みんコロラボ 〜みんな、新型コロナ対策どうしてる?〜

新人介護職員が職場・地域と開催した子ども食堂

要約

滋賀県栗東市で通所介護事業を運営していた株式会社アスピラシオンは、地域住民との関係を深めながら、多世代の人が集う拠点として地域からも親しまれてきた。

新型コロナの影響が広がる2020年6月、小規模多機能ホーム志(こころざし)がオープン。一人の新人介護職員の採用をきっかけに、新人職員を中心に先輩上司、地域住民の協力のもと子ども食堂を始めるに至った。定期的な開催はもちろん、コロナ禍で地域住民が諦めていた餅つき大会を実施するなど、どうすればみんなで楽しくできるか、という視点で同事業所は様々なことに取り組んでいる。

やりたいと思ったことに挑戦できる環境と、その挑戦をみんなでサポートする組織風土が浸透。代表の辻さんをはじめ、志に集う職員たちは、地域の多世代が集う場で、今日も新たなアイデアをあたため、チャレンジを重ねている。

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  • 小規模多機能
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  • 若手新人職員
  • 新たなチャレンジ
  • 子ども食堂
  • 相談しやすい職場
  • チャレンジを応援する職場
  • 対話する組織風土

詳細

インタビュー実施日:2021年2月8日


この記事を読んでもらいたい方

  • 介護職員,
  • 介護リーダー,
  • 介護事業所管理者,
  • 介護経営者,
  • 小規模多機能型居宅介護関係者,
  • 地域共生ケアに関心がある方,
  • 地域づくりに関心がある方,
  • 介護に関心がある学生,
  • 介護に関心がある若者,
  • 町内会・自治会関係者,
  • 子ども食堂に関心がある方,
法人名&事業所・施設名株式会社アスピラシオン
小規模多機能ホーム 志
お話を聞かせていただいた方代表取締役辻広志 さん介護職員兼子ども食堂担当澤村早織 さん主任鈴井勝弘 さん

多世代型事業所のはじまり

2020年6月に滋賀県栗東市に『小規模多機能ホーム 志(こころざし)』がオープンした。地域密着で住民と職員が日々の生活や様々な催しを通じて楽しく時間を過ごしている。かつて日本のどこにでもあったような人々の交流が自然な形で営まれている心温まる事業所だ。

新型コロナが拡大するなか、専門職集団としてきちんと感染症対策を講じ、職員や地域と共に考え、それまでの地域に根ざした拠点の風景を、創意工夫によって継続している。若手新人職員が担当となった子ども食堂は、現在も事業所の大切な取り組みのひとつになっており、毎回職員や地域住民とみんなで作り上げている。様々なことにチャレンジできる多世代交流の場について、若い職員が「楽しい」と笑顔で
語るそんな場所だ。

今回は代表の辻さん、介護職員で子ども食堂担当の澤村さん、主任の鈴井さんにお話を伺った。

『小規模多機能ホーム 志』の立ち上げ経緯

まず代表の辻さんの経歴がとてもユニークだ。10代の頃から大工をしていた辻さんは、障がい者分野の住宅改修が福祉との最初の接点だった。自分がうまく取引先に説明ができない経験をしたことで、知識を持って福祉や支援ができるようになりたいと感じ、福祉の勉強を始めたという。

大工とダブルワークという形で、滋賀県大津市にあるNPO法人が営む宅老所で働くことになる。そこで約10年福祉の現場の下積みをさせてもらったという。20代半ばで宅老所の管理者になったことを機に大工を辞めて、福祉一本で現場の経験を積んだ。辻さんは管理者になった頃から、『NPO法人街かどケア滋賀ネット』という滋賀県内で地域課題に取り組む様々な活動団体が情報交換や地域づくりを共に行う法人で役員をしており、そうした場での経験から、地域共生ケアの素地を培っていったという。

そんな辻さんは29歳の時に株式会社アスピラシオンを立ち上げた。アスピラシオンという社名に込めた想いについて、「フランス語で『同志』などの意味があります。同じ志を持った職員さんや地域の方が集まってきて欲しいという意味でつけました。職員さんのやりたいこともそうですが、地域からのニーズも対応しています」と教えてくれた。例えばボランティア団体の活動場所の提供や、障がい児の学校登校までの短時間預かりなどだ。事業化していないことでも、ニーズがあり、地域から頼られることはできる範囲でしているという。辻さんが想い描く地域共生のあり方が詰まっているようだ。

