みんコロラボ 〜みんな、新型コロナ対策どうしてる?〜

会津磐梯山の見える手作り“ハーモニー神社”で初詣

要約

福島県耶麻郡猪苗代町にあるハーモニー猪苗代では、毎年恒例の鐘つき堂への初詣が中止になったことを受け、何かできることはないかと考え、施設内に手作り神社を設置することにした。いつも何かを作るという時はお客様(利用者)と一緒に作業することが多いのだが、今回は“お客様へのサプライズ企画”にして、気付かれないように秘かに準備を進めた。

大晦日の前日、福島県では“宝の山”と言われる会津磐梯山が見える廊下に、手作りの「ハーモニー神社」を設置した。お客様も職員も感染対策に留意しながら、順番に参拝することができた。何より、新しい年を迎えて自分や家族の健康と幸せを祈る場を作ることができたのは、お客様にとっても職員にとっても喜ばしいことだった。

同事業所は、“やってみんべ”という法人全体の方針により、お客様が喜んでくれること、お客様が楽しめることはどんどんやってみようと、現場レベルで様々なアイデアを形にしている。やってみるからこそ、その手ごたえや反省が生まれ、また次にやりたいことのアイデアも湧いてくる。「コロナを言い訳にはできない」と、自粛一辺倒になるのではなく、お客様の豊かな暮らしの実現を目指して取り組んでいる。

  • 地域密着型サービス
  • 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
  • 小規模多機能型居宅介護
  • 手作り神社
  • 初詣
  • 雪像作り

関連事例⇒社会福祉法人心愛会ハーモニーみどりヶ丘

詳細

インタビュー実施日:2021年2月9日


この記事を読んでもらいたい方

  • 介護事業所の経営層,
  • 介護事業所の管理者,
  • 介護事業所の職員,
  • 介護関連職種,
  • 業界団体・職能団体関係者,
  • 要介護高齢者・家族,
法人名&事業所・施設名社会福祉法人心愛会 ハーモニー猪苗代
お話を聞かせていただいた方ハーモニー猪苗代 管理者黒石 拓己 さんハーモニー猪苗代 チームリーダー渡部 秀司 さん

“やってみんべ”を大切にする

ハーモニー猪苗代は、福島県の社会福祉法人心愛会が運営する地域密着型サービスの拠点で、2ユニットの認知症対応型共同生活介護(グループホーム)と小規模多機能型居宅介護を併設している。福島県の象徴的存在である猪苗代湖と会津磐梯山の間に位置し、緑豊かな自然と美しい景観に恵まれた場所に位置している。

▲ハーモニー猪苗代。福島県では“宝の山”と言われる会津磐梯山のふもとに建ち緑豊かな環境です。

社会福祉法人心愛会では、利用者を「お客様」と呼び、お客様が喜んでくれること、楽しめることをどうしたら実現できるかということを大切にしている。法人全体の方針として、“やってみんべ”(福島県の方言で“やってみよう”)をモットーに、現場発のアイデアを形にすることを支援している。

今回の手作り神社は、そんな“やってみんべ”を形にした一事例である。その内容や取組みの経緯などについて、ハーモニー猪苗代の管理者黒石さんと、チームリーダー渡部さんにお話をうかがった。

▲ハーモニー猪苗代管理者の黒石さん(左)とチームリーダーの渡部さん(右)

恒例行事、鐘つき堂の参拝中止に

ハーモニー猪苗代では、毎年地元町内会で開催している亀ヶ城跡にある鐘つき堂への初詣を恒例行事としていた。事業所がある古城町地区において、1年の健康を皆で祈願するこの行事は、地域の人々の楽しみの1つでもある。鐘つき堂は、事業所から歩いて5分ほどのところに位置しており、大晦日に除夜の鐘を聴きに散歩がてら、あるいは元日の昼間に何班かに分けて初詣に行ったりしていた。その行事が、2021年はコロナ禍で中止を余儀なくされた。

鐘つき堂の除夜の鐘と初詣の両方が中止になってしまい、残念がるお客様の様子から、2人ともどうにか初詣ができないものかと考えた。そこで出てきた案が、室内に手作り神社を設置するというものである。

