「支えられる」から「支える」へ~認知症高齢者“Be supporters!”への道
要約
富山県富山市の社会福祉法人射水万葉会 天正寺サポートセンターでは、2020年度より富山市が推進する“「認知症」×「ハタラク」実証チャレンジモデル事業”に参画し、「天正寺笑ーる(えーる)」のネーミングのもと、利用者が「ハタラク」ことにより社会参画の機会を得るという取組みを行っている。
コロナ禍の2020年は、職員と利用者が一緒になって手作りマスクやマスクピアス作りに取り組んだ。さらに年末には、地元のプロサッカーリーグ「カターレ富山」応援プロジェクトという支えられる側のお年寄りが、サッカーリーグのサポーターになって支え手に回る企画を実現した。サッカーファンもほとんどいないなかで、カターレ富山のサポーターとしての活動は始まったが、12月のオンライン観戦&応援パーティー、1月のカターレ新年会を経て、皆がこの活動にはまり、カターレ富山の熱烈なファンとなることでコロナ禍においても、利用者の楽しみが増えたばかりでなく、活動量や意欲が上がり、ADLの改善も見られた。
- 地域密着型サービス
- 小規模多機能型居宅介護
- 手作りマスク
- マスクピアス
- 認知症高齢者が働く
- 行政との連携
- サッカーJリーグ
- ADL改善
詳細
インタビュー実施日:2021年2月4日
目次
- 介護事業所の経営層,
- 介護事業所の管理者,
- 介護事業所の職員,
- 業界団体・職能団体関係者,
- 自治体担当者,
- 要介護高齢者・家族
カターレ富山のユニフォームで現れた管理者とセンター長
2021年2月、10都府県に対する緊急事態宣言の延長が確定となるなか、インタビューはオンライン会議で行われた。インタビューに応じてくださったのは、天正寺サポートセンター小規模多機能型居宅介護管理者である荒山さんと同センターの責任者である高桑センター長のお二人である。
荒山さんと高桑さんは、青いユニフォームを着用されていた。「これカターレのユニフォームなんです。天正寺サポートセンターとしてカターレ応援2年目なんですけど、おばあちゃんたちもノリノリで。今年の推しメンは大野耀平選手なんです。大野選手、今年9番になりまして、背番号9番のユニフォームを発注済みで。これが利用者さんたちのユニフォームになるんです。これ着たら働かなあかんって、私たちも追い立てられているような感じでございます」と、はずんだ口調で話し始める荒山さんからは大野選手の画像が画面上で共有されていた。
そんな天正寺サポートセンターは、富山県富山市に所在する社会福祉法人射水万葉会の地域密着型サービスの拠点として小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護、認知症対応型通所介護、定期巡回随時対応型訪問介護、訪問介護などを運営している。射水万葉会は、1983(昭和58)年の特別養護老人ホーム開設に始まる歴史ある社会福祉法人であり、現在は高齢者福祉サービスおよび子育て支援サービスを展開している。また、天正寺サポートセンターは、2009(平成21)年に開設された比較的新しい拠点で職員は総勢約60人だ。
荒山さんは、「コロナが広がり始めた当初は、情報が少なくてやはり不安でした。でも、何でも“怖い”“ダメ”というのではなく、信頼できる先からいろいろな情報収集をしながら、感染対策を徹底しつつ、できることはたくさんあるなと、過剰反応しないで工夫して取り組んできました」という。
2020年4月には富山市内でも、高齢者施設や病院でクラスターが発生し、休業する事業所も出ていたが、コロナ禍においても、利用者の笑顔があふれ、これまで以上に活動量や意欲が上がっているというその取組みは、一体どのようなものだったのだろうか。
“持ちつ持たれつ”がモットー
天正寺サポートセンターは、コロナ禍以前においても、職員・利用者相互に「持ちつ持たれつ」で助け合うことをモットーとし、性別や年齢はもちろん、立場や障害の程度などに関わらず、ともに生活をする仲間という関係性を大事にしている。
例えば、ここでは利用者が職員の子供の子育て支援をする。「子守りは、皆さん上手なんです。本当に上手に子供たちと遊んでくださる」と荒山さん。コロナ禍で面会が規制されるようになってからは、子供たちが「なんでおばあちゃんたちに会わせてもらえないの」と怒り出すというほど、子供たちもおじいちゃん・おばあちゃんたちと一緒に過ごす時間を楽しみにしている。
荒山さんは、「うちは本当に、利用者さんと職員の境目がないんですよ。私がこんなぼーっとした性格なので、利用者さんが心配して“あんた、かしてみられ”って富山弁で私がやってあげるみたいな、逆に利用者さんにサポートされて、私がここに勤められているという感じなんですよ」と言う。立場に関わらず、そこにいる人々が相互に必要不可欠な役割を果たし合っていることがうかがわれる。
利用者が職員を採用?!