起業して最初に立ち上げたのはデイサービス『多世代型通所事業所 志』だ。地域の縁で空き家の建物を活用して欲しいと持ち主の方から紹介されたという。「もともと小規模多機能をやりたかったのですが、栗東市では当時まだ計画になくて公募もされてなかったんです。やりたいということを3年ほど市に働きかけて、位置づけて頂けました。その間、デイサービスを通じて地域との関わりを深めてきました」と背景を教えてくれた。

こうして開設準備を重ねてきた『小規模多機能ホーム 志』はコロナ真っ只中の2020年6月にオープンした。

「建築も進んでいましたし、もう引くに引けないというのはありました。当初新型コロナの影響がありましたが、登録者も職員さんもだんだん増えています。小規模多機能にはデイと同じように地域の誰でも入ってこられる環境を作りたいと思っていましたので、設計の段階から職員さんと一緒に間取りや子供が遊べるスペース、高齢者の方が落ち着ける場所を話し合って作りました」と3年越しの小規模多機能立ち上げについて話してくれた。

[事業所外観]
事業所Instagramより

地域からの安心感につながる新型コロナ感染対策

ここで一旦、辻さんに周辺の新型コロナに対する状況と感染症対策について伺った。

辻さんは2020年1月前後に新型コロナに関する報道が目につくようになった頃から危機感は感じていたという。滋賀県内で感染者が増えてきたのは、都市部と比べて少し遅かったこともあり、十分に対策を講じる時間があった。

対策としては、密を避けること、マスクの着用、手指消毒などや、職員や外部の方の出入りの際の検温など、基本的なことを徹底している。

インタビューをした時点で滋賀県に2回目の緊急事態宣言は出ていないものの、比較的人口が多く若い地域では毎日感染者が出ており、油断はできない状況だという。辻さんは地域の介護サービス事業者協議会などで、勉強会や研修に参加して情報収集に努めているという。そうした情報や経験をもとに、感染予防対策や有事のゾーニング等についての研修を事業所で実施しているそうだ。

小規模多機能には保健師・看護師資格を持つ職員も在籍しており、後述する様々な催しなどにおいても、感染予防の学びを深めた職員同士で感染対策についても話し合いしながら決めているという。

コロナ禍においては、地域住民側から催しに対して反対や懸念の声が上がりそうなものだが、このように日頃から感染症についての情報収集と対策の浸透をはかることで、逆に地域住民は「専門職がいるから大丈夫」という安心感を持ってくれている。運営推進会議などの機会も活用し、民生委員や自治会長等のメンバーに日頃の活動とあわせて感染対策についても共有、事業所と住民がやりたいことを語り合い、必要な協力を得られる体制ができているそうだ。

子ども食堂のコンセプト

辻さんが澤村さんに初めて出会ったのは小規模多機能ホームの内覧会の日のことだった。澤村さんは福祉系の学校を卒業して社会福祉士を取得していたが、まったく違う業界で働いていた。知人から内覧会を紹介されて行ってみたところ「職員さんのアットホームな雰囲気に惹かれて、実際に利用者さんへの関わりもすごくいいなと思って、即お願いしました」と就職動機について話してくれた。

さて、子ども食堂は、子どもが一人で行ける、無料または定額の食堂で、地域交流拠点や子どもの貧困対策といった役割を持ち、全国に広がっている民間発の自主的取り組みだ。地域の多世代交流を掲げる辻さんも子ども食堂の取り組みについては関心があったようだ。内覧会にきた澤村さんは高齢者だけでなく、子どもも好きで、幅広い意味で福祉のことに携わるために社会福祉士を取得したことを辻さんに話し、その流れで子ども食堂をやってみようということになったそうだ。

辻さんは子ども食堂のコンセプトについて「子ども食堂の生活に困っている方が利用すると言う一般的なイメージをなくしたいというのが個人的にはありました。子どもさんだけじゃなくて、親御さんも一緒に参加できるイベントにしたいと思ってました」と話す。子ども食堂は平日の夕方、学校終わりの子供が集うのが一般的な開催と思われるが、辻さんはあえて日曜日開催にすることで、一般的な子ども食堂ではない、志が目指すコンセプトにしようと考えたようだ。澤村さんも「地域ぐるみで『どなたでもきていいですよ』みたいなスタンスに魅力を感じて、私もそこに飛び込んでみたいなと思いました」と語る。また、栗東市では高齢者の集いの場事業があり、これと同時に開催することで、より多様な方々が集える場にしたという。とはいえ、コロナ禍でもあるので、人数制限や感染症対策をしたことは言うまでもない。

