みんコロラボ 〜みんな、新型コロナ対策どうしてる?〜

医療者ネットワークによる介護施設クラスターの早期検知と早期介入

要約

沖縄県では、介護現場で新型コロナ陽性者が発生した時に、迅速に医療者が支援に入る体制ができている。医療者の有志ネットワークが、平時の顔が見える関係を基盤に、介護施設等における陽性者発覚から24時間以内に保健所の介入前に感染対策指導に入るというもので、医療圏ごとに対応がはかられ、県がこれを支援している。現場から得られた教訓は、県や地区医師会主催の研修会等で広く共有され、在宅医療・介護連携推進事業を活用して、有事の初動を早め、対応力を高める取組みも行っている。

居宅の要介護者が新型コロナ陽性になったら、入院対応を基本としつつ、どうしても入院が難しい場合には訪問看護を中心とするフォローを想定、さらに居宅で濃厚接触者となった要支援者にはプレハブ療養施設を設けている。今後は、新型コロナと共生する介護現場での具体的な対応の在り方を模索していく必要があり、動き始めたところである。

一連の対応には、医療・介護・福祉現場と行政をつなぐことのできる医師が県立病院、地区医師会におり、行政でも立場を持つことで、地域のニーズに即して現場が動きやすい仕組みづくりを重ねてきたという背景がある。

  • 沖縄県
  • 医師会
  • 看護協会
  • 県立病院
  • クラスタ―発生
  • 医療者有志ネットワーク
  • 感染対策指導
  • 在宅療養者
  • 在宅医療・介護連携推進事業
  • 早期介入

詳細

インタビュー実施日:2021年2月3日


この記事を読んでもらいたい方

  • 医療関係者,
  • 感染症医,
  • 在宅医,
  • 介護事業所管理者,
  • 訪問看護事業所管理者,
  • 介護団体関係者,
  • 医師会関係者,
  • 看護協会関係者,
  • 自治体担当者
お話を聞かせていただいた方沖縄県立中部病院 感染症内科・地域ケア科 医師
沖縄県保健医療部地域保健課・主幹
沖縄県新型コロナ専門家会議・委員
沖縄県医師会 在宅医療・介護連携に係る市町村支援事業アドバイザー
厚生労働省・参与
高山 義浩 さん
お問合せ先:沖縄県立中部病院感染症内科 〒904-2243 沖縄県うるま市字宮里281

沖縄中部徳洲会病院 在宅・緩和ケア科 部長・医師
沖縄県中部地区医師会・理事
沖縄県医師会 在宅医療・介護連携に係る市町村支援事業アドバイザー
新屋 洋平 さん
お問合せ先:shinya.yohei@gmail.com

沖縄県では、介護福祉現場における新型コロナ対応について、医療圏ごとに医療者ネットワークが支援する体制づくりや、県・市町村レベルで在宅医療・介護連携推進事業を活用した取組みを含め、迅速かつ包括的な施策展開がはかられている。現場と行政をつなぐハブとなる医師の高山さん・新屋さんにお話を伺った。

医療職のネットワークによる介護施設クラスターの早期検知と早期介入

沖縄県中部地区では、新型コロナ流行が始まって早い段階から、医師、看護師、沖縄県新型コロナウイルス感染症対策本部のメンバーなどが入る有志ネットワークのLINEが立ち上げられた。当初は、各人が勤務している病院等で新型コロナの検査を受けて陽性と判明した人が介護施設職員等であることがわかったら、LINEに流し、入れる人がすぐに当該施設の感染対策指導に入っていた。

また、県内各地で行われている新型コロナ関連の研修や講演会等を通じて、新型コロナ対応をしている医療者の顔が介護職に徐々に見えるようになったことも、直接相談しやすい環境づくりにつながったと高山さん、新屋さんは振り返る。

