一人の入居者の言葉から始まった施設内カフェ
要約
ルソン・ドゥ・クール高槻は、大阪府高槻市にある入居者79人定員の住宅型有料老人ホーム。新型コロナの影響を受け、面会やボランティアの受け入れ制限、感染症対策の徹底など、全国どこの施設でも見受けられる対応が迫られた。
そうした中、一人の入居者の想いをきっかけに、施設内カフェ『Leson de café(ルソン・ドゥ・カフェ)』がオープンした。初めは小さな試みであったカフェが、今では入居者の日常生活の一部になり、施設職員はもちろん外部の方の協力も得て、コロナ禍においても定期的に開催されている。
人員や感染症対策、費用面など継続する上で課題は多く、運営は大変だったが、コロナ禍で楽しみが制限されている入居者の日常生活を彩り、入居者や職員の変容を促し、更に新たな取り組みが始まるなどしている。
- 住宅型有料老人ホーム
- サービス提供責任者
- 訪問介護員
- 介護支援員
- 入居者の想い
- 施設内カフェ
- 手作りカフェ
- 定期開催
- 利用者の変容
- 職員の変容
- 成功体験
- 広がる取り組み
詳細
インタビュー実施日:2021年2月5日
目次
- 介護職,
- 施設職員,
- 介護施設経営者,
- 入居を検討する本人,
- 介護家族等,
住宅型有料老人ホーム ルソン・ドゥ・クール高槻
併設ヘルパーステーション 悠 西町
ルソン・ドゥ・クール高槻
ルソン・ドゥ・クール高槻は大阪府高槻市にある入居者79人定員の住宅型有料老人ホーム。「笑顔や笑い声があふれる施設」をテーマに2019年5月にオープンしたばかりで、「第二の我が家」と呼べるような施設づくりを目指しているという。入居者は併設の訪問介護サービスや外部のデイサービスを利用、施設内で行われるレクリエーション活動などを楽しみながら、日々を過ごされている。新型コロナが広がる前は、地域の多様なボランティアも出入りしており、頻繁に催し物が行われていた。
例年のインフルエンザやノロウイルスのような感染症に対する基本的な予防対策を徹底することで日常の支援を継続していたルソン・ドゥ・クール高槻も、2020年4月に緊急事態宣言が出ると、面会の制限やボランティアの受け入れ制限など、対応が迫られることになった。
その後、一律に自粛や制限を継続するところも少なくないが、ルソン・ドゥ・クール高槻では、施設長や外部コンサルタントなどを通じて、適切な感染症対策を現場で行いながら、必要なところは制限を行い、対策が十分なところは緩和をしたり、常に適切な状態を見極めながら対応を進めているという。
そうした中、一人の入居者の想いをきっかけに、施設内カフェ『Leson de café(ルソン・ドゥ・カフェ)(以下:カフェ)』がオープンした。初めは小さな試みであったカフェが、今では入居者の日常生活の一部になり、コロナ禍においても豊かな生活を叶える定期的な楽しみに発展している。
今回はカフェの立ち上げ、運営の中核メンバーであるサービス提供責任者の上田さん、訪問介護員の城井さん、介護支援員の洲脇さんに、カフェの立ち上げから発展の経緯、現在に至るまでの施設全体の変容と、カフェに込めた想いなどについてお話を伺った。
一人の入居者の想いがはじめの一歩
新型コロナウイルス感染症にかかわる報道が少しずつみられるようになってきた2020年の始め頃、一人の男性入居者Aさんのひとことが、カフェを始めるきっかけとなった。
「やっぱりコーヒー、美味しいのを飲みたいな」という言葉だ。
上田さんはこう振り返る。「Aさんは毎日ある喫茶店に通っていて、新聞を読むのが習慣だったそうなんです。その習慣が、入居されたことでできなくなってしまったんです。『コーヒー、美味しいのを飲みたいな』この想いをなんとか叶えられないかなっていうところから始まったんです。」
上田さんは続ける。「Aさんに美味しいコーヒーを飲んでもらいたいということで、すぐにカフェの構想になったわけではないんです。色々と外へお連れしたり試行錯誤したんですが、なかなかうまくいきませんでした。そしてAさんとお話をする中で、施設内カフェの話になり、『じゃぁ一回店長さんやってもらえませんか』ってお話ししたんです。そしたら『いいよ』って。『ここで美味しいコーヒー飲めるんだったら』という話になったんです」と、最初から施設内カフェを進めていったというよりも、紆余曲折の末至ったチャレンジの一つだったことを教えてくれた。