子ども食堂は辻さんを代表とした任意のボランティア団体主催として開催している。担当は澤村さんだ。色々な方から寄付金や、地域の方から野菜をいただくなどの支援で賄っており、集客については、はじめ職員さんのお子さんや地域の人にチラシを配ったりポスティングをしていたが、今では自治会長の方が回覧板で回してくださっているという。これも地域密着を感じるエピソードである。

子ども食堂担当となった澤村さんは、「保健師の先輩が本当に親身に一緒に協力してくださっているんです。色々な相談もさせてもらって一緒に作っています」と話す。辻さんと二人が主力となり、また現場の職員とも話し合いながら企画運営しているという。

竹の伐採に始まる流しそうめん

プレ企画を経て、7月に開催した流しそうめんの回は澤村さんが一番印象に残っているという。事業所の広報隊長である澤村さんが発信するInstagramには、素敵な動画とともに、流しそうめんの準備や当日の様子が掲載されている。

澤村さんは「地域に対して何かをしているっていう感覚もあるんですけど、私自身も楽しみました。コロナ対策で使う衝立も、そうめんを流す竹もほぼ手作りで。色々な体験ができました」と本当に嬉しそうに話してくれた。ちなみにこの竹も地元の人のご縁で活用させていただいたそうだ。

[流しそうめん準備]
事業所Instagramより

このように和気藹々と取り組むイベントの裏でも感染症対策は忘れていない。「夏場であればイベントは外ですね。流しそうめんも外で、そうめんを取るお箸と、食べるお箸は別にしています。衝立を立てて、流す人はガウン、マスク、フェイスシールド、手袋着用です」という徹底ぶりだ。「うちみたいに小さな法人でクラスター出たら倒産ですからね」と辻さんは笑いながら話す。そのリスクを徹底的に軽減した上で、それでも職員や地域のチャレンジを叶え、多世代交流を実現しようとするスタンスには脱帽である。

[流しそうめん]
事業所Instagramより

子ども食堂を通じた地域イベント

代表の辻さんが元大工ということもあり、色々なことが手作りになり、それ自体がイベント化している。職員もそれをわかってか、色々なことをイベント化する頭になっているようだ。例えば、柵造りである。

「事業所の裏に川があるんですが、水鉄砲大会した時に、子どもさんが落ちてしまうような高い落差があって、柵が必要ということになり、イベントとして作ってしまえってなりました」とのことだ。これも、職員で話し合いながら、地域の人と一緒に手作りしたという。4歳〜90代のみんなで作った柵は、今も子どもが川に落ちないように事業所の裏手を守っている。

[水鉄砲大会]
事業所Instagramより
[柵造り]
事業所Instagramより

開催が危ぶまれていた餅つき大会

もう一つ取組みとして紹介されたのは年末に開催した餅つきだ。去年までは地域のコミュニティーセンターで、学童保育の子供など100名規模の餅つき大会が行われていたのだが、コロナの影響もあり、開催が危ぶまれたところ、志で規模を縮小して開催することになったそうだ。

次の写真の左上に不思議な絵がある。これは、餅つきをした時に、底が抜けないように地盤強化をするために床下に潜っているところだという。本当に本格的である。

そして、ここでもコロナ対策は万全だ。防護具の装着など基本的なことはもちろんだが、餅つき用の餅と、食べる餅を分けているのだ。餅つきの体験は皆で楽しみつつ、別室でガウンとフェイスシールド、手袋を着用したボランティアの皆さんが別に餅を丸めてタッパーに詰めており、こちらは食べたり、持ち帰ることができる。ここまで徹底して、諦めかけられていた地域のイベントを開催したのだ。

[餅つき対策]
事業所Instagramより
[みんなで餅つき]
事業所Instagramより

挑戦を応援し合う職場風土

子ども食堂以外にも、様々な取り組みを行っている志だが、普段のケアや組織の仕組みはどのようなものなのか。主任の鈴井さんに伺ってみた。

「例えば澤村さん発ですが、連絡ノートを手書きからパソコンにしてみようと提案がありました。どうすればいいかなって話し合ったり、逆にパソコンに不慣れな職員はその職員同士で話し合っています。そうして、自分たちの中で話し合って、起こった問題には、みんなで意見を持ち寄って、解決するようにしていってますね」と皆で話し合いながら検討している文化について話してくれた。

