みんコロラボ 〜みんな、新型コロナ対策どうしてる?〜

多職種でムードを盛り上げて実現した「クリスマス会」、みんなでさらなる挑戦へ!

要約

介護老人保健施設 富山リハビリテーションホームでは、感染対策の観点から施設内の行事やイベントが半年以上中止になっていたが、施設に応援に来ている医師の「クリスマス会をやろう」という職員全体会議での発言をきっかけに、多職種のスタッフで準備を進めていった。館内をクリスマスツリーや装飾で飾り付け、施設全体としてクリスマスムードを盛り上げていき、当日は、大勢が集まることを避け、スタッフや施設長等がキャストとしてサンタクロースなどに扮してクリスマスソングを演奏・寸劇を披露しながらフロアを順に回り、おやつには一人ひとりケーキを出すなどして入所者を楽しませた。このクリスマス会の成功と、続けて「節分」も問題なく実施できたことから、スタッフは自信をつけて、今後もいろいろな行事を行って、入所者の元気につなげていきたいと語る。

  • 富山県富山市
  • 介護老人保健施設
  • 施設での行事・イベント再開
  • クリスマス会
  • 節分
  • 館内ラジオ
  • 多職種連携
  • スタッフ・入所者の喜び

詳細

インタビュー実施日:2021年2月8日


この記事を読んでもらいたい方

  • 介護事業所の経営層,
  • 介護事業所の管理者,
  • 介護事業所の職員,
  • 業界団体・職能団体関係者,
法人名&事業所・施設名医療法人社団恵成会 介護老人保健施設
富山リハビリテーションホーム
お話を聞かせていただいた方富山リハビリテーションホーム介護職員 Aさん, リハビリテーション科 Bさん富山大学病院総合診療部医師 齊藤 麻由子さん
その他登場人物富山リハビリテーションホームリハビリテーション科 Cさん, 栄養科 Dさん富山大学病院総合診療部教授・医師 山城 清二さん

富山リハビリテーションホームの概要

介護老人保健施設 富山リハビリテーションホームは、医療法人恵成会が運営する市内9事業所の一つで、富山城がある富山市内の中心部、丸の内に位置する。入所者の平均年齢は90歳に近く要介護度の高い人が多い中、家庭的な雰囲気を大切に多職種でケアを提供している。居室は9階建ての建物の4・5階に位置しており、入所者はエレベーターを使って移動している。

自粛が続くなか「クリスマス会やろう!」と医師が口火を切った(2020年11月末)

富山リハビリテーションホームでは、多くの入所施設と同様、感染予防の観点から、入所者と職員が一緒に行ってきた毎年の季節行事や誕生会などのイベントは全て中止となっていた。その状態が既に半年以上経過して、介護職員の間では「誕生日会とか、何かイベントやりたいよね」と日頃から話には出ていたが、なかなかきっかけがなかったと話すAさん。

そんな職員のもやもやを打ち破ったのが、11月末の職員全体会議で山城先生の発した「クリスマス会でもやろうよ」の一言だった。Aさんはそれを聞いて、心の中で「やった!」と叫んでいたと言う。富山大学病院総合診療科から山城先生と一緒に感染対策のために富山リハビリテーションホームに応援に入っている齊藤先生は、「山城先生はその前からクリスマス会やろうと仰っていたのですが、その頃はまだ周りも「できますかね…」と消極的だったんです。11月終わりにはスタッフのイベントをやりたい気持ちも大きくなってきていたので、先生の声掛けが大きく背中を押して実現につながったと思います」と話す。

クリスマス会に向けての準備を開始

職員会議で了解が得られたことから、リハビリテーション科のBさんとCさんは、すぐにクリスマス会に向けて動き出した。行事係リーダーのAさんも巻き込んで作戦会議を行い、プログラムやキャスト、当日までのタイムスケジュール、準備の担当者などを決めていった。準備はなるべく少人数で行い、当日の会の時間はお昼時間に掛らないように設定した。また、リハ科の2人は院長先生や山城先生、齊藤先生など医師をはじめ、各部署にクリスマス会に参加してくれるよう声掛けをして、日程も多くの人が揃う職員全体会議のある12月28日に設定した。

「当日のキャストは、山城先生がサンタクロースで、院長先生がギター、齊藤先生がピアノを弾いてケアマネさんが歌う。みんなでやろう!っていう感じで話を進めた」というAさん。Bさんも「みんなが当事者になったほうが、みんなでやった感がある。今まで行事はボランティアさんが来てやってくれていたのですが、普段から知っている職員が何かやったり、普段知らない先生の一面が見られるのも入所者さんにとって一段と面白みが大きいんじゃないかと思いました」と話す。

