みんコロラボ 〜みんな、新型コロナ対策どうしてる?〜

ホームで職員のサプライズ結婚式、「介護は明るい!」を若手チームが発信中

要約

東京都日の出町にある特別養護老人ホーム、ひのでホームはInstagram、YouTubeなど若者に身近なメディアを積極的に活用し、情報発信している。コンテンツの仕掛け役が、今回、お話を伺った上原まりさんをはじめとする若手職員の有志origamiのメンバーだ。

origamiメンバーの2020年お気に入り投稿ナンバーワンが、10月に行われた同期カップルのサプライズ結婚式の写真。入籍はしたものの、長引くコロナ禍で挙式ができずにいた2人のために上原さんが発起人として発案し、上司や同期らと共に準備を進め、職員約100名、入居者200名を巻き込んだ大型サプライズ結婚式をホームで敢行した。当日は3密を避け、屋外でガーデンウエディング風に挙式。ウエディングドレスの花嫁と花婿はホーム内を挨拶回りし、同僚はもちろん、入居者さん達とも感謝の言葉を交わしながらひと時を過ごし、ホームのみんなが幸せな気持ちになれたという。

origamiの情報発信を始めたきっかけ、総勢300名のワクワクと感動が詰まったサプライズ結婚式の全貌、コロナ禍での大型イベント実現を可能にした法人の風土について、上原さんに伺った。

  • 特別養護老人ホーム
  • 「明るい介護」を発信
  • 若手有志らによるSNS活用
  • 職員同士のサプライズ結婚式
  • 職員のモチベーション
  • やる気を後押しする社風
  • 自己満足コンテスト

詳細

インタビュー実施日:2021年2月9日


この記事を読んでもらいたい方

  • 介護職員,
  • 介護施設経営者,
  • 介護施設マネージャー,
  • 介護福祉士,
  • 社会福祉士,
  • ケアマネジャー
法人名&事業所・施設名法人名 芳洋会
施設種別と施設名 特別養護老人ホーム「ひのでホーム」
お話を聞かせていただいた方ひのでホーム ケアワーカー・グループリーダー上原まり さん

情報発信に力を入れる特別養護老人ホームひのでホーム

慢性的な人手不足が指摘される介護業界で、18年連続で新卒の学生10人以上の採用を実現している社会福祉法人がある。緑豊かな東京都西多摩郡日の出町にある特別養護老人ホーム「ひのでホーム」をはじめとする10の事業所を運営する芳洋会だ。

ひのでホームのホームページをのぞくと、「暮らす人も、はたらく人もずっと楽しく生きよう。」という強いメッセージがまず目に飛び込んでくる。お知らせ欄には、地元の飲食店がスタッフのためにクレープを差し入れてくれた時の「幸せのクレープ」という記事など、楽しげなイベントに関する記事が数多く投稿されている。豊富な写真やインタビューから、利用者さんの暮らしぶりだけでなく、職員が元気に楽しく働いている様子もダイレクトに伝わってくる。

それもそのはず。ひのでホームは2019年、東京都社会福祉協議会・東京都高齢福祉施設協議会が主催する「東京の介護ってすばらしい!グランプリ2019」ホームページ部門の最優秀賞を受賞。温かさを感じる写真やコピーなどで、介護現場の様子をいきいきと伝える情報発信力は折り紙付きなのだ。

そんな芳洋会の情報発信の場は、今やホームページにとどまらない。Instagram、Facebook、YouTube等、若者が身近に感じる様々なSNSでの発信が特にユニークで面白いと評判を呼んでいる。

ひのでホームInstagram、Facebookページより

“明るい介護”を発信するorigamiプロジェクト

これらSNSでの情報発信の仕掛け役を担っているのが、若手職員らによるorigamiプロジェクトのメンバーだ。言い出しっぺは、今回お話を伺った、ひのでホームでケアワーカー・グループリーダーを務める入職7年目(2021年2月時点)の上原まりさん。介護福祉士、社会福祉士に加え、ケアマネジャーの資格も取り、新卒で入職して以来、このホームでずっと働いている。