コロナのせいばかりにもできない

この手作り神社の案を最初に持ちかけたのは黒石さんだ。その時の様子について黒石さんは、「何気なく、この二人の会話の中からの発案でした。皆さん、猪苗代のお客様なので、初詣の中止というのは寂しさだったり、がっかりだったりで、何とかしたいなと思っていました。それをボソッと渡部さんにつぶやいたら、俺も考えてたんだっていう話になって」と言う。渡部さんも、「お客様が毎年楽しみにされてるのに中止になって、コロナのせいばかりにもできないかなと思って、ずっと何かできないか考えていました」と言う。このように、両者それぞれに同じことを考えていて、それを黒石さんがつぶやいたことで話は始まった。

黒石さんのつぶやきに対して、渡部さんは内心ニヤリとしながら賛同した。そして賛同してくれた渡部さんに対して、黒石さんは「しめしめ」と思った。実は渡部さんは、法人の中でも群を抜く工作歴の持ち主なのだ。「渡部さんは、作る物とかすごく上手できれいで、お客様を喜ばしてくれるのがすごく上手な方なので、“いや、俺もだよ”と言われたときは、しめたと思いましたね」と黒石さん。こうして2人の間で、ご来光を拝む形で磐梯山を眺められる廊下に、小さくてもいいから神社を作ろうという案が固まった。年の瀬も押し迫る12月半ば過ぎのことだった。

この案について職員会議で投げかけたところ、職員全員が「いいな、それ」というように共感が得られ、この企画が実現に向けてすぐにスタートした。黒石さんは、「本当に軽いノリの、いいともみたいな感じで始まりました」と言う。

とくに法人本部の許可などは必要ないのかと尋ねると、「許可の必要はないですね。自分たちでできることは何でもやろうということになっていますので、そこは本当に自由です。高額なお金がかかるのであれば別ですけど、そんなにお金がかかることはまずないので」と話してくれた。なるほど、何でも“やってみんべ”なのである。

低予算でハイクオリティの神社ができた

しかし、一口に神社を作るといっても、一体どこからどんな資材を調達して、誰がどうやって作るのか、そのプランニングと実行はどうなっているのだろうか。まず資材の調達について、渡部さんは「ネットで検索すると、結構他の高齢者介護施設でも神社を作っているところもあって、別に珍しいことじゃないんですよ」と、“別にたいしたことではない”という口調で話をしてくれた。材料は、渡部さんのご自宅にあった紙製のパイプを鳥居に使い、施設内にあった神棚を神社に見立て、段ボールを使って賽銭箱を作った。新たに買ったものは、角材や赤いペンキなど総額1,000円くらいだ。

渡部さんは、「お金をかければ立派なものが作れると思うんですけど、あんまり本格的に作っても、罰当たっちゃうかなと思って」とユーモアあふれる回答をしてくれた。重ねて黒石さんが、「今回は本当に低予算でできちゃったなという感じです。ただ、クオリティはうちが一番高いと思います」と自信たっぷりに言い切る。たしかに写真からも、かなり大物の立派な鳥居であることがわかる。

▲お正月、お客様が鳥居の鈴を鳴らしています。

お客様への“サプライズ企画”にしたかった

ハーモニー神社の制作部隊は、渡部さんを中心として4~5人の男性が力を発揮した。職員それぞれに得手・不得手があるが、こういう“作り物”の時は男性陣の活躍の場となる。例えば、「賽銭箱あったほうがいいな」とつぶやくと、それを聞いた誰かが自主的に作ってくれる。

実はこの神社づくりは、お客様には内緒の“サプライズ企画”として準備が進められた。黒石さんは、「いつもだと何かを作るのに、何かしらお客様に関わっていただいたりするんですけど、今回に限ってはびっくりしてもらいたいというのが一番だったんです」と言う。“初詣に行けないがっかり”のところに、サプライズ企画で“びっくりの喜び”につなげたかったのだ。

お客様に見つからないようにしなければならないので、夜勤の時や、遅番で終わった夜に、物音を立てないよう気をつけながら作ったというから、お客様を驚かせたい、喜ばせたいというその強いホスピタリティがうかがわれる。そして、大晦日の前日の12月30日に、お客様してみれば“突如”、手作りのハーモニー神社が施設の一角に現れたのである。