有志ネットワークでは、とにかく24時間以内に入って感染対策の指導と必要な検査を行い、流れにのせていくことを一つの目標としている。高山さんは、県に対して、こうした医療者の対応に、県の専門家派遣事業として予算を付けてもらうように働きかけている。「感染症医や在宅医がまず必要な対応策を提案し、行政はそれをサポートする予算をつけるなど、現場の動きに継続性を持たせることが大切です」と話す。

感染者発生施設の経験からの学びを迅速に共有

クラスターを早期検知・介入すると、そこで抽出された課題や経験からの示唆を、県や地区医師会主催のオンラインでの介護事業者向け説明会や研修会で共有する。直近の流行状況や感染対策にかかわる情報を含めて情報提供を続けており、1時間の質疑応答を交えた研修会に700〜800施設が参加することもある。講師は、沖縄県立中部病院感染症内科、総合診療科の医師をはじめ、地区医師会の感染症担当の医師らが務める。髙山さんや新屋さんもそのうちの一人だ。

なお、研修の際には、病床がひっ迫すると軽症の新型コロナ患者は施設でみる必要が生じること、濃厚接触者は当然施設内で支援を続けること、そのために備えるべきことも、医療側がきちんとサポートすることと併せて伝えている。急性期病院で新型コロナ陽性者が滞留した時期には、「出口問題」として、治ったら施設に戻れるようにと説いたこともあったという。

また、沖縄県立中部病院感染症内科では、県内施設での経験を踏まえ、高齢者施設において新型コロナウイルスの感染者が確認された場合に求められる感染対策の考え方をまとめ、更新を重ねている。

在宅医療・介護連携推進事業の活用

①県、医師会、市町村、訪問看護等事業による模擬対応訓練実施

高山さんは、高齢者の生活支援の一部として、新型コロナ対策に市町村を巻き込むべき、それには在宅医療・介護連携推進事業を活用してはと県に重ねて話しており、まず県による当該事業にかかわる市町村支援事業の一環として、8月に、関係者が一度集まり、施設での模擬対応訓練を実施することを計画した(流行拡大により10月下旬実施となった)。

主催は県の高齢者福祉介護課と医師会、参加者は市町村の在宅医療・介護連携推進事業の担当者、介護関係者のほか、訪問看護関係者なども参加した。この訓練を通じて、実際にクラスターが起きると、施設長等の管理者は保健所、自治体、医療者など繰り返し同じ説明をしなければならず、非常に苦しい状況に置かれること、介護関係団体でできることには限界があることが確認された。

②クラスター発生施設への在宅医療・介護連携推進コーディネーターの伴走

介護施設でのクラスターが相次いで発生するなかで、クラスター発生施設の施設長が何をしてよいかがわからず、混乱してしまうことも明らかになってきた。これに対応するため、2021年1月から、中部地区医師会主導で、施設で対策に困ったら、在宅医療・介護連携推進コーディネーターが寄り添い、電話連絡・聴き取りをして、医療者を含む関係機関との連絡を中継することを開始した。

中部地区では、12市町村すべてが地区医師会に在宅医療・介護連携推進コーディネーターを委託しており、看護師1人、社会福祉士2人、介護支援専門員1人の合計4人がこの役割を担っている。介護施設の嘱託医や配置医と病院の医師同士の顔が見える関係ができていることに加え、「在宅医療・介護連携推進事業をすすめるなかで、コーディネーターも地域の介護施設や在宅医とのネットワークができていたので、介護施設側にとっても敷居が低く、コーディネーターに一報が入れば私もわかるので、初動を早めることにもつながっている」と新屋さんは話す。

