みんコロラボ 〜みんな、新型コロナ対策どうしてる?〜

今だからできることを考える! コロナに負けない楽しみの創造 ~昔の映画館に近づけた映画鑑賞会、手作り神社への初詣、餅つき大会、etc.~

要約

福島県郡山市にある特別養護老人ホーム「ハーモニーみどりヶ丘」では、“やってみんべ”という法人全体の方針により、お客様(利用者)にとって良いことはどんどんやってみようと、現場レベルで様々なアイデアを形にしている。2020年4月からは、法人全体として自立支援検討委員会を立ち上げて、各事業所でアセスメントやケアのあり方について検討を重ねるなど、お客様の願いを見出し実現させる取組みをより深化・進化させてきた。

その一環として、ハーモニーみどりヶ丘の自立支援検討委員会が取り組んだことの1つに、施設内での映画鑑賞会がある。お客様の生活歴の聞き取りによる自分史年表作りからスタートし、あるお客様の「昔、よく映画を観ていて、オードリー・ヘップバーンが好きだったの」というところに辿りつき、昔の映画館の雰囲気づくりを目指して『ローマの休日』映画鑑賞会を開催した。

この取組みに限らず、各所で“やってみんべ”と多様な取組みが実践されている。例えば、行事委員会では施設内に手作り神社を設置し初詣の企画をしたり、委員会活動とは別に干し柿作り、焼き芋、餅つきなどのアイデアが職員から出されたりする。ハーモニーみどりヶ丘では、「コロナ禍だからできない」ではなく「コロナ禍だからこそできることをやる」という動きが活発になっている。

  • 特別養護老人ホーム
  • 映画鑑賞
  • 手作り神社
  • 初詣
  • 焼き芋
  • 干し柿づくり
  • 餅つき

関連事例⇒社会福祉法人心愛会ハーモニー猪苗代

詳細

インタビュー実施日:2021年2月16日


この記事を読んでもらいたい方

  • 介護事業所の経営層,
  • 介護事業所の管理者,
  • 介護事業所の職員,
  • 介護関連職種,
  • 業界団体・職能団体関係者,
  • 要介護高齢者・家族
法人名&事業所・施設名社会福祉法人心愛会
特別養護法人ホーム ハーモニーみどりヶ丘
地域密着型特別養護老人ホーム ハーモニーみどりヶ丘 ヴェール
お話を聞かせていただいた方施設長
渡辺 清春 さんチームリーダー加藤 雅子 さん(行事委員会委員長)生活相談員渡邊 久恵 さん(自立支援検討委員会委員長)介護職員根本 新生(あらき) さん(災害自主管理委員会委員長)

お客様の願いを最大限尊重する法人理念のもとに

社会福祉法人心愛会が運営する特別養護老人ホーム「ハーモニーみどりヶ丘」と、サテライトの地域密着型特別養護老人ホーム「ハーモニーみどりヶ丘ヴェール」は、福島県郡山市の東部、閑静な住宅街の一画に位置し、「緑が丘」という地名のとおり、四季を通じ緑豊かで美しい木々に囲まれており、のどかで落ち着いた環境の中にある。特養は60人6ユニットに、ショートステイ10人1ユニットとデイサービスが併設されており、サテライトの方には、29人の居室がある。

▲ハーモニーみどりヶ丘。緑豊かで自然に恵まれた場所にあります。ホームページより。

母体の社会福祉法人心愛会は平成12年設立で、ケアハウスや訪問介護に始まり、特養、地域密着型サービス、障がい者支援事業など、業容を拡大させてきた。心愛会では利用者を「お客様」と呼び、お客様が喜んでくれること、楽しめることをどうしたら実現できるかということを大切にしている。法人全体の方針として、“やってみんべ”(福島県の方言で“やってみよう”)をモットーに、現場発のアイデアを形にすることを支援している。

心愛会では2020年4月から各事業所に自立支援検討委員会を立ち上げて、アセスメントやケアのあり方について検討を重ねるなど、お客様の願いを見出し実現させる取組みをより深化・進化させてきた。ここでは、自立支援検討委員会の取組みに加えて、施設内で展開される多様な取組みのいくつかを紹介する。具体的には、映画鑑賞会、手作り神社への初詣、餅つき、干し柿作り、焼き芋といった取組みである。それぞれの内容や取組みの経緯などについて、ハーモニーみどりヶ丘施設長の渡辺さん、生活相談員で自立支援検討委員会委員長の渡邊さん、チームリーダーで行事委員会委員長の加藤さん、介護職員で災害自主管理委員会委員長の根本さんにお話をうかがった。