また、ここでは職員の採用に利用者も関わっている。荒山さんの言葉を借りれば、「利用者さんたちが採用に絶大な権限を持っている。」例えば、以前、異業種からある若い男性の応募があった時に、「この人、絶対、採られ(採用して)」という利用者の強い「オシ」があった。「こんな素敵な人がきてくれるなんて、私毎日でも行きたい」というような歓迎の言葉をたくさん受けて、応募したものの若干の迷いもあったその男性が入職を決意したそうだ。その男性職員は、「こんなに必要としてくださるのだったら」と、心が動かされたという。もちろん、入職してから期待通り活躍している。
「おばあちゃんたちのほめ殺しにあって、おばあちゃんたちが離さないよ、みたいな感じで、それでここを辞められない職員も結構います」という荒山さんの言葉からは、人材定着促進に利用者が一役も二役も買っていることがうかがわれる。
「認知症」×「ハタラク」実証チャレンジモデル事業への参画
さて、もともとそんな職員・利用者含めて「持ちつ持たれつ」の温かい家庭的なムードの天正寺サポートセンターであるが、コロナ禍において、その暮らしはどう変わったのだろうか。
同センターでは、2020年度より富山市が推進する“「認知症」×「ハタラク」実証チャレンジモデル事業”に参画することを決めていた。このモデル事業は、認知症高齢者等が働くことで社会参加できる環境づくりの取組みを行う事業者に対して、市が助成金含めてバックアップするというものである。
実は、同センターではそれ以前より、利用者さんの「ハタラク」を形にする取組みを行っていた。「まだまだ働きたい美魔女のAさん、歌舞伎役者のようなBさん、現役植木職人Cさんと意欲の高い方が揃ってスタートしました。挽きたてコーヒーの販売、ボランティアでの剪定、草むしり。美魔女Aさんはスナックで働きたいとのことで、ノンアルスナック天正寺を開催。お金を貯めてお孫さんとディズニーランドへ行きたいということでした。以前から小さいことでも何か出来ないかと考えていたのですが、利用者さんのご要望に迫られてとりあえず始めてみました」と荒山さんは話す。そうした時に、富山市役所から問合せがあり、「認知症の方でもできることが沢山あるし、皆さん役に立ちたい、働きたいという思いをお持ちである」と話をしたところ、市の職員が視察に来訪し、今回の事業の誘いを受けたのだが、すぐに「認知症」×「ハタラク」実証チャレンジモデル事業に参加を決めたという。同センターではすでに事業を先取りした取組みを行っていたことになる。
そんな流れの中で、2020年度モデル事業はまさにコロナ禍での幕開けとなった。同センターは、「天正寺笑ーる(えーる)」とのネーミングのもと、市と連携しながら事業を推進していくことになる。「天正寺笑ーる」は「笑顔」と「エール(応援)」を掛け合わせたものである。
コロナ禍で始まったマスク作り
同センターでは、COVID-19が広がりを見せる2020年3月より、何かできることはないかと、職員が利用者と一緒に手作りマスクを開始し、利用者や利用者家族、職員家族などに無料で配布をした。マスク作りは、マスク需要の高さに問題意識を持った高桑センター長の発案で、センター長自ら作成するという熱心さからスタートしたものである。試作的に子供用マスクを作り、職員のお子さんに無料で配布し、だんだん製作に慣れて上手くできたものは、利用者や家族、訪問者などに配ったりした。
ちょっと裏話をすると、当初利用者はあまり乗り気ではなかったという。というのも、たまたま手先の器用な女性がいなかったという事情だ。荒山さんとしては、“利用者さんのやりたいこと、得意なことを楽しんでやってもらいたい”という思いがあったため、この取組みには“しぶしぶ”の賛同だった。マスク作りには、アイロン掛け、ミシン掛け、ゴム入れ、袋詰め、チラシ入れなどたくさんの作業があるので、まずは利用者の負担にならない簡単な作業から始めてみたところ、女性陣より気の良い男性陣の方が器用さを発揮したという。「スタートしてみると、皆さん自信がついてできることも増えて、要らぬ心配でした」と荒山さんは振り返る。
