みんコロラボ 〜みんな、新型コロナ対策どうしてる?〜

事業所コンセプトを土台とした溢れる若手のチャレンジ

要約

東京都板橋区で、2020年6月にコミュニティカフェを併設する地域密着型デイサービス・キーステーションがオープンした。コロナ禍での船出となったが、開設準備期から温めてきた、地域商店街の課題をキーステーションが解決するというコンセプトのもと、若手従業員が中心となって様々な取組みを行っている。

利用者が地域課題の解決主体として、またそれぞれの個性を生かしたケアを重視している。若手ならではの着想や取組みと、それを後押しする、組織全体の文化がそうしたケアを可能にしている。

  • 地域密着型通所介護
  • 商店街と連携
  • 商店街の課題を解決
  • 開設準備期から描いてきたコンセプト
  • コンセプトから一緒に作る
  • ボランティア
  • 利用者が地域課題の解決主体
  • 若手ならではの着想
  • 挑戦を応援する職場環境

詳細

インタビュー実施日:2021年2月10日


この記事を読んでもらいたい方

  • 介護職,
  • 介護リーダー,
  • 介護事業所管理者,
  • 地域住民,
  • 商店街関係者,
  • ボランティア,
  • 介護家族等
法人名&事業所・施設名一般社団法人 日本福祉環境整備機構
地域密着型通所介護
キーステーション
お話を聞かせていただいた方生活相談員
森近 恵梨子 さん介護職員
福祉KtoY 代表
平岩 なつみ さん代表理事太田 浩史 さん施設長中里 芳浩 さん

商店街、地域と歩むキーステーション

キーステーションは、東京都板橋区上板橋にある地域密着型デイサービスで、2020年6月にオープンした。地域住民が気軽に立ち寄れるコミュニティカフェを併設しており、地域の利用客とデイサービスの利用者が交流したり、スペースを求める地域住民や団体に活動場所を提供するなど、開かれたデイサービスを目指している。

立地としては上板橋駅南口から続く商店街にあり、商店街や地域住民との交流を重視している。全国各地の商店街は後継者問題、空き店舗、賑わいの不足など様々な困難に直面している。キーステーションがある上板南口銀座商店街振興組合でも、商店街役員や町会、老人会、地域住民等が中心となって、様々な課題解決の取組みを行っている。しかし、商店街利用客と子育てママがコミュニケーションを図る場所がないこと、世代間交流、地域イベントに触れる場が少ないことなどの悩みを抱えていた。

一方、代表の太田さんは、高校時代のボランティア経験を機に介護業界で老人ホームの管理者などを経て、「介護だけでなく、日常生活に身近な地域に山積する課題を解決したい」という想いのもと創業を決意。上板橋南口商店街で生まれ育った友人で施設長の中里芳浩さんと共にキーステーションを立ち上げた。起業に際し、令和元年度、「東京都商店街空き店舗活用モデル事業」に助成申請を行った。この事業は商店街空き店舗を活用し、地域課題の解決や商店街の賑わい創出につながる先進的な取組を行う商店街を支援するというものだ。

このような背景のもと、キーステーションはオープン前から、地域住民や商店街関係者らと関係を深めながら準備を進め、「地域商店街と高齢者のハブを担い、互いの課題解決を図ることで、住み馴れた地域で安心して生活できるまちづくり支援を行う」というコンセプトで開設に至った。

[カフェメンバー]

若い職員が惹かれたコンセプト

キーステーション介護主任の森近さんと介護職員でカフェ店員の平岩さんは、キーステーションのコンセプトに惹かれた事業所の中核となる若手人材だ。お二人に就職に至る経緯とキーステーションのケアの魅力について伺った。

「お客様(キーステーションでは利用者をお客様と称している)が良い意味でわがままに過ごせるところです。その声をあの手この手で叶えようとすることですね。こちらのケアの押し付けではない。それをみんなで考えていける、皆本当に優しい人ばかりのチームなんです」と森近さんは話す。

森近さんは学生時代に、福祉を発信するフリーペーパー作りなど、積極的に活動をしていた。大学卒業後、都内の小規模多機能型居宅介護事業所に就職。初任者研修の講師や訪問介護員など現場の傍、大学院で研究をしたり、介護の仕事のやりがいや魅力について発信している。

そうした中、キーステーション立ち上げを知り、転職したという。「現場に携わる中で、ゼロから自分たちのケアを作っていく経験がしてみたいと思いました。そこで、知り合いだった太田代表がキーステーションの立ち上げをされるということで一緒にやらせてもらいました」

