みんコロラボ 〜みんな、新型コロナ対策どうしてる?〜

エビデンスに基づく利用者参加の感染対策で、できることの選択肢を増やす

要約

有料老人ホームや特別養護老人ホーム、在宅サービスを含めた高齢者複合施設である神奈川県藤沢市の聖隷藤沢ウェルフェアタウンでは、新型コロナの特徴や有効な予防策をよく理解することで、早い時期から、地域の感染状況に応じて対策や制限に緩急をつけ、利用者の楽しみや生きがいを取り戻すための取組みをしている。

ここでは、生活の自粛、活動の抑制ありきではなく、「どうしたら、感染せず、利用者の楽しみを続けてもらえるか、その機会を継続的に提供し続けられるか」が徹底的に考え抜かれており、施設側が感染対策を講じるだけでなく、利用者が楽しみながら感染対策を習得できる仕掛けも考慮されている。また、感染状況から中止または縮小の判断をせざるを得なくなった場合にも、可能な範囲で「いいコト探し」による代替策を講じることを心掛けている。

介護の現場でゼロリスクは有り得ないこと、もし、誰かが感染したとしても、責めたりしないで、皆で支えあうことの重要性を繰り返し職員に伝え、平時から職員の安心とストレス軽減に繋がる職場環境と文化の醸成を目指している。

  • 神奈川県藤沢市
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  • 感染対策
  • 感染蔓延のレベルに応じた対応
  • 生活の制限と緩和
  • 面会対応
  • 感染対策のエビデンス
  • 利用者の健康管理
  • スタッフのモチベーション

詳細

インタビュー実施日:2021年2月1日


この記事を読んでもらいたい方

  • 介護施設看護師,
  • 介護事業所管理者,
  • 介護経営者,
  • 介護職員,
  • 業界団体関係者,
法人名&事業所・施設名社会福祉法人聖隷福祉事業団 聖隷藤沢ウェルフェアタウン
お話を聞かせていただいた方藤沢エデンの園一番館副園長・老人看護専門看護師松本佐知子 さん

聖隷藤沢ウェルフェアタウンは、住宅型有料老人ホーム、介護付有料老人ホーム、特別養護老人ホーム、デイサービス・訪問介護などの在宅サービスを運営する高齢者複合施設である。新型コロナウイルス感染症流行下における高齢者施設の対応について、看護師の松本さんにお話を伺った。松本さんは、公衆衛生看護学の博士課程に在籍する科学者でもある。

新型コロナウイルスを良く知ることで、柔軟な対応が可能になる

新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、特に高齢者施設では、ひとたび感染者が発生するとクラスターになるリスクが高いことから、どの施設も慎重な対応を余儀なくされた。特に、日本で新型コロナが流行しはじめた2020年の2月~3月は、このウイルスの特徴や感染対策について分からないことが多く、あらゆる場面で制限を厳しくせざるを得ない状況だったと松本さんは振り返る。行政が推奨する対応は、最新のエビデンスが反映されていないことも多く(時差が生じる)、したがって、松本さん自身が最新のエビデンスをキャッチアップするようにした。科学ジャーナルのみならず、SNSを用いて信頼する専門家の発信を調査したり、いろいろな立場の専門家のマニュアルや指標、意見を参考にし、それらをつなぎあわせて自施設の対策に応用した。

「ウイルスがどんな特徴を持ち、有効な感染対策が分かりはじめてからは、戦い方、または共存の方法の方針が立てられるようになりました。このウイルスを良く知れば、厳しい制限だけではなく、柔軟な可能ができるようになりましたね。」松本さん曰く、2020年6月頃からは地域の感染状況に応じて、対策や制限に緩急がつけられるようになってきた。また、長期戦に備えて、生活の自粛のみではなく、利用者の楽しみや生きがいを取り戻すための検討が本格化した。

エビデンスに基づく対策による制限の緩和:サークル活動等の再開

生活の自粛、活動の抑制ありきではない。「どうしたら、感染せず、利用者の楽しみを続けてもらえるか、その機会を継続的に提供できるか」松本さんは、そこを徹底的に考えた。また、徐々に新型コロナの特性や予防に関するエビデンスが報告され、生活の場、暮らしの場においては、接触感染、飛沫感染の徹底により、継続できる楽しみはあると松本さんは結論付けた。

