようにしたかった」。
訪問介護事業部会の会員で、システムに参加していない会員への声かけは、2人の副会長に任せている。
(2021年1月末時点で、18事業所が参加するようになったが、幸いなことに実際に動かした例はなく、特段システムの変更は行っていない)。
在宅療養する陽性者の支援継続に向けて
支援継続システムは非感染者が対象で、在宅で陽性となった利用者が入院できない等の場合の支援についてはゼロから作っていくところ、これから市と話し合いながらそちらに集中していきたいという雨澤さん。
「市内のデイサービスやショートステイでも感染者がでているので、地域の情報を広く収集している地域包括支援センターが、聞き取りや精神的なフォローも始めていくと約束してくれている。陽性者が実際に出た事例から、リアルタイムに何が必要かを地域で共有しながら、利用者やその家族の命を支えるための支援を地域全体で一つひとつ形にしていきたい」。
■参考訪問介護事業所ハートケア流山https://hc-nagareyama2200.jp/about/visiting_care_office.php
ディスポ型エプロン応援団https://www.provident.co.jp/apron.php
COVID-19在宅医療・介護現場支援プロジェクト介助場面での飛沫の見える化(動画)https://covid19hc.info/movie/
編集室 (2020). 地域ケアをつなぎ直す――千葉県流山市の取り組みから訪問看護と介護 25, 940-945.
インタビュー担当:長嶺由衣子、堀田聰子
記事担当:菅原かほる