子ども食堂など、本業とは異なる取り組みに辻さんらが注力しなければならないことも多い。そうした中で、現場サイドとして鈴井さんは、「どうぞやってくださいという気持ちです。やりたいことがあるんだったらやって欲しいし、協力できることはさせてもらいますという感じです。その代わり、自分がやりたいと思ったことはさせてもらいやすい環境です」という。鈴井さん自身も、小規模多機能の開設が本格化する前は介護タクシーをやりたいという提案をして、進められていたこともあったという。お互いにやりたいことを応援しあえるコンセプトに共感しているようだ。

一方で、開設したばかりの組織が、少しずつ大きくなる中で、こうした文化を新しく入ってくる職員に伝えていくことが後々の課題だと鈴井さんはいう。介護未経験の職員に基本的な介護を伝えながら、そうした事業所の理念も伝えていっているようだ。

職場の魅力と今後について

ここまで伺って、澤村さんと鈴井さんに、事業所の魅力について聞いてみた。

澤村さんは「一言で言うと、心がこもっているって思います。誰に対しても、人としての根底がしっかり根付いている。作業的じゃなくて、心を感じたんです。しんどい時も、分け隔てなく話せてもらえる先輩、上司ばかりなので、しんどいも変わっていきます。自覚されてないと思いますが、辻さんの人格としての部分があって、みんなそう映っていると思います」と辻さんを前に、笑顔で話してくれた。

鈴井さんは「最初から色々一緒に作れるのはすごく楽しみでした。実際に立ち上げができて勉強になりました。色々な取り組みも職員同士でわいわい話し合って決めている雰囲気です。やりたいことをやらせてもらえて、みんなは協力するっていう。以前就職相談会みたいなところへ出してもらった時に『やりたいことはまずできる』っていうのを一番に伝えさせていただきました。あと、うちの社長(辻さん)こんな感じなんで、言いやすい。もう最初から言いやすい感じがあるので」と澤村さん同様に笑って話してくれた。

介護未経験でありながら、組織の文化や先輩、に受け入れられて、様々なチャレンジをしている澤村さんに次にやりたいことを伺った。「ゆくゆくはここでカフェとか、道ゆくドライブしている人たちがちょっと立ち寄れるような休憩スペースを作りたいなって展望は話しています」とのことだ。辻さんからは4年後にはグループホームもオープンするという計画も聞かれた。

志は、誰もが集い、一緒に考えて、やりたいことに挑戦し、それを応援しあう、まさに同志が集う場として浸透していることが伺えた。一方で、専門職として、感染症対策はじめ、様々な基本を押さえた上でのチャレンジであることも伺えた。こうした素地が、紹介したような様々な取り組みにつながっているのだろう。

利用者や地域住民、何よりスタッフの癒しであるという、保護犬のCOCOちゃんと一緒に、オンライン越しでお三方の笑顔を撮らせて頂いた。(撮影時だけマスクを外して、左から鈴井さん、澤村さん、辻さん)

[インタビューのお三方]

お話を伺って

代表の辻さんが10代の頃から、宅老所や業界関係者、地域住民とともに培ってきた多世代が地域でともに暮らすという想いは、多世代型通所事業所 志での経験を経て小規模多機能ホーム志の開設とともに更に進み始めています。

辻さんの想いとお人柄に惹かれて集う職員の皆さんは、一緒に考えて、協力して、お互いのチャレンジを応援するという環境の中、様々な取り組みに挑戦しています。

そして、新型コロナウイルス感染症の広がりの中で船出した事業所ですが、手放しに挑戦を応援するだけではなく、専門職として組織の内外との対話を図り、適切な感染症対策を行いながら、チャレンジを諦めないというスタンスでした。表面的に楽しくやっているだけではない、きちんと抑えるべきことは徹底した上で、豊かな生活を諦めていない事業所なのです。

地域にとってなくてはならない拠点として、さらに発展していかれることと思います。組織文化、チームワーク、地域共生ケア、様々な面で、全国の事業者にとっても多くの学びを頂ける実践だと思います。

■参考 株式会社アスピラシオン ホームページhttps://www.kokorozashi1003.com/index.html

志(多世代通所事業所・小規模多機能ホーム)coco_rozashi Instagramページhttps://www.instagram.com/coco_rozashi/

特定非営利活動法人 街かどケア滋賀ネットhttp://machikado-csn.com/

NPO法人 全国こども食堂支援センター むすびえhttps://musubie.org/

インタビュー担当:堀田 聰子
記事担当:金山 峰之

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