介護現場や居宅要支援者に陽性者・濃厚接触者等が発生した時の看護の役割

全国で、都道府県を中心に、介護施設等での新型コロナ陽性者発生時の応援体制構築が試みられているところで、沖縄県でも応援職員派遣が可能な事業所等のリスト作成は行われているが、実際にクラスタ―が発生した際に機能するのは難しい状況だという。新屋さんによると、「小規模ではありますが、介護事業所の有志のなかでは、陽性者や濃厚接触者が発生した場合に人材を融通しあう取組みが始まっていて、先日も実際に住宅型有料老人ホームの職員に濃厚接触者が出たときに1人応援派遣したという例がありました。離島等で、そもそも介護事業所が2-3しかなければ、狭い範囲での互助は成り立つ可能性もあるのではないか」とのこと。

実態としては、現状では県の保健医療部として人員不足が生じた施設に看護師を派遣する仕組みが動いているという。高山さんは、「有志の助け合いはすばらしいこと。ただネットワークに所属しないと見捨てられてしまうようでは困る。それに、特に濃厚接触者となった入居者を支えるときには生活支援の観点からの支援のために介護職が欠かせない」という。

また、居宅の要介護高齢者が新型コロナ陽性になった場合、基本は入院対応となるが、どうしても居宅で療養せざるを得ない場合が3つ想定される。

  1. 県内の新型コロナ病床が満床
  2. 陽性になった方が認知症、全盲など病院ではその方の生活が成り立たない軽症の方
  3. 元々の状態が終末期

ここでも、看護が動くスキームができている。

県としては、要介護高齢者等が在宅で療養することになった場合は、健康管理センターが電話で伴走し、見守りレベルを上げたほうがよいとなったら、県看護協会にリストを渡し、看護協会が住所地によって訪問看護ステーションを選定して対応するという仕組みを用意してある(図)。訪問看護ステーションも基本は電話でフォローを行い、必要な場合は訪問する。やはり入院となったら、優先的に入院できるよう体制を組んでいる。

居宅の要支援者が濃厚接触者になった場合のプレハブ療養施設

居宅での感染防護は難しい。陽性者ではない「濃厚接触者」の場合、さらに対応が難しい。なぜなら、濃厚接触者の対応も感染防護レベルを陽性者と同じ扱いで上げることが必要になるが、入院対応にはならないからである。

そこで、濃厚接触者となった居宅の要支援者の療養場所を確保する活動も行っている。協力を申し出た介護施設の敷地内に、濃厚接触者専用のプレハブ療養施設(写真)を作り、ショートステイが可能な状況を作っている。これは、介護施設だけではなく、発達障害の子ども用の施設など、いくつかの福祉施設が対応に乗り出している。一時入所は、元々のこの施設の利用者に限らず、該当者は誰でも利用可能としている。

現場と行政の橋渡しをする医師の存在

現場で必要なことを、先を見越しつつ次々に形にできている背景はなんだろうか。

「まず、現場で出てきたアイディアや課題を、有志ネットワークや在宅医療・介護連携推進コーディネーター、もしくは関係する医師が、必要と思えばそのまま市町村に進言する。少しアイディアを洗練することが必要であれば、行政経験のある医師を含めて、何人かで相談することもある。どの部分は制度設計しやすく、どの部分はしづらいかなどをより分け、行政に進言する。」と高山さん。

さらに、「内容を進言された行政の方が「こう言われたのですが、どうしたらよいでしょうか?」と現場医師に相談に来ることもあるため、行政担当者に現場を見せることが必要であれば現場と繋ぎ、必要なところを視察した上で対応策を考えてもらう橋渡しをすることもある。」と新屋さんは話してくれた。

市町村に期待される役割

「今回の新型コロナは急性疾患であるために、介護関係者は、医療が対応してくれるものだと捉えているところがある。しかし、実際には、今後新型コロナのない世界は訪れず、国内でもワクチンが出てくるなど、状況が変われば、医療が新型コロナのすべての患者に対応する体制も変わっていくことになる。したがって、介護現場でどこまでの対応を行い、どこからはしなくてよいかを各地域の資源に応じて考えていく必要がある。これについて、各市町村が主体となって協議の場を持ち、コーディネーターも活用しながら、在宅医療・介護連携推進事業の枠組みで必要な対応を進めていくことが求められると考えている。」と高山さんは語る。