もともとこの法人ではジェンダーフリーを掲げており、“性別に関わりなく”というところを大事にしている。今回のマスク作りでは、「裁縫は女性の仕事」といった私たちが抱きがちな考えが、いかに無意識のバイアスであるかを教えてくれた。そしてもう1つ気付かされるのは、ご本人や周囲が思う“できること、やりたいこと”というのも、実は思い込みであることも多いのではないかということである。“やってみると意外と面白い、意外とできちゃった”、そんなことも実は多いのではないだろうか。
さらに、モデル事業の一環として、6月頃よりマスクピアス(マスクにアクセントとしてつけるピアス)作りにチャレンジしているが、このマスクピアスの発案は、ある職員の「つまらない、おしゃれがしたい」の一言からだ。どこかでマスクピアスの情報を得て、試作品を作るところから始めたところ、皆が「かわいい」とその気になって、利用者と一緒にピアス作りをすることになったという経緯がある。
手作りマスクも質やファッション性にこだわり、どんどんバリエーションも増えている。作る側も、もらう側も楽しい、嬉しい気持ちになれそうだ。
正しい感染対策で過剰反応しない
このように天正寺サポートセンターでは、コロナ禍でも「いつもの暮らし」、いや、それをさらに超えるような楽しみや主体的な活動を実現していた。感染症対策はどうしていたのだろうか。
その点に関して、荒山さんは次のように語る。「正しい感染対策をすれば、過剰反応することはないのです。私たちも最初のうちは情報が少なくやはり不安は大きかったですね。インフルエンザやノロウィルスの感染対策にのっとって対応をしていました。そうしたなか、“TAKN”(とやま安心介護ネットワーク。通称タックン)や“ふんわりチャンポン大作戦”のような信頼できる窓口からの情報などを取り入れながら、しっかり感染対策をしていましたから。そういうネットワークやつながりからの恩恵が半端なくて。それで、安心して介護に当たれるようになったのです」と。
“TAKN”とは「とやま安心介護ネットワーク」の略で、“感染を防ぎつつ介護サービスをどう維持していくか”に向き合うために富山県内の介護職や医療職などが集まり立ち上げ、法人や職種を超えたゆるやかなつながりが広がっている。感染防止対策に関する研修会やミーティングの開催のほか、LINEアカウントで個別相談に応じたり、メンバーの医師や看護師らが介護施設を訪問し感染症対策をアドバイスするといった活動を展開している。
“ふんわりチャンポン大作戦”は「公益財団法人風に立つライオン基金」が、新型コロナの流行を受けて始めた介護福祉現場に知識・技術・安心を届けることを目的としたプロジェクトで、全国で医療チームの派遣や相談会の開催等を行ってきた(医療団体ジャパンハートとの共同プロジェクト)。
天正寺サポートセンターは、常にアンテナを広げ、こうした外部の信頼できるリソースにアクセスし積極的に情報やサポートを得ながら正しい感染症対策を徹底し、利用者の生活の楽しみや喜びの実現を両立させていたのである。
カターレ富山とのコラボ実現へ
こうした取組みにさらに化学変化を起こしたのは、地元のプロサッカーリーグ「カターレ富山」とのコラボ企画の実現であった。そもそも、これはサントリーウエルネス(株)が、2020年12月よりJリーグの複数のクラブと連携して始動した「Be supporters!(サポーターになろう!)」プロジェクトにカターレ富山が手をあげたことに端を発する。本プロジェクトは、「支えられる人から、支える人へ」をコンセプトとし、高齢者や認知症の方など、普段は周囲に「支えられる」機会の多い方が、サッカークラブの“サポーター”となることで、クラブや地域を「支える」存在になっていくことを目指す取組みである。