インタビューに応じてくださった渡邊さん(左上)、渡辺さん(右上)、根本さん(左下)、加藤さん(右下)。画面は分かれていますが、ソーシャルディスタンスを保ちつつ同じ会議室にいらっしゃいます。

昔の映画館の雰囲気に近づけた映画鑑賞会

自分史年表作りから見えてきたお客様の願い

最初に、自立支援検討委員会がリードして取り組んだ映画鑑賞会について紹介する。ハーモニーみどりヶ丘の自立支援検討委員会は、生活相談員の渡邊さんを委員長として、デイサービスの生活相談員、各チームリーダー(2ユニットを1チームとしている)、施設長など計10人で構成されている。昨年5月に実質的な活動をスタートさせて以来、お客様の思いや生活に寄り添ったケアを実現するためにどうしたら良いか検討を重ねてきた。

お客様の思いや生活に寄り添うといっても、認知症や重度のお客様から、ご本人の本当にやりたいことを探り出すというのは難しい作業だ。以前より、アセスメントに「24時間シート」を活用しているが、ご本人の「やりたいこと」の聞き取りまではなかなか及んでいないという問題意識があり、より踏み込んだケアプランにするためのアセスメントを目指して、お客様の生活歴の聞き取りによる“自分史年表”を一から作るという取組みを行った。まずは試行的に各ユニットからお客様お一人分、計6人の自分史年表の作成にあたった。最年長の方は大正11年生まれで、その方の長い長い歴史をまとめる作業を行った。

▲自分史年表のイメージ。当時の出来事などを交えつつ、お客様の記憶に残っていることを聞きとりして整理していくそうです。

そんななか、あるお客様とのやりとりの際に「昔、おじさんが映画館をやっていたから私もよく観ていた。オードリー・ヘップバーンが好きだったの」という話に辿りつくことができた。自分史年表の聞き取りの中では最も話が盛り上がり、ご本人の反応も良い。そこで、映画鑑賞の企画が立ち上げられたのである。

できるだけ昔の映画館の雰囲気に近づけたい

この企画のこだわりポイントは、何より“昔の映画館に限りなく近い雰囲気を作って映画を鑑賞する”ということだ。スクリーンに映画を映して皆で見ましょうというだけなら、それほどユニークな企画ではないかも知れない。しかし、自分史年表作りから辿りついた、お客様の願いの実現企画であるため、そのこだわりにどれだけ近づけるかというところを目標とした。

何を鑑賞するかについては、迷うことなくオードリー・ヘップバーンの作品というところから話は始まった。その中で“王道”ということと、話が分かりやすく、字幕が読めなくても観ているだけでも楽しめそうという理由で、『ローマの休日』が選ばれた。事前準備として、ポスターを作って施設内に掲示し、映画の予告宣伝さながらの雰囲気づくりを行った。

▲「ローマの休日」映画鑑賞会のポスター。昭和のレトロな雰囲気が醸し出されています。

また、映画のチケットも作った。このチケットもこだわりがあって、半券の上側のオードリー・ヘップバーンが手元に残るようになっている。お客様は自室に戻っても、また思い出して余韻に浸ることができそうである。

▲映画のチケット。美しいオードリー・ヘップバーンに見入ってしまいます。

当日は、喫茶店の雰囲気に近づけようということで、コーヒーの他に、メロンソーダ、アイスクリームなども用意した。映画と言えばポップコーンという発想もあったが、さすがに誤飲のリスクからあきらめた。

日時は自立支援検討委員会の予定に重ねて設定し、職員配置の調整をしやすくした。感染対策も、換気、密を避けるなど、十分な感染対策の配慮がなされたのは言うまでもない。

非日常を味わっていただくことができた

参加者は特養とサテライト含めて計13人だったが、当初はそれほど人数が多くなるとは思っておらず、予定していた会議室から大きなホールに変更した。ポスターを見て「私も観たいわ」というお客様もいて、館内に貼ったポスターが集客に威力を発揮してくれたようだ。