上原さんはある時、Facebookで介護に関するネガティブな記事を見つける。「そういう記事によって、介護のイメージが悪くなってしまうのがすごく嫌だなと。そんな話を同期としていた中で、それなら、介護のイメージを変えるようないい情報をこっちから発信していけばいいんじゃないかと考えました」。上原さんはorigamiを始めたきっかけについて、そう話す。数年前、ちょうど写真や動画を無料投稿できるInstagramが流行していたタイミングでもあり、若い世代にも視覚的にもっとポジティブなイメージを打ち出していこうというところから、プロジェクトは始まった。

上原さんがその時話した同期と二人で、直属の上司であるマネジャーにInstagramで情報発信を始めたいと相談してみると、「いいね、やってみれば」とこのプロジェクトの後押しをしてくれた。社内の公式な活動とするために、上原さんは介護業界のイメージを明るく変えたいという情報発信の目的を明確にし、企画書を準備。事前にどの部署に話を通しておくべきかなども上司と相談しつつ、社内での承認を得て、2018年1月から同期6人でInstagramでの投稿がスタートした。

第1回目の投稿には、「福祉・介護は明るいこと。折り紙のように、見方や考え方を変えてみれば、可能性は無限大に広がる。そんな魅力的な仕事であることを多くの方に知っていただきたくて、Instagramを始めました」というメッセージを出した。

origamiというプロジェクト名は、上司である総務の関澤さんからの「どうせやるなら楽しくて分かりやすい名前にしては」というアドバイスを受けて自分達で練ったもの。介護施設にとって折り紙は身近なものであり、折ることで、折り紙はいろんな形に変化していく。介護の見方や考え方を変えることができる可能性を伝えたいという視点から、このネーミングにたどり着いた。

同期職員二人のためのサプライズ結婚式をホームで

職員同士でのバーベキュー、施設内の廊下を使った職員による雑巾掛けレースなど、これまでInstagramには楽しい写真が数多く投稿されてきた。そんな中、6名のorigamiメンバーの2020年のお気に入り投稿ナンバー1となったのが、ホームで「結婚式」を行った時の写真だ。

ホームの庭で行われたサプライズ結婚式
ひのでホームFacebookページより
カラフルな文字を載せて楽しく加工
ひのでホームYoutubeサムネイル画像より

特養で結婚式?誰の?と思うかもしれない。コロナ禍の2020年4月に入籍はしたものの、自粛ムードが続き、結婚式を挙げられずにいたホームに勤める同僚カップルのために、サプライズ企画としてホーム内での結婚式が企画されたのだ。

このサプライズ結婚式の発起人となったのも上原さん。「カップルは二人とも私の同期で、別の同期と、5、6月頃、あの二人の結婚式ができたら絶対行きたいよねという話をしていて…。なら、ホームでやっちゃえばいいのにというところから話が始まりました」と上原さんは振り返る。同じタイミングで、origamiプロジェクトを後押ししてくれたマネジャーが「あの二人、結婚式はやらないの?」と水を向けてくれたこともあり、「ホームでできたら素敵なんじゃないかという話をしたら、『やっちゃえばいいじゃん』とまた後押ししてくれたんです」。そこで、目的、準備、協力を依頼する部署、当日のスケジュール、当日までの計画、予算などをまとめた企画書を作って、マネジャーに確認をもらいに行くと、マネジャーからまさかのダメ出し。「せっかくやるなら、もっとドカンと本格的に、派手にやりなよ」と嬉しいコメントをもらった。

マネジャーのアドバイスのもと、上原さんは花嫁には内緒で、職員のみならず入居者さん達にも少しずつサプライズ企画を伝え、ホーム内の多くの人々を巻き込みながら、時間をかけて準備を進めていった。「そんな中で、ある看護師さんは指輪を載せるリングピローを作るよと言ってくださったり、イベントの飾り付けが上手なベテランスタッフさんは、すごくいい企画だから飾りを作ってあげると申し出てくださったり…。企画を伝えたスタッフのそれぞれが、それなら私はこれやるよと自発的に声を出してくれたのは大きかったです。そんな声がどんどん重なった結果、当初想定したはるか上をいく内容の式ができました」。