聖隷藤沢ウェルフェアタウンにも歌が好きな利用者が多い。合唱のサークルも当初は中止となっていたが、こちらもウイルスの特徴や感染対策が明らかになってきた2020年初秋には再開した。もちろん、コロナ禍以前のように自由に活動というわけにはいかない。「マスク着用」、「人との距離を1.5mとる」、「窓を開け換気」等の対策は徹底しての再開だ。合唱のサークルの開催会場は、1.5mの距離を保ったスタンディングポイントを床に貼った。そこに立って歌ってもらうようにし、利用者自身も感染対策に留意し行動できるような工夫を行った。

マスクをして歌うのか?利用者の中には、抵抗があった人もいたかもしれない。しかし、やはり、多くの利用者にとって、楽しみや生きがいは、人と人とのつながりの中に存在するものだ。日に日に、利用者の表情は明るくなっていった。

園芸クラブに関しては、マスク着用、パーテーションの使用などで飛沫が飛ばない対策、換気、手指消毒の徹底などの策を講じ、非常に早い時期にサークル活動を再開している。特筆すべきは、このパーテーションの高さは、富岳のシミュレーションから割り出された、科学的に感染予防に有効な高さとしているという。聖隷藤沢ウェルフェアタウンでは、レストランにも、同じパーテーションを装備している。

◆マスク着用×パーテーションにより飛沫飛散をブロックし、園芸サークルを再開(緑のエプロンが講師)

利用者が楽しみながら感染対策を習得することの意義

聖隷藤沢ウェルフェアタウンで、密になりやすい場所には、以下の写真のような「足跡マーク」がある。例えば、先述の合唱サークルの会場もそうだが、他にもレストランで列をなして待つ際に、身体的距離を保つための工夫として、こうしたスタンディングポイントを床にマークする策を講じているのだ。「もちろん、施設として最大の感染対策を取りますが、何より大事なのは利用者さんの感染予防への参画なんですよね。」松本さんは、こう語る。「人と人との間を1.5m開けてください」と職員がいくら声高に叫んでも、なかなか利用者の行動変容に至らない。「足跡マークの場所に立つことで、身体的な距離が保たれ、感染予防策になる。だから、足跡マークを気にしてね」とアナウンスし、またアテンションバリューを高めるため、そして感染対策しながらも楽しめるようにと、季節ごとに足跡マークのバージョンを変える。利用者は、足跡マークに導かれ、自ずと感染予防策を実行できるのだ。松本さんは、こう話す。「季節ごとに足跡マークのバージョンを変えるのは、介護職員のアイディアです。医療職の私には欠けがちな生活の視点を補ってくれているのは介護職です。」

さらに、この対策は、日本での感染が騒がれ始めた時期である2020年の3月には、もう実装していたという。有効な感染予防に関する知見を収集し、当該施設の特性も鑑み、最も有効な方法を考案し、こんなにも短期間に迅速に策を実装された松本さんに敬服する。

◆一定の距離を保つために、スタンディングポイントを床にマーク(これはクリスマスバージョン)

代替策を用意する、いいコト探しをする

コロナ禍は、あれもダメこれもダメ、あれもできない、これもできないと、とかく生活の規制や活動の抑制の話題ばかりが聞こえてくる。しかし、松本さんは、こう話す。「コロナ禍でも、実はいいコトもあったんですよね。」例えば、納涼祭。第2波の最中だったため、中止の判断をした。でも、松本さんたちは、中止では終わらせない。ご入居者と職員から、納涼ウチワの作品を募集し展示した。これは、利用者をとても楽しませた。

また作品展。毎秋に行っているが、2020年は入場制限をかけての実施となった。しかし、「コロナ禍だからこそ、新たな趣味にチャレンジした」という、前向きな入居者の姿に、心を打たれた職員たちは、作品集をつくり配布することにした。「作品集の配布は、入居者に殊の外たいへん喜ばれ、連鎖する形で職員も大変うれしかったようです。」と松本さんは語る。

いずれも、感染状況から、中止または縮小の判断をせざるを得なかったが、タウン内の各施設から選出された介護・事務などの多職種で構成された「行事プロジェクト」実行委員の熱意により、可能な範囲で代替策や更なる工夫が講じられた。そして、利用者・入居者は、そこに新たな楽しみを見つけられたのだろう。また、どうしても閉塞感が漂ってしまう、この時勢において、悪いことばかりに目を向けるのではなく、「いいコト探しをすること」は、利用者・入居者、そして職員の気持ちを前向きに保つ、一つの有効な策かもしれない。