それにしても、お客様は要介護3以上の特養である。2時間もの映画を集中して観ることができたのか、飽きたり、疲れて寝てしまったり、お手洗いに行きたくなったりということが頻発しなかったのか、取材者は心配になってしまった。その点について聞いてみると、自立支援検討委員会の渡邊さんは、「私たちも心配してたんですけど、皆さん本当に真剣に集中して観ておられました。途中で自室に戻られた方も1人いらっしゃいましたが、他の12人の方は最後まで楽しまれました」と言う。お客様からは「またあるんだったらぜひ声をかけてね」と反応も上々だった。

▲映画鑑賞をされるお客様。遮光カーテンで暗くしたホールで映画館の雰囲気を味わっています。

渡辺施設長は、「お客様に非日常を味わっていただくことができたと思います。昔の映画館の雰囲気を思い切り演出してくれたというのが、すごく良かったと思います。字幕スーパーはちょっと無理だろうとも思っていたのですが、ストーリーがわかりやすので、それも良かったと思っています」と職員を労うように付け加えた。

委員長の渡邊さんによれば、好評にこたえて今後も2~3ヶ月に1度くらいのペースで、お客様それぞれの好みを探りながら映画鑑賞会を継続してやっていきたいとのことだ。「コロナが終息したら、地域の方にも開放して楽しんでもらえる場にしてみたい」とも言う。

難しいのは“どうやるか”ではなく“何をやるか”に辿りつくこと

この企画の実現までに難しかったことはどのようなことかを尋ねた。それに関して委員長の渡邊さんは、「映画館をやるって決めたら、職員も協力的なので、それをやること自体はそこまで大変ではないのです。一番大変なのは、お客様が今何をしたいのか、お客様の願いを聞き出したり、自分たちが把握するところまでなのです。特養なので意思表示できる方がそんなに多いわけではないので、徐々に聞き取りをしながら生活歴の中から探っていくというのが一番大変だと思います」と言う。

ゆくゆくはお客様全員の願いを叶えるということを目標に、全員分の自分史年表を作る予定で、時間のかかる地道な取組みを粘り強く続けていく必要がある。今年度は試行的に自立支援検討委員会メンバーが中心になって取り組んだが、今後の方向性としては、利用者担当職員がアセスメントの一環として聞き取りをして、自立支援検討委員会にあげるという流れを考えている。委員会には各チームのリーダーが入っているので、情報の流れはスムーズにいきそうだ。大変な作業だが、実現した時の職員のやりがいや達成感はひとしおである。

コロナ禍の初詣

「私が鳥居を作ります」から始まった初詣企画

次に紹介するのは、施設内での初詣の取組みである。これは行事委員会が中心になって行ったもので、主に同委員会委員長の加藤さんが話をしてくれた。行事委員会とは、施設全体の行事を企画、運営、周知する活動を行っており、特養、サテライト、デイサービス、厨房など含めて8人で構成されている。大きなイベントとしては、例えば、夏祭り、敬老会、居酒屋、初詣などがある。2021年のお正月は、例年の楽しみの一つである初詣が中止になってしまったことを受けて、ある職員から「じゃあ、私が鳥居を作ります。初詣は施設の中でやりましょう」という声が上がり、そこから初詣企画がスタートした。

この企画のこだわりポイントをお聞きすると、加藤さんは「こだわりは鳥居です。どこに作るかとか、いかに本物っぽく作るか。鈴まで作って、鈴を振ってもらおうとか。お賽銭箱もおみくじも、全部手作りです。お賽銭箱に本物のお金を入れてもらうわけにいかないので、代わりの偽札を作りました(笑)」と教えてくれた。「私が鳥居を作ります」と誰かが言えば、「神社だったらお賽銭箱もあるよね」、「おみくじもあるよね」と皆で発想が膨らんでいく。さらに、「鈴も作ろう」、「お賽銭用のお金も作ろう」、「お正月だから甘酒も振る舞いましょう」と、それぞれが気付いたこと、得意なところで力を発揮していく。