感染対策については、どのようなステップを踏んだのだろう。マスク・手洗い・消毒など基本的な感染対策はすでに徹底されていたものの、コロナ禍で大きなイベントを行なうのだから相当な配慮をしたはずだ。芳洋会の基本的な感染対策は、各部署のマネジャークラスが所属するコロナ対策委員会で検討されていて、レクリエーションやイベントがある場合はその都度、マネジャーから委員会に確認してもらい、承認が下りれば、実施するという流れになっている。今回の場合は、規模が大きいこともあり、「例えば、挙式の時は写真を撮りたいので、マスクではなくマウスシールドでいいかどうかなど、当日のシーンごとに感染対策で押さえるべき基本のポイントを踏まえ、細かいレベルで施設長に確認をして、ゴーサインをもらうというステップを繰り返していきました」と上原さんは説明する。

このイベントを企画・運営する上で一番大変だったことについて尋ねると、意外や感染対策ではなく、「花嫁にずっと企画を隠し通すことでした」と上原さんは笑う。夫となる同期には事前に説明したものの、花嫁には当日まで一切情報を出さなかった。準備が進み、ホームの中でサプライズ計画を知る人が次第に増えていく中で、一度、「結婚式やるんだって?」と花嫁本人に聞いてしまった職員もいて、周りが冷や冷やしたことも。幸い花嫁が「また、冗談言われた」と受け流してくれたので、計画は知られずに済んだ。

職員、入居者が一緒に準備して一緒に祝う日に

上原さんが準備段階でこだわったのは、スタッフだけでなくホームに暮らす入居者も含め、全員でお祝いをしようとしたところ。カップル二人は上原さん同様、入職してずっとこのホームで働いていて、多くの入居者の方達と関係性があったこともあり、こうした入居者の方達も一緒に準備して一緒に祝ってくれたということを二人に伝えたかったのだ。

ホームのスタッフ約100名に加え、入居者は現在200名。結果的に300人規模の人が関わるイベント準備を進める中で、事務のスタッフが写真を担当してくれたり、ボランティアの受け入れを担当するスタッフは花嫁のヘアセットを担当してくれたり…。上司のマネジャーがほかのフロアのマネジャークラスにも細やかに根回しをしてくれ、計画の後押しを継続し続けてくれたことも奏功し、ホーム全体でお祝いをしたいという空気が醸成されていったという。

そして迎えた当日。サプライズの瞬間、花嫁である同期は企画を知って絶句。上原さんのスマホの記録には、着替えに呼ばれた部屋に入った途端、お祝いの飾りつけを見つけ、「びっくりした。すごい。何だ、これ」と、花嫁が目を丸くして思わず呟く動画が残っている。

花嫁のヘアメイクシーン
ご提供資料より
庭での挙式シーン
Instagramより

挙式は、3密の回避のため、ホーム2階にある庭を使ったガーデンウエディングに。「挙式した2階のガーデンには職員はもちろん、入居者さん達も見物に来てくださって…。自分達ももちろん幸せな気持ちになったんですが、本当に大勢の方々が笑顔になって涙を流す方もいて、みんなが幸せな気持ちになれたことを実感しました」と上原さん。普段はめったに立つことがない入居者さんが立ち上がって、背伸びして柵の隙間から二人の様子を見つめていたのが印象的だったと話すスタッフも。ウエルカムボードには入居者さん達からもたくさんのメッセージが並んだ。なかには、「お祝いの言葉は残るものだから、ちゃんと書きたい」とメッセージを几帳面に何度も何度も書き直していた入居者さんもいた。