[森近さん]
キーステーション ホームページより

一方、平岩さんはパラレルに仕事を行っている。学生時代に自身が立ち上げた『福祉KtoY』という医療福祉学生や若者のコミュニティーづくりや就活イベントを主催する任意団体を現在も運営している。他には、自分の物件としてシェアハウスの管理人を行い、大阪と東京の2拠点生活をしているという。その中で、キーステーションの介護職員、カフェ店員として週2日働いているのだ。

平岩さんがキーステーションを知ったきっかけは森近さんからの紹介だ。森近さんは平岩さんにとって、憧れの人だったという。「女性で年も近くて、福祉や介護に思いがある。学生の頃から活動されているなど共通点が多くて本当に尊敬している方なんです」と森近さんへの思いを嬉しそうに話してくれた。

森近さんの紹介を経て、太田代表、中里施設長と会い、キーステーションに関わることを決めたという。「私の未熟な部分を受け止めてくださって、その上でやりたいチャレンジを応援してくださったんです。自分に対してのそうした丁寧なコミュニケーションをお客様に対してもされていることがとても尊敬できました。それは基本的に“問いかけ”なんです。私の長所を言葉にしてくださる。本当にありがたいなと思いますし、頑張ろうと思えるところです」と、キースステーションの魅力を話してくれた。

[平岩さん]
キーステーション ホームページより

コロナ禍でのオープンと対策

2020年6月、コロナ禍でのオープンは色々な葛藤があったというが、それでも地域の人やボランティアなどに支えられてキーステーションは始まった。

開設準備期から現在に至るまで続けている感染症対策については、太田代表が国や自治体、その他各所から情報を集めて、中里施設長と検討して職員に周知。基本的な予防策を徹底することに努めたという。「本当に基本の基本です。手洗い、うがい、換気、消毒、毎回の検温などしっかり行いました」と森近さんは話す。オープン時ということもあり、利用者が少しずつ増える中なので、密を避けながら感染症対策を徹底していくことの経験が積めたようだ。

[コロナ禍でのオープン]

その後、年末に向けて様々な取り組みを行う中でも基本的感染症予防策を行うことで順調に運営が進められたそうだ。ただ、第二回目の緊急事態宣言では、少なからず影響が出ている。感染予防のためにデイサービスを休まれる方などがいるため、利用曜日の振替など、安心して通える方法を提案しているという。最近では最新の空調整備を導入したが、それ以外は変わらず特別な対応はしていない。継続して手洗い、うがい、手指消毒の他、マスクや人との距離を保つ、換気など、一般的に言われている感染症対策を『徹底する』ことに注力している。

また、併設しているカフェも飲食が前提であり、デイサービスと同一空間であるため、消毒や換気など対策は徹底している。現在も波はあるものの、継続的に、地域の親子連れやフィットネスジム帰りのお客さんが立ち寄るなど常連もいるそうだ。

更に、キーステーションの特徴の一つはボランティアだ。こちらも感染症対策を徹底し、それらを合意した上で継続して受け入れをしている。基本的に制限やお断りはしていない。コロナで自主的にボランティアを控える方もいるが、逆にコロナの影響で地域の活動場所が無くなってしまったボランティアの問い合わせが定期的にあるそうだ。開設準備期はボランティアセンターに間借りしていたこともあり、その縁を経由して紹介されてくる人も多いという。現在は週3日来てくれる方が2人、スポット訪問も含めると、10人は常連ボランティアとしてきてくれているそうだ。

[立ち上げ準備の頃]
キーステーション ホームページより

元々のコンセプトが、商店街や地域住民が集う場ということもあり、コロナ禍でも徹底した感染症対策を行うことで、そうした人の出入りや集いをできる限り制限しないという、キーステーションのスタンスが見てとれる。

商店街の困りごとを解決する

オープンしてからこれまでのキーステーションのケアのあり方について伺った。

森近さんは「いらっしゃるお客様がやりたいこと、過ごしたいことに合わせてその日のケアが決まっていく形です。そうした過ごし方をチームで叶えていき、お客様が増えるたびに、皆さんのご要望や特徴に合わせて私たちも毎日違うケアをしています」という。森近さんが当初志したように、一から利用者と一緒に手探りでケアを作っている現場だそうだ。

開設準備期からのコンセプトで大切にしていることの一つが「商店街の困りごとをキーステーションのみんなで解決していく」というものだそうだ。このため、代表の太田さんをはじめ、職員たちは日々地域の方々や商店街の課題を取りに出向いている。

「地域にお客様の活動内容を探しに行ってます。軽作業募集というチラシもあって、私たちでできる仕事はいつでも待っていますと伝えていますね」と森近さん。日々色々な仕事を頂いているそうだ。

[軽作業募集チラシ]