行事委員会以外の職員も、「じゃあ、私たちはこっちお手伝いするね」と主体的な動きが広がる。もちろん、得手・不得手、好きなこと・そうでもないことなど人それぞれなので、好きで得意な人が中心になって力を発揮してくれる。鳥居作りは、なんと職員が1人で夜勤帯などを利用して制作してくれた。

渡辺施設長は、「好きで得意という人が率先してやってくれるというのはあります。でも、“あなたやれ”ということはないです。委員以外でもどんどん協力してくれるし、施設一体でという雰囲気はあるのかなと思います」と言う。加藤さんも、「何かいろいろ作ったり、お客様を楽しませることが好きという職員もいて、そういう方々の力は大きいですね」と言う。

▲本物さながらの鳥居、お賽銭箱、おみくじ、お賽銭用のお金。このリアルさがこだわりです。

寝たきりの方のお参りがかなった

このように、行事委員会を中心として施設内神社への初詣が実現した。お客様の反応は「まさかこういう所でお参りができると思わなかった」、「いやぁ、甘酒もあるとは思わなかったよ」と大変喜んでくれた。甘酒は量を少なくしたこともあって、人気ですぐに売り切れてしまった。

コロナ禍での初詣で何より良かったのは、室内なのでほとんどの人がお参りができたことだ。例年はリアルの神社への初詣が難しかった寝たきりの方なども、今回参拝がかなったのは「コロナ禍だからこそ」と言える。

▲初詣を楽しむお客様。鈴を振ったり、お賽銭を投じたり、甘酒を楽しまれたりしています。

コロナ禍だからこその職員の提案

お正月といったら餅つき

次にお正月の餅つきの企画を紹介する。こちらの提案は、入職5年目の介護職員の根本さんである。根本さんは企画の意図について、「お正月といったら餅つきだなっていうのが自分の中ではあったのです。そしたら、たまたま施設に臼と杵があったんですね。それで餅つきをやってみたいなと思いまして」と話してくれた。ハーモニーみどりヶ丘では、以前はお正月に餅つきをしていたこともあったが、ここ5~6年くらいはやっておらず、臼と杵もまったく使われていなかった。「今年、こういう時だからこそ」ということで、根本さんは餅つきを思いついた。

「餅つきをやりたいんです」と根本さんが自分の思いつきをユニット内で相談してみたところ、「いいね、やろう」という仲間たちの反応で、チームリーダーや施設長に相談してみたところ、「いいね、やろう」とすぐに賛同が得られ実現した。やりたいと言ったことを実現させるハードルは、至って低かった。

ただし、当然といえば当然なのだが、「お餅はのどに詰まってしまうので、食べるのはダメ」ということで、何かお餅の代わりになるようなものを用意するという留保がついた。根本さんは、周りの人に相談しながら、何度も試作にチャレンジした。最初は、牛乳と片栗粉で“ミルク餅”を作ってみたが、ちょっと硬くて喉に詰まりやすい出来上がりになってしまった。そんな時、「こんな作り方があるよ」と副施設長がレシピ情報を教えてくれて、次に作ったのは、豆腐、牛乳、片栗粉を材料とする“ミルク餅”である。失敗を繰り返しながらも、周りにいる皆が応援してくれるのだから、有り難いことである。そして、これなら大丈夫という及第点をもらうことができた。

当日は、職員もお客様も一緒になって餅つきを楽しんだ。もちろん、餅つきのお餅は本物である。根本さん自身は餅つきをしたことがなく、動画などを観ながら研究してみたが、「つく」というよりは「こねる」感じになってしまって、あまりうまくいかなかった。「施設長は餅つきが上手で、経験者がいてとても助かりました」と根本さん。実際に杵を手にして餅つきをされたお客様もいた。

▲お客様も、杵を持って餅つきにチャレンジ。
▲渡辺施設長の餅つきは堂に入っています。

ちなみに、ミルク餅はこしあんをつけて、おはぎのような感じで召し上がってもらった。こしあんで牛乳臭さもごまかすことができ好評だった。お客様にもお正月の雰囲気を楽しんでもらうことができ、「楽しかった」、「来年もお願い」といった声が聞かれた。