この思いは上田さん一人に留まらなかったようだ。「最初はこんなことを思っているのは私だけかなって思ったんです。でも、職員さんに聞いたら『Aさんずっと美味しいコーヒーを飲みたいっておっしゃっているんですよね。その声を聞いて飲ませてあげたい』っておっしゃってくれたんです。もしかして、他のみんなも同じようにAさんの想いを聞いているんじゃないかなと思いました。他の人にも尋ねたら、それぞれ『聞いたことがあるよ』って声が聞こえてきました。じゃぁもうやるしかないよねって思いました」と、周囲の人たちに共通の想いがあることを知り、次のステップへと繋がったという。
加えて上田さんには仮説があった。「コロナの中で、もしかしたら、施設の中で寂しくなっていたりとか、あまり交流もできなくなったりとかで、他の方でも、Aさんのように、ちょっと楽しみを持ちたいと思っていらっしゃる方がいるんじゃないかなって」と、Aさんの想いをきっかけに、施設の他の入居者の楽しみに繋げられないか、そうしたニーズがあるのではないかと上田さんは考えていたようだ。
周囲から潜在的な可能性を感じた上田さんは、カフェの構想をきちんとしたものにするために、企画書として提案することにしたという。施設はオープンして年数が経っていないこともあり、企画提案制度などがあったわけではないということで、それ自体も新しい試みだったようだ。「カフェ企画の概要と、費用についても、どなたにも参加していただけるような内容で作成しました。入居者の皆さんはお小遣い程度はお持ちになられているので、その範囲で使っていただけたらなってことで考えていました」と上田さんは企画書の構成を考えていた時のことを教えてくれた。
企画書を提出された管理者や施設長は企画のコンセプトや入居者の願いを叶えるという点で賛同してくれたそうだ。その上で、具体的に進めていくために検討していくべき点を示してくれたという。
カフェ開催の課題について
今のご時世、介護業界において、潤沢すぎるほどの人員を揃えているという事業所、施設が多いはずはない。カフェを開催するにあたっては、人員や感染症対策、費用についての課題があり、上田さんらは少しずつ周りの力を借りながら進めていったという。
まず、人員について、上田さんは色々と職員や入居者の声を聞いていく中でイメージを膨らませていったようだ。そして、城井さんと洲脇さんもその頃、なんとなく上田さんの構想を聞かされる機会があり、実際にやるときは手伝うよ、と話していたそうだ。
「そしたら企画運営に呼ばれ、そのままずるずると」と城井さんと洲脇さんは顔を見合わせて笑う。自然の流れと二人は言うが、カフェのコンセプトに主体的に協力してくれる可能性を上田さんは感じたようだ。
ただ、城井さんは現場の中核的訪問介護員であり、カフェ開催している間、現場を抜けることは大きな影響が出てしまう。洲脇さんは介護支援員と呼ばれる職員で、フロアの掃除や洗濯など訪問介護員の下支えといった周辺のお仕事を担っている。ルソン・ドゥ・クール高槻では10数名の介護支援員が交代で現場を支えている。この介護支援員も現場では重要な存在であるため、洲脇さんをカフェの仕事に召集するということは、ほかの介護支援員に負担をかけることになる。
上田さんは、城井さんや洲脇さんをカフェの企画運営に送り出してくれる他の職員や支援員等の理解があったからこそ、実現への第一歩を踏み出せたと言う。そうして、現場の協力のもと、企画運営の3人は、それぞれが準備する担当分けをしたり、時に休みにも準備に取り組んでいったそうだ。
二つ目に押さえておかなければならなかったのが感染症対策だ。これについては、手洗いや消毒、換気などの基本的な対策の徹底をしたという。また、飲食時以外は常時マスクを着用し、カフェ当日は盛り付け、ドリンク等の配膳係は必ず手袋、エプロンを着用、担当係を分ける、アクリル板の設置や、飛沫を意識した席の配慮など、細心の注意を払っているという。
ルソン・ドゥ・クール高槻では、外部コンサルタントを導入しており、感染症対策について行政機関など含め、随時情報収集を行い、施設長らと共に現場に反映してくれているという。「コンサルタントの方は入居者さんが通っているデイサービスを見にいって、感染症対策が不十分なところは通いを保留にするなど、段階的にきちんと感染症対策と生活を両立させる視点から助言をしてくれました」と上田さんはいう。
