みんコロラボ 〜みんな、新型コロナ対策どうしてる?〜

訪問介護事業所の緊急時における支援継続システム~保険者の立場から

要約

流山市では、訪問介護事業所が新型コロナの影響等で休業を迫られた際に、利用者への支援の継続と事業運営の継続を目的とする相互協力システムが2020年11月に始動した。

保険者としてこれに参画する流山市健康福祉部長は、同システムの立ち上げができた要因は、訪問介護事業部会が主体的に動いたことと指摘する。部会がやりたいことの方向性を示したうえで、一緒に考えて欲しいというスタンスだったことから協力して動きやすかったという。

システムを動かした実績はまだないが、鍵となるトリアージ表の記載の質の検証、より多くの訪問介護事業所にシステムに参加してもらうこと、同様のシステムが訪問看護や入所系施設等にも広がることに期待を寄せる。さらに、新型コロナだけでなくオールハザードでの地域全体としてのBCPを考えていきたいと語った。この他、流山市が行ってきた新型コロナにかかわる介護事業所を対象とした取組みについても伺った。

  • 千葉県流山市
  • 保険者
  • 訪問介護
  • 支援継続
  • トリアージ表
  • BCP策定
  • 自宅療養者
  • 感染対策研修
  • 医師会

詳細

インタビュー実施日:2020年12月29日


この記事を読んでもらいたい方

  • 自治体担当者,
  • 介護事業所管理者,
  • 介護職員,
  • 介護団体関係者
お問合せ先の担当者、連絡先流山市健康福祉部長 早川仁
メール hofuku-bc@city.nagareyama.chiba.jp
電話 04-7150-6010
お話を聞かせていただいた方流山市健康福祉部 部長早川仁さん
関係施設・関係者訪問介護事業所ハートケア流山 管理者
流山市シルバーサービス事業者連絡会 訪問介護事業部会長
雨澤慎悟 さん

流山市の「訪問介護事業所の緊急時における支援継続システム」については、訪問介護事業部会長の立場から雨澤さんにご紹介頂いたが、一緒にシステムを動かす保険者の立場から、流山市健康福祉部の早川部長からもお話を伺った。

流山市の訪問介護の支援継続システム

成功要因

早川部長が考えるシステムの成功要因は、介護事業者の主体性だという。

事業者自身が自分達の身を守ろうとし、自分達で作り上げていってこそ実効性があるものになる。システムの立上げを通じて介護事業者の皆さんに成功体験を持ってもらえれば、流山市の訪問介護としてステイタスにもなり、彼らの実力や自信が利用者さんにも波及して、価値を大きくすることができる。

自身は流山市新型コロナウイルス感染症対策本部の事務局も務めているため、システムの立ち上げに時間や知恵を絞る余裕はあまりなかったが、システムの始動を見据えた研修は職員とともに参加、担当職員も一緒になって実現に向けてサポートした。

自治体を動かすポイントは「一緒に考えてください」

雨澤さんのことは以前から知っていたが、訪問介護事業部会と一緒にやろうと思ったのは正直なところ直観だったという早川部長。最初に来られた時から「訪問介護の救済システムをやりたいんです。困っているので一緒に考えてください。」というスタンスを持っていた。行政に対して「何とかしてください」と丸投げで来られると構えてしまうが、ある程度の方向性の提案を持ってきていただく、もしくは一緒に考えて欲しいというスタンスで来ていただくと、行政は乗り出しやすいという。

実際にシステムを機能させる鍵はトリアージ表

システムにおける市の役割は、実際に休業せざるを得ない事業所が出た場合に、訪問介護事業部会のコアメンバーの協力を得て、予め用意してあるトリアージ表に基づいて事業所の人員の配分を行うことである。

事前にシミュレーションを行って、「この人は軽微な日頃の生活支援だから2週間食事をつなぐだけで不便がないか」や、「安否確認だけで2週間乗り切
れるか」など、一人一人に対して想定していくが、実際には1度経験してみないと、いいところも悪いところも出ないと早川部長は考えている。

また、このトリアージ表がうまく書けているかが、スムーズな割り振りやサービスを動かす鍵になる。初めからシステムに参加している事業所は書き方を理解しているが、後から協定に参加した事業所もあるため、いくつかの事業所でトリアージ表を検証して質を高めていく必要があると語った。

(参考)訪問介護事業所の緊急時における支援継続システムでの使用書類1.流山市内の訪問介護事業所の緊急時における支援継続システム協定.docx2.緊急時における支援継続システム協定 参加事業所一覧.docx3.緊急時における支援継続システム協定 トリアージ表.docx4.緊急時における支援継続システム協定 同意書.docx
出所:流山市(早川部長)

システムに参加する事業所の輪を広げていく

2020年11月、市内7事業所で支援継続システムの運用を開始したことについては、参加事業所の拡大に期待を寄せる。

まず7事業所に絞ってスタートすることはよく理解できたが、保険者としては訪問介護事業所の事業運営継続はもちろんだが、その向こう側にいるサービスを必要とする高齢者の命と生活の継続を考えなければならない。どこの事業所でも感染者の発生が原因で事業が止まることは考えられるので、早々に数多くの事業所に参加してもえるよう、コアメンバーを中心に訪問介護事業所同士が働きかけて、少しずつ輪を広げていって欲しいと話す。