干し柿作りで季節を楽しむ

周囲を巻き込んで餅つき大会を成功に収めた根本さんであるが、「お客様が喜ぶことを何かしたい」といつも考えているという。そのような心境に至る背景として、根本さんは入職当初の話をしてくれた。根本さんは入職当初、畑での野菜作りや生き物係などに取り組んでいたが、それだけではだんだんと物足りなくなって、もっとお客様に喜んでいただけることはないか、どうすれば楽しんでいただけるかと、いろいろと考えるようになった。

コロナ禍になって、餅つき以前の11月くらいに干し柿作りにチャレンジした。畑仕事が好き、柿が好きというお客様が干し柿を「食べてみたい」ということから、やってみることにした。やってみると言っても、根本さん自身は干し柿作りの経験はなく、詳しいお客様に教えてもらいながら取り組んだ。「昔は旦那の実家が毎年干し柿を作る家で、よく手伝っていたんだ。懐かしい」と話をしながら教えてくれた。

根本さんは干し柿作りの経過について、「ずっと外に干せていれば良かったんですけど、ちょうど砂ぼこりとかがあったので、外には出せなくて中に干してたら腐ってしまって。1回目と2回目は腐ってしまいました。3回目にやっと成功したんです」と照れ臭そうに失敗談を話してくれた。サンルームと外に1ヵ月干して成功させた。それにしても、干し柿作りがそんなに難しいとは、取材者も経験がなく驚いてしまった。2度の失敗にもめげずに取り組んだ根本さんのその粘り強さには頭が下がる。

▲包丁を使って綺麗に柿の皮をむくお客様。慣れた手つきです。

干し柿作りでは、柿を剥いて紐に結わえる作業をお客様と一緒に楽しみ、吊り下がっている間は、「まだかな、まだかな」と食べごろを心待ちにして眺め、そして完成すると「美味しい。良かった」とその味を楽しんでもらうことができた。また、看取り期に入っているお客様もご自分で干し柿を手に持ち少しかじるということができた。懐かしい干し柿の味が口に広がったに違いない。なんとも幸せなことである。

リベンジの焼き芋

最後に、もう1つ根本さんによる「リベンジの焼き芋」の話を紹介する。根本さんによると2年前に畑で焼き芋をやったが丸焦げにしてしまったという失敗経験があり、リベンジも兼ねて、このコロナ禍でのお楽しみ企画として提案したという。

根本さんの「焼き芋やってみませんか」という提案に、周りの職員も「いいよ」、リーダーも「いいよ」、施設長も「いいよ」ということで、いつものようにすんなり実現に至った。実施したのは12月初旬。お客様は焼き芋を新聞で包む作業を手伝ったり、焼きあがるのを一緒に見学したりした。今回は丸焦げにすることなくうまく焼きあがり、根本さんのリベンジは果たせた。柔らかめの食事を召し上がるお客様にも食していただくことができた。

▲焼き芋を丁寧に包むお客様。
▲焼き芋を焼くのを一緒に楽しむお客様。

根本さんに、次に温めている企画が何かあるのか聞いてみると、「少し落ち着こうと思っています。なんか周りの皆さんに苦労かけているような気がして」と申し訳なさそうに言う。そんな根本さんに対して、相談員の渡邊さんはすかさず、「根本君の持っているキャラクターは素晴らしいの一言に尽きますね。他の職員とコミュニケーション取るのがすごく上手なので、だから皆が協力してくれるのだと思います」とその実践力をたたえる。加藤さんも、「何かやりたいなと思ったら、まず根本君に言ってみると、それを実現してくれるんです」と賛辞を送る。重ねて渡辺施設長も、「根本君は以前より提案が増えて、職員としてのステージを上がってきてくれたのかなっていう感覚です。根本君の実行力のようなものは、どんどん広まってもらいたいなと思っています」と根本さんへの賛辞がひとしきり続く。認め合う、労い合う、そんなハーモニーみどりヶ丘の温かい雰囲気が画面越しに伝わってきた。

ハーモニーみどりヶ丘の実践力

「やりたいんです」、「いいよ」で始まる企画

ここまでで紹介したように、ハーモニーみどりヶ丘では、各委員会や現場からいろいろな提案が出てきて、そのほとんどがすんなり承認され皆でその企画を実現させている。映画館について渡辺施設長は「“映画館やりたいです”というのに対して“いいよ”っていう、それだけの流れです」と言う。初詣企画について相談員の渡邊さんは「行事はいつもやっていることなので、何かしなきゃということで。やりますって言ってやるというだけです」と言う。餅つき、焼き芋、干し柿といった取組みも、基本的に「やりたいんです」という話をすると、周りが「いいね」「一緒にやるよ」という流れで話が進む。