カフェという飲食を伴う新たな取り組みは、そうでないものよりも感染リスクが高く、一律に制限されてしまいがちである。しかし、きちんとした組織体制やコンサルテーションにより、感染症対策に努めながら入居者の願いを叶える取り組みにチャレンジしていたことが見えてきた。ちなみに、お話を伺った時点で、ルソン・ドゥ・クール高槻では、感染者も濃厚接触者も一人も出していないそうだ。基本的な感染症対策の徹底があれば、飲食を伴うカフェという新たな取り組みも十分行えるということを示してくれている。これは全国の介護事業所、施設にとっても心強いことなのではないだろうか。
さて、費用についても、限られた制約の中で予算を抑えつつ、どう実現するかに頭を悩ませたという。地域の障がいがある方の作業所で作った商品のおやつを購入したり、色々と買い出し先を探すなどして、なんとか適正な予算に見合う形を模索していった。
新しい取り組みの中で、しかもコロナという未知のウイルスが広がる中で、どうすればできるだろうか、という視点で、一つ一つの課題に組織として向き合っていったことがうかがえる。
初回のカフェ開催
Aさんの想いから始まったカフェ構想だが、カフェの集客は特にしていなかったという。
その根拠としてあったのは、日頃の入居者との関わりやアセスメントだった。以前、昼食時に焼きそばやお好み焼きを作った時に積極的に関わってくれた入居者がいたという。その方を含め、巻き込んだら乗ってきてくれるであろう人、活躍の場と利用者が、ある程度思い浮かべられていた。また、当初の上田さんの仮説「きっと日頃からこうした場を求めている人がいるはずだ」ということもあった。
そして初日を迎えた。
「せっかく、美味しいコーヒーを飲むんだから、美味しいおやつも欲しいよねとなり、パンケーキを焼こうということで、入居者さんがホットプレートで焼いてくれたんです」と目論み通り、カフェに主体的に参加してくる入居者も出てきた。
当日の集客はまさにぶっつけ本番だった。洲脇さんは「まずはコーヒーの香りで誘いました」と笑う。上田さんも「フロアに漂ってくるんですね。そして、今度はパンケーキを焼いている甘い香りがするわけです。」二人は「一人増え、また一人増え」とその日を思い出しながら満面の笑みで話す。
初回を終えての感想を伺ったところ、上田さんと洲脇さんは「楽しかったです。けど、初回はもう手探りでした。とにかく一生懸命で、初めてのことだったので。安全に運ぶことや、トラブルが起きないようにとか、余裕がなかったのが正直なところです」と盛況だった反面、運営の難しさや課題も感じたようだ。
初回はゲスト(入居者)十数人ほど、手伝ってくれる入居者数人と上田さんら3人だった。事務所の方はじめ、多くの方に協力と負担の両方を求めるカフェを経験し、2回目以降は準備をさらにしていかなければいけないと感じたという。
カフェの取り組みがもたらした変化
夏頃までは入居者の声に応える一心でなんとか月数回をこなしている状況だったそうだ。そんな中、少しずつ施設全体のカフェに対するスタンスが変わってきたという。
上田さんはその頃の変化について次のように語ってくれた。「多分、入居者さん自身が“自分たちはこのカフェに行くべきもの”って意識が変わったと思うんです。まさに継続は力じゃないですけど。例えば、入居者さんが『今日コーヒーあるよね』って職員に質問するようになったんです。少しずつインプットされてきたというか。質問されると職員も知らないとは言えなくなりますし、伝えてあげたくなるんですよね。そうすると、私たちカフェメンバーに『今週ってカフェあるんですか』と関心を持ってくれるようになったんです。それはすごく嬉しい変化でした」と、入居者がカフェを認識しだした変化が、職員にも影響を及ぼしたと上田さんは考えたようだ。「入居者さんの要望でお部屋からカフェに連れてきた職員も、入居者さんから『ありがとう』って感謝されるので嬉しくなりますよね。そうすると、職員も『何か手伝いますか』って積極的に関わってくれるようになってきました」という。
洲脇さんも「入居者さんが私の顔を見ると『コーヒーの人』って私のことを認識されるんです。それだけ皆さんの中にカフェでの時間が残ってくださっているんだなって思いました」と、入居者の中のカフェが生活の楽しみの一部になってきたという印象を話してくれた。