「あれ? こんなところに神社が」と期待通り、お客様は驚きを見せた。そして元日には、密にならない、換気を十分にするなど、十分な感染対策を講じながら、順番に参拝した。渡部さんは、「皆さん、かしわ手を打ってお参りしてくれたので、ああ良かったなと思いました」と言う。黒石さんも、「お賽銭箱に自分のお金をポンって入れる方もいらして、どうしようと思ったくらいです。そのくらいありがたいって喜んでくれました」と嬉しそうに言う。重ねて黒石さんが、「何より、新しい年を迎えて自分や家族の健康と幸せを祈ることができて、それができて良かったっていう喜びが大きいと思います」とその成果について話してくれた。

▲お参りをするお客様。窓の向こう側は会津磐梯山です。
▲鳥居の前で記念撮影。仲良し3人の女子会だそうです。

“軽いノリ”で始まったというハーモニー神社の企画だったが、やってみる中で、いろいろアイデアも浮かんできた。例えば黒石さんは、大判焼きや玉こんにゃくなど、神社の屋台を再現したいとも考えたが、感染防止の観点から今回はあきらめた。もし来年も同じことをするなら、ぜひ屋台を実現させたいと秘かにその案を温めている。渡部さんも、「おみくじなんか引けたら楽しかったかなと、後になって思いました。やり始めた後だったので、今回はできませんでした。あと磐梯山をバックに、鳥居越しに写真撮りたかったんですけど、天気がずっと悪くてうまく撮れなかったのが残念です」と言う。それぞれに反省点やままならなかったこともあったが、やってみたからこそ次のアイデアも出てくる。次なる企画がいかにブラッシュアップされていくか楽しみだ。

お客様の楽しみと感染対策は“足し算引き算”

そんな利用者の楽しみを実現させることの一方で、もちろん感染対策もしっかりとしなければならない。緊急事態宣言や地元の感染状況などを踏まえて、法人の方針が都度出され、面会規制や外出自粛、そして施設内の感染対策が講じられる。加えて、行政からも様々な資料や通達がFAXで流れてくる。

こうしたコロナ禍で、お客様の楽しみの実現と感染対策の判断の基準はどのようなものなのか、気になるところである。その点について黒石さんは、「今はどうしてもコロナだからというのが前提に来てしまうんですよね。でも、コロナだからと引き算ばかりしていては、何もできなくなってしまいます。コロナに関係なく、お客様の楽しみの実現のために何をしたいかということをまず考えて、そこに感染対策の観点から、これはできる・これはできないと足し算引き算をすれば、何とか実現できるんです。理想どおりにならなくても、できないところが多少あっても、近づけた形でできるのかなって思っています。コロナだからって皆難しく考えすぎたりとか、あとコロナだから何もしなくていいやっていう考えも、なかには絶対あると思うので、そういう考え方が変わればもっといろいろなことができるのではないかなと思います」と話してくれた。

渡部さんも、「できないことをマイナス思考で捉えるのではなく、ポジティブに捉えることも大事なのかなと思います。例えば、毎年の夏祭りは地域の方やボランティアさんに来てもらっていたけれど、今年はそれができないということでマイナス思考になるのではなく、施設内だけで楽しめる方法を考えました。それはそれで、やってみたら楽しむことができました」と言う。コロナを言い訳にしないというお二人の強い思いが伝わってくる。

現場発のアイデアは日常の関係性の中で生まれる

すでに紹介したように、今回のハーモニー神社の企画は黒石さんと渡部さんの会話の中から生まれた。現場の職員からも、様々な取り組みのアイデアが出てくるのかという点について聞いてみた。

黒石さんは、「得手不得手があるので、料理が得意という人は、おやつにお菓子作りやりたいけどいいですかとか、いろいろ皆からアイデアは出てきます」と言う。それがどのような場で出てくるかを重ねて尋ねると、「ミーティングでも、こうしたいああしたいという話は出てくるんですけど、私たちが心がけているのは、職員さんがフラットに話せる環境っていうことです。結構、みんなの前で発言できないっていう職員さんに限って、実は言えなかったんですけどというような感じで、私か渡部さんのどっちかに相談に来てくれます」と言う。職員によって、黒石さんに相談しやすいという人もいれば、渡部さんに相談しやすいという人もいるし、その内容によっても誰に相談したら良さそうかという視点で、職員は使い分けて相談に来てくれる。このように日常の関係性の中でアイデアが生まれ、実現に向けた動きが芽生えていく。