例えば、森近さんが地域で知り合った訪問マッサージ会社の代表から頼まれた軽作業として、チラシにクーポン券をつけるというものがある。1,000部作成の依頼だったそうで、利用者と一緒に取り組み、お返しに、キーステーションで健康体操の指導をしてくれているという。仕事をして応援した相手がお礼がてら体操をしてくれるということで、利用者と地域との間にWIN-WINな関係が生まれている。

[チラシ作成]

他には、キーステーションと同じ建物にあるフィットネスジムの店舗の看板の飾り付けとして、手作りの紙花を利用者と作成して、定期的に送っている。ジムとの関係が生まれ、関係者やジムの利用客がキーステーションを訪れる関係にもなっているという。

[地元商店の応援]

開設早い時期から商店街のお弁当屋さんからもらった仕事は、商店で使う注文用のメモ用紙作りだ。単にメモ作りをするだけでなく、その活動が商店街の方に喜ばれ、貢献しているという実感を得られることは大きいようだ。小さなことかもしれないが、仕事を通じて、商店街の人々とキーステーションに集う利用者の関係構築をはかり、商店街の課題を解決するという一つの取組みだ。

[依頼の品のお届け]

コロナ禍ということでの依頼もあった。ボランティアセンターからの依頼で、コロナの最前線に立つ医療従事者に向けて、応援エールのハガキを書くというもので、皆集中して取り組まれていたという。

[医療職応援]

森近さんや事業所の職員は、開設準備期から皆で作り上げてきたコンセプト「地域、商店街の「キー(鍵)」になるステーション」を、実際の形として継続的に実施しているようだ。これらの取り組みはコンセプトに沿っていれば、稟議などの特別な手続きはなく、太田さんに相談して概ねGOになるという。自分たちの事業所が目指しているものが共有されているが故の機動力だろう。

利用者さんをもっと知りたい

平岩さんにも自身初の取組みを聞いてみた。

「私は週2日の勤務なので、お客様のことを深く知りたくてもなかなかうまくいきませんでした。そんな時、知り合いの学生さんが開発された『会話札』というカードゲームのようなものを太田さんに相談して導入してみたことがあります」

これは札をめくって、それに応じて利用者が自身のエピソードを語るという仕様になっており、普段の会話だけでは十分掘り下げられない思いがけない話が聞けるものだそうだ。

[会話札]

「皆さんが楽しんでくださって、思ってた以上に効果がありました」と平岩さんは嬉しそうに話す。その上で、こうしたらどうだろう、というアイディアや工夫を「やってごらん」と柔軟に対応してくれるキーステーションの雰囲気が次のチャレンジや着想につながるという。

地域と大好きなキーステーションをつなげる

平岩さんは、キーステーションを本当にいい事業所だと思っているという。チームワークも含めて、もっといい場所になれば良いと思って、自身ができることとしてキーステーションを多くの人に知ってもらう取り組みをしたそうだ。

「私が代表をしている『福祉KtoY』のイベントでメイン会場の金沢と東京や各地をオンラインで結んで開催したんです。キーステーションがここにあるんだよということを全国や地域の皆さんに知ってもらうきっかけになればと思って、キーステーションを会場として使わせてもらいました」と話す。

平岩さんはイベント当日、キーステーション会場に地域の方々に来てもらえるよう、ケアマネジャーや商店街の方々、コミュニティースペースの方々など各所に営業をしたという。そして、当日は学生や地域住民などが集ったそうだ。こうした取り組みをきっかけに、参加者がキーステーションのカフェにお客さんとしてきてくれたり、ケアマネジャーから新規利用者を紹介されるなど、様々な貢献ができたことを話してくれた。

[イベント時のキーステーション会場]

ゼロからケアを作るやりがい

お二人からは様々な取り組みが次々と出てくる。少し現場から離れたことでも構わないので、と前置きして、他にも自分たちで考えて取り組んだエピソードについて伺った。

すると森近さんから『Amazonほしい物リスト』と『介護ソフト導入』のエピソードが挙げられた。

Amazonほしい物リストは、キーステーションが有するアカウントでAmazonの当該サイトを作成。事業所で必要としている物品をそこに列挙しておく。そしてサイトを見た方が寄付や開設祝いといった名目で代わりに買ってくれるというサービスだ。「もともとお客様で麻雀がやりたいという方がいたんです。そしてこのリストに麻雀台を挙げておいたら、友人が購入してプレゼントしてくれたんです」と森近さんはいう。これは、利用者の願いをコストをかけずにどう叶えるかという視点で考えて、導入したものだという。他にもネイルをやりたいという利用者の声を受けて、ネイルケアセットもリストに載せて買ってもらえたという。今時のサービスを熟知している若者ならではの取り組みだ。

