新たな生活とケア
感染予防をはかりながらも、自粛一辺倒でなく、利用者・入居者や職員等のQOLの維持・向上に努めている取組みを介護・福祉、医療職にうかがいました(15事例)。(現在 15/15事例 公開)
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一人の入居者の言葉から始まった施設内カフェ
ルソン・ドゥ・クール高槻は、大阪府高槻市にある入居者79人定員の住宅型有料老人ホーム。新型コロナの影響を受け、面会やボランティアの受け入れ制限、感染症対策の徹底など、全国どこの施設でも見受けられる対応が迫られた。
そうした中、一人の入居者の想いをきっかけに、施設内カフェ『Leson de café(ルソン・ドゥ・カフェ)』がオープンした。初めは小さな試みであったカフェが、今では入居者の日常生活の一部になり、施設職員はもちろん外部の方の協力も得て、コロナ禍においても定期的に開催されている。
人員や感染症対策、費用面など継続する上で課題は多く、運営は大変だったが、コロナ禍で楽しみが制限されている入居者の日常生活を彩り、入居者や職員の変容を促し、更に新たな取り組みが始まるなどしている。
お花見ドライブ、盆踊り…命と人生の尊さを大切に「ふつう」を守り抜く
合同会社くらしラボは、青森県十和田市で訪問介護や生活支援、デイサービス、小規模多機能ホームなどを複合的に展開している。代表の橘友博さんが大切にしているのは“あなたのふつうを考える”というコンセプト。
2020年春に、近隣で新型コロナのクラスタ―が発生した際の風評被害の大きさに「びびって」、外食イベントや面会を禁止するなど一気に自粛一辺倒になりかかったが、感染対策に配慮しながら、ふだんの彩りと季節折々のお楽しみイベントを着実に積み重ねている。
そのエンジンとなっているのが、橘さんが“スーパーマンみたいな人”と信頼を寄せる介護職員・中村昌昭さんだ。緊急事態宣言下でも命だけでなく「人生」の尊さを同僚に問いかけ続け、4月は回転寿司イベント、5月はお花見ドライブ、7月はそうめん流し、9月は盆踊りとお楽しみ企画の実現に奔走した。
敬老の日のお祝いに行った盆踊りは2020年が初めての開催。地域に伝わるナニャドヤラという踊りの保存会メンバーを慰問に招聘。中村さんも裏方仕事に加え、衣装や被り物に身を包み、盛り上げ役も買って出た。聞こえてきたお囃子に、地域住民らも思わず足を止めて、一緒になって踊り出してしまう嬉しいハプニングも。くらしラボではきっと今日も、利用者さんと近隣住民の笑顔が花開いている。
ホームで職員のサプライズ結婚式、「介護は明るい!」を若手チームが発信中
東京都日の出町にある特別養護老人ホーム、ひのでホームはInstagram、YouTubeなど若者に身近なメディアを積極的に活用し、情報発信している。コンテンツの仕掛け役が、今回、お話を伺った上原まりさんをはじめとする若手職員の有志origamiのメンバーだ。
origamiメンバーの2020年お気に入り投稿ナンバーワンが、10月に行われた同期カップルのサプライズ結婚式の写真。入籍はしたものの、長引くコロナ禍で挙式ができずにいた2人のために上原さんが発起人として発案し、上司や同期らと共に準備を進め、職員約100名、入居者200名を巻き込んだ大型サプライズ結婚式をホームで敢行した。当日は3密を避け、屋外でガーデンウエディング風に挙式。ウエディングドレスの花嫁と花婿はホーム内を挨拶回りし、同僚はもちろん、入居者さん達とも感謝の言葉を交わしながらひと時を過ごし、ホームのみんなが幸せな気持ちになれたという。
origamiの情報発信を始めたきっかけ、総勢300名のワクワクと感動が詰まったサプライズ結婚式の全貌、コロナ禍での大型イベント実現を可能にした法人の風土について、上原さんに伺った。