心がけたのは、コロナに関係なくいつもどおりのケア

最後に、このコロナ禍でのお客様や職員の変化ついてお聞きした。多くの介護施設・事業所では、コロナ禍で様々な行動の制限を受けて、利用者の認知機能や筋力・ADLの低下などが伝えられている。また不安の中で、職員のストレスなども懸念されるところである。

まずお客様の変化について黒石さんは、「とくにコロナで外に出れないから筋力低下っていうのは、正直まったくないです。コロナに関わりなく、お客様の筋力が低下しないよう、体操や歩行訓練などには日頃から力を入れています。コロナだからっていうのはお客様には関係ないので、毎日いつもどおりの関わりをするっていうのだけですね。難しく考えないで、本当にそれだけです」と言う。

職員の変化については、渡部さんが「職員にストレス? あんまりたまっている感じはしないですね」と言う。その理由について、「本当に、ちょっとしたことでもお客様に喜んでもらえるようなことをしたら、コロナで辛い中でも、介護のやりがいも出てくると思うんで。ちょっとしたことでもできることがあって、それで喜んでもらったら、自分たちも楽しいかなって思っています」と話してくれた。

コロナ禍だからこそ、お客様の普段の生活を維持することや、楽しみを見出すための取り組みが、仕事のやりがいをさらに高めるのかも知れない。

最後に、“牛の雪像作り”の話

インタビューも終わり、ZOOMをまさに切ろうとした時、黒石さんから「ちょっと、もう1つだけいいですか?」と申し出があった。「年明けに、牛の形の雪像を作ったんです。干支の牛です。ブルーシートを敷いて、皆でバケツで雪を運んだんです。心愛会のインスタグラムにあげておいたので、見れるはずです」と教えてくれた。最後に言いたかったのは、大きな牛の雪像の力作のことだった。取材者は何ともほっこりした気持ちにさせられた。

▲牛の雪像。皆でバケツで雪を運んで作りました。

今回の手作り神社やこの雪像作りも含めて、ちょっとしたことでもアイデアを出し合い、実現させていくことの積み重ねで、お客様も職員も、満足という心のコップの水が満たされていくのかも知れない。

インタビューを終えて

「コロナだからっていうのは、お客様には関係ない」、「コロナを言い訳にしない」そんなキーワードが何度か会話の中に出てきたのが印象的でした。たしかに、コロナ禍だからということで引き算でばかり考えてしまうと何もできなくなってしまいます。コロナに関係なく、お客様の豊かな暮らしを実現するためには何が必要かという「あるべき姿」を考え、そこから感染症対策という引き算をしていくという黒石さんの言葉は、自粛で身動きがとれなくなっている介護施設・事業所には、何か動き始めるヒントを与えてくれるものと感じました。

実はこのインタビューの前に、法人常務理事の三瓶さんに各事業所の取り組みの概要や法人の方針などについてお話をうかがっていました。三瓶さんによれば、設立当初はトップダウンが強かったそうですが、それでは現場のやらされ感が強くなるとともに、萎縮してしまうという認識から、現場の主体性を尊重し現場に任せるスタイルに変わってきたというお話でした。いまや、“やってみんべ”の精神が浸透し、法人内の各事業所で多様で創造的な取り組みが展開されています。それぞれの事業所の取り組みを、全社で共有する発表会も開催されており、お互いに切磋琢磨する場も築かれています。こうして醸成された風通しの良い組織風土が、現場の“やってみんべ”を支えているのではないかと感じました。現場の主体性・自律性を高めたい、そんな問題意識を持つ法人・事業所に大きな示唆を与えてくれる事例だと思います。

社会福祉法人心愛会ハーモニーみどりヶ丘の事例も合わせてご参照ください。

■参考 社会福祉法人心愛会https://www.sin-ai.com/index.html

ハーモニー猪苗代 黒石様ご提供資料

インタビュー担当:堀田聰子, 菅野雅子
記事担当:菅野雅子

ひとまちラボトップページへ

お問い合わせ

プライバシーポリシー