人員体制や感染症の不安がある中で、飲食を伴うカフェの取り組みは、協力したいとは思いつつも手放しに全ての関係者が歓迎できることではない。それでも、多くの人の協力と理解を得ながら、継続する中で入居者に変化が現れ、それが職員にも伝搬していったというのは示唆に富んでいる。上田さんが述べた仮説の通り「Aさん以外にも施設の中でちょっと楽しみを持ちたい」と願いを持つ入居者に、カフェという形で応えてきた結果と言えるかもしれない。
カフェを続ける原動力
そして、「カフェを継続していこう」と気持ちを強くしたエピソードについて上田さんは話してくれた。「実は残念ながらAさんは去年亡くなられたんです。店長さんが不在になってしまって。でもその頃から本当にどんどんゲスト(カフェ来店の入居者)が増えていきました。そしてAさんのご家族に遺影にする写真について聞かれたんです。私はすぐにAさんの店長さん写真を思い出して、『プリントアウトで申し訳ないんですけど』ってお渡ししたんです。実はAさんの言葉から始まったんですよってお話しさせていただきました。そしたら、ご家族が泣いて喜んでくださって。『ぜひ、これはずっと続けていただきたいです』っておっしゃっていただいたんです。『わずかな時間でも、輝かせてもらってありがとうございます』っておっしゃっていただいたんです」とAさんのご家族からもらった言葉を教えてくれた。
上田さんは続ける。「本当にありがたいです。今も本当に感じています。毎回入居者さんから『美味しかったよ』『ありがとう』『また次もお願いね』っていう言葉をいただけていることが。皆さんの中で、ちょっとした元気になるきっかけでもあったり、私たちの元気にもさせて頂いているっていう状況です」と、入居者一人一人から頂く言葉に、元気をもらっているという。
カフェが発展していく
夏頃を境にカフェは施設に定着し、さらにたくさんの発展が起きているという。
城井さんは得意のデザイン力を生かして、メニュー表を作るなど、入居者がカフェを楽しめる工夫や取り組みをしてくれているという。「最初は口頭でメニューを説明しても難しさを感じました。それならば、メニュー表がいるなって。でも今度は文字を読むことが難しい方もいらっしゃるので、イラストで伝えられるようにしたり」と、カフェにデザインと彩りを添えることに力を発揮している。
ケアの面でも良いことが起きている。普段水分補給が苦手な方も、夏の喫茶の工夫で解消される機会となっている。かき氷や、氷を砕いたカップにジュースやカルピスを入れるなど、楽しく水分を取ってもらう機会になっているという。
カフェ自体も進化を遂げてきている。例えば、当初十数人の集客だったものが、最近では入居者約70数人中50〜60人ほどのゲスト数になっており、毎回約70食が完売しているという。「施設長もコーヒーメーカーを一台追加購入してくれました」と城井さんは嬉しそうにいう。利益も十分出ており、当初のコーヒーメーカー1台では足りないということで経費で購入してもらえ、現在2台のコーヒーメーカーがフル稼働しているという。
そして、レク担当からも、集客率が高いカフェでお誕生日会を兼ねられないかと話があった。月に1回の頻度では次回が待てないという入居者の声もあったことで、現在は月3回開催するようになったという。
またカフェが盛況すぎて人手が足りなくなるといううれしい悲鳴になり、現在はコロナ禍でありながらも、有償ボランティアさんに来て頂いているそうだ。もともと地域活動をされていた方だが、コロナによりそうした地域の活動ができなくなってしまい、カフェにたどり着いたというわけだ。感染症対策の徹底や事前の面談などを経て、コンセプトや対応を理解して頂いた上で手伝ってくださっている。
さらに発展したことが、「ルソン居酒屋」だ。「コーヒーがいいんだったらお酒も飲みたいよね」という話から、お酒好きな職員や入居者が毎月一回開催するようになった。ベテラン看護師オススメの一品など、皆が持ち寄りで楽しんでいるという。仕事終わりに職員が寄って、入居者と一杯やるといった素敵な居酒屋だ。もちろん、アクリル板や密を避けて感染症対策に万全を期していることは言うまでもない。