クリスマス会の感染対策

感染対策については「施設内の感染対策委員会が山城先生や齊藤先生も入って日頃からしっかり活動していて、マニュアルも整えてくれているので、クリスマス会でもそれを参考にしながら、困ったときは委員長(同じリハ科のスタッフ)に直接確認しました」というBさん。齊藤先生は「日頃の感染対策がスタッフに浸透してきて、だんだんみんなの自信にもなっています。今回のクリスマス会も事前に計画を聞きましたが、移動式で工夫されていたので、特に感染対策について付け加える必要はありませんでした」「今回は職員が各フロアを回ることで、密にならない環境で楽しんでいただくことができました。小規模な施設だからやりやすかったところもありますが、他の施設でも、階をまたがずフロアごとにこじんまり集まるなど、空間の工夫ができると思います」と話す。

ポスターや飾り付けで施設内のクリスマスムードを高める

Aさんは当日使う道具を用意する担当として、無我夢中で準備を進めていった。さらにクリスマス会の開催を知らせる入所者向けのポスターと職員向けのチラシを用意して、誰でも一目で分かるようにした。また、AさんとBさん、Dさん(行事係・栄養科)の3人は施設のクリスマスムードをさらに盛り上げようと、クリスマスツリーやフロアの飾り付けをしていった。「やっていくうちに3人の話がどんどん盛り上がって、9階のお風呂のフロアやエレベーターの中とか、最終的には、もう館内全部やりましょう!ってなりました」と話すAさん。ポスターやクリスマスツリーなどを見て反応のあった入所者さんとは、そこから「今度クリスマス会するんですよ」、「クリスマスですね」など会話が広がったと話す。

Bさんは、中でも特にこだわって飾り付けをしたのは3階で、空いていた奥の一角にツリーとCさんが家から持ってきてくれたピカピカ光る電飾を置き、部屋も少し暗くして、よりクリスマスの雰囲気のある特別な空間を作ったという。そしてリハ科の2人は、リハの時間帯を使って、それぞれ担当する入所者をその場所にお連れして、クリスマスの思い出を聞いたり、サンタクロースの衣装を着けて写真を撮ったり、クリスマス音楽を聴きながらフロアを一緒に歩いたりした。

こうして、富山リハビリテーションホーム全体の雰囲気がクリスマス会に向けて盛り上がっていった。

入所者を飾り付けた場所に案内してクリスマスの思い出を聴いた
写真提供:富山リハビリテーションホーム

いよいよクリスマス会(2020年12月28日)

当日は、安全にクリスマス会ができるようにスタッフをいつもより多く配置してもらったというAさん。感染対策のため各フロアにキャストが移動していくスタイルをとり、開始と最後の挨拶も集合を避けて館内放送を使った。

開始直前にキャストが集合して歌と寸劇を練習し、いよいよクリスマス会がスタート。サンタクロースに扮した山城先生とトナカイやクリスマスの被り物などを身に着けたキャスト達が5階、そして4階へとエレベーターで移動しながら、各フロアで10分ほどクリスマスソングを演奏しながら寸劇を披露した。「入所者さんは部屋の入口からキャストが演奏しながら星を持って回ってくるのを見たり、演奏に合わせて一緒にマラカスを鳴らしたり、とても嬉しそうでした」と話すBさん。

多職種のキャストでクリスマスソングと寸劇を居室フロアにお届け
写真提供:富山リハビリテーションホーム

クリスマスだから、おやつは「ケーキ」!

「せっかくのクリスマス会、どうせならおやつにケーキも出そう」とAさんは栄養科のDさんに相談した。当初は1種類のみの予定だったが、看護師から「入所者の嚥下機能のレベルも考えて」というアドバイスもあって、タイプの異なるものをいくつか用意することにした。当日15時には、このケーキ・タルト盛りをもって、飲み物もコーヒーと紅茶を用意して好きな方を選んでもらうスタイルにして、各部屋を回っていった。大きなケーキを思いがけずぺろりと召し上がる入所者も多かったという。

入所者・スタッフの反応

クリスマス会は行事が少ない中での非日常。入所者さんたちも楽しみにしていたし、すごく楽しかったという声を聞いていると話すBさん。「こんなことこれまでになかった」と涙を流して喜んでいる方もおられたという。スタッフの反応についても、皆さん声をかけると快く「いいよ」って言って協力してくれてうれしかったし、一体感があってとても良かったと振り返る。

Aさんは「クリスマス会をやって院長先生も職員もみんなが楽しかったって言ってくれたので、やったぞって感じですね。来年はもっと楽しくしたい」。と既に心は来年に飛んでいた。

クリスマス会を巡るリハビリの視点からの働きかけ

「感染対策のための自粛で、なかなか四季の変化も感じにくくなっているので、クリスマス会は季節を感じる一つのアイテムになりました。回想法じゃないけれど、その場に行くと皆さんクリスマスの思い出を話されたりするんです」と入所者をイルミネーションで飾り付けた場所に案内した時のことを振り返るBさん。

当日は、入所者さんにも、ただ見るだけじゃなくて参加してもらおうと、マラカスを配って「動けるほうの手で一緒にやってみましょう」とお誘いした。終わった後も「どうでした?」と記憶面に働きかけたり、「今度はどんなことがやりたいですか?」と聞いてみたり。一つのイベントを通じて、リハビリテーションの視点からも入所者さんに色々な働きかけができたという。