コロナ禍でもメンバーの社会参加をあきらめない“攻め”の取り組み
東京都町田市の地域密着型通所介護事業所・DAYS BLG!では、介護する側・される側に関係なく、ここに集う「メンバー」として、素になれる居場所を作り、一人ひとりの想いを一緒に形にしている。有償ボランティアや地域企業のお手伝いなどの社会参加はそのひとつであり、認知症になっても「働く」ことを通じて、他の誰かに貢献できる、そんな人間の根源的な願いを実現しようとしている。
コロナ禍の2020年。当初は、デイサービスをどう止めずに運営できるか、そのなかでメンバーさんの活動をどう維持していくのか、出口が見えずにいた。そんな中、感染対策支援の医療チームとの出会いがきっかけとなり、感染症に向き合いながらも、自分たちにできること、進む道があることを見出し、“止まっていたものが動き出した”という。
具体的には、メンバーで販売可能な感染防止のビニール製ガウン作りを開始。その後、近隣のB型事業所と協働してガウン作成・配布の取組み、助成金を活用して感染対策物資の調達とニーズのある事業所への配送、さらに企業からの依頼でコーヒーボトルのラベル貼りなど、メンバーさんも地域もハッピーになる“仕事”を継続的に創り出している。
エビデンスに基づく利用者参加の感染対策で、できることの選択肢を増やす
有料老人ホームや特別養護老人ホーム、在宅サービスを含めた高齢者複合施設である神奈川県藤沢市の聖隷藤沢ウェルフェアタウンでは、新型コロナの特徴や有効な予防策をよく理解することで、早い時期から、地域の感染状況に応じて対策や制限に緩急をつけ、利用者の楽しみや生きがいを取り戻すための取組みをしている。
ここでは、生活の自粛、活動の抑制ありきではなく、「どうしたら、感染せず、利用者の楽しみを続けてもらえるか、その機会を継続的に提供し続けられるか」が徹底的に考え抜かれており、施設側が感染対策を講じるだけでなく、利用者が楽しみながら感染対策を習得できる仕掛けも考慮されている。また、感染状況から中止または縮小の判断をせざるを得なくなった場合にも、可能な範囲で「いいコト探し」による代替策を講じることを心掛けている。
介護の現場でゼロリスクは有り得ないこと、もし、誰かが感染したとしても、責めたりしないで、皆で支えあうことの重要性を繰り返し職員に伝え、平時から職員の安心とストレス軽減に繋がる職場環境と文化の醸成を目指している。
「どうしたらできるようになるか」看護師が素案を出し仲間で行動に落とし込む
神奈川県横浜市の介護付有料老人ホーム「カーサプラチナみなとみらい」では、新型コロナにかかわる法人本部から示される大まかな方針(外部との接触は断つ等)に基づき、現場に対応の具体的な方針決定の裁量があることで、利用者の生活や楽しみを守る工夫が最大限できている。まずは看護師の小谷さんが素案を出し、現場の最前線の仲間たちで具体的にどうしたらよいかを行動レベルに落とし込む協働がそこにはあった。特に、つながりを断たない工夫、楽しみを奪わない工夫に重点を置かれた。
日々の関わりのなかで本人の意向や価値観を知ることができる職員は、日頃から本人と家族を繋ぎながら、ACPを積み重ねるサポートをしている。このことは、コロナ禍で、ますます重要になってきている。
できないと諦めたら、そこで思考が止まってしまう。どうしたらできるようになるかを考えるようにしていくことが重要。少しずつ失われていく機能、限られた時間中でも、利用者がより自分らしく生きるためにどうしたらよいかを常に考えていくことで、良いケアが生まれる。
多職種でムードを盛り上げて実現した「クリスマス会」、みんなでさらなる挑戦へ!