カフェそれ自体は、サービス提供責任者の上田さん、中核訪問介護員の一人である城井さん、同じく現場で大切な役割を担う洲脇さんを、カフェの度にシフトから外すというなかなか難易度が高いことを行っている。それでも、今では、多くの職員がカフェを運営することを応援してくれているという。カフェの取り組みは、チームワークを促進したり、入居者が心待ちにしていることに協力しようとする組織全体の大きな変容を促したといえる。
カフェという一つの成功体験が、このように様々な施設の変化を促し、新しい取り組みをどんどん生み出している。そして繰り返しになるが、これはAさんという一人の入居者の声から始まったということであり、そうした種はどの介護現場にもあるはずだ。
取り組みを振り返って
改めて、カフェの取り組みを中心に、これまでのことを振り返って頂いた。
上田さんは「私は本当に突っ走ってしまう性格なんです。働き方についてもケアについても、例えばサ責として入職した時もモニタリングの書式を変えたり大改革をしたんです。多分現場の人たちにはかなりの負荷をかけたと思います。それでも、少しずつ職員の皆さんが入居者さんのことに関心を持って、よく書いてくださるようになって。こんな私なのに、本当に周りの方がフォローしてくださったからここまでこれたんだと思います」と話してくれた。これを受けて洲脇さんは「上田さんは本当に随分突っ走る方でしたから、手綱を引いておかないと、ふわっと飛んで行きそうで」と笑いながら、上田さんの言葉を補完してくれた。こうして、本音で互いの人柄について言い合える関係が、カフェの取り組みを成功に導けた一つの要因かもしれない。
また上田さんは施設の文化について「うちは上の人が独断でトップダウンというのではなくて、割とみんなが意見を言いだしやすいような形でやってこれていると思います」と話してくれた。
洲脇さんはカフェの取り組みについてはうまく楽しくできていると話す。その上で「うまくいった要因は、笑顔だと思います。私たちお手伝いさせていただく人も、入居者さんも笑顔で一つに結ばれたなっていうのがすごく強いです。私自身、関わらせていただけるという喜びの方が強かったですね。私自身が健康なうちは、やっていけたらと思っております」とカフェを含めて、ルソン・ドゥ・クール高槻で皆と一緒に働けること自体への喜びを話してくれた。
最後に上田さんはカフェの運営について抱いている課題について話してくれた。「今後、カフェをどう継続していけるかなというのが一つあります。色々なみなさんに負担をかけつつ進めていますが、実は私が3月で転職を予定しています。以前から地域福祉に関心があって、まだまだ地域で楽しみにすら繋がれていない方もいらっしゃると思って、地域包括支援センターの認知症初期集中支援チームのお仕事をしたり、ゆくゆくは居宅の事業所を立ち上げたいなと思っているんです。ですから、今カフェの運営に関わっていただける方をお声がけしている最中です」と自身の新たな挑戦と、カフェへの想いという複雑な心境を語ってくれた。
組織は生き物と言われるように、そこに集う職員も入居者も出会いと別れは尽きない。その中で、上田さんたちが取り組んだカフェは今後どのように入居者の生活の彩りとして続いていくのだろうか。ここからが本当の継続的価値の真価が問われるところかもしれない。
お話を伺って
どこの事業所、施設でも私たちは本人の何気ない一言を日々聞き取っているものです。ルソン・ドゥ・クール高槻の皆さんは、そんな一人のAさんの声を出発点として、入居者の日常生活に溶け込む時間と場所をカフェという形で作り上げました。
その中で、感染症に対する徹底した対策はもちろん、職員一人一人の協力を少しずつ得て、現状の介護現場にある負担に配慮しながらも、職員の中にある入居者への想いを引き出しながら進んでいくプロセスが見えてきました。
ルソン・ドゥ・クール高槻には、何か特別な仕組みや潤沢な資源があったわけではないと思います。全国で同じような環境にある事業所・施設のうちの一つ。そして同じように入居者のことを想う職員がいる一つの施設です。
最初からダメと思わずに、その想いを実現するべく動いた一つの結果がこの記事では語れています。コロナ禍でも、私たちにもできることがあるかもしれない。そんなことを感じさせてくれる取り組みだったのではないでしょうか。
■参考 ルソン・ドゥ・クール高槻 ホームページhttps://leson-de.jp/about.html
ご提供資料
インタビュー担当:堀田聰子
記事担当:金山峰之