天正寺サポートセンターは早々にこのプロジェクトへの参画を決め、12月よりカターレ富山のサポーター活動を始めたのだった。「Be supporters!」の取組みについては、荒山さんが市役所から情報を得ており、市役所との会議でぜひこのプロジェクトに参画したいと“ノリノリ”になってしまったという。当初は、会場、スクリーンなどの準備に莫大な費用がかかるのではと懸念するところもあったが、特段大掛かりな準備や費用も発生しないことを確認した上で、プロジェクトはスタートすることになったのである。
一方、“応援される側”のカターレ富山からは、「シャレン!活動(社会連携活動)」の一環として、作ったマスクの在庫・販売の協力を得ることができた。双方、ハッピーな関係ができたというわけである。
そして、そこにいる誰もがこの活動にはまっていった
実は、この取組みが始まった当初は、職員・利用者含めても、カターレ富山のファンはなんと職員1人のみであった。富山出身の力士「朝乃山」や、プロバスケットチーム「富山グラウジーズ」は比較的皆によく知られていたが、サッカーリーグは案外知られていなかったのだ。そのような状況から、カターレ富山のサポーターとしての活動は始まった。
まずは、カターレ富山を“知ってもらう”ことから始めようということで、事業所内にポスターを掲示したり、玄関先に「がんばれ!!カターレ富山」の旗を立てたり、利用者や家族、来訪者にカターレ富山仕様のペットボトルの水を配ったりした。もちろん、職員も利用者もカターレ富山のユニフォーム着用である。「ことあるごとに、カターレさん、よろしくお願いしますと一言添えているので、“わかったよ、カターレやね”と、活動は周囲にどんどん浸透していった感じですね。もはやカターレの保護者みたいな感じです」と、荒山さんは楽しそうに言う。
こうして、12月のホームゲームでは、スタジアムと介護事業所をオンライン中継して観戦&応援パーティーを開催することができた。パーティーでは、それぞれがカターレグッズを身にまとい、好きなケーキとお茶を楽しみながら、大きな盛り上がりを見せたのである。さらに驚くのは、いざ観戦というその試合の当日に、「カターレ色のマスクをつけて応援したい」という利用者からのアイデアに、カターレのチームカラーである青い生地のマスク作りを開始した。試合当日、生地やゴムを買いに行って作り始めたというのだから、その盛り上がりぶりと、楽しめることは即実行しようとするこの事業所の行動力がうかがわれるエピソードだ。
続いて、年が明けた2021年1月には次なる企画として「カターレ新年会」なるものを開催した。カターレ富山を“ネタ”にして、皆で楽しもうという企画である。「カターレ大好きで、みんな勝手に楽しんどるという感じですね」と荒山さん。かくして、センターあげてのサポーター活動を経て、今や誰もがカターレ富山の熱烈なファンとなっていた。そして、カターレ富山応援が日常の共通の楽しみになっているのだった。
コロナ禍で利用者のADLが改善
こうした取組みは、利用者、職員、そして事業所全体に何をもたらしたのだろうか。荒山さんは、ここまでの取組みを振り返って次のように語った。「第一に、みんなが楽しく盛り上がっています。利用者さんの楽しみが、もう私たちがついていけないくらいに増えちゃって、活動量・意欲がものすごく予想以上に上がりました。ADLの改善も見られました」と。その具体例をお聞きすると、円背で何もできず鬱状態にあった方が、「カターレのお兄ちゃんたちが頑張ってるから私も頑張る」と、編み物を始めて帽子を1つ編み上げてしまったり、寝たきりに近かった方が見守られながらアイロン掛けができるようになったという。