介護老人保健施設 富山リハビリテーションホームでは、感染対策の観点から施設内の行事やイベントが半年以上中止になっていたが、施設に応援に来ている医師の「クリスマス会をやろう」という職員全体会議での発言をきっかけに、多職種のスタッフで準備を進めていった。館内をクリスマスツリーや装飾で飾り付け、施設全体としてクリスマスムードを盛り上げていき、当日は、大勢が集まることを避け、スタッフや施設長等がキャストとしてサンタクロースなどに扮してクリスマスソングを演奏・寸劇を披露しながらフロアを順に回り、おやつには一人ひとりケーキを出すなどして入所者を楽しませた。このクリスマス会の成功と、続けて「節分」も問題なく実施できたことから、スタッフは自信をつけて、今後もいろいろな行事を行って、入所者の元気につなげていきたいと語る。
「支えられる」から「支える」へ~認知症高齢者“Be supporters!”への道
富山県富山市の社会福祉法人射水万葉会 天正寺サポートセンターでは、2020年度より富山市が推進する“「認知症」×「ハタラク」実証チャレンジモデル事業”に参画し、「天正寺笑ーる(えーる)」のネーミングのもと、利用者が「ハタラク」ことにより社会参画の機会を得るという取組みを行っている。
コロナ禍の2020年は、職員と利用者が一緒になって手作りマスクやマスクピアス作りに取り組んだ。さらに年末には、地元のプロサッカーリーグ「カターレ富山」応援プロジェクトという支えられる側のお年寄りが、サッカーリーグのサポーターになって支え手に回る企画を実現した。サッカーファンもほとんどいないなかで、カターレ富山のサポーターとしての活動は始まったが、12月のオンライン観戦&応援パーティー、1月のカターレ新年会を経て、皆がこの活動にはまり、カターレ富山の熱烈なファンとなることでコロナ禍においても、利用者の楽しみが増えたばかりでなく、活動量や意欲が上がり、ADLの改善も見られた。
会津磐梯山の見える手作り“ハーモニー神社”で初詣
福島県耶麻郡猪苗代町にあるハーモニー猪苗代では、毎年恒例の鐘つき堂への初詣が中止になったことを受け、何かできることはないかと考え、施設内に手作り神社を設置することにした。いつも何かを作るという時はお客様(利用者)と一緒に作業することが多いのだが、今回は“お客様へのサプライズ企画”にして、気付かれないように秘かに準備を進めた。
大晦日の前日、福島県では“宝の山”と言われる会津磐梯山が見える廊下に、手作りの「ハーモニー神社」を設置した。お客様も職員も感染対策に留意しながら、順番に参拝することができた。何より、新しい年を迎えて自分や家族の健康と幸せを祈る場を作ることができたのは、お客様にとっても職員にとっても喜ばしいことだった。
同事業所は、“やってみんべ”という法人全体の方針により、お客様が喜んでくれること、お客様が楽しめることはどんどんやってみようと、現場レベルで様々なアイデアを形にしている。やってみるからこそ、その手ごたえや反省が生まれ、また次にやりたいことのアイデアも湧いてくる。「コロナを言い訳にはできない」と、自粛一辺倒になるのではなく、お客様の豊かな暮らしの実現を目指して取り組んでいる。
今だからできることを考える! コロナに負けない楽しみの創造 ~昔の映画館に近づけた映画鑑賞会、手作り神社への初詣、餅つき大会、etc.~
福島県郡山市にある特別養護老人ホーム「ハーモニーみどりヶ丘」では、“やってみんべ”という法人全体の方針により、お客様(利用者)にとって良いことはどんどんやってみようと、現場レベルで様々なアイデアを形にしている。2020年4月からは、法人全体として自立支援検討委員会を立ち上げて、各事業所でアセスメントやケアのあり方について検討を重ねるなど、お客様の願いを見出し実現させる取組みをより深化・進化させてきた。
その一環として、ハーモニーみどりヶ丘の自立支援検討委員会が取り組んだことの1つに、施設内での映画鑑賞会がある。お客様の生活歴の聞き取りによる自分史年表作りからスタートし、あるお客様の「昔、よく映画を観ていて、オードリー・ヘップバーンが好きだったの」というところに辿りつき、昔の映画館の雰囲気づくりを目指して『ローマの休日』映画鑑賞会を開催した。
この取組みに限らず、各所で“やってみんべ”と多様な取組みが実践されている。例えば、行事委員会では施設内に手作り神社を設置し初詣の企画をしたり、委員会活動とは別に干し柿作り、焼き芋、餅つきなどのアイデアが職員から出されたりする。ハーモニーみどりヶ丘では、「コロナ禍だからできない」ではなく「コロナ禍だからこそできることをやる」という動きが活発になっている。