◆納涼祭は中止になったが、納涼うちわの作品募集と展示を行った

医療との付き合い方

第1波の頃は、医療機関の受診こそが感染リスクと捉え、「処方期間を延ばしてもらう」、「電話での処方」、「不要不急の受診は控える」などの対応をとっていた。しかし、最近、アメリカなど諸外国では、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、がんの発見が遅れ早期からの治療ができていないことが問題となっている。このようなことからも、特に持病はあるがADLが自立しているご利用者には、マスク、手洗い、密を避ける、といった対応をとり、診療所等、かかりつけ医の受診を推奨している。特別養護老人ホームの入居者においても、嘱託医と連携し、以前にも増して、アセスメントを細かくし、ちょっとした変化も見逃さないようにしている。

以上のように、コロナ禍において、日ごろからの健康のメンテナンス・アセスメントに努めることで、逼迫した医療機関の負担軽減に、また望まない利用者の入院や救急搬送の予防に繋がればと松本さんは話す。

地域の感染状況による柔軟な対応

第1波の際、組織として面会を厳しく制限した。その際に、まずはWeb面会を導入した。しかし、入居者のご家族はITが苦手な方も多く、結局、施設の会議室に来ていただき、職員がサポートしながらタブレットを使ってビデオ通話を行う方法をとらざるを得なかった。この形態のWeb面会は、感染予防にどれだけ貢献するのか?誰かHAPPYになる人はいるのか?松本さんは疑問視した。

組織の上層部は、できれば、自施設から一人も感染者を出したくないという思考になる。これはある意味、当たり前だろう。一方、利用者の日々の営みは継続しており、現場の介護職員は、人と人とのつながりの中にある利用者の楽しみや生きがいをできるだけ早く取り戻したい、また利用者の声を聞き、それに応える形で、より良いケアをしたいという気持ちを強く持っている。ここに現場と組織の上層部の乖離が生じる。

活動の制限を緩めていく際には、組織の上層部の合意を取り付けるのに苦労したこともあったが、現場の状況を実感しているケア部門の役職者たちと一緒になって提案し、根気強くアプローチした。
現在、地域の感染状況、つまり新規感染者数や実効再生産数を見ながら、活動の自粛や制限を緩めたり強めたりする柔軟な対応が行われている。これを主導しているのは、松本さんだ。

ゼロリスクは有り得ない。誰が感染したとしても責めない文化を平時から醸成

新型コロナウイルスへの対応により普段より業務量が増し、また配慮しなければならないことが多く、介護職員は疲弊している。さらに、感染予防の観点からプライベートが制限されていることや、自身が感染者1号になってしまわないかといった感染に対する恐れが、大きなストレスとなっているという。「モチベーションを向上させるためには、少し介護職員の生活も緩めてあげたいとは思うんですけど、緩めることが感染のリスクを向上させるのは確実なので、まだうまい方策を見いだせていない。」と松本さんは言う。介護職員のストレス軽減は喫緊の課題だ。

松本さんは、介護の現場で、ゼロリスクは有り得ないこと、もし、誰かが感染したとしても、責めたりしないで、皆で支えあうことの重要性を繰り返し職員に伝えている。何があっても、自身を受け入れ、サポートしてくれる職場環境と文化は、職員の安心とストレス軽減に繋がるのではないだろうか。

取組みを伺って

エビデンスや最新の専門家の提言等を収集し、それを自施設の条件に当てはめアレンジし、実行に移すという一連の対応に高い専門性とモラルを感じました。規制だけではなく、利用者の生きがいや楽しみを継続するためにどうしたらいいかという視点を常に持ち続けること、先を見越した策を講じる姿勢は、学ぶべき点であると思います。また、ゼロリスクではないのだから、誰が感染しても責めない文化の平時からの醸成についても非常に重要かつ、他の施設も参考にできることと考えます。

■参考 聖隷藤沢ウェルフェアタウン ホームページhttp://www.seirei.or.jp/welfare/

インタビュー担当:山岸暁美
記事担当:山岸暁美、飛川明俊

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