また、サッカーファンも少なかったという中で、なぜそのような変化が見られたのかについてお聞きすると、荒山さんは次のように話された。「サッカーはあまり馴染みがなかったけれど、オフィシャルファンクラブの名簿を見ながら、どの選手を応援するかみんなすごく悩んだり、YouTubeで送られてきた大野選手のメッセージを見て、そこから“頑張って”となりますし。パンフレットに写っている選手の写真を見ると、みんな強そう、怖そうなんですけど、YouTubeで送られてきた動画をみると、“こんなにかわいかったんだ”となって、それで実際に試合を見ると、“こんなにカッコよかったんだ”って、職員がキャーって言いだしまして、利用者さんも一緒になってそうやねって。よく分からないけど、サッカー応援しなきゃという雰囲気になった感じです」と。オフィシャルファンクラブに入った方もたくさんいるという。
さらに、荒山さんは「利用者さんはユニフォームを着るだけで、ピースサインをしたりとか、すごく喜ばれる方が多くて、そういった精神的なことも大きいですよね。除雪のときも、ユニフォーム着ると力が入るというか、これ着て利用者さんが除雪の指導をしてくださるんです」と。皆で楽しめることに取り組むということに加えて、サッカーというスポーツやサッカー選手の魅力、ユニフォームやグッズの力など思い知らされるばかりである。
やりたいこと実現の鍵は“ゴロニャン”作戦
最後に、このようにワクワクするような画期的な取組みはどのように始まり、どのようなプロセスで実現するのかを聞いてみた。荒山さんは間髪を置かず、楽しそうに答えてくれた。「ゴロニャンってすると、センター長が何でも願いを叶えてくれるんです」と。
取材者は一瞬目が点になった。「ゴロニャン、、、ですか?」
荒山さんの解説はこうだ。例えば、荒山さんが何かやりたいことを思いついた時には、センター長に対して、「こういうことやりたいんです。ねえねえ、面白いでしょう? ねえねえ、いいでしょう?」と相談する。それに対して、高桑センター長は基本的に「No」とは言わず、どうしたらできるかという方向性で一緒に考えてくれるという。もちろん、コスト面やリスク面など総合的に勘案して、やるとなれば本部に相談をして責任をとるというスタンスである。
ここで高桑さんに、職員がやりたいことに「Yes」を出す判断の基準について聞いてみた。「基本、利用者が楽しめること、喜んでくれることは、ダメとは言いません。職員からやりたいと出てきた声は形にしています。職員の思いを形にするのが私の仕事かなと思っています」と言い切る。このコロナ禍でのリスク管理や責任について重ねてお聞きすると、「責任はいつもついてくるものなので、いつも気にしています。職員も何も考えずに提案してくるわけではありません。皆で、リスクとかデメリットなども出し合うようにしています。リスクも考えて、でもやるメリットが大きいと判断したら、やります。失敗することもあるけれど、まずはやってみることです。ダメだったら、何がダメだったかっていう検証はちゃんとします」と言う。
従来の社会福祉法人ではなくなってきている
ここまで紹介したように、いろいろなアイデアは荒山さんからだけではなく、現場の職員から出てくることもあれば、利用者から出てくることもある。荒山さんは、日頃の事業所の様子について、「朝来て、おはようございますって言ってから、ねえねえっていろんな話をして、帰りもねえねえって感じでたくさんお話して、センター長にかまってもらっています。職員もセンター長に直接相談に行ったり、私のところに来て話をしたり、縦割りじゃないので話しやすい環境です」と言う。日頃からフラットで和気あいあいとしたコミュニケーションがあるからこそ、いろいろなアイデアが生み出されるのだと言える。