他のサービス類型への波及

訪問看護や特養などの入所系施設にも支援継続システムが必要ではないかと早川部長は話す。千葉県でも、他の都道府県と同様、希望に応じて登録された各職種の応援要員を派遣する仕組みが構築されているが、現場に人員が派遣されるまで2~3日のタイムラグがあると予想されるので、その間、市内の事業所同士で柔軟に職員の手当てができればという趣旨だ。

そして、他のサービス類型でもシステムを始動するには、シルバーサービス事業者連絡会の関係部会、在宅医療介護連携会議の幹事等に声をかけ、多くの事業者に興味をもってもらえるようなアプローチを一緒に探っていきたいと語った。

オールハザードで地域BCPを考える

大雨災害、台風被害など出るたびに地域の介護施設等でも甚大な被害が出ており、保険者としては、オールハザードでの事業継続計画(BCP)の策定を喫緊の課題と考えている。

従来の介護事業者の防災対策は、避難訓練等に留まるところも少なくない。災害や感染症が発生した場合に何を優先するのか、どのように体制を再構築するのか、等を想定することは、365日休むことが許されない介護施設にとって重要なテーマであり、事業者の方々と認識を共有して進めていきたい。

コロナ禍で危機感を皆がもっているのはチャンスでもあり、我々自治体としてもオールハザードで地域全体のBCP策定に取り組みたいと意気込む。

その他の介護事業所を対象とした取組み

流山市では、その他(表)のような介護事業所を対象とした取組みを行っている。

介護保険施設・事業所へのマスク配布
・2020年3~4月
全国的に品薄だった時期に、新型インフルエンザ用の備蓄マスクから、7,000枚を約100か所の介護保険施設・事業所に配布。
介護保険施設・事業所専用に感染防止用品の備蓄
・2020年夏
感染防護具の流通が整ってきた段階で、介護保険施設・事業所専用にフェイスシールド200個、アイソレーションガウン1,000枚、グローブ1,000セットを購入。備蓄して要望があった場合にいつでも支給できるような体制を整備。
集団PCR検査-全額市の費用負担
・2020年10月~
感染者が発生した介護保険施設や事業所等で、濃厚接触者が1名以上あった場合に、濃厚接触者には特定されなかった人(感染者と同じユニットの入所者や関係職員など)を対象に、希望すれば全額市の負担でPCR検査を実施。
新型コロナウイルス感染症防止対策研修
-市の単独事業
・2020年12月~
国の事業では補助要件を満たせないという声が多く聞かれたことから市の単独事業として実施。流山市医師会の医師が介護保険施設を訪問して感染防止対策の研修や指導を行う。研修を受ける施設側の費用負担はなく、研修に関わる準備や周知、希望する施設との日程調整などは市が担当する。
-研修内容
施設が記入した「新型コロナウイルス感染症防止対策研修 事前チェックリスト」(【施設】事前チェックシート.xlsx)を研修担当の医師が事前に確認して施設の状況にあわせた感染防止対策の指導や助言、Q&Aなどを行う。

(出所)早川部長提供資料に基づき筆者作成

今後に向けて

高齢者の自宅療養支援の可能性も視野に入れる

早川部長によれば、要介護の高齢者は、新型コロナに感染した場合は、重症化のリスクが高いため、通常は入院となる。2020年12月時点では未だいないが、今後さらに感染者が増加していくと、軽症で基礎疾患のない高齢者は自宅療養となる可能性も否定できない。

今後は、自宅療養となった高齢者の生活を維持するためにどんなサービスが必要なのかレベル毎にリアルに想定し、自宅療養・ホテル療養・入院という線引きの議論が必要になるだろう。また、市では自宅療養者だけでなく入院調整中や行き先が未定の方も含めた配食サービスを開始しているので、これを活用すれば、高齢者が自宅療養になった場合でも食をつなぐ支援はできると話す。


提供:流山市(早川部長)

コロナ後を見据えフレイル予防に力を入れる

また、早川部長が危惧しているのは、高齢者が必要以上に感染を怖れて自粛的な生活を続けているために、心身両面のフレイル化が進行しているのではないかということだ。今後は市としてフレイル予防に力を入れていかないと、コロナが徐々に収束したときに、要支援・要介護認定を受ける高齢者が爆発的に増加するだろうと危機感をもっている。現時点でできることは限られるが、市の広報誌を使って「自宅でできる体操」や「3密でない屋外の散歩」などフレイル予防に関する情報を重層的に届けていき、コロナが落ち着いてくれば、市内各所で「ラジオ体操の会」を展開して高齢者の運動再開のきっかけにしたいと語った。

インタビュー担当:堀田 聰子・長嶺 由衣子
記事担当:菅原かほる

ひとまちラボトップページへ

お問い合わせ

プライバシーポリシー