利用者さんと直接言葉を交わすシーン
ご提供資料より

挙式の後は、夕方16時ぐらいまで、カップルがウエディングドレス、式服のまま、施設内の各フロア、部屋を回って、ご挨拶回り。挨拶に部屋に入ってきた花嫁を見て、「きれいだね」と思わず号泣してしまう入居者さんもいた。「普段の生活では、嬉し涙を出すなんてそんなにないのに、感動の涙を流す方がたくさんいて。結婚式という非日常のイベントに触れて、すごく刺激を受けていらっしゃるんだなということが伝わってきました。あと、入職して長い同期の二人を心からお祝いしたいというご入居者が何人もいらっしゃって。お互いに御礼の言葉、お祝いの言葉を直接交わす機会をつくることが出来たのも良かったと思います」と上原さんは話す。

ホーム内のご挨拶回りを終えた後、16時以降は多目的ルームでミニ披露宴も行った。当日は18時ぐらいまで、ホームは結婚式の優しいお祝いムードで包まれていたという。

自己満足コンテストでモチベーションを醸成

まだ若手とも言える上原さんがコロナ禍でこうした企画にチャレンジして、結果的に多くのスタッフを巻き込みながら、イベントを遂行。イベント成功の裏には、どんな秘訣があったのだろうか。「大きかったのは、マネジャーからやっちゃっていいと言ってもらえたことですね。自分もこれはやっていい企画だと思えましたし、芳洋会にはそんな風土があったことが一番の理由だったと思います」。

象徴的な取り組みが、芳洋会で毎年行っているという自己満足コンテストだ。日頃の業務の中で、自分達で企画・実践して満足感を感じられたことについて発表する場として企画された。上原さん達も入社してまだ何年もたたない時期に、サンファイバーという食物繊維を活用して自然排便を促す取り組みの成果について、同期と一緒に発表。達成感を感じた経験を今も覚えているという。

芳洋会での自己満足コンテストの考え方について、前述の関澤さんに確認すると、「事業所によっては、何か新しい事に挑戦するにしても、一定の成果やエビデンスが求められるのが常。ですが、うちの理事長以下、経営者はそもそもチャレンジングな考え方をしてくれていて、色々やってみようという基本方針があります。さらに、自己満足コンテストを続けることで、ご入居者のためになることであれば、常にエビデンスを求めるばかりではなく、結果的に失敗に終わってもいい、まずは自分の自己満足が得られることから始めればいいじゃないかという風土が職員にも伝わり、職員のチャレンジの後押しになってくれていると思います」と、開催の意義について補足してくれた。

上原さんも、「自己満足コンテストに限らず、上司のみなさんも、長くいる職員さん達も、うまくいかないことがあっても、ここはうまくいかなったけど勉強になったね、というように失敗をいい方向に捉えてフィードバックしてくれる環境があるように感じています。ですから、結婚式の企画も、コロナ禍でみんな鬱々とする中で、まずは楽しいことを企画したいという自己満足からでいいと思って、楽しんで進めることができました」と分析する。

origamiによるInstagramへの投稿数は133件(2021年3月5日時点)に上り、フォロワーは1111名(同)を超えた。結婚式を含むSNSの様々なコンテンツに関心を持ち、芳洋会への就職を希望する学生も増えつつあり、情報発信によるプラスの効果も出始めている。今後もorigamiメンバーとして、「介護・福祉は明るいこと」であるという情報発信を続けていく中で、実際に介護のイメージ、現場をどう変えていくのか──。上原さん達の活動にこれからも目が離せそうもない。

■参考 ひのでホームホームページhttps://www.h-sunrise.com/hinode-home/

社会福祉法人 芳洋会 Instagram origami アカウントhttps://www.instagram.com/origami3076/

社会福祉法人 芳洋会Facebookページhttps://www.facebook.com/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%A6%8F%E7%A5%89%E6%B3%95%E4%BA%BA-%E8%8A%B3%E6%B4%8B%E4%BC%9A-137940680255076/

社会福祉法人 芳洋会 公式Youtubeアカウントhttps://www.youtube.com/channel/UCXAYu6STK62DtfkkwRm9yZg/

インタビュー担当:堀田聰子、菅原かほる
記事担当:新村直子

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