そして、現場が「やりたい」と思うことをいかに実現するか。法人本部への相談を含めて、それを全力でサポートしてくれるのが高桑センター長だ。法人本部の方も、荒山さんの言葉で言えば「従来の社会福祉法人ではなくなってきている」という。かつてはトップダウンが強い時期もあったそうだが、時代とともに意識や体制も変わり、現場の思いや主体性を大事にし、現場を支援してくれる文化ができている。そんな法人全体の柔軟性や風通しの良い文化が、現場の主体性や創造性を後押ししていることがうかがわれる。
インタビュー終了後に、荒山さんからメッセージをいただいた。「横のつながり、これは法人内だけでなく、つながればつながるほど、アイデアもたくさん出てきて、それが財産となっています。自分たちだけでは不可能でも、得意な人につなげてもらうとどんどん可能になっていきます。そうしたことを職場の皆さんに伝えやすい環境で、チームワークも良いからだと思います」と。法人・事業所という枠や各専門職の枠を超えてヨコにつながること、そして補い合う関係づくりがどれほど大きな力になっているかがうかがわれるメッセージである。
インタビューを終えて
本事例は、行政が推進する「認知症」×「ハタラク」実証チャレンジモデル事業や、サントリーウェルネス社の「Be supporters!(サポーターになろう!)」プロジェクトへの参画など、センターあげての大きな取組みをされています。「うちの事業所ではとてもマネできない」と思われる業界関係者も多いかも知れません。でも、荒山さんのメッセージからもうかがわれるように、職員・利用者・家族、センター全体、法人本部、地域、市や関係機関など様々な単位で、縦割りを超えて「ヨコにつながる」ことによって、アイデアが生まれ、理解者・協力者が現れ、企画の実現につながっているのだということがわかります。
“ゴロニャンと言えば願いが叶う”という荒山さんの言葉からも、そして画面越しの様子からも、お2人の信頼関係とパートナーシップが伝わってきました。そして、荒山さんの語りからは、利用者さんへの深い愛情と慈しみが伝わってきて、「お互いが補い合い支え合う」家族のような天正寺サポートセンターの日常の雰囲気を垣間見たような気がしました。職員・利用者さん含めて、日頃よりそのような信頼関係とパートナーシップがあるからこそ、小さなアイデアが具体的な形になって実現したり、ちょっとした取組みが後に化学反応を起こして、大きな成果につながっていくのだと思います。
感染対策も、信頼できる窓口としてTAKNやふんわりチャンポン等から情報を得て徹底されているからこそ、過度の自粛に走らず、職員も安心して今できることは何かを考えて行動に移せるのだと思います。職員も利用者も一緒になって楽しむフラットな関係作り、そして組織や職域などの「境界」を超えてつながることの大切さを教えてもらえる事例だと感じました。
■参考 カターレ富山オフィシャルサイトhttps://www.kataller.co.jp/
サントリーウェルネスHPニュースリリース「Be supporters!(サポーターになろう!)」https://www.suntory.co.jp/news/article/13804.html
TAKN(とやま安心介護ネットワーク)ちらしhttps://www.city.toyama.toyama.jp/data/open/cnt/3/11673/1/toyama_anshinkaigo.pdf?20200909085538
公益財団法人風に立つライオン基金https://lion.or.jp/
天正寺サポートセンター荒山様ご提供資料・写真
インタビュー担当:堀田聰子, 菅野雅子
記事担当:菅野雅子