大きな予算を必要とすることなら別だが、たいていのことはそれほど予算的に厳しいことはなく、やってみようという流れとなり、至ってハードルは低い。もちろん企画書もきちんと作成して、関係者のハンコをもらうという手続きは踏む。ハンコは、「よし、がんばれ」「応援するよ」というサインなのかも知れない。

このように多様な提案が次々出てくるのはなぜかと聞いてみた。まず相談員の渡邊さんは「現場からすると、上の方の“やっていいよ”っていう一言が大きいですね。そこでストップになってしまうと、せっかくアイデアがみなぎっても、“じゃあできないか”と、そこでどんどん意欲がなくなってしまいます。“いいよ”というだけでなく、一緒に考えてくれるというのは大きいです」と言う。続いて加藤さんも、「何かを言って、上の人にそれはダメだよって言われることはまずないですね。なので、リーダーとしても職員が提案してくれたことに対して、“じゃあやろう”っていうふうに言えるんだと思います」と言う。それに応じるかのように、根本さんも「上の人が“いいよ”と言ってくださるので、本当に楽しくやらせていただいています」と言う。

お客様の願いや楽しみを実現させるという共通目的に向かって、皆がそれぞれの立場からその役割を果たし、一体となって取り組んでいることが伝わってくる。

いつも通りの感染対策をするだけ

最後に、様々な取組みに際してのリスク管理や感染症対策についてお聞きした。渡辺施設長は次のように言う。「特養ですから、いつ急変するか分からないというリスクを考えながらやるのは、当然職員はみんな身に沁みついています。何をやるにしても、最大限注意を払ってお客様をじっくり観察しながら見守りをしています。その体制は普通にできていると思います」。

さらに感染対策については、「もうこの1年、ずっとコロナ、コロナで対策を徹底しながらやってきていますので、あえて映画だから、初詣だからというのはありません。いつも通りの感染対策をしっかりするだけです」と言う。法人全体の方針のもと、面会制限、外出自粛を行うとともに、感染予防に関わる研修、発症した際のシミュレーションなどは徹底してやっている。このように日常の多様なリスクに対する配慮や感染対策が浸透しているからこそ、現場は萎縮し過ぎず、安心していろいろな取組みができると言えるだろう。

渡辺施設長は、「このコロナ禍で、職員には我慢してくれ、今が正念場だといって、ずっと正念場が続いていて、本当に申し訳ない」とも言う。しかし現場は、面会や外出が制限されているこのコロナ禍だからこそ、中でできること、楽しめることを考え、アイデアを出し、それを実現しようとさらにパワーアップしているようにも見える。

インタビューを終えて

今回は施設長を含む4人の方々がインタビューに対応してくださいました。順番に最近のお取組みについてお聞きしていきましたが、どなたも「別にすごいことをやったわけじゃないんですけど…」というような口調でお話されているように感じ、この施設では当たり前のように様々な企画が出され実現しているんだなぁと感じました。

もともと現場発の取組みが活発だということでしたが、「コロナ禍だからこそ」というところで、それがさらに活発になっているというお話をお聞きし、なるほどこのような危機の時にこそ、「お客様の豊かな暮らしをあきらめない」という思いや信念がエネルギーとなって、人々に火をつけるのかも知れないと感じました。

さらに本事例から、危機の時こそ悲観的にならずポジティブでいること、できることは何でもやってみようとする姿勢が大事であることに気付かされます。危機対応能力とは、そのような精神性が組織の中に育まれていること、そのために日頃からの試行錯誤や失敗を許容する組織の懐の深さが重要ではないかと感じました。現場の主体性・自律性を高めたい、そんな問題意識を持つ法人・事業所に大きな示唆を与えてくれる事例だと思います。

ハーモニー猪苗代の事例も合わせてご参照ください。

■参考 社会福祉法人心愛会https://www.sin-ai.com/index.html

ハーモニーみどりヶ丘 ご提供資料

インタビュー担当:堀田聰子, 菅野雅子
記事担当:菅野雅子

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