対策の基本の徹底と施設看護師の関わりが理念に基づく柔軟な取組みを後押し
社会福祉法人援助会聖ヨゼフの園では、新型コロナウイルス感染症の地域での蔓延に備えて、2020年2月に対策委員会を設立し、入居者の生活や面会などの各種ルールを定めたマニュアルを作成するとともに、環境整備を進めてきた。特に、アクションレベルまで落とし込んだマニュアルや施設看護師の関わりにより、感染対策の基本ルールを明確にし、職員が何をしていいのか分からないという場面を少なくすることで、各職員が自身の持ち場で創意工夫できる範囲が明らかになり、ケアの充実に向けた取組みを展開することができた。
例えば、ITツールを活用したオンライン面会を実施したり、感染症蔓延のレベルに応じて、できる範囲でイベントを開催したりと、コロナ禍でも「手札」をたくさん持ち、自粛一辺倒の対応ではない実践が生まれている。
また、感染症拡大という困難な状況においても、職員がモチベーションを維持しながら、主体的に行動できるチームづくりを促進することができた要因として、「理念に基づいた組織運営」「ITツールの活用」「プラスの言葉の掛け合い」が挙げられた。
事業所コンセプトを土台とした溢れる若手のチャレンジ
東京都板橋区で、2020年6月にコミュニティカフェを併設する地域密着型デイサービス・キーステーションがオープンした。コロナ禍での船出となったが、開設準備期から温めてきた、地域商店街の課題をキーステーションが解決するというコンセプトのもと、若手従業員が中心となって様々な取組みを行っている。
利用者が地域課題の解決主体として、またそれぞれの個性を生かしたケアを重視している。若手ならではの着想や取組みと、それを後押しする、組織全体の文化がそうしたケアを可能にしている。
コロナ禍でも、職員・利用者・地域で「さらに彼方へ」
社会福祉法人佛子園は、障害者福祉事業を軸に、飲食業、温泉、フィットネスなど様々な事業を主に石川県内で展開し、福祉の枠組みを超えて、人と地域をつなぐ「ごちゃまぜ」のまちづくりに取り組んでいる。
法人理念に紐づく2030年に向けた中長期的ビジョンを達成すべく、毎年アクションプランを策定。職員が、利用者や地域と共に、楽しく進められる多数の仕掛けを通じて理念を体現しながら事業を進めていくスタイルは、コロナ禍であっても変わらない。むしろ、コロナ禍だからこそ、大切にする理念や価値に立ち戻り、そこから自分たちが成すべきことを力強く推進している。
本記事では12ある年間アクションプランのうちの2つを取り上げている。職員によるあそび心満載の制作物を法人内で順位づけしていく「あそびロワイヤル」と、4人1チームで健康をテーマとした目標に一緒に取組む「One for 4」だ。
そこには、現場が一丸となって前進し続けるためのヒントが数多く散りばめられている。
入居者の急逝を機に面会緩和に動いたユニットリーダー
三重県四日市にある特別養護老人ホームかすみの里では、2020年3月からから、面会や外出を原則禁止する対応がとられてきた。
そうした中、家族と面会ができていなかった里人さん(入所者)の急逝をきっかけに、それまで面会の緩和に不安の気持ちを持っていた一人のユニットリーダーが、面会緩和に向けた提案を行い、職員や組織とともに実現させた。
こうした現場の職員発のアクションを支えるものとして、かすみの里には、里人さんを第一として、その声を実現に結びつける職員の姿勢や仕組み、現場をバックアップするマネジメントの支援体制がある。
新人介護職員が職場・地域と開催した子ども食堂
滋賀県栗東市で通所介護事業を運営していた株式会社アスピラシオンは、地域住民との関係を深めながら、多世代の人が集う拠点として地域からも親しまれてきた。
新型コロナの影響が広がる2020年6月、小規模多機能ホーム志(こころざし)がオープン。一人の新人介護職員の採用をきっかけに、新人職員を中心に先輩上司、地域住民の協力のもと子ども食堂を始めるに至った。定期的な開催はもちろん、コロナ禍で地域住民が諦めていた餅つき大会を実施するなど、どうすればみんなで楽しくできるか、という視点で同事業所は様々なことに取り組んでいる。
やりたいと思ったことに挑戦できる環境と、その挑戦をみんなでサポートする組織風土が浸透。代表の辻さんをはじめ、志に集う職員たちは、地域の多世代が集う場で、今日も新たなアイデアをあたため、チャレンジを重ねている。