平時からの医療のタテ・ヨコの顔の見えるつながりに加え、新型コロナ対応による介護・福祉現場を含む地域のレジリエンス向上

沖縄県の医療発展の歴史をみると、公立病院が中心となって医療を支えてきた。県内の民間病院も、公立病院の研修出身者が多く、切磋琢磨しながら県全体として医療者は世代のタテ・異なる医療機関のヨコに顔の見える状態でつながっている。また、県立病院群の院長も、もし県内で患者があふれた時には、県立病院が責任を持って最後まで患者さんを診るということを即座に合意できる文化がある。

加えて、新型コロナのような有事に、県立病院の感染症内科の医師が、ある程度診療から外れて行政と現場のつなぎ役として動いても、現場を支えられるだけの強固な研修医教育、臨床現場の有能かつ責任感のある人材育成が50年以上かけて行われてきた背景もある。

「こうした医療のネットワークにより、医療発信で介護現場での迅速な対応の環境整備につなげている部分もあるが、今回の新型コロナをきっかけに、介護現場にも顔の見えるネットワークがあることがわかり、お互いのネットワークが接続するようになってきた。特に、県内の訪問看護や介護施設の管理者同士のネットワークはすでにあり、訪問介護のネットワークは医療から遠いので、まだ見えていないが、まさに、今後同じような事態が起こったとしても、機能しうる医療・介護・福祉の有機的なつながりが徐々に構築されてきていると感じる。」と新屋さん。

さらに、「今後、日本が外国人との共生社会を作っていく場合に、必ず次の“新型コロナ”が発生しうる。その時の準備が、今回できているのではないか。」と高山さんは加える。

取組みを伺って~行政と医療、介護現場をつなぐ人材の重要性

沖縄県での対策の特徴として、現場の声が制度設計につながりやすいという現状があった。その背景には、医療現場(特に感染症診療)、介護・福祉現場、公衆衛生行政の制度設計すべてに精通している人材がおり、短期の適切な対策とともに中長期の視点も踏まえながら、その方が発信できる環境があること、またそれを実現するためにサポートする人材や組織があるということも透けて見えた。

沖縄県のみならず、他都道府県でもそのような人材は活躍しているといえるが、このような現場と行政をつなぐ人材がより行政現場でも活躍できる道を作っていくことも一つの示唆と言えるかもしれない。

また、今回の新型コロナで、平時での医療の地域連携に、介護・福祉の地域連携が接続し、より今後につながる顔の見える対策につながっていることもわかった。県や市町村の在宅医療・介護連携推進事業等を活用することで、これら現場の活動を後押しする具体的な事例も確認することができた。

■参考文献 高山義浩. (2021). “【新型コロナウイルス感染症(COVID-19)-“共生”への道】臨床・感染対策 新型コロナウイルスの流行と沖縄県における対策.” 医学のあゆみ 276(1): 45-49.

沖縄県・介護指導班による新型コロナウィルス関連のお知らせ(沖縄県立中部病院感染症内科作成の高齢者施設における感染対策の考え方等を含む)https://www.pref.okinawa.jp/site/kodomo/korei/shido/shingatakorona-virus.html

沖縄県立中部病院感染症内科(2021年4月18日)「嘱託医、配置医、在宅医のための高齢者施設における新型コロナウイルス感染症診療の考え方」http://plaza.umin.ac.jp/~ihf/others/covid_0418.pdf

高齢者施設における新型コロナウイルス感染症の発生事例について(情報提供)https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kodomo/korei/shisetsu/corona/kannsennsisetutaikenndann.html

中部地区医師会 在宅ゆい丸センター(在宅医療・介護連携推進事業)https://zaitaku.chubu-ishikai.or.jp/

インタビュー担当:長嶺由衣子・奥知久・堀田聰子
記事担当:長嶺由衣子

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