他には介護ソフトの導入についても森近さんが経営陣と話し合い、導入に至ったという。「いろいろなソフトを検討したんです。その中で、お客様やご家族の満足度や信頼に貢献できる上に、様々な現場の作業工程も削減してくれるソフトにしたんです。それでいてコストがかからないというところで」と色々と検討を重ねた結果、自分が推したものが採用された経緯を話してくれた。ある程度の裁量を委ねられ、自分で考えて、ゼロからケアを作っていくという、森近さんがやりたい仕事を応援してくれる職場環境であることがここでも見えてきたエピソードである。

一方で提案の全てにGOサインが出るわけではないとも平岩さんは話してくれた。

「キーステーションでお客様が働くという取り組みができていますが、私はさらに具体的に対価を得られるところまで取り組みたいと思って提案しました。ただ、私の企画力やリソース配分が十分出来ていないという現状を認識しました」という。相談する代表の太田さんらは、想いや着想を応援してくれる一方で、実現可能性についてはきちんと捉えた上で対話をしてくれた。これが平岩さんの気づきになり、また次なるチャレンジの工夫につながっているようだ。

止まらない様々な取り組み

ここまで話を伺ったが、キーステーションでは更にいろいろな取組みをしているという。最近では、音声で不特定の人とコミュニケーションが取れる、音声SNSのclubhouseを利用者とともに活用するということに挑戦している。

個人情報に配慮し、職員がファシリテーターをしながら、全国各地の方と、利用者がラジオ番組のように会話をしているという。新型コロナの影響下でも、社会とつながることができる取組みになっている。

ラジオに慣れた世代の利用者にしてみたら、ラジオのパーソナリティと会話ができるようなもので、思わぬ発言や笑いが参加者の満足度を上げているという。「遠方の方と話ができてよかった」「相手の顔写真やプロフィールを見た上でお話しできるのが楽しかった」「clubhouseを始めてみたい」など利用者から声が上がっている。

森近さんは「うちのお客様は本当に素敵な方が多くて、もっと輝いて欲しいんです。いつか、キーステーションのお客様からYouTuberが出てくるといいなと思っています」と話す。次世代の取り組みは、様々な可能性を秘めているかもしれない。

今後の目標について

最後に、今後の目標について、お二人に伺った。

平岩さんは「先ほども話したのですが、お客様が仕事を頑張った分だけ目に見えて返ってくる形を作りたいと思っています。皆さんが社会のために役に立てた証だというものが返ってくる仕組みです」と話す。今は実現できていないものの、平岩さんが取り組みたいこだわりとして話してくれた。

森近さんは「地域のケアマネさんや包括の方が、キーステーションだったらご本人のやりたいということを叶えさせてくれるかもしれないと相談してきてくれています。例えば、製本業をされていた方、ペン習字の先生など、やりたいことを抱えている方は地域にたくさんいらっしゃる。そうした方の願いに全部応えていきたい。すごく大きなことですが、夢になりますね」と話す。

様々な取組みを応援してくれる環境があり、また、開設時から大切にしてきた、地域・商店街とともにあるキーステーションだからこそ、若い現場のお二人が次々にチャレンジしたいと思えるのかもしれない。

[キーステーションの皆さんと]
※一時的にマスクを外して撮影

お話を伺って

キーステーションでは開設準備期においても、立ち上げの趣旨においても、もともと地域、商店街とともに歩み、課題をキーステーションのみんなで解決していくというコンセプトが明確だと思います。そして、その準備期からそうしたケアに賛同して、働いた森近さんやその影響を強く受けた平岩さんは、そうした組織の使命が十分に共有されているように感じました。

もちろん、立ち上げというタイミングだからこそ、そうした理念が共有しやすいという一面はあります。しかしながら、やはりその理念の共有と、それを精神論で終わらせない職場環境の両輪があると現場から次々に新しいアイディアや取り組み、挑戦が生まれてくるということも伺えました。

また、地域に根ざしたという文脈から、コロナ禍であっても、どうすれば自粛や制限を最小限にして地域とのつながりを継続できるだろうか、という問いに正面から向き合っていること、そのために基本的な感染症対策を徹底しながら運営をしていることがわかりました。

■参考 キーステーション ホームページhttps://kamiita.city/

AMAZING FUKUSHI FESTA Ⅳ ホームページhttps://peraichi.com/landing_pages/view/amazingfukushifesta4

福祉KtoY Facebookページhttps://www.facebook.com/fukushi.KtoY/

キーステーション Amazonほしい物リストhttps://kamiita.city/2020/02/%e3%83%96%e3%83%ad%e3%82%b0%ef%bc%91/

インタビュー担当:金山 峰之
記事担当:金山 峰之

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