「イルミネーションの前で撮影した写真、皆さん本当にいいお顔をされているので、Cさんと二人で、お1人ずつ写真と、職員目線で普段の様子が伝わるようなコメントを載せたお手紙を作ってご家族にお渡ししました。」と家族とのコミュニケーションにも展開した。

一人ひとりの入所者の写真やコメントをお便りにしてご家族へ
写真提供:富山リハビリテーションホーム

クリスマス会をやってみて~医師の視点から

齊藤先生は、「今回のクリスマス会は、数人のスタッフを中心に、目標に向かって院長先生はじめ、スタッフ、入所者みんなを巻き込んで楽しくできたことがほんとうによかったです。そこに私も一緒に参加できたことに感謝しているんです」と話す。また、行事をすること自体がリハビリになって、日頃あまり感情を出さない方や、生きることに前向きでない方も笑顔になることを見て、「私自身、こういうレクリエーションの力を実感したのは初めてで、楽しいことって大事なんだと改めて思った」と言う。

次は「節分」、言い出してその日に実行

クリスマス会を成功させたAさん、次は「新年会」を目論んでいたが、それはかなわず2月5日に「節分」をしたという。しかも、その日の朝「節分やってないじゃない、邪気払いしないと!」に提案して即実行。Bさんも、出勤してすぐAさんから「きょう節分やろうと思って、お面買ってきた」と聞き、「どうしましょう!」と言いながらも準備を整え、お昼前にはできてしまった。

各フロアにはBさんから急ぎ「今日、節分やります。鬼が各フロアを回りますので、〇時〇分に入所者さんを起こして、こういう配置でこういうフォローをお願いします」と連絡を入れ、事前に、豆の代わり使う紙で作ったボールを配っておいた。いきなりの企画だったが、スタッフはみな協力的だったと言う。

みんなで赤鬼めがけて「鬼は~外!」

そして本番。まず館内放送で「節分をやります、今からフロアに鬼が行きます!」とアナウンスを流し、赤タイツと赤いアフロで赤鬼に扮したケアマネさんが、クリスマス会と同じように各フロアに登場。入所者さんは廊下に出て、鬼が来たら「鬼は~外!」と言いながら、配っておいた紙のボールを投げて鬼退治をした。Bさんは「その日、私はカメラ担当でしたけど、皆さん、ボールを鬼に投げて楽しそうでした。」と振り返る。Aさんは、「節分やって、みんなが活気づいて良かった。なんとその日のおやつもケーキでした!」と笑顔で話し、「次は何をしようかな。お茶会やひな祭りという声も出ているし。一回やってうまくいくと、思いついたら何でもできる感じになる。やればできるもんですね」と自信を深めていた。

赤鬼に扮したケアマネジャー
写真提供:富山リハビリテーションホーム

入所者とスタッフの新たなコミュニケーション「ラジオ・丸の内」

ちなみに、富山リハビリテーションホームでは、集団での行事やレクリエーションが休止になるなかで、感染対策に配慮しつつ、入所者に少しでも楽しい時間を過ごしてもらう方法として、2020年9月には、館内放送を使ったラジオ放送「ラジオ・丸の内」を開始していた。

「ラジオ・丸の内」では、毎週木曜日の昼食前の30分間、スタッフが交代でパーソナリティを務め、プライベートトークを交えながら、日時や天気の確認、当日の昼食メニューの紹介や、ラジオ体操を流したり、音楽をかけたりしている。歌謡曲や童謡など好きな曲のリクエストや他の入所者にメッセージを送ることも可能だ。

Bさんは「ラジオ・丸の内はリハ科からの提案でしたが、リハ科の2人でやるよりも、みんなを巻き込んで、毎週職員が交代でしゃべるほうが面白い。話すのが苦手な人もいるから、やりたい人でやろうと始めて今も続けています。ご家族へのお手紙に、施設内で「ラジオ・丸の内」をやっているのでリクエストくださいと書いたら、リクエストを寄せてくれた方もいて嬉しかった」と話す。

コロナ禍で始めた館内放送を活用した新たなコミュニケーション「ラジオ・丸の内」
写真提供:富山リハビリテーションホーム

これからやりたいこと

「入所者さんに満足のできる介護をと思っているけど、手が足りずにイライラすることもあります。それでも、私は一度も辞めようと思ったことはない。」と話すAさん。「行事も楽しいですが、介護職としてはおむつ外しもやりたいですね。行事と違って、そう一気にはいかないけど少しずつ変えていけたら。」と抱負を語った。

Bさんは「もっと普段から入所者さんにリハビリ的な支援もできればと思うんです」と言い、「少しずつできるようになってきた行事とは別に、フロアごとでもいいから毎日少しずつレクをする時間を作りたい。限られたスタッフの中で、具体的に何をどうしたら実現できるのか考えていきたい。」と熱い想いを語った。

インタビュー担当:堀田聰子
記